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2章 侍女編

第三十一話〜ケイン〜

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 第三十一話~ケイン~

 王城西棟、屋外にある騎士団練習場に剣を振るう音が響く。
 舞踏会の来賓たちが国へ帰っていき、護衛にあたっていた騎士たちには久しぶりの休日。
 そんな日にわざわざ練習場で剣を振るのは第二王子であるケイニアスだ。

「お疲れ様です。」

 少しの笑いを含んだ声。休日に練習場なんて寄り付かないこの男が、なぜここにいるのか。

「何か用ですか?」

「やめてくださいよ。敬語なんて。」

 ローシェント・ロベルト。25歳の若さで青の騎士団副団長に指名され、国一番の剣術使いと言われている。その強さのおかげで多少の問題は目をつぶられる。

「すごいですね、今日も訓練ですか?舞踏会でお疲れでしょう。」

「だから?何か用か?」

 常に笑みを絶やさないこの男が俺は苦手だった。今はそれ以上に別の理由で嫌いだが。

「今日は城下に行かないのかなと思いまして。」

 ニコニコしながらその瞳の奥はまったく笑っていない。

「じゃあ俺が誘っていいですか?マリアちゃんとデート。」

 マリアからの言伝をアゼル経由で聞いていた。ロベルト卿に城下町に二人で居たのを見られたと。相手が俺だとはバレてないと言っていたが、どうやら嘘だったようだ。

「それ、わかってて言ってるのか?」

 瞬間、ヤツの顔から笑みが消えた。

「マリアちゃんは貴方の所有物ですか?鳥かごに入れて囲い込んで、このまま結婚するのが本当に幸せだと思ってるなら俺が彼女を連れ出します。」

「侍女に片っ端から手を出してる奴が偉そうに説教か?マリアは渡さないし、そもそもお前を選んだりしない。」

 好きだよと囁く彼女の声。会いたくて会いたくてそれを振り払うためにこうしてここにいる。

「わざわざそんなこと言いに来たのか?」

 ふとロベルトが笑った。それは初めて見る作り笑顔じゃない、本当の笑顔だ。

「あーあ、相手が王子だなんて。さすがに相手が悪いよ。本当にいいなと思った人に限って、もう相手が決まってる。」

 ロベルトとこんなに長く話すのも、本心を聞くのも初めてだ。別にそこまで嫌な奴ではないのかもしれない。

「でもデートに誘うくらいならいいでしょ?よければ一晩だけでも。」

 前言撤回。やっぱりコイツ嫌いだ。

「彼女が貴方から離れたら、すぐに攫うから。」

「絶対離れない。誰か渡すか。」

 鳥かご。この城がそうなのか、俺がそうなのか。マリアはここにいるのが幸せなのか。

 そんなの分かりきってる。だから俺は地位なんて捨ててもいいと思ったのに。
 会いたい気持ちを忘れたくてここに来たのに、結局さらに会いたくなる。そんな彼女を離せるわけないだろ。



 

 
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