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第12話 性悪と人形
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第12話 性悪と人形
ふと気がつくと図書館から人の気配がなくなっていた。さっきまで案内をしてくれていた司書さんの姿も見えない。
図書館の閉館は夕方だと聞いているし、まだ外は明るい。一体どうしたんだろう。クロードもあれから戻ってきていなかった。
コツコツ…
遠くから足音が聞こえる。その音はだんだんと近づき、私のいる本棚のすぐ側で止まった。
「こんにちは、お嬢さん。」
現れたのはまるで絵画から飛び出してきたような美しい男の人だった。
陽の光にキラキラと輝く金髪を顎のラインで切り揃え、その瞳は新緑のような翡翠色。切れ長な二重とスッと通った鼻筋。まるでモデルみたい。
この国で金髪と翠色の瞳は王族の証。手にしていた本を棚に置き、私は深々と頭を下げる。
「そんなにかしこまらないで下さい。お嬢さんのお名前をお聞きしても?」
「渚と申します。」
「ナギサ…。随分変わったお名前だ。私はカミーユ。フェルナンド公爵にはずいぶんとお世話になっています。」
第二王子カミーユ殿下。クロードから、もし彼と出逢ったらすぐに逃げなさいと言われている。
「殿下がいらっしゃるとは知らず、大変失礼を致しました。すぐに退室いたします。」
本を取ろうと伸ばした右手に、王子の左手が重なる。
「そんなに急がなくてもいいではありませんか。」
笑顔の奥、その瞳は笑っているように見えない。見た目に反して王子の力が強く、握られた手を振りほどけない。
「公爵が女性の後見人になったと聞いて驚きました。今まで彼は人間嫌いだと言われていましたし、女性の影もない。それがまさか貴女のような美しい方を囲っているなんて。公爵もやはり男なんですね。」
囲う?その言葉の意味がよく分からなかった。クロードは皆に優しく、人間嫌いだなんて信じられない。
「それにしても…本当に綺麗だ。妾にしておくのはもったいないですね。」
王子の指が私の頬を撫でる。ゾワッと鳥肌がたった。
「渚!」
聞き慣れた声。振り返ると息を切らしたクロードが私の肩を掴む。ぐっと王子から引き離された。
「お久しぶりです。フェルナンド公爵。せっかく帰ってきたのに挨拶がないので、私から来ましたよ。」
クロードは今までに見たこともないくらい険しい顔をしている。
「いつの間に側室を迎えたんですか?正妻もいないのに。」
側室?正妻?王子は何か勘違いしているみたいだ。私はただの人形で、クロードは後見人なのに。
「カミーユ王子こそ、前線では随分好き勝手やっていたようですね。まさかこんなに早くお帰りになるとは思ってもいませんでした。」
カミーユ殿下は外交問題を起こし、いまにも戦争が始まりそうな場所へと送られていたらしい。しかし、そこでも問題ばかりで帰されてきた。
「これからはよろしくお願いしますね。渚さん。」
どうやらクロードとカミーユ王子は仲が悪いらしい。
「あの…カミーユ殿下。」
どうにかして私への誤解を解きたい。クロードがせっかくの善意で後見人になってくれたのだから。
「私と公爵様はそんな関係ではございません。本当にただの後見人なのです。どうか信じてください。」
静寂。クロードは何故か手で顔を覆い、肩を震わせている。
「あははっ、ウケる。…ハハっお腹痛い。」
静寂を破ったのは、遠くから聞こえる笑い声だった。
「いやぁ、クローディアス…もうちょっと頑張らないとダメだねぇ。」
現れたその人もまた美しい金髪と翠色の瞳をしていた。しかしカミーユ王子より、優しげな顔をしたその人はお腹を抱えて笑っている。
「初めましてぇカインです。いちおクローディアスの主になるのかなぁ?会いたかったよぉ。」
第一王子のカイン様。ふわふわと掴みどころのない話し方をする人。長い金髪を一つに束ね、細められた翡翠色の目は本当に楽しそう。
「渚さんって言うんだねぇ。うーん…可愛いし綺麗だねぇ。」
見るとカミーユ王子が恐ろしいほどこちらを睨みつけている。
「……義兄上?どうしてこちらに?」
「僕もぉ渚さんに会いたくてぇ。抜け駆けは良くないよぉ?」
ぎりぎりと歯を噛み締め、カミーユ王子は拳を握りしめる。
「あんまり好き勝手してるとぉまた前線に送っちゃうからねぇ。」
「くそっ。」
王子様には似合わない舌打ちをしながら、カミーユ王子は立ち去っていった。
一体なんだったんだろう?
「カミーユのことは気にしなくていいよぉ。生まれてからずぅっとあんな感じだからね。」
気がつくとカイン様の顔がものすごく近い。クロードが私の肩を抱いた。
「カイン殿下近いです。」
「びっくりするくらい肌が綺麗だねぇ。本当にお人形みたいだ。」
カイン様は喋り方だけじゃなく、人柄もなんだか掴みどころがない。
「またすぐ会うことになるよぉ。その時にいっぱいお話しようねぇ。」
その時はよく分からなかったけれど、カイン様の予言のような言葉はすぐに当たることになった。
ふと気がつくと図書館から人の気配がなくなっていた。さっきまで案内をしてくれていた司書さんの姿も見えない。
図書館の閉館は夕方だと聞いているし、まだ外は明るい。一体どうしたんだろう。クロードもあれから戻ってきていなかった。
コツコツ…
遠くから足音が聞こえる。その音はだんだんと近づき、私のいる本棚のすぐ側で止まった。
「こんにちは、お嬢さん。」
現れたのはまるで絵画から飛び出してきたような美しい男の人だった。
陽の光にキラキラと輝く金髪を顎のラインで切り揃え、その瞳は新緑のような翡翠色。切れ長な二重とスッと通った鼻筋。まるでモデルみたい。
この国で金髪と翠色の瞳は王族の証。手にしていた本を棚に置き、私は深々と頭を下げる。
「そんなにかしこまらないで下さい。お嬢さんのお名前をお聞きしても?」
「渚と申します。」
「ナギサ…。随分変わったお名前だ。私はカミーユ。フェルナンド公爵にはずいぶんとお世話になっています。」
第二王子カミーユ殿下。クロードから、もし彼と出逢ったらすぐに逃げなさいと言われている。
「殿下がいらっしゃるとは知らず、大変失礼を致しました。すぐに退室いたします。」
本を取ろうと伸ばした右手に、王子の左手が重なる。
「そんなに急がなくてもいいではありませんか。」
笑顔の奥、その瞳は笑っているように見えない。見た目に反して王子の力が強く、握られた手を振りほどけない。
「公爵が女性の後見人になったと聞いて驚きました。今まで彼は人間嫌いだと言われていましたし、女性の影もない。それがまさか貴女のような美しい方を囲っているなんて。公爵もやはり男なんですね。」
囲う?その言葉の意味がよく分からなかった。クロードは皆に優しく、人間嫌いだなんて信じられない。
「それにしても…本当に綺麗だ。妾にしておくのはもったいないですね。」
王子の指が私の頬を撫でる。ゾワッと鳥肌がたった。
「渚!」
聞き慣れた声。振り返ると息を切らしたクロードが私の肩を掴む。ぐっと王子から引き離された。
「お久しぶりです。フェルナンド公爵。せっかく帰ってきたのに挨拶がないので、私から来ましたよ。」
クロードは今までに見たこともないくらい険しい顔をしている。
「いつの間に側室を迎えたんですか?正妻もいないのに。」
側室?正妻?王子は何か勘違いしているみたいだ。私はただの人形で、クロードは後見人なのに。
「カミーユ王子こそ、前線では随分好き勝手やっていたようですね。まさかこんなに早くお帰りになるとは思ってもいませんでした。」
カミーユ殿下は外交問題を起こし、いまにも戦争が始まりそうな場所へと送られていたらしい。しかし、そこでも問題ばかりで帰されてきた。
「これからはよろしくお願いしますね。渚さん。」
どうやらクロードとカミーユ王子は仲が悪いらしい。
「あの…カミーユ殿下。」
どうにかして私への誤解を解きたい。クロードがせっかくの善意で後見人になってくれたのだから。
「私と公爵様はそんな関係ではございません。本当にただの後見人なのです。どうか信じてください。」
静寂。クロードは何故か手で顔を覆い、肩を震わせている。
「あははっ、ウケる。…ハハっお腹痛い。」
静寂を破ったのは、遠くから聞こえる笑い声だった。
「いやぁ、クローディアス…もうちょっと頑張らないとダメだねぇ。」
現れたその人もまた美しい金髪と翠色の瞳をしていた。しかしカミーユ王子より、優しげな顔をしたその人はお腹を抱えて笑っている。
「初めましてぇカインです。いちおクローディアスの主になるのかなぁ?会いたかったよぉ。」
第一王子のカイン様。ふわふわと掴みどころのない話し方をする人。長い金髪を一つに束ね、細められた翡翠色の目は本当に楽しそう。
「渚さんって言うんだねぇ。うーん…可愛いし綺麗だねぇ。」
見るとカミーユ王子が恐ろしいほどこちらを睨みつけている。
「……義兄上?どうしてこちらに?」
「僕もぉ渚さんに会いたくてぇ。抜け駆けは良くないよぉ?」
ぎりぎりと歯を噛み締め、カミーユ王子は拳を握りしめる。
「あんまり好き勝手してるとぉまた前線に送っちゃうからねぇ。」
「くそっ。」
王子様には似合わない舌打ちをしながら、カミーユ王子は立ち去っていった。
一体なんだったんだろう?
「カミーユのことは気にしなくていいよぉ。生まれてからずぅっとあんな感じだからね。」
気がつくとカイン様の顔がものすごく近い。クロードが私の肩を抱いた。
「カイン殿下近いです。」
「びっくりするくらい肌が綺麗だねぇ。本当にお人形みたいだ。」
カイン様は喋り方だけじゃなく、人柄もなんだか掴みどころがない。
「またすぐ会うことになるよぉ。その時にいっぱいお話しようねぇ。」
その時はよく分からなかったけれど、カイン様の予言のような言葉はすぐに当たることになった。
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