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第9話 性悪王子の帰還
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第9話 性悪王子の帰還
カルディアナ王国北部、シーサル山脈を国境にして王国はタリシアン共和国と接している。永年に渡り協力協定を結んでいた両国はいま一触即発の事態に陥っている。
「おいっ!まだ着かないのか!」
豪華な四頭立ての馬車にはカルディアナ王国の紋章が彫りこまれ、馬車の後部に棚引く紋章がそこに王族が乗っていることを示していた。
「先日の大雨の影響で、地面がぬかるんでいるため回り道しなければなりません…。」
「くそっ、これだから田舎道は。さっさと走らせろ!全速力だ!」
カルディアナ王国第二王子であるカミーユ・カルディアナは苛立ちを隠すことなく声を荒げていた。
「やっと王都に帰れると思えば、迎えは馬車ひとつ。次期国王である私をなんだと思っているんだ!」
御者や護衛の騎士たちは王子の大声に慌てることもなく、馬車の向きを変える。このカミーユ王子の短気には馴れたものだ。
そもそもこの戦争一歩手前の状況になってしまった原因である王子に敬意を払う者など、この場にはいないのだから。
* * *
ことの始まりはタリシアン共和国で開かれた夜会だった。王国の代表として参加した第二王子であるカミーユは、そこで共和国王の三女であるシシリア姫を口説き始めた。
性悪王子として知られるカミーユは美しい金髪と緑色の瞳をもち、眉目秀麗ではある。そのため姫も悪い気はしなかったのだろう。
我慢ならなかったのは、そのシシリア姫と婚約していたタリシアン共和国の公爵であった。婚約者のいる女性を口説くなど言語道断。公爵はその夜会で王子を叱りつけた。
たしかにその公爵も悪かった。自分より身分が高く、他国の王子であるカミーユを公の場で怒鳴りつけるのは明らかに不敬だ。しかし、その公爵の運の悪さは相手がカミーユだったことにある。
「貴様!俺を誰だと思っている!」
護衛のため控えていた騎士から剣を奪い取ると、カミーユはその公爵を切りつけたのだ。
驚いたのが切られた公爵だけではなかったのは言うまでもない。夜会は阿鼻叫喚となり、参加者は一目散に逃げ出した。
幸い公爵は一命を取り留めたが、その場で全てを見ていたタリシアン国王はカルディアナ王国との協力協定を取り消すと言い出した。当然と言えば当然の結果だろう。
慌てたのはカルディアナ国王だ。まさか夜会に行っただけの息子が協定破棄を引き下げて帰ってくるとは思っていなかったのだから。
以後2年に渡り、カルディアナ王国とタリシアン共和国は冷戦状態となり、いつ戦争が始まってもおかしくない状況になっている。
* * *
「くそっ、全部アイツのせいだ。」
カルディアナ王国の三人いる王子の中で、第二王子であるカミーユは唯一国王の正妻である皇后の息子。
そのため幼い頃から甘やかされ、我慢というものを知らない。短気で我が儘、その性格の悪さは国一番だろう。
国王も何かとカミーユを甘やかしてきたが、今回の協定破棄については、そんなことは言ってられなかった。
タリシアン共和国は公爵を切りつけられ、夜会は地獄絵図。これでカミーユがお咎め無しとなれば、それこそ戦争が始まるだろう。
「フェルナンドめ…。」
そこで第二王子の前線への進軍を意見したのが他でもないクローディアス・フェルナンドだった。
カミーユをタリシアン共和国との国境に控えさせ、何かあればすぐに戦場に行かせられる。これが彼への罰として採用されたのだ。
「次に会ったら、覚えていろ。」
クローディアスの影で第一王子のカインが意見を出していたのは間違いない。
カミーユは義兄であるカインが大嫌いだった。あの馬鹿みたいな話し方も何を考えているか分からないところも。そのくせ、抜かりがなく弱みを掴ませないところも何もかもが気に食わない。
王都に戻るからには、必ず自分が王座を手にする。カミーユはそう心に誓った。
カルディアナ王国北部、シーサル山脈を国境にして王国はタリシアン共和国と接している。永年に渡り協力協定を結んでいた両国はいま一触即発の事態に陥っている。
「おいっ!まだ着かないのか!」
豪華な四頭立ての馬車にはカルディアナ王国の紋章が彫りこまれ、馬車の後部に棚引く紋章がそこに王族が乗っていることを示していた。
「先日の大雨の影響で、地面がぬかるんでいるため回り道しなければなりません…。」
「くそっ、これだから田舎道は。さっさと走らせろ!全速力だ!」
カルディアナ王国第二王子であるカミーユ・カルディアナは苛立ちを隠すことなく声を荒げていた。
「やっと王都に帰れると思えば、迎えは馬車ひとつ。次期国王である私をなんだと思っているんだ!」
御者や護衛の騎士たちは王子の大声に慌てることもなく、馬車の向きを変える。このカミーユ王子の短気には馴れたものだ。
そもそもこの戦争一歩手前の状況になってしまった原因である王子に敬意を払う者など、この場にはいないのだから。
* * *
ことの始まりはタリシアン共和国で開かれた夜会だった。王国の代表として参加した第二王子であるカミーユは、そこで共和国王の三女であるシシリア姫を口説き始めた。
性悪王子として知られるカミーユは美しい金髪と緑色の瞳をもち、眉目秀麗ではある。そのため姫も悪い気はしなかったのだろう。
我慢ならなかったのは、そのシシリア姫と婚約していたタリシアン共和国の公爵であった。婚約者のいる女性を口説くなど言語道断。公爵はその夜会で王子を叱りつけた。
たしかにその公爵も悪かった。自分より身分が高く、他国の王子であるカミーユを公の場で怒鳴りつけるのは明らかに不敬だ。しかし、その公爵の運の悪さは相手がカミーユだったことにある。
「貴様!俺を誰だと思っている!」
護衛のため控えていた騎士から剣を奪い取ると、カミーユはその公爵を切りつけたのだ。
驚いたのが切られた公爵だけではなかったのは言うまでもない。夜会は阿鼻叫喚となり、参加者は一目散に逃げ出した。
幸い公爵は一命を取り留めたが、その場で全てを見ていたタリシアン国王はカルディアナ王国との協力協定を取り消すと言い出した。当然と言えば当然の結果だろう。
慌てたのはカルディアナ国王だ。まさか夜会に行っただけの息子が協定破棄を引き下げて帰ってくるとは思っていなかったのだから。
以後2年に渡り、カルディアナ王国とタリシアン共和国は冷戦状態となり、いつ戦争が始まってもおかしくない状況になっている。
* * *
「くそっ、全部アイツのせいだ。」
カルディアナ王国の三人いる王子の中で、第二王子であるカミーユは唯一国王の正妻である皇后の息子。
そのため幼い頃から甘やかされ、我慢というものを知らない。短気で我が儘、その性格の悪さは国一番だろう。
国王も何かとカミーユを甘やかしてきたが、今回の協定破棄については、そんなことは言ってられなかった。
タリシアン共和国は公爵を切りつけられ、夜会は地獄絵図。これでカミーユがお咎め無しとなれば、それこそ戦争が始まるだろう。
「フェルナンドめ…。」
そこで第二王子の前線への進軍を意見したのが他でもないクローディアス・フェルナンドだった。
カミーユをタリシアン共和国との国境に控えさせ、何かあればすぐに戦場に行かせられる。これが彼への罰として採用されたのだ。
「次に会ったら、覚えていろ。」
クローディアスの影で第一王子のカインが意見を出していたのは間違いない。
カミーユは義兄であるカインが大嫌いだった。あの馬鹿みたいな話し方も何を考えているか分からないところも。そのくせ、抜かりがなく弱みを掴ませないところも何もかもが気に食わない。
王都に戻るからには、必ず自分が王座を手にする。カミーユはそう心に誓った。
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