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第29話 公爵と王国
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第29話 公爵と王国
「嫌だ!私は国王になる人間なんだ!」
この後に及んでカミーユはまだ戯言を言っている。それを見てカインが笑いを堪えていた。
「タリシアン共和国がなんだというんだ!あんな国どうだっていいだろう!」
「そうよ!どうして他国のためにカミーユが継承権を放棄しなくてはいけないの?!」
さすが親子。馬鹿さ加減までよく似ている。
「この平和協定が結ばれなければ、二度と協定はないでしょう。最悪の場合、戦争もあり得る。」
戦争という言葉に、国境近くに領地を持つ貴族たちから不満の声が上がった。
「継承権の放棄程度で許されるつもりか?」
私の言葉に騒いでいたカミーユが一瞬口をつぐむ。
「犯罪者が国王になれると本気で思っているのか?」
「私はなにもしていない!放火はタナリーが指示した!私は関係ない!
あの渚という女。アイツが私を誘惑したんだ。お前もそうなんだろう?アイツの身体目当てなんだろうが!?」
カッと頭に血がのぼった。殴れるものなら殴っている。しかし、それではコイツと同じだ。
渚から貰ったハンカチを握りしめる。早く終わらせて彼女の元に帰ろう。
「国王陛下。判決は出ましたでしょうか?」
国王は青い顔をして俯いたまま動かない。その腕に皇后がすがりつく。
「陛下!私たちの息子なのですよ?あの子はやっていないと言っているではありませんか!」
この場にいる者の中で、カミーユがやっていないと信じているのは皇后だけだろう。いや、信じているわけではないのか。やっていないということにしようとしているだけだ。
「国王陛下。私に被害者として発言する権利をいただけますか?」
冷や汗をかいている国王の顎が小さく頷く。
「私は今回の火事でたくさんのものを失いました。代々受け継いできた屋敷、亡くなった母の形見。使用人に怪我人が出なかったのが幸いでした。」
形あるものはいずれ無くなる。私にとって家族同然の人形たちを失ったが、喪失感はあってもそれほど悲しみはなかった。
「しかし、今回の件で私の一番大切な者が傷つけられた。…私の愛する人を傷つけたこと。絶対に許すつもりはありません。」
たとえ誰であっても許すことなどできるものか。彼女の恐怖の償い、死より重い。
「もしカミーユ王子への処罰が減刑され、彼女への償いが軽いものになるのであれば。私はこの国に仕えるのを辞めさせていただきます。」
一瞬の静寂のあと、裁判の会場は驚きに包まれた。あちこちから声が上がり、騒然となる。
「ちょ、ちょっとクローディアス!?聞いてないよ!最初に言ってたことと違うじゃん!」
このことはカインにも伝えていなかった。カミーユが減刑された場合には今回の事件以外の罪も暴露する予定だった。
しかし、そんなことで納得できるはずがない。死刑でも足りないくらいなのに減刑など許せるものか。
「幸いタリシアン共和国は人手不足らしいので、喜んで受け入れてくれるでしょう。」
「無理無理!クローディアスいなくなったら、この国終わっちゃうよ!」
たかが貴族一人いなくなったくらいで終わる国など勝手に滅びろ。
「フェルナンド公爵…それはそなたの本心か?」
「もちろんです。こんなこと冗談で言うとお思いですか?」
顔をあげた国王と目が合う。久しぶりに陛下は人間らしい顔をしていた。
「父上!フェルナンド公爵などいなくても私が必ずやこの国を導いてみせます!」
「そうよ!カミーユがいれば…!」
「……ええい、黙れ!!!」
突然の国王の声に騒然としていた場が静まり返った。
「誰のせいでこんな事態になっていると思っている!いつまでも、いつまでも自分のことばかり!お前が成長せぬから、私は後継者を決められないのだ!」
王座から立ち上がり、国王はカミーユの前に歩み出た。
「お前が国王として相応しい者に成長するのをずっと待っていた。しかし…余は思い違いをしていたようだ!
お前は王位継承者として、いや人としてやってはならぬことをした!余の期待を裏切ったのだ!そんな者に継承権など必要ない!」
国王の形相にカミーユは何かを悟ったようだ。
「カミーユ、お前はもう私の息子ではない!お前を廃嫡し、北部都市アリステンにて幽閉とする!」
その言葉にカミーユは呆然とし、皇后アビゲイルは泣き崩れた。
「この場にいる者たちに宣言する!今日この日から余の後継者は第一王子のカインとする!」
国王はそのまま私の前に立つ。
「愚息がやったこと、許せとは言わぬ。しかしどうかこれからもカインを支えてやってほしい。王太子として相応しい者にしてやってくれ。」
跪き、胸に手を当て敬意を示す。
「かしこまりました。国王陛下。」
こうして王子が被告人となった裁判は幕をおろした。
* * *
「フェルナンド公爵!結婚式はいつ挙げられるのですか?ぜひドレスはわが商会で…!」
「公爵!装飾品ならば、我が領地から素晴らしい原石を取り寄せます!」
会場を出ると貴族たちに囲まれ、前に進めなくなった。次々と声がかかる。
「…いや、式はまだ…。」
そんな私を遠くからカインが見つめている。
「おい、見ていないで助けろ!」
「あれぇ?僕に黙って亡命しようとしてた人がなに言ってるのぉ?」
早く帰りたい。一刻も早く帰りたいのに!
「私の愛する人、なんて言っちゃって。明日には本人に伝わっちゃうかもねぇ?」
「黙れ!」
そうなる前になんとしても彼女に伝えなければ。そのために私は彼女の元へ帰る!
「そこをどいてくれ!」
私の声は貴族たちの喧騒のなかに消えていった。
「嫌だ!私は国王になる人間なんだ!」
この後に及んでカミーユはまだ戯言を言っている。それを見てカインが笑いを堪えていた。
「タリシアン共和国がなんだというんだ!あんな国どうだっていいだろう!」
「そうよ!どうして他国のためにカミーユが継承権を放棄しなくてはいけないの?!」
さすが親子。馬鹿さ加減までよく似ている。
「この平和協定が結ばれなければ、二度と協定はないでしょう。最悪の場合、戦争もあり得る。」
戦争という言葉に、国境近くに領地を持つ貴族たちから不満の声が上がった。
「継承権の放棄程度で許されるつもりか?」
私の言葉に騒いでいたカミーユが一瞬口をつぐむ。
「犯罪者が国王になれると本気で思っているのか?」
「私はなにもしていない!放火はタナリーが指示した!私は関係ない!
あの渚という女。アイツが私を誘惑したんだ。お前もそうなんだろう?アイツの身体目当てなんだろうが!?」
カッと頭に血がのぼった。殴れるものなら殴っている。しかし、それではコイツと同じだ。
渚から貰ったハンカチを握りしめる。早く終わらせて彼女の元に帰ろう。
「国王陛下。判決は出ましたでしょうか?」
国王は青い顔をして俯いたまま動かない。その腕に皇后がすがりつく。
「陛下!私たちの息子なのですよ?あの子はやっていないと言っているではありませんか!」
この場にいる者の中で、カミーユがやっていないと信じているのは皇后だけだろう。いや、信じているわけではないのか。やっていないということにしようとしているだけだ。
「国王陛下。私に被害者として発言する権利をいただけますか?」
冷や汗をかいている国王の顎が小さく頷く。
「私は今回の火事でたくさんのものを失いました。代々受け継いできた屋敷、亡くなった母の形見。使用人に怪我人が出なかったのが幸いでした。」
形あるものはいずれ無くなる。私にとって家族同然の人形たちを失ったが、喪失感はあってもそれほど悲しみはなかった。
「しかし、今回の件で私の一番大切な者が傷つけられた。…私の愛する人を傷つけたこと。絶対に許すつもりはありません。」
たとえ誰であっても許すことなどできるものか。彼女の恐怖の償い、死より重い。
「もしカミーユ王子への処罰が減刑され、彼女への償いが軽いものになるのであれば。私はこの国に仕えるのを辞めさせていただきます。」
一瞬の静寂のあと、裁判の会場は驚きに包まれた。あちこちから声が上がり、騒然となる。
「ちょ、ちょっとクローディアス!?聞いてないよ!最初に言ってたことと違うじゃん!」
このことはカインにも伝えていなかった。カミーユが減刑された場合には今回の事件以外の罪も暴露する予定だった。
しかし、そんなことで納得できるはずがない。死刑でも足りないくらいなのに減刑など許せるものか。
「幸いタリシアン共和国は人手不足らしいので、喜んで受け入れてくれるでしょう。」
「無理無理!クローディアスいなくなったら、この国終わっちゃうよ!」
たかが貴族一人いなくなったくらいで終わる国など勝手に滅びろ。
「フェルナンド公爵…それはそなたの本心か?」
「もちろんです。こんなこと冗談で言うとお思いですか?」
顔をあげた国王と目が合う。久しぶりに陛下は人間らしい顔をしていた。
「父上!フェルナンド公爵などいなくても私が必ずやこの国を導いてみせます!」
「そうよ!カミーユがいれば…!」
「……ええい、黙れ!!!」
突然の国王の声に騒然としていた場が静まり返った。
「誰のせいでこんな事態になっていると思っている!いつまでも、いつまでも自分のことばかり!お前が成長せぬから、私は後継者を決められないのだ!」
王座から立ち上がり、国王はカミーユの前に歩み出た。
「お前が国王として相応しい者に成長するのをずっと待っていた。しかし…余は思い違いをしていたようだ!
お前は王位継承者として、いや人としてやってはならぬことをした!余の期待を裏切ったのだ!そんな者に継承権など必要ない!」
国王の形相にカミーユは何かを悟ったようだ。
「カミーユ、お前はもう私の息子ではない!お前を廃嫡し、北部都市アリステンにて幽閉とする!」
その言葉にカミーユは呆然とし、皇后アビゲイルは泣き崩れた。
「この場にいる者たちに宣言する!今日この日から余の後継者は第一王子のカインとする!」
国王はそのまま私の前に立つ。
「愚息がやったこと、許せとは言わぬ。しかしどうかこれからもカインを支えてやってほしい。王太子として相応しい者にしてやってくれ。」
跪き、胸に手を当て敬意を示す。
「かしこまりました。国王陛下。」
こうして王子が被告人となった裁判は幕をおろした。
* * *
「フェルナンド公爵!結婚式はいつ挙げられるのですか?ぜひドレスはわが商会で…!」
「公爵!装飾品ならば、我が領地から素晴らしい原石を取り寄せます!」
会場を出ると貴族たちに囲まれ、前に進めなくなった。次々と声がかかる。
「…いや、式はまだ…。」
そんな私を遠くからカインが見つめている。
「おい、見ていないで助けろ!」
「あれぇ?僕に黙って亡命しようとしてた人がなに言ってるのぉ?」
早く帰りたい。一刻も早く帰りたいのに!
「私の愛する人、なんて言っちゃって。明日には本人に伝わっちゃうかもねぇ?」
「黙れ!」
そうなる前になんとしても彼女に伝えなければ。そのために私は彼女の元へ帰る!
「そこをどいてくれ!」
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