【番外編】双子獣人は番も双子でした。。

塔野明里

文字の大きさ
上 下
7 / 9

7話 夢~マキシム~

しおりを挟む
 7話 夢~マキシム~


 正直に言おう。一目惚れだったんだ。

 柔らかそうな茶色い髪を肩の辺りで切り揃え、同じ色の瞳は綺麗な二重。背が低いのも小さな顔も全てが好みだった。

 なにより彼女は俺に怯えることなく目を見て話をしてくれた。それがどれだけ珍しいことか彼女は気づいていない。

 * * *

 俺は生まれたときからこんな顔をしていたわけじゃない。幼い頃はそれなりに可愛らしかった…はずだ。
 しかし、人を刺し殺しそうなこの鋭い目つきだけは物心ついたときから変わっていないらしい。
 この顔のせいで俺がどれだけ苦労してきたか。それを知っているのは両親と幼なじみのアーカスだけだろう。


 12歳になり騎士学校に入学してすぐに目つきが生意気だと上級生に呼び出された。ロックスフォードという家名だけで嫌がらせをされることも知っていたので特に驚きはしなかった。
 呼び出した上級生は少し痛めつけるだけのつもりだったらしい。その頃は俺も若かったし、そんな上級生たちのプライドなど知らなかったので、思い切り返り討ちにした。

 それはもう、やり返せるだけやり返した。

 その後卒業するまで、俺にちょっかいを出してくる奴はいなかった。


 そんな俺には誰にも言えない秘密があった。それは小さくて可愛いらしいものが大好きだということだ。
 小さな子ども、子犬や子猫などの小動物、そして背の低い女性など…。小さいものが好きで好きでたまらなかった。
 しかし、好きなことと好かれることはまったくの別物だ。それに気づいたのは成人してすぐのことだった。

 18歳で騎士学校を卒業し、王国の第4騎士団に配属された。その頃から俺のもとには縁談が舞い込むようになった。
 ロックスフォードの家名目当てでも、両親の資産目当てでも何でも良かった。妻を持ち、子どもをもち、そしていずれは可愛いらしい孫と過ごす。そんな俺の夢を叶えてくれる相手が欲しかったのだ。

 親友でもあるアーカスからは親父くさい夢だと笑われたが、それが一番の望みなのだから仕方ないだろう。

 しかしその夢を叶えるのは容易ではなかった。


 初めて見合いをしたときのことはよく覚えている。可愛いらしい栗鼠の獣人だった彼女は俺の顔を見るなり泣き出し、10分もしないうちに帰っていった。
 5分も会話ができればいいほうで、俺の顔を見た途端逃げ出す。会話の途中で泣き出すなどなど。
 両親もはじめは気にしていなかったが、そんなことが五回十回と続けば、さすがに気づいた。

 うちの息子は結婚できないかもしれない。

 両親の心配は現実になり、俺はもうすぐ30歳になろうとしていた。残念ながら一人息子だった俺は、両親が養子を取るかどうかと悩んでいるのを知っている。

 この癖も良くない。可愛いらしいものを見ると顔がゆるみそうになるので、グッと眉間に力を入れるのが癖になっているのだ。その眼力だけで人を殺せそうだと部下たちに言われる。


 そんなとき、彼女に出会ったのはまさに奇跡だった。なんとしても彼女に振り向いて欲しかった。

 * * *

 「お前は馬鹿か!惚れた女性に猪をプレゼントする男なんて聞いたこともない!」

 彼女と出逢った日の夜、立派な猪を仕留め意気揚々と帰ってくるとアーカスが待っていた。

 大雪崩の支援のためにサーシェルにやってきた第一王子のアーカス。その護衛のためにやってきた俺が仕事を放り出して何をしているのかと問い詰められた。

 俺は今日あったことを話した。先見隊として雪崩の現場を見た帰り、森の中で可愛いらしい女性に出逢ったこと。身なりや言葉遣い、仕草から貴族であるはずなのに彼女は食べるものに困っていたこと。鶏を渡したら喜ばれたこと。

 そして何より、俺の顔を見ても泣くことなくまっすぐに話をしてくれたこと。

「まさか…?!そんな女性がいるのか?お前が怖すぎて怯えていたんじゃないのか!」

「そんなことはない!彼女は怯えても泣いてもいなかった!」

 何やら考え込んだアーカスは、彼女の家や家族について詳しく聞いてきた。

「幼い妹と弟がいた。屋敷は大きかったが、あまり手入れされていなかったな。」

 俺は早く仕留めた猪の処理をしたかった。鮮度が落ちたものを彼女に食べさせたくないからな。

「食べ物に困っていたか…。それなら確かに猪でもいいが…。」

 ぶつぶつと独り言を呟いているアーカス。こうやって考え込んでいるときは何を聞いても無駄だ。

「よし!それなら一緒に織物でも送れ!きっと着るものにも困っているだろう。いきなり宝石などを送られても不気味だからな。」

「織物か!それはいい!さすがアーカスだ!」

 善は急げ。すぐに二人で贈るための織物を選びに行った。
 おかげで、彼女は贈り物の礼をするために俺に会いに来てくれた。親友には感謝しかない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で婚活したら、とんでもないのが釣れちゃった?!

家具付
恋愛
五年前に、異世界に落っこちてしまった少女スナゴ。受け入れてくれた村にすっかりなじんだ頃、近隣の村の若い人々が集まる婚活に誘われる。一度は行ってみるべきという勧めを受けて行ってみたそこで出会ったのは……? 多種多様な獣人が暮らす異世界でおくる、のんびりほのぼのな求婚ライフ!の、はずだったのに。

白猫は異世界に獣人転生して、番に愛される

メリー
恋愛
何か大きい物体に轢かれたと思った。 『わん、わん、』と言う大きい音にびっくりして道路に思わず飛び込んでしまって…。 それなのにここはどこ? それに、なんで私は人の手をしているの? ガサガサ 音が聞こえてその方向を見るととても綺麗な男の人が立っていた。 【ようやく見つけた。俺の番…】

竜王陛下の番……の妹様は、隣国で溺愛される

夕立悠理
恋愛
誰か。誰でもいいの。──わたしを、愛して。 物心着いた時から、アオリに与えられるもの全てが姉のお下がりだった。それでも良かった。家族はアオリを愛していると信じていたから。 けれど姉のスカーレットがこの国の竜王陛下である、レナルドに見初められて全てが変わる。誰も、アオリの名前を呼ぶものがいなくなったのだ。みんな、妹様、とアオリを呼ぶ。孤独に耐えかねたアオリは、隣国へと旅にでることにした。──そこで、自分の本当の運命が待っているとも、知らずに。 ※小説家になろう様にも投稿しています

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

【完結】死の4番隊隊長の花嫁候補に選ばれました~鈍感女は溺愛になかなか気付かない~

白井ライス
恋愛
時は血で血を洗う戦乱の世の中。 国の戦闘部隊“黒炎の龍”に入隊が叶わなかった主人公アイリーン・シュバイツァー。 幼馴染みで喧嘩仲間でもあったショーン・マクレイリーがかの有名な特効部隊でもある4番隊隊長に就任したことを知る。 いよいよ、隣国との戦争が間近に迫ったある日、アイリーンはショーンから決闘を申し込まれる。 これは脳筋女と恋に不器用な魔術師が結ばれるお話。

異世界転生したら幼女でした!?

@ナタデココ
恋愛
これは異世界に転生した幼女の話・・・

ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて

木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。 前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)

婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される

安眠にどね
恋愛
 社交界で『地味姫』と嘲笑されている主人公、オルテシア・ケルンベルマは、ある日婚約破棄をされたことによって前世の記憶を取り戻す。  婚約破棄をされた直後、王城内で一匹の虎に出会う。婚約破棄と前世の記憶と取り戻すという二つのショックで呆然としていたオルテシアは、虎の求めるままブラッシングをしていた。その虎は、実は獣人が獣の姿になった状態だったのだ。虎の獣人であるアルディ・ザルミールに気に入られて、オルテシアは獣人が多く所属する第二騎士団のブラッシング係として働くことになり――!? 【第16回恋愛小説大賞 奨励賞受賞。ありがとうございました!】  

処理中です...