双子獣人は番も双子でした。。~少女たちは、異世界で虎に溺愛され初めての愛を知る~

塔野明里

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第三章

26話 挑発

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 26話 挑発

 御前試合当日は初夏のような暑さのよく晴れた日だった。ランディオール城の中央広場に作られた試合会場では騎士団員たちがそれぞれウォーミングアップをしている。

 俺たち第4騎士団のメンバーは、大将はもちろん団長のシオン、中堅は副団長の俺、先鋒は熊の獣人で腕自慢のソレイになった。ソレイは貴族出身のくせにわざわざ第4騎士団を希望してやってきた変わり者だ。普段の温厚さからは想像できないくらいの戦闘力を見せる。

 先鋒は体術、中堅は剣術、大将は剣も魔法もなんでもありの対戦になる。俺たちが騎士団に入ってからは初めての御前試合だ。

 * * *

「準備など必要ないだろう。どうせすぐに負けるのだから。」

 不愉快な声に振り返ると、案の定不愉快な野郎が立っていた。

「平民などと共に働くお前らが、国王の御前で勝とうなど。おこがましい。」

 第一騎士団長ラッセル・コーディ。今日ぶん殴りたい野郎ナンバーワン。

「あんたこそ、俺らと当たる前に負けるなよ?そのムカつく面を殴れなくなる。」

 まぁ実際にコイツと戦うのは兄貴だが、元の形が分からないくらいになればいい。

「メアリ様のお気に入りだかなんだか知らんが、あんな小娘たちが王族と肩を並べるとはな。ロックスフォードも偉くなったものだ。」

 ラッセルの視線の先には、国王たちの観覧席がある。エルとリリは今日そこから試合を観ることになっていた。今頃母とともにこちらに向かっているはずだ。

「なんの力も持たぬ非力な人間ごときが、貴族気取りとは笑わせる。」

 2人の魔力について知らないとはいえ、どうしてこうくだらない貴族のプライドを振りかざすのか、理解に苦しむ。
 そもそも人間は保護すべき種族で、それをバカにすることは国王の意思に反することだとなぜ気づかない。脳ミソまで筋肉になったのか?

「馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけどな。第一騎士団長がそれだと、この国の品位に関わるだろ。」
「同感だ。」

 いままで静観していた兄貴が口を挟んできた。スゲー苛ついてるな。彼女たちを凌辱したクソ野郎にキレてた時と同じくらい、それ以上か。

「あんなガキでも夜の具合はそんなにいいのか?試合に勝ったら、一晩貸してくれよ。2人一緒にな。」


 その瞬間、俺の頭の中で血管がブチブチと千切れる音がした。


「おい、てめぇ…?いまなんつった…?」

 握りしめた拳がギリギリと音をたてた。全身の毛が逆立つほどに怒りを感じる。
 俺たちの周りの空気が変わったのを感じたのか、ラッセルが一瞬怯んだ。

「あんな貧相なガキが番だなんて、お前らも気の毒だな。いらなくなったらもらってやろうか?」

 ラッセルの言葉を聞き終わる前に、その首を捻りあげる。浅黒い首に爪が食い込んでいった。咄嗟のことに、ヤツは目を白黒させている。

「もう一度言ってみろ…、二度とその汚ねぇ口きけなくしてやるよ……!」


「やめろ!!おまえたち!!!」


 鼓膜に響くデカイ声。顔を見なくてもわかる、鬼将軍のくそ親父。

「なにをしとるか、馬鹿息子!神聖な試合の場で私闘は許さん!」

 しぶしぶバカ貴族の首から手を離した。くっきりと爪痕が付いた首を押さえ、ラッセルはゲホゲホむせている。

「……覚えてろよ、十貴族でもないお前らにこれ以上デカイ顔させてたまるか…。」

 するとおもむろに親父がラッセルに近づき頭を下げた。

「ラッセル殿申し訳ない!大事な試合の前に息子が馬鹿なことをした!」

 頭を下げる必要がどこにある。こいつの喉ぐらい潰しても誰も困らないだろう。

「しかしな、ラッセル殿。」

 顔をあげた親父の顔はまったく笑っていなかった。

「あの子たちは、もう私の娘でもあるのだよ。そのことを忘れないでいただきたい。」


 王国最強の近衛隊長の言葉に、ラッセルは何も言わず立ち去っていった。


「おい、バカ息子ども!」

 振り返った親父の顔は、近衛隊長ではなく一人の父親の顔だった。

「この試合。負けたら俺がお前たちを殺す!心してかかれ!」

 そんなこと言われなくてもわかってる。あいつを直接殴れないのは残念だが、いま誰かに負ける気はしない。

 このとき、隣で何も言わない兄貴がどんな顔をしているか。俺には確認する余裕がなかった。

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