双子獣人は番も双子でした。。~少女たちは、異世界で虎に溺愛され初めての愛を知る~

塔野明里

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第三章

27話 試合開始~シオン~

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 27話 試合開始~シオン~

 御前試合第1試合は、第1騎士団と第2騎士団の対戦。しかし、それは試合と呼べるようなものではなかった。
 ラッセルという4つの騎士団の中でも力を持った貴族に対して本気で勝とうとする者はいない。第2騎士団はあっさりとその試合を終えた。

 第2試合は私たち第4騎士団と第3騎士団の対戦。これも大将の私が出る幕もなく終了した。年中体を使って働いてる第4騎士団が、訓練しかしていない者たちに負けるわけがない。

 そしてようやく、第1騎士団との決勝戦が始まった。

 * * *

「二回戦!勝者第4騎士団!」

 観客たちから歓声があがった。喜んでいるのは主に平民出身の騎士団員たちだ。第1騎士団への日頃の鬱憤が溜まっているのだろう。
 国王の観覧席、その周りの貴族席からは、ため息と落胆の声が聞こえた。そのなかにはライモレノ家の二人もいた。当主のキースと息子のシュトヘルはその厳しい目を団長のラッセルに向けている。

 剣を携え、ガロンが舞台を降りる。幼い頃から鬼将軍と呼ばれる父に剣術や体術の指導を受けている私たちが負けるものか。まぁ、負けるだろうと思わせているのも我々だが。

 御前試合は一試合、三回戦。先に2勝してしまっては、私がラッセルと戦うことなく終わってしまう。ソレイには申し訳ないが、彼にはわざと負けてもらった。審判をしている父もきっと気づいているだろう。

 それでもこれだけは譲れない。

「ガロン、少しは気が晴れたか?」
「ぜんっぜん、物足りねーな。あの脳筋バカ貴族を殴らないと収まらない。」

 父が止めなければ、ガロンはあのまま奴の喉を潰していただろう。それも良いが、奴の発言はそのくらいで償えるものではない。

「第三回戦を始める!第1騎士団ラッセル・コーディ!第4騎士団シオン・ロックスフォード!前へ!!」

「行ってくる…。」

「おぅ、ボロクソにしてやれ!」

 * * *

 舞台に上がる兄貴を見ながら、正直俺は寒気が止まらなかった。生まれてから今まで一緒に過ごしてきて、兄貴がここまで怒るのを初めて見た。
 今なら眼力だけで相手を射殺せそうだ。

「ガロン団長、シオン団長は大丈夫ですか?」

 ソレイがハラハラと兄貴を見つめている。
 俺は国王たちの観覧席を振り返った。母やメルヴィンたちと並んで、可愛い番が小さく手を振っている。

「リリたちの前だからな、さすがに殺しはしないだろう。」

 それ以外なら、何されても文句言えないだろうが。自業自得だ。

 * * *

「三回戦!はじめ!!」

 開始の合図とともに、ラッセルの浅黒い腕が繰り出される。手には鉄製のナックルがはめられていた。

「騎士団で俺に敵う奴などいない!」

 驚くほど自信過剰な台詞とともに迫る拳を避けながら、自分の心がさらに冷えていくのを感じていた。目の前にいるのが、虫ケラにしか見えない。

 もし大切な彼女を凌辱していた奴等に復讐することができるなら、私は喜んでこの手を汚すだろう。それが叶わない今、私にできるのは彼女がこれ以上傷つくことがないように守ることだけだ。

 単調に、力任せに突き出されるだけの拳。これでこれだけの自信を持てるとは、本当におめでたい奴だな。

「虫ケラが………。」

 力一杯繰り出された奴の拳を掴み、勢いを殺さずそのまま投げ飛ばした。
 仰向けに倒れこんだ腹に踵をめり込ませる。

「がっ…あっ!」

「お前ごときには魔法を使う必要もないな。」

 踏みつける足にラッセルの浅黒い手がのびる。しかし、そのくらいでこの足をどけるつもりはない。

「…ぐっ、が…。貴様っ一体なにをっ…。」

 ヤツが驚くのも無理はない。こいつの中で、私は格下だと思われているのだろう。

 全ての騎士団が揃っての御前試合は初めてだが、それぞれの騎士団と合同訓練は何度も行われている。その度、我々第4騎士団は負けてきた。
 同じ第4騎士団員たちには文句も言われるが、そもそも勝つメリットがなかった。このラッセルを筆頭に、騎士団を率いる貴族たちのプライドを無駄に傷つけても厄介な仕事を押し付けられるだけだ。

 しかし、それも今日で終わる。

「自分が戦っている相手が本気を出しているか、それすらも分からないとは…。同じ騎士として恥ずかしい…。」

 腰に提げた剣を抜き、切先をその無駄に筋肉のついた肩にめり込ませた。

「ぎっ…あっぁ……!」

 掴まれた足首から、手が離れた。しかし力を緩めることなく、剣を押し込む。

「貧相な番と言ったか…?お前のような奴の視界に、彼女がいるというだけで虫酸が走る。」

 その時、剣が奴の肩を貫通した。

「あぁ゛っ…あぁーぁっ!!」
「このまま腕を切り落としてやろうか?」

 切先から赤い血が滴る。こんな馬鹿でも流れる血の色は変わらないのか。

「やめろっ、やめてくれっ…!」

 この程度の痛みで彼女への侮辱がつぐなえるものか。愛しい番がこの男に視姦されていたと思うと吐き気さえ覚える。

 貫いた剣を思い切り引き抜いた。先ほどまでとは比べ物にならない量の血が吹き出す。

「あぁっ、血が、腕がっ…!」
「お前が止めろと言ったんだろう。」

 血にまみれた肩を押さえるラッセルの喉元に剣を突きつける。

「跪け。喉を潰されていたほうがマシだったこと、教えてやる。」

 

 
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