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3話 出逢い
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3話 出逢い
翌週、ランディオール王国第一王子の一団がサーシェルにやってきました。町は久しぶりにお祭りムードで盛り上がっています。
すでに婚約者気取りのデュークから祭りに誘われましたが、妹弟の世話があるからと断わりました。実際、祭りで遊ぶような余裕もありません。デュークに奢らせて、あとで金を請求されても困りますし。
人の多い場所から離れて、その日は森に山菜を探しに行きました。サーシェルのすぐ近くの森にはモンスターも少なく、山菜がよく見つかる場所があります。一人で黙々と山菜を探していると、いつの間にかだいぶ森の奥まで来てしまっていました。
「痛っ!?」
頭をあげた瞬間、髪を強く引っ張られました。見るとクルクルと髪が木の枝に絡まっています。
「もうっ!やめてよ!」
ほどこうとすればするほど絡まっていきます。この癖毛にも困ってしまう。
ガサッガサガサっ
背後からの物音に驚きました。この状況でモンスターに襲われたら逃げることもできません。
ガサッ!!
「きゃあっ!」
驚きに目を瞑りました。しかし、いくら待っても襲われることはありません。
おそるおそる目を開けると、そこに居たのは王国の騎士服を着た大男でした。
くすんだ金髪を後ろに撫でつけ、その眼光は恐ろしいほど鋭い。黄色と黒の縞模様の耳と尻尾は虎でしょうか?
妹や弟と一緒だったらきっと泣き出していたと思います。眉間のシワは深く、なぜか私はものすごく睨まれていました。
「そこで何をしている?」
のしのしと近づいてくると、その背は私の倍くらい大きい。騎士服の上からでも分かる筋肉も合わさって、まるで熊のようです。
「あっ、あの髪が…絡まってしまって、動けないんです。」
すると大男は腰に提げた剣を抜くと、そのまま無言で振り下ろしました。
「ひぃっ!?」
パキッという音とともに髪の絡まった枝が地面に落ち、その重みで髪がぷちぷちと千切れます。やっと頭が自由になりました。
「これでいいか?」
「はっはい、ありがとうございます。」
正直、助けるならもう少し丁寧に助けて欲しかったです。髪が千切れてものすごく痛い。
しかし、この状況で文句なんか言ったら何をされるか分からないので黙っておくことにしました。
「一人か?」
「へっ?あっはい。そうですが…?」
王国の騎士がなぜこんなところにいるのでしょう?有力な貴族出身の騎士ならば王子様の側に仕えているはずです。
この方はきっと平民出身か弱小貴族なのでしょう。
「そろそろ日が暮れる。一人では危ない。」
「だっ大丈夫です。もう少し山菜を探してから戻りますので。」
できれば早く立ち去ってほしい。怖い顔のせいか、ただしゃべってるだけなのに怒られているような気分になります。
「貴族ではないのか?食い物が欲しいのか?」
その正直過ぎる言葉にカチンときました。私のどこを見て貴族だと判断したのかは知りませんが、貴族だって食べ物に困ることはあります。
「首都の騎士様は知らないかもしれませんが、地方では食べ物に困る貴族が沢山いるのです。」
渾身の嫌味が通じた気配もなく、その眉間のシワにさらに力を込めて、男は来た方向へ戻っていきました。
「そうか…ならここで少し待っていてくれ。」
そのままのしのしと森の奥に消えていきます。意味が分からないまま、私は山菜探しを再開しました。
* * *
しばらくして戻ってきたその人の手には、鶏が二羽ぶら下がっていました。
「これで足りるか?」
頭のなかは疑問符でいっぱいでした。それでも私の目は鶏に釘付けです。お肉なんて何日ぶりでしょう。家族の喜ぶ顔が浮かびます。
「いただいていいんですか?」
無言で頷く顔はニコリともしません。
「家まで送ろう。明日は猪か鹿でも捕ってくる。」
森を抜ける間その人は一言も喋らず、私はその大きな歩幅に合わせて歩くのに必死でした。
家の前で待っていた妹と弟が彼の顔を見て泣き出したせいで、名前を聞き忘れてしまいました。
それが私の人生を変えてしまったことは間違いありません。
翌週、ランディオール王国第一王子の一団がサーシェルにやってきました。町は久しぶりにお祭りムードで盛り上がっています。
すでに婚約者気取りのデュークから祭りに誘われましたが、妹弟の世話があるからと断わりました。実際、祭りで遊ぶような余裕もありません。デュークに奢らせて、あとで金を請求されても困りますし。
人の多い場所から離れて、その日は森に山菜を探しに行きました。サーシェルのすぐ近くの森にはモンスターも少なく、山菜がよく見つかる場所があります。一人で黙々と山菜を探していると、いつの間にかだいぶ森の奥まで来てしまっていました。
「痛っ!?」
頭をあげた瞬間、髪を強く引っ張られました。見るとクルクルと髪が木の枝に絡まっています。
「もうっ!やめてよ!」
ほどこうとすればするほど絡まっていきます。この癖毛にも困ってしまう。
ガサッガサガサっ
背後からの物音に驚きました。この状況でモンスターに襲われたら逃げることもできません。
ガサッ!!
「きゃあっ!」
驚きに目を瞑りました。しかし、いくら待っても襲われることはありません。
おそるおそる目を開けると、そこに居たのは王国の騎士服を着た大男でした。
くすんだ金髪を後ろに撫でつけ、その眼光は恐ろしいほど鋭い。黄色と黒の縞模様の耳と尻尾は虎でしょうか?
妹や弟と一緒だったらきっと泣き出していたと思います。眉間のシワは深く、なぜか私はものすごく睨まれていました。
「そこで何をしている?」
のしのしと近づいてくると、その背は私の倍くらい大きい。騎士服の上からでも分かる筋肉も合わさって、まるで熊のようです。
「あっ、あの髪が…絡まってしまって、動けないんです。」
すると大男は腰に提げた剣を抜くと、そのまま無言で振り下ろしました。
「ひぃっ!?」
パキッという音とともに髪の絡まった枝が地面に落ち、その重みで髪がぷちぷちと千切れます。やっと頭が自由になりました。
「これでいいか?」
「はっはい、ありがとうございます。」
正直、助けるならもう少し丁寧に助けて欲しかったです。髪が千切れてものすごく痛い。
しかし、この状況で文句なんか言ったら何をされるか分からないので黙っておくことにしました。
「一人か?」
「へっ?あっはい。そうですが…?」
王国の騎士がなぜこんなところにいるのでしょう?有力な貴族出身の騎士ならば王子様の側に仕えているはずです。
この方はきっと平民出身か弱小貴族なのでしょう。
「そろそろ日が暮れる。一人では危ない。」
「だっ大丈夫です。もう少し山菜を探してから戻りますので。」
できれば早く立ち去ってほしい。怖い顔のせいか、ただしゃべってるだけなのに怒られているような気分になります。
「貴族ではないのか?食い物が欲しいのか?」
その正直過ぎる言葉にカチンときました。私のどこを見て貴族だと判断したのかは知りませんが、貴族だって食べ物に困ることはあります。
「首都の騎士様は知らないかもしれませんが、地方では食べ物に困る貴族が沢山いるのです。」
渾身の嫌味が通じた気配もなく、その眉間のシワにさらに力を込めて、男は来た方向へ戻っていきました。
「そうか…ならここで少し待っていてくれ。」
そのままのしのしと森の奥に消えていきます。意味が分からないまま、私は山菜探しを再開しました。
* * *
しばらくして戻ってきたその人の手には、鶏が二羽ぶら下がっていました。
「これで足りるか?」
頭のなかは疑問符でいっぱいでした。それでも私の目は鶏に釘付けです。お肉なんて何日ぶりでしょう。家族の喜ぶ顔が浮かびます。
「いただいていいんですか?」
無言で頷く顔はニコリともしません。
「家まで送ろう。明日は猪か鹿でも捕ってくる。」
森を抜ける間その人は一言も喋らず、私はその大きな歩幅に合わせて歩くのに必死でした。
家の前で待っていた妹と弟が彼の顔を見て泣き出したせいで、名前を聞き忘れてしまいました。
それが私の人生を変えてしまったことは間違いありません。
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