双子獣人は番も双子でした。。~少女たちは、異世界で虎に溺愛され初めての愛を知る~

塔野明里

文字の大きさ
上 下
31 / 37
第三章

28話 試合終了~ガロン~

しおりを挟む
 28話 試合終了~ガロン~

 そこからの兄貴は圧倒的だった。

 正直あの筋肉バカをいたぶる方法はいくらでもある。俺より魔法が得意な兄貴なら尚更だ。でも、あえて剣術だけで挑むのはできるだけ試合を長引かせたいからだろう。

 片腕を使えなくされたラッセルは、跪けと言う兄貴に飛びかかった。しかしあっさりと奴の体当たりをかわして、そのままさっき突き刺した肩と反対の足の腱を切断した。

「あぁっ、がっ!」

 治癒魔法が存在するこの世界では肩に穴が開こうが、足の腱が切れようがそれほど大事ではない。さすがに千切れた腕は戻せないが、大抵の傷は治せる。
 でもそれは傷が塞がるというだけで、流れた血が戻るわけではない。もちろん痛いしな。
 ラッセルの出血量を見ながら、兄貴はギリギリまで痛めつけるつもりなんだろう。


 改めて兄貴に逆らうのは止めようと心に誓いながら、そんな一方的な試合を止めない審判をしている親父も相当頭にキテるらしいと悟った。眉間にシワを寄せた顔は鬼そのものだ。


 腱を切られたラッセルは、結果的に跪けという言葉に従う形になった。プライドが山のように高い奴にとって、これは屈辱でしかない。
 国王の前でそのプライドをズタズタに切り裂いても、兄貴には足りないようだ。

 内心もっとやれ!としか思わないが、後ろの貴族席から小さな悲鳴があがり始めた。今日は騎士団員たちの家族たちも来ているし、女や子どももいる。そろそろ潮時か。

 血に濡れた剣先が再び奴の喉元に突きつけられる。

「参りました……。」

 聞こえるか聞こえないか、分からないくらいの声でラッセルが敗けを認めた。

「三回戦!勝者第4騎士団!」

 会場から歓声があがる中、血塗れで跪くラッセルの耳元で兄貴がなにか囁いた。その瞬間、やつの顔が青ざめる。

「よって、御前試合!優勝は第4騎士団!」

 こうして俺たちの初めての御前試合が終わった。

 * * *

 「アイツになんて言ったんだ?」

 返り血で染まった顔を拭いながら、兄貴の顔はまだ怒りで満ちていた。

「なんてことはない。次、彼女たちの前に現れたら殺すと言っただけだ。」

 なんてことない…。この対戦のあとに言われたら本気だとしか思えないし、多分本気だ。いや、兄貴なら絶対やる。

「シオン!」

 その時、銀髪をなびかせリリが兄貴のもとに駆けてきた。

「リリ…。すまない、血がついてしまう。」

 服についた血も気にせず彼女は兄貴に抱きついた。

「だいじょうぶ?けがしてない?」

 さっきまでの顔が嘘のような笑顔で兄貴は頷いている。

「シオンすごいおこってた?もうへいき?」

 遠くからでも兄貴の心を見抜くのは、やっぱり彼女が番だからなのだろうか。

「なぁエルは?」

 俺は自分の可愛い番を探した。しかしその姿は見えない。

「いまメアリちゃんをさがしにいってて、まだもどってきてないの…。」

 貴族席を振り返ると、 三回戦まではそこにあったライモレノの姿がない。


 嫌な予感がした。彼女がどこにいるかも分からないまま俺は駆け出していた。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

大好きだけど、結婚はできません!〜強面彼氏に強引に溺愛されて、困っています〜

楠結衣
恋愛
冷たい川に落ちてしまったリス獣人のミーナは、薄れゆく意識の中、水中を飛ぶような速さで泳いできた一人の青年に助け出される。 ミーナを助けてくれた鍛冶屋のリュークは、鋭く睨むワイルドな人で。思わず身をすくませたけど、見た目と違って優しいリュークに次第に心惹かれていく。 さらに結婚を前提の告白をされてしまうのだけど、リュークの夢は故郷で鍛冶屋をひらくことだと告げられて。 (リュークのことは好きだけど、彼が住むのは北にある氷の国。寒すぎると冬眠してしまう私には無理!) と断ったのに、なぜか諦めないリュークと期限付きでお試しの恋人に?! 「泊まっていい?」 「今日、泊まってけ」 「俺の故郷で結婚してほしい!」 あまく溺愛してくるリュークに、ミーナの好きの気持ちは加速していく。 やっぱり、氷の国に一緒に行きたい!寒さに慣れると決意したミーナはある行動に出る……。 ミーナの一途な想いの行方は?二人の恋の結末は?! 健気でかわいいリス獣人と、見た目が怖いのに甘々なペンギン獣人の恋物語。 一途で溺愛なハッピーエンドストーリーです。 *小説家になろう様でも掲載しています

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。 ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。 ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。 竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。 *魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。 *お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。 *本編は完結しています。  番外編は不定期になります。  次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...