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第26話 人形の想い

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 第26話 人形の想い

「公爵とはどこまでしたんですか?」

 今まで出会った誰とも違う、歪んだ微笑み。心の底から楽しそうにカミーユ王子は笑っている。

「……?」

「公爵はどうやって貴女を抱くんですか?冷ややかな顔して貴女の前では優しいんでしょう。想像できませんが。」

 ジリジリと後ずさり、壁に背が付いてしまった。クスクスと笑い声が聞こえる。

「公爵様はそんな方ではありません。」

「貴女のような女性と半年も一緒に暮らしていて何もしないほうが異常ですよ。」

 ベッドに膝を乗せ、王子はゆっくりと近づいてくる。怖い、怖くてたまらない。

「どうしてカミーユ様がこんなことをするんですか?」

「昔、フェルナンド公爵をスカウトしたんです。私の元で働かないかと、あんな馬鹿な義兄など見捨ててしまえとね。」

 カイン様の優しい笑顔を思い出す。目の前の男と髪の色も瞳も同じはずなのにまったく似ていない。

「そしたら、なんと言ったと思いますか?」

 ボケ王子と呼びながら、クロードはカイン様のために仕事をこなしている。そこには言葉にはできない絆のようなものがある気がした。

「お前が国王になったら、カルディアナ王国は終わりだと。そうしたら亡命でもしてやるって。国潰しの片棒なんて担ぎたくないってさ。」

 左手首を掴まれ、グッと引き寄せられた。アンジェリカがベッドに落ちる。

「私を前線に送ったことといい、本当に憎たらしい。殺せるものなら殺してるよ。でもアレが死ぬと貴族たちを説得するのが難しくなるからね。」

 カミーユ王子が国王になるためにはクロードの力が必要なのだ。

「だから、君は私の妻になってよ?」

「……!?」

 手首を握る力が驚くほど強い。ギリギリと痛みが走る。

「君が妻になれば、後見人としてアイツは私を蔑ろにできなくなる。君の幸せのために私の下で喜んで働くようになると思わない?」

「私は…人質ですか…?」

「そうだね、人質よりは生贄って言ったほうが正しいかな。」

 勝ち誇ったような笑顔。どうして、そんなことのために。彼の大切な人形たちが犠牲にならなくてはいけないんだろう。

「…嫌です。お断りします。」

「…は?」

 クロードが無事なら私はどうなってもいいと思っていた。それが一番だって。でも違うんだ。
 彼が大切だと言ってくれた私を、私が大切にしなきゃ。

「クロードは私の大切な人です。私のために彼がやりたくないことをするなんて絶対に嫌。」

 私は馬鹿だ。こんなことにならないと、自分の気持ちにも気づけないなんて。

 私はクロードが好き。彼が私を人形としか思ってなくても構わない。大切な人の側にいたい。足枷になんかなりたくない。

「イヤ…!!」

 左肩を押しつけられ、ベッドに押し倒された。

「やめて!イヤ!」

「勘違いするな!お前に拒否権なんてないんだよ。」

 スカートをたくしあげられ、太ももがあらわになる。

「2ヶ月?3ヶ月くらい犯せば、子どもくらい孕むだろう?既成事実としては一番だよな。」

「イヤぁ!だれか…!誰か助けて!」

 ゆっくりと太ももの内側を王子の手が撫でる。ゾワッと鳥肌がたった。

「痩せすぎだが、肌だけは褒めてやる。可愛がってやるよ。」

「……いや…。」

 助けて、クロード。こんな男に触れられるなんて嫌。

「上手くいけば皇后にしてやるよ。」

 顎を掴まれ、唇が近づく。涙が頬を伝った。


 ……、…………!


 ……………………、ガシャン!!!


 遠くで硝子の割れる音がした。

「なんだ?」

 バタバタとたくさんの足音が聞こえる。言い争う声。カチャカチャと金属の触れ合う音。

 次の瞬間、勢いよくドアが開いた。

「貴様ら!ここが誰の屋敷か分かっているのか!」

 現れたのは鎧を身に着けた騎士たち。銀色の鎧と腰には剣を携えている。先頭に立った騎士が一つの書状を取り出した。

「カミーユ・カルディアナ!貴殿をフェルナンド公爵邸放火及び、フェルナンド公爵保護下にある渚嬢誘拐の犯人として連行する!」

「…なっ!?」

 騎士たちはあっという間にカミーユ王子を取り押さえ、床に跪かせた。

「こんなことをして父上が黙っていないぞ!私は彼女を火事の現場から助け出しただけだ!」

「この書状はカルディアナ国王陛下の名のもとに発せられたものです。」

 掲げられた書状の最後には国王の名前と玉璽が押されている。

「貴方が命令した実行犯たちは身柄を拘束し、すべてを自白しました。」

「そんな自白など!でっち上げだ!」

 そのとき一人の騎士が前に歩み出た。その顔を見て私は涙が止まらなくなってしまう。

「公爵邸に火を放った者たちがこの屋敷に渚嬢を運び入れたのを私が見ております。裁判で証言してもかまいません。」

 私のスカートを戻し、繋がれた右手を優しく解いてくれる。

「遅くなって申し訳ありません。もう大丈夫です。」

「…ヨゼフさん。怖かった………。」

 

 両脇を抱えられ、カミーユ王子が連行されるのを見ながら私は意識を失った。 


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