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2章 侍女編

第三十三話〜ケイン〜

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 第三十三話~ケイン~

 ~半年後~

 トリスト王国城内には今、王国中の名のある騎士たちが集まっている。盛大な秋祭りに合わせて行われる年に一度の剣術大会。その決勝戦が行われていた。

「勝負あり、勝者ローシェント・ロベルト!」

 わぁと大きな歓声があがる。優勝候補だったロベルト卿に最後まで果敢に挑んだのが、この国の王子だったことで今年の大会は例年以上の盛り上がりを見せた。

「くそっ!」

 この半年、訓練に訓練を重ねてこの日に挑んだ。絶対に勝ちたかった。

「優勝商品は彼女とのデート権でどう?」

「断る!」

 差し出された手を拒否し、舞台から降りたケイニアスは早足で立ち去っていった。


 マリアがアルバ公国に留学という形で旅立ってからそろそろ半年になる。手紙のやりとりだけでは本当にそろそろ限界だった。

 騎士としての訓練と任務をこなしながら、剣術の練習をがむしゃらに頑張った。するとなぜかロベルトから声をかけられ、ちょっかいを出される事が増えた。
 性格は気に入らないが、奴の腕は本物だ。一緒に練習をするうちに剣術の腕がみるみる上がっていった。
 しかしそのせいで周りからは仲が良いと思われるようになり、友人のように振る舞われるのが腹立たしい。誰があんなやつと友達になるか。

 明日は待ちに待った舞踏会。やっと、彼女に会える。

 * * *

 秋祭りはこの国の豊穣と恵みに感謝し、女神アルチェを称えるこの国一番の祭りだ。それに合わせ、王国最大の舞踏会が開かれる。
 今年は特に、第一王子であるアルセインの婚約者であるララ嬢のお披露目も行われるため参加人数も過去最高のものとなるはずだ。
 その中にはもちろん第二王子であるケイニアスの婚約者の座を狙う令嬢たちも多く含まれるが、そんなもの彼の目にはまったく入っていない。

「本当に、彼女と出逢ってからケイニアスは大人になりましたね。」

「ふん、馬鹿は変わらないがな。」

 国王と王太子となるアルセインは王族の観覧席から早足に消えていく第二王子を眺めていた。

「父上の手を借りることもなく、マリアさんは自分の力で戻ってくる。ケイニアスはまだまだ彼女には敵わないでしょうね。」

「馬鹿息子より何倍も見込みがある。なぜケイニアスのためにそこまでするのか。そっちのほうが疑問だ。」

 悪態をつきながら、父上は嬉しそうに笑っていた。いつだって国王として振る舞いながら、心のうちでは息子たちの幸せを願ってくれている。あまり弟には伝わっていないが。

「彼女といい、ララ嬢といい。これからは強い女性たちの時代になるのだろうな。」

「女性はいつだって強いです。父上こそ母上がそんな女性だったから好きになったのではないのですか?」

 父と二人、顔を見合わせ笑った。私も早く愛する人に会いたい。

 * * *

「ケイニアス様!今度こそ、わたくしをお側に置いてくださいませ。」

 キツイ薔薇の香りが春の舞踏会を思い出させた。なんだっけこの令嬢の名前。絡められそうになる腕を素早く躱した。
 正直いまは他のやつに構っている余裕なんてない。

 アルバ公国に旅立ったあと、マリアの名は別のところで聞かれるようになった。
 今までにない斬新で美しい化粧品を次々と売り出し、城下町の女性から貴族令嬢までその商品はたちまち話題になった。
 トリスト王国からアルバ公国、今ではそれ以外の国でも売り出す計画があるらしい。マリアからの手紙には仕事の楽しさが溢れるほど書かれている。正直、俺としてはもっと寂しがってほしいところだが彼女が楽しいなら良かった。

 そして今、マリアはさらに別の理由で貴族たちの話題となっている。

「アルバ公国公爵令嬢、ララ・ステラファード様。マクミラン公爵令嬢、マリア・マクミラン様ご到着です。」

 未来の皇后とともに現れた彼女は、今では見たこともないほど美しかった。

 ララ嬢の淡いグリーンのドレスはアルセインの瞳の色に合わせたのだろう。
 それとは対照的に鮮やかなブルーのドレスに身を包んだ彼女はこの会場の誰よりも綺麗だ。

 マリア・マクミラン。それが今の彼女の名前だ。春嬢から王城の侍女、そして事業家となり今彼女は公爵の養女になった。正確には公爵夫人の養女だが。

「マリア…!」

 人目を気にせず彼女を抱き寄せると、いつかの優しい香りがする。

「ただいま、ケイン。会いたかった。」

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