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第5話 人形公爵のお仕事
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第5話 人形公爵のお仕事
このカルディアナ王国には三人の王子様がいる。それぞれ母親が違い、虎視眈々と王座を狙っているそうだ。
クロード曰く、第一王子はボケ、第二王子は性悪、第三王子はクズらしい。
私からするとどれも同じくらいの悪口なので、違いがよくわからなかった。
その中でも、一番マシなのがクロードの仕える第一王子のカイン様らしい。クロードとは幼なじみでこの人形部屋についても知っている数少ない人の一人だそうだ。
クロードはその処理能力、人脈、冷静沈着な性格と実行力を高く評価されていて、彼が仕えているというだけで第一王子の評価が上がってるらしい。これは執事のジェロームさんのお話。
クロードが仕事に行っている間、私はジェロームさんからこの国のことを教わる。
私がこの国について何も知らないのは、他国から人攫いにあって無理矢理連れてこられたからだとクロードたちは思っている。私も本当のことは言えないまま。
私は一回死んだんです。神様に異世界から連れて来られました。なんて一体誰が信じるだろう。
信じてくださいと言った神様が、まさかなんの予備知識もないまま私を放り出したことも信じられないのに。
クロードが助けてくれなかったら、本当に人攫いに売られるところだった。
どうかクロードに嫌われませんように。飽きられませんように。今日も勉強を頑張ろう。
* * *
「いやぁ、まさかとは思ってたけどぉ、噂は本当だったんだねぇ。」
カルディアナ王国の首都カルディアン中央に立つ王城。高い尖塔が三本そびえたち、白亜の壁は首都のどこからでも眺めることができる。
「で?殿下はなぜここに?」
王城の左の尖塔。その下に我々貴族の執務室がある。その中でも私の務めるこの第一執務室には国の内外からさまざまな者が訪れる。しかし、今日の訪問者に私以外の貴族たちは戦々恐々としていた。
「冷たいなぁ、せっかく君に会いに来たのにぃ。」
カルディアナ王国第一王子カイン・カルディアナ。その語尾を伸ばす独特なしゃべり方。威厳がないからやめろと言ってもまったく直る気配がない。
いつも書類のやり取りしかしないやつが、なぜここにいるのか。
「用がないなら、さっさとお戻りください。貴方も暇じゃないでしょう。」
コイツが来たせいで、仕事が滞っている。一分一秒でも早く帰りたい私にとって致命的な遅れだ。
「ずいぶん顔色がよくなったねぇ。こないだ会った時は死にそうな顔してたのにぃ。なにか良いことあったの?」
「それは殿下が仕事を私にばかり回してくるから、忙しくて死にそうだったんでしょう。」
市外への視察、他国からの使者への対応、重要な会議への代理出席。この3ヶ月このボケ王子のために働かされたのだ。
まぁ、その仕事の帰りに彼女を助けることができたのだから悪いことばかりではない。
「あれぇ、なんかニヤニヤしてるぅ。」
「してません。」
豊かな土地と資源をもつ王国は、いま1つの問題に直面している。いや、以前からあった問題が表面化しているだけだ。今まで目を反らしていたツケが回ってきたというべきか。
王座を誰に譲るのか。このカルディアナ王国での世継ぎ問題は根深い。
そもそも三人もいる王子が揃いもそろってダメ王子なのが悪い。いい加減にしてほしい。
「そんな機嫌のいいクローディアスに、良い報せと悪い報せがありまぁす。どっちから聞きたい?」
「どっちでもいい。さっさと言え。」
私のピリピリした雰囲気に周りの者たちは怯えた顔をして部屋を出ていった。しかし、ボケ王子は気にする素振りもない。
「カミーユが帰ってくるんだってぇ。あっこれ悪いニュースのほうねぇ?」
近頃、姿を見せなかった頭痛が戻ってくる。ひどい目眩も一緒に。
「馬鹿な。あと一年は帰ってこないはずでは?」
「なんかぁ、前線でも面倒見きれないって戻されるらしいよぉ。」
カミーユ・カルディアナ。この王国の第二王子で、このカインより数倍タチが悪い。
「それじゃ良いニュースっていうのは…。」
「おっ、よく分かったねぇ。さすがぁ。一緒にトラヴィスも帰ってくるよぉ。」
トラヴィス・ウェイン。あの筋肉馬鹿まで帰ってくるなんて。
「どっちも悪いニュースだろうが。」
「友達が帰ってくるのに悪いニュースだなんてひどいなぁ。
じゃ次はクローディアスが良いニュースを話す番だよぉ?氷の公爵様が最近ご機嫌な理由、話してくれるまで帰らないからぁ。」
このボケ王子は、そのボケボケした喋り方からは想像もつかないほど頑固だ。一度やると決めたら絶対に譲らない。
話すまで帰らないということは本当に帰らないのだろう。
「勝手にしろ。私は仕事をするだけだ。」
ヤツを無視して私は仕事に取り掛かる。彼女と過ごす大切な時間のために。
このカルディアナ王国には三人の王子様がいる。それぞれ母親が違い、虎視眈々と王座を狙っているそうだ。
クロード曰く、第一王子はボケ、第二王子は性悪、第三王子はクズらしい。
私からするとどれも同じくらいの悪口なので、違いがよくわからなかった。
その中でも、一番マシなのがクロードの仕える第一王子のカイン様らしい。クロードとは幼なじみでこの人形部屋についても知っている数少ない人の一人だそうだ。
クロードはその処理能力、人脈、冷静沈着な性格と実行力を高く評価されていて、彼が仕えているというだけで第一王子の評価が上がってるらしい。これは執事のジェロームさんのお話。
クロードが仕事に行っている間、私はジェロームさんからこの国のことを教わる。
私がこの国について何も知らないのは、他国から人攫いにあって無理矢理連れてこられたからだとクロードたちは思っている。私も本当のことは言えないまま。
私は一回死んだんです。神様に異世界から連れて来られました。なんて一体誰が信じるだろう。
信じてくださいと言った神様が、まさかなんの予備知識もないまま私を放り出したことも信じられないのに。
クロードが助けてくれなかったら、本当に人攫いに売られるところだった。
どうかクロードに嫌われませんように。飽きられませんように。今日も勉強を頑張ろう。
* * *
「いやぁ、まさかとは思ってたけどぉ、噂は本当だったんだねぇ。」
カルディアナ王国の首都カルディアン中央に立つ王城。高い尖塔が三本そびえたち、白亜の壁は首都のどこからでも眺めることができる。
「で?殿下はなぜここに?」
王城の左の尖塔。その下に我々貴族の執務室がある。その中でも私の務めるこの第一執務室には国の内外からさまざまな者が訪れる。しかし、今日の訪問者に私以外の貴族たちは戦々恐々としていた。
「冷たいなぁ、せっかく君に会いに来たのにぃ。」
カルディアナ王国第一王子カイン・カルディアナ。その語尾を伸ばす独特なしゃべり方。威厳がないからやめろと言ってもまったく直る気配がない。
いつも書類のやり取りしかしないやつが、なぜここにいるのか。
「用がないなら、さっさとお戻りください。貴方も暇じゃないでしょう。」
コイツが来たせいで、仕事が滞っている。一分一秒でも早く帰りたい私にとって致命的な遅れだ。
「ずいぶん顔色がよくなったねぇ。こないだ会った時は死にそうな顔してたのにぃ。なにか良いことあったの?」
「それは殿下が仕事を私にばかり回してくるから、忙しくて死にそうだったんでしょう。」
市外への視察、他国からの使者への対応、重要な会議への代理出席。この3ヶ月このボケ王子のために働かされたのだ。
まぁ、その仕事の帰りに彼女を助けることができたのだから悪いことばかりではない。
「あれぇ、なんかニヤニヤしてるぅ。」
「してません。」
豊かな土地と資源をもつ王国は、いま1つの問題に直面している。いや、以前からあった問題が表面化しているだけだ。今まで目を反らしていたツケが回ってきたというべきか。
王座を誰に譲るのか。このカルディアナ王国での世継ぎ問題は根深い。
そもそも三人もいる王子が揃いもそろってダメ王子なのが悪い。いい加減にしてほしい。
「そんな機嫌のいいクローディアスに、良い報せと悪い報せがありまぁす。どっちから聞きたい?」
「どっちでもいい。さっさと言え。」
私のピリピリした雰囲気に周りの者たちは怯えた顔をして部屋を出ていった。しかし、ボケ王子は気にする素振りもない。
「カミーユが帰ってくるんだってぇ。あっこれ悪いニュースのほうねぇ?」
近頃、姿を見せなかった頭痛が戻ってくる。ひどい目眩も一緒に。
「馬鹿な。あと一年は帰ってこないはずでは?」
「なんかぁ、前線でも面倒見きれないって戻されるらしいよぉ。」
カミーユ・カルディアナ。この王国の第二王子で、このカインより数倍タチが悪い。
「それじゃ良いニュースっていうのは…。」
「おっ、よく分かったねぇ。さすがぁ。一緒にトラヴィスも帰ってくるよぉ。」
トラヴィス・ウェイン。あの筋肉馬鹿まで帰ってくるなんて。
「どっちも悪いニュースだろうが。」
「友達が帰ってくるのに悪いニュースだなんてひどいなぁ。
じゃ次はクローディアスが良いニュースを話す番だよぉ?氷の公爵様が最近ご機嫌な理由、話してくれるまで帰らないからぁ。」
このボケ王子は、そのボケボケした喋り方からは想像もつかないほど頑固だ。一度やると決めたら絶対に譲らない。
話すまで帰らないということは本当に帰らないのだろう。
「勝手にしろ。私は仕事をするだけだ。」
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