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第三章
31話 元祖返り
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31話 元祖返り
エルの涙、その細い腕を掴んだ男の手。頭の中を巡るのは、俺の番を傷つけられたという想いだけだ。感じたことのないほどの怒り、嫌悪、そして殺意。
血が沸騰するような感覚が体中を駆け巡った後、割れるような頭痛とともに五感が研ぎ澄まされていく。
気づいたときにはもうシュトヘルの身体を引き倒し馬乗りになっていた。
『よほど死にたいらしいなぁっ!彼女を傷つけて生きてられると思うなよ!』
戸惑い、驚き、恐怖。目の前の男からは怯えの気配がする。
「ガロン…?」
愛しい彼女の頬は涙で濡れ、その左腕には赤く男の手形がついていた。
「がっ…ガロンだと?貴様、元祖返りか!?」
ヤツを押さえ付ける腕に軽く力を入れるとメキメキと骨が鳴る。
「がっ…あぁっ!」
『腕一本くらいで償えると思うな。』
体の奥から力がみなぎってくる。ほんの少し力を入れるだけで目の前の男をバラバラにできるだろう。
「そこまでだ!」
「いくら騎士団長でも城内で殺しはやめてよね。」
兄貴とメルヴィンが現れたとき、シュトヘルの顔色が変わった。
「本当にガロン?番のために、とうとう元祖返りまで覚えたの?それも精霊の加護ってやつかい?」
言われてやっと我に返った。どうやら俺は虎の姿になったらしい。元祖返りってのは、魔法の一種で獣人が己のなかにある獣の姿に体を変化させる技だ。噂でしか聞いたことのない技をまさか自分が使えるようになるとは。
「メルヴィン様………。」
肩を庇いながらシュトヘルがゆっくりと立ち上がった。俺はエルを奴から遠ざけるように2人の間に回り込む。
「あーぁ、まさかこんなに早く動くなんて思ってなかったよ。それも次期当主が直接脅しなんて。案外堪え性がないんだね?」
「脅しなどとんでもない!メルヴィン様!私はこの国のためを思って!」
「はいはい、言い訳はあとでゆっくり聞いてあげる。僕の執務室でお父さんも待ってるから。」
なぜメルヴィンがここにいるのか。なぜキース・ライモレノが待っているのか。
「さっさと行かないと虎に噛みちぎられちゃうよ?」
逃げるように立ち去る奴の背中は心なしか震えていた。
「ガロン?」
エルの瞳から涙は消えていたが、その腕の痕が痛々しい。
『エル大丈夫か?早く手当てしよう。来るのが遅くなってごめんな。』
「ガロン!もふもふ!!」
さっきまでの涙が嘘のような笑顔でエルが俺の顔に抱きついた。わしゃわしゃと撫でられると自然と尻尾が動いてしまう。
「きゃーっふわふわだー!ガロンすごい!」
良い。犬が撫でられてあんなに喜ぶ理由がよく分かる。頭から顎先まで彼女の手が触れた場所がこそばゆい。
「虎になっても鼻の下伸ばせるとかガロンって器用だね。」
今はメルヴィンの軽口も気にならない。エルが無事で本当に良かった。
「ガロン、身体は問題ないのか?」
『あぁ、特に何もない。てゆうかどうやったら元に戻れるんだ?』
どうやって元祖返りを使ったのか。まったく記憶にない。
「魔法の一種らしいし、魔力が尽きれば勝手に戻るんじゃないの?」
「ガロン!まだもどっちゃだめ!」
ぎゅっと抱きつくエルの柔らかいものがめっちゃ当たる。いい。この姿めっちゃいい。
「はぁ……馬鹿な虎はほっといて、さっさと終わらせようか。」
『何を終わらせるんだ?』
「断罪ってやつだよ。ガロンもリーエルさんの腕、早く治してもらいな。痕が残ったりしたらまた虎になっちゃうでしょ?」
エルの涙、その細い腕を掴んだ男の手。頭の中を巡るのは、俺の番を傷つけられたという想いだけだ。感じたことのないほどの怒り、嫌悪、そして殺意。
血が沸騰するような感覚が体中を駆け巡った後、割れるような頭痛とともに五感が研ぎ澄まされていく。
気づいたときにはもうシュトヘルの身体を引き倒し馬乗りになっていた。
『よほど死にたいらしいなぁっ!彼女を傷つけて生きてられると思うなよ!』
戸惑い、驚き、恐怖。目の前の男からは怯えの気配がする。
「ガロン…?」
愛しい彼女の頬は涙で濡れ、その左腕には赤く男の手形がついていた。
「がっ…ガロンだと?貴様、元祖返りか!?」
ヤツを押さえ付ける腕に軽く力を入れるとメキメキと骨が鳴る。
「がっ…あぁっ!」
『腕一本くらいで償えると思うな。』
体の奥から力がみなぎってくる。ほんの少し力を入れるだけで目の前の男をバラバラにできるだろう。
「そこまでだ!」
「いくら騎士団長でも城内で殺しはやめてよね。」
兄貴とメルヴィンが現れたとき、シュトヘルの顔色が変わった。
「本当にガロン?番のために、とうとう元祖返りまで覚えたの?それも精霊の加護ってやつかい?」
言われてやっと我に返った。どうやら俺は虎の姿になったらしい。元祖返りってのは、魔法の一種で獣人が己のなかにある獣の姿に体を変化させる技だ。噂でしか聞いたことのない技をまさか自分が使えるようになるとは。
「メルヴィン様………。」
肩を庇いながらシュトヘルがゆっくりと立ち上がった。俺はエルを奴から遠ざけるように2人の間に回り込む。
「あーぁ、まさかこんなに早く動くなんて思ってなかったよ。それも次期当主が直接脅しなんて。案外堪え性がないんだね?」
「脅しなどとんでもない!メルヴィン様!私はこの国のためを思って!」
「はいはい、言い訳はあとでゆっくり聞いてあげる。僕の執務室でお父さんも待ってるから。」
なぜメルヴィンがここにいるのか。なぜキース・ライモレノが待っているのか。
「さっさと行かないと虎に噛みちぎられちゃうよ?」
逃げるように立ち去る奴の背中は心なしか震えていた。
「ガロン?」
エルの瞳から涙は消えていたが、その腕の痕が痛々しい。
『エル大丈夫か?早く手当てしよう。来るのが遅くなってごめんな。』
「ガロン!もふもふ!!」
さっきまでの涙が嘘のような笑顔でエルが俺の顔に抱きついた。わしゃわしゃと撫でられると自然と尻尾が動いてしまう。
「きゃーっふわふわだー!ガロンすごい!」
良い。犬が撫でられてあんなに喜ぶ理由がよく分かる。頭から顎先まで彼女の手が触れた場所がこそばゆい。
「虎になっても鼻の下伸ばせるとかガロンって器用だね。」
今はメルヴィンの軽口も気にならない。エルが無事で本当に良かった。
「ガロン、身体は問題ないのか?」
『あぁ、特に何もない。てゆうかどうやったら元に戻れるんだ?』
どうやって元祖返りを使ったのか。まったく記憶にない。
「魔法の一種らしいし、魔力が尽きれば勝手に戻るんじゃないの?」
「ガロン!まだもどっちゃだめ!」
ぎゅっと抱きつくエルの柔らかいものがめっちゃ当たる。いい。この姿めっちゃいい。
「はぁ……馬鹿な虎はほっといて、さっさと終わらせようか。」
『何を終わらせるんだ?』
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