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第17話 公爵の疑念
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第17話 公爵の疑念
「渚が可愛いんだ。」
あの茶会から一週間。しばらく落ち込んでいた渚、しかし今はもう普段通りに過ごしている。いや今まで以上だ。
「突然なぁに?さすがに気持ち悪いよぉ。」
話をしながらも私は積み上げられた書類に目を通し、訂正を加え、必要な印を押していく。仕事を定時で終えるため私の処理能力は日々向上していた。
仕事もせず私の執務室で茶を飲んでいるボケ王子とは違う。その横で汗だくになって腹筋と背筋を繰り返している筋肉馬鹿とも違う。
「渚さんが可愛いのはぁいつもの事じゃないの?」
「ちがう!なにか違うんだ!」
私の昔話を聞いても彼女は今までと変わらない態度でいてくれる。それがどれだけ私にとって嬉しいことか。
「なんというか、表情がとても柔らかいというか。いままでよりも可愛らしく笑うんだ。これまでも美しかったが、更に輝いている。」
いままであった緊張や遠慮のようなものがなくなり、より彼女の心に近づいたような気がする。
「へぇ…それってもしかして…?」
「男でも出来たんじゃないか?」
汚らしい汗の水溜りを作りながら、筋肉馬鹿が口を挟む。
「バカは休み休み言え。彼女の外出の時は必ず同行している。男の入る隙などない。」
唯一の例外はあのお茶会だけ。しかし茶会に参加していたのは全て貴族令嬢だったのだ。それは有り得ない。
「クローディアスはぁ、その発言の異常さに早く気づいたほうがいいと思うけどねぇ。」
彼女は自分の魅力にあまりにも無防備で、側で見ている私の方が不安になる。
「そんなに可愛いなら早く告白してさぁ、さっさと結婚しなよ。今は大丈夫でも、いつの間にか横から奪われたなんてシャレにならないよぉ。」
そんな簡単に言われても困る。彼女は私を後見人として信頼しているんだ。いきなり結婚してくれなど、言えるわけないだろう。
「渚さんがどこから攫われてきたかも結局分からないままだし。話も聞けてないんでしょ?」
「聞こうとするとひどく動揺するんだ。彼女が話したくないなら無理強いはしたくない。」
初めて会ったとき彼女は何も覚えていないと言った。多分、それは嘘だ。
しかしどうしてそんな嘘をつくのか。何故話してくれないのか。
「彼女を探しているような家族も見つからない。なにか理由があるんだろう。」
もし家族が見つかり、彼女が帰りたいと望んだら…。私は彼女を見送ることができるのだろうか。
「あんな細っこいやつがいいなんてお前は本当に変わってるな。俺はもっと胸も尻もデカイやつがいい。」
「トラヴィス、お前彼女を変な目で見るな。本気で追い出すぞ。」
汗を拭いながら、筋肉馬鹿は気にする素振りもない。
「まぁ処女と童貞でお似合いだな。」
「なっ!!?」
カインが紅茶を吹き出しそうになるのを必死に堪えている。
「ハハっ、本当にトラヴィスって面白いよねぇ。渚さんが男の体を知らないって何でわかるの?」
「勘だな!」
この筋肉馬鹿の唯一信頼できるところはこの動物のような第六感だ。しかし、そんなこと言われなくても彼女は清らかだと思う。思いたい。
「それにクローディアスは童貞じゃないよぉ。忘れたの?昔一緒に娼館に行ったの。それを言うなら素人童貞ってやつだよ。」
二十歳になる直前、この二人に強引に連れられ娼館に行った。成人し、公爵家の家督を継いでしまったら遊べなくなるとか…なんとか。
行ってみて分かったことは、好きでもない女を抱くのは苦痛でしかないという事だけ。それから二度と行っていない。
「とりあえずさ、あんまり余裕ぶってないで早く気持ち伝えないと後悔しても知らないからねぇ。」
笑い涙を堪えているカインの言葉。その時は深く考えてもいなかった。
可愛らしく笑ってくれるようになった彼女がただただ愛おしい。
* * *
しかし翌日、渚宛に送られてきた一通の手紙で状況は一変する。
今まで渚への招待状や縁談は全て私宛に送られてきていた。彼女宛の手紙が来たのは初めてのことだ。
差出人の名はヨゼフ・リッカーマン。リッカーマン男爵家の二男で王国騎士団に所属している騎士だ。
渚はその手紙を嬉しそうに開き、習ったばかりの文字で返事を書き始めた。
それからは3日と空けずに手紙が来るようになり、彼女はその度に返事を出している。
これは一体どういうことなんだ!?
「渚が可愛いんだ。」
あの茶会から一週間。しばらく落ち込んでいた渚、しかし今はもう普段通りに過ごしている。いや今まで以上だ。
「突然なぁに?さすがに気持ち悪いよぉ。」
話をしながらも私は積み上げられた書類に目を通し、訂正を加え、必要な印を押していく。仕事を定時で終えるため私の処理能力は日々向上していた。
仕事もせず私の執務室で茶を飲んでいるボケ王子とは違う。その横で汗だくになって腹筋と背筋を繰り返している筋肉馬鹿とも違う。
「渚さんが可愛いのはぁいつもの事じゃないの?」
「ちがう!なにか違うんだ!」
私の昔話を聞いても彼女は今までと変わらない態度でいてくれる。それがどれだけ私にとって嬉しいことか。
「なんというか、表情がとても柔らかいというか。いままでよりも可愛らしく笑うんだ。これまでも美しかったが、更に輝いている。」
いままであった緊張や遠慮のようなものがなくなり、より彼女の心に近づいたような気がする。
「へぇ…それってもしかして…?」
「男でも出来たんじゃないか?」
汚らしい汗の水溜りを作りながら、筋肉馬鹿が口を挟む。
「バカは休み休み言え。彼女の外出の時は必ず同行している。男の入る隙などない。」
唯一の例外はあのお茶会だけ。しかし茶会に参加していたのは全て貴族令嬢だったのだ。それは有り得ない。
「クローディアスはぁ、その発言の異常さに早く気づいたほうがいいと思うけどねぇ。」
彼女は自分の魅力にあまりにも無防備で、側で見ている私の方が不安になる。
「そんなに可愛いなら早く告白してさぁ、さっさと結婚しなよ。今は大丈夫でも、いつの間にか横から奪われたなんてシャレにならないよぉ。」
そんな簡単に言われても困る。彼女は私を後見人として信頼しているんだ。いきなり結婚してくれなど、言えるわけないだろう。
「渚さんがどこから攫われてきたかも結局分からないままだし。話も聞けてないんでしょ?」
「聞こうとするとひどく動揺するんだ。彼女が話したくないなら無理強いはしたくない。」
初めて会ったとき彼女は何も覚えていないと言った。多分、それは嘘だ。
しかしどうしてそんな嘘をつくのか。何故話してくれないのか。
「彼女を探しているような家族も見つからない。なにか理由があるんだろう。」
もし家族が見つかり、彼女が帰りたいと望んだら…。私は彼女を見送ることができるのだろうか。
「あんな細っこいやつがいいなんてお前は本当に変わってるな。俺はもっと胸も尻もデカイやつがいい。」
「トラヴィス、お前彼女を変な目で見るな。本気で追い出すぞ。」
汗を拭いながら、筋肉馬鹿は気にする素振りもない。
「まぁ処女と童貞でお似合いだな。」
「なっ!!?」
カインが紅茶を吹き出しそうになるのを必死に堪えている。
「ハハっ、本当にトラヴィスって面白いよねぇ。渚さんが男の体を知らないって何でわかるの?」
「勘だな!」
この筋肉馬鹿の唯一信頼できるところはこの動物のような第六感だ。しかし、そんなこと言われなくても彼女は清らかだと思う。思いたい。
「それにクローディアスは童貞じゃないよぉ。忘れたの?昔一緒に娼館に行ったの。それを言うなら素人童貞ってやつだよ。」
二十歳になる直前、この二人に強引に連れられ娼館に行った。成人し、公爵家の家督を継いでしまったら遊べなくなるとか…なんとか。
行ってみて分かったことは、好きでもない女を抱くのは苦痛でしかないという事だけ。それから二度と行っていない。
「とりあえずさ、あんまり余裕ぶってないで早く気持ち伝えないと後悔しても知らないからねぇ。」
笑い涙を堪えているカインの言葉。その時は深く考えてもいなかった。
可愛らしく笑ってくれるようになった彼女がただただ愛おしい。
* * *
しかし翌日、渚宛に送られてきた一通の手紙で状況は一変する。
今まで渚への招待状や縁談は全て私宛に送られてきていた。彼女宛の手紙が来たのは初めてのことだ。
差出人の名はヨゼフ・リッカーマン。リッカーマン男爵家の二男で王国騎士団に所属している騎士だ。
渚はその手紙を嬉しそうに開き、習ったばかりの文字で返事を書き始めた。
それからは3日と空けずに手紙が来るようになり、彼女はその度に返事を出している。
これは一体どういうことなんだ!?
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