38 / 41
2章 侍女編
第三十五話
しおりを挟む
第三十五話
遠くに夜会の音楽が聞こえる。今頃ララさんとアルセイン様がダンスを踊っているはずだ。
年が明ければ二人の結婚式が盛大に行われる。自分のことのように嬉しくて、楽しみで仕方ない。
「なに一人でニヤニヤしてるんだよ。」
「ふふ、ケインには秘密。」
ララさんには結婚祝いに私からとっておきの下着をプレゼントした。アルセイン様にもきっと喜んでもらえるはず。
私はと言えば、ケインに手を引かれ夜会を抜け出し王城の中を進む。今まで一度も入ったことのない王族の居住区。そこは王城の中でも更にきらびやかだ。
「私が勝手に入っていいの?」
「親父にも挨拶した。問題ないだろ。」
国王陛下からおかえりと声をかけられたとき涙が出そうになった。
私がどうしてこの世界に来たのかはさっぱり分からないし、答えなんてないのかもしれない。それでもここで出逢った人たちのおかげで私はここにいる。
「ここだ。」
居住区の最奥、そこは亡くなった皇后様が使っていた部屋。大きな扉を開けた先には綺麗に片付けられた部屋。彼のお母さんの気配がまだそこにある気がした。
「綺麗な人…。」
壁にかかる肖像画。微笑むその人は思っていたよりずっと優しそうで、芯の強そうな瞳をしている。
「目元はアルセイン様に、口元はケインに似てるね。」
「本当か?そんなこと初めて言われた。」
私は母に似ているのだろうか。小さい頃はよく父親に似ていると言われたけど、歳を取るにつれ母に似てる部分が増えている気がする。
「マリア。」
母に会いに行こう。そう言って手を引いてくれたケインはたった半年で驚くほど男らしくなっていた。どんなことをしていたのか、何を思っていたのか。これからたくさん聞かせてほしい。
「剣術大会では準優勝だった。騎士としてまだ功績もあげてない。」
「うん、知ってる。次は必ず近くで応援するから。」
ロベルト卿に負けたこと、ケインはずっと気にしている。
「マリアは自分の力でここまで来たのに、俺はまだまだだ。」
私の力なんてほんの少しだ。周りに助けられてばかりいる。
「それでも俺はマリアの側にいたい。もう二度と離れたくない。」
春嬢でも侍女でもない。私はちゃんと彼にふさわしい自分になれた?
「俺と結婚してほしい。側にいてくれるか?」
彼の言葉を聞き終わる前に、その首元に抱きついた。
「もちろんだよ。大好き、ケイン。」
どんな理由でもいい。この世界に来られて良かった。こんなに大切な人に会えたんだもの。
遠くに夜会の音楽が聞こえる。今頃ララさんとアルセイン様がダンスを踊っているはずだ。
年が明ければ二人の結婚式が盛大に行われる。自分のことのように嬉しくて、楽しみで仕方ない。
「なに一人でニヤニヤしてるんだよ。」
「ふふ、ケインには秘密。」
ララさんには結婚祝いに私からとっておきの下着をプレゼントした。アルセイン様にもきっと喜んでもらえるはず。
私はと言えば、ケインに手を引かれ夜会を抜け出し王城の中を進む。今まで一度も入ったことのない王族の居住区。そこは王城の中でも更にきらびやかだ。
「私が勝手に入っていいの?」
「親父にも挨拶した。問題ないだろ。」
国王陛下からおかえりと声をかけられたとき涙が出そうになった。
私がどうしてこの世界に来たのかはさっぱり分からないし、答えなんてないのかもしれない。それでもここで出逢った人たちのおかげで私はここにいる。
「ここだ。」
居住区の最奥、そこは亡くなった皇后様が使っていた部屋。大きな扉を開けた先には綺麗に片付けられた部屋。彼のお母さんの気配がまだそこにある気がした。
「綺麗な人…。」
壁にかかる肖像画。微笑むその人は思っていたよりずっと優しそうで、芯の強そうな瞳をしている。
「目元はアルセイン様に、口元はケインに似てるね。」
「本当か?そんなこと初めて言われた。」
私は母に似ているのだろうか。小さい頃はよく父親に似ていると言われたけど、歳を取るにつれ母に似てる部分が増えている気がする。
「マリア。」
母に会いに行こう。そう言って手を引いてくれたケインはたった半年で驚くほど男らしくなっていた。どんなことをしていたのか、何を思っていたのか。これからたくさん聞かせてほしい。
「剣術大会では準優勝だった。騎士としてまだ功績もあげてない。」
「うん、知ってる。次は必ず近くで応援するから。」
ロベルト卿に負けたこと、ケインはずっと気にしている。
「マリアは自分の力でここまで来たのに、俺はまだまだだ。」
私の力なんてほんの少しだ。周りに助けられてばかりいる。
「それでも俺はマリアの側にいたい。もう二度と離れたくない。」
春嬢でも侍女でもない。私はちゃんと彼にふさわしい自分になれた?
「俺と結婚してほしい。側にいてくれるか?」
彼の言葉を聞き終わる前に、その首元に抱きついた。
「もちろんだよ。大好き、ケイン。」
どんな理由でもいい。この世界に来られて良かった。こんなに大切な人に会えたんだもの。
1
お気に入りに追加
2,046
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです
石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。
聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。
やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。
女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。
素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる