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第21話 侍女の心配

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 第21話 侍女の心配

「クローディアス様、お帰りください。」

 カフェが見える場所に停まった馬車。チラリと見えた髪は明らかに我が主様のもの。
 たとえ長年お仕えしているご当主様であってもこれは見過ごせません。見れば王子までご一緒とは。まったく何歳になってもお変わりにならない。

「ジ、ジゼル!これは…その…。」

「渚様が心配なのは分かります。しかしここまでなさるのはいかがでしょうか?」

 聞けばわざわざ執務を休んできたとか。まったく王国一の敏腕公爵が聞いて呆れます。

「渚様が自ら外出するとお決めになったのです。もし気づかれれば大変悲しまれるでしょう。自分を信用してくれていないのかと…。」

 たった一本のリボンを買いに行かせるのにまさか尾行までするとは。なんという過保護でしょうか。

「ヨゼフ様は心配なさるような方ではございません。
 それに、渚様がどなたと出掛けようと後見人であるクローディアス様に止める権利がおありですか?」

 その言葉に明らかに肩を落とすご当主様。さすがに言い過ぎかもしれませんが、誰かがハッキリ言わなければ。

「カイン殿下。どうかご当主様を屋敷までお連れしてくださいませ。」

「ジゼルは相変わらずだね。任せてぇ。」

 * * *

 私、ジゼルが侍女としてこの公爵家に雇われたのはちょうど18歳になった時でした。この国で女性の成人は18歳、男性は20歳です。成人し初めてお仕えするのがフェルナンド公爵家であったことは私の人生にとって幸運でしかありません。

 同じ年、後継ぎとしてお生まれになったクローディアス様の世話係として私は一生懸命働いてまいりました。

 幼い頃のクローディアス様はよく笑い、よく泣く、普通の男の子でした。ご両親の愛を受け、その賢さを伸ばしながら公爵家の跡取りとして申し分なく育ちました。

 奥様は私のような侍女にも優しく、旦那様はそんな奥様を心から愛しておられました。

 奥様が亡くなられたときの旦那様とクローディアス様の喪失感は計り知れないものだったでしょう。私とて立ち直るのに長い時間がかかったのですから。
 その後、クローディアス様が心から笑うのを見ることはほとんど無くなりました。


 しかし、ここ最近は違います。クローディアス様の笑顔を見るのは初めてだという使用人たち。私もあの方のあんな優しい笑顔は忘れてしまっていました。渚さんには感謝しなくてはいけませんね。

 執事長などは渚さんが亡き奥様に似ているからクローディアス様が惹かれているのだと思っているようですが。私から見るとそこまで似ているとは思いません。
 目鼻立ちや背格好はたしかに似ていますが、性格がまったく似ていないのです。

 亡き奥様はそれはそれは明るく、ご自身が病弱なことなど感じさせない女性でした。使用人がいることも気にせず旦那様に抱きついたりして、本当に真っ直ぐな方でした。

 反対に渚さんは思慮深い方です。18歳という年齢にも関わらず落ち着いていて、あまり感情を表に出しません。最近は少しずつ雰囲気が柔らかくなってきたようですが…。

 だからこそクローディアス様は渚さんに惹かれているのだと、私は思います。

 大切なお母様のように美しく、大好きな人形のように優しく側に居てくれる。そんな女性が突然目の前に現れたら好きになるなというほうが難しいでしょう。


 だったらどうしてハッキリと好きだと言わないのか。このまま本当に渚さんが屋敷を出たいと言い出したらどうするつもりなのかしら。

 公爵という地位、王国の第一王子に仕えているという実績。しかしクローディアス様に女性の口説き方を教えてくれる方はいらっしゃいませんでした。カイン王子もトラヴィス様も面白がっているだけでしょうしね。

 私としては早く渚さんと身を固めていただいて、お二人のお子様の乳母として働きたいのですが……。その夢が叶うのは一体いつになることやら。

 とりあえず渚さんのリボンの意味にクローディアス様が気づく事を祈るばかりです。

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