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2章 侍女編
第二十七話
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第二十七話
「かわいい!」
オシャレなカフェのテラス席。そこは隠れ家のような知る人ぞ知るという場所にあった。テーブルには様々な柄のコスメケースが並び、カラフルな香水瓶にはクリスタルがはめ込まれている。
「マリアさんのお話を聞いて、すぐに作らせてみたの。どうかしら?」
「とっても可愛いです!部屋に置くだけで嬉しくなっちゃいます!」
そこへ店員が豪華なアフタヌーンティーセットを運んできた。サンドウィッチ、ケーキにマカロン。今日は女子力が高い一日になりそう。
* * *
「実はあのお店、私の店なの。」
ミシェル婦人にそう告げられ、私は驚きで返事ができなかった。
婦人が何をしている人なのかというより、この国で女性が事業をしていることに私は驚いてしまった。
「亡くなった主人は私のやりたいことをやらせてくれる人だったの。女だからダメだなんて言われなかったわ。」
可愛いらしい店構え、女性客たちの楽しそうな雰囲気。なるほど、女性がやっているからこそあんなお店ができるんだ。
「それでマリアさんにぜひお願いがあるの。」
そうして今日、こんな素敵なカフェに連れてきてもらってしまった。
「マリアさんの話を聞いてびっくりしたわ。こんなに素敵なものを思いつくなんて。」
私は恐縮するしかない。これは私が思いついたわけじゃないもの。日本で見たものを伝えただけでこんなに喜んでもらえるなんて話して良かった。
「私はただお話しただけです。それを形にできる婦人が素晴らしいんです。」
花柄の口紅ケースを手に取る。カラフルな小花柄がかわいい。
「この真ん中のところにリボンとかレースを付けても可愛いですね。」
「マリアさん!それすっごくいいわ。」
美味しいお茶とケーキを楽しみながら、たくさんの案を話し合った。楽しくて楽しくてあっという間に時間が過ぎていた。
「おかげで素晴らしいものが出来そう。本当にありがとう。」
「こちらこそ、本当に楽しくて時間を忘れちゃいました。」
この世界にきてこんな話ができたのは初めてだった。
「マリアさん、少しは元気になったかしら?」
「え‥‥‥‥?」
ミシェル婦人は心配そうな顔でこちらを見つめていた。
「ここ最近、なにか悩んでいるように見えたから。余計なお節介だったかしらね。」
「嬉しいです。そんなふうに言ってもらえるだけで。」
私は恵まれている。いろんな人に良くしてもらって、そう思っていても気持ちは止められない。
「もうひとつマリアさんにお話があるの。」
日が傾き、テーブルに置かれた香水瓶に夕陽がキラキラと輝いていた。
「マリアさん、私と一緒に仕事をしてみない?」
驚きで言葉が出てこない。
「今日確信したわ。マリアさん、この商品は絶対に売れる。この国で淑やかさを求められる女性たちの自宅での楽しみになるわ。」
鏡台に並ぶ美しい化粧品。それを見るだけで一日あった嫌なことも忘れられるかもしれない。
「私はそんな女性たちの力になりたいの。そのためにマリアさんに手伝ってもらえないかしら?」
私の提案したものが形になり、女性たちに買ってもらえたら。それを手にとることで明日への喜びになったら。
考えただけで心が踊った。そんな仕事ができたらどんなに楽しいだろう。
「でも私なんて‥‥。」
「マリアさんが春嬢だったことは知っています。でもそんなこと関係ないわ。あなたは素敵な女性よ。それが一番大切なこと。」
婦人の笑顔は自信に溢れていた。私もそんな女性になりたい。でも‥私は。
「大切な人がいるのね。」
ケインの顔が浮かんだ。今、私が城を出たら彼の努力を無駄にすることになる。
「ミシェル婦人‥‥私らしいって何なんでしょうか。」
最近そのことばかり考えている。どうしても頭から離れない。
「好きな人がいて、その人のために頑張ろうって。そう思って働いているのに、私らしくないって言われたんです。何よりも自分自身で納得してない自分がいるんです。このままでいいのかって。」
ケインが認められるのをただ待っている。そんなの全然私らしくない。
「マリアさん。この国で女性がやりたいことをやるのはとても難しいわ。でもきっとこれから変わっていく。」
まっすぐ背筋を伸ばす婦人はカッコよかった。
「女性は欲張りになるべきだわ。マリアさんも。」
「少しだけ、考えさせてもらえますか?」
「もちろんよ。たくさん考えて。」
自分のこと、彼のこと。もっと欲張ってもいいのだろうか。
「かわいい!」
オシャレなカフェのテラス席。そこは隠れ家のような知る人ぞ知るという場所にあった。テーブルには様々な柄のコスメケースが並び、カラフルな香水瓶にはクリスタルがはめ込まれている。
「マリアさんのお話を聞いて、すぐに作らせてみたの。どうかしら?」
「とっても可愛いです!部屋に置くだけで嬉しくなっちゃいます!」
そこへ店員が豪華なアフタヌーンティーセットを運んできた。サンドウィッチ、ケーキにマカロン。今日は女子力が高い一日になりそう。
* * *
「実はあのお店、私の店なの。」
ミシェル婦人にそう告げられ、私は驚きで返事ができなかった。
婦人が何をしている人なのかというより、この国で女性が事業をしていることに私は驚いてしまった。
「亡くなった主人は私のやりたいことをやらせてくれる人だったの。女だからダメだなんて言われなかったわ。」
可愛いらしい店構え、女性客たちの楽しそうな雰囲気。なるほど、女性がやっているからこそあんなお店ができるんだ。
「それでマリアさんにぜひお願いがあるの。」
そうして今日、こんな素敵なカフェに連れてきてもらってしまった。
「マリアさんの話を聞いてびっくりしたわ。こんなに素敵なものを思いつくなんて。」
私は恐縮するしかない。これは私が思いついたわけじゃないもの。日本で見たものを伝えただけでこんなに喜んでもらえるなんて話して良かった。
「私はただお話しただけです。それを形にできる婦人が素晴らしいんです。」
花柄の口紅ケースを手に取る。カラフルな小花柄がかわいい。
「この真ん中のところにリボンとかレースを付けても可愛いですね。」
「マリアさん!それすっごくいいわ。」
美味しいお茶とケーキを楽しみながら、たくさんの案を話し合った。楽しくて楽しくてあっという間に時間が過ぎていた。
「おかげで素晴らしいものが出来そう。本当にありがとう。」
「こちらこそ、本当に楽しくて時間を忘れちゃいました。」
この世界にきてこんな話ができたのは初めてだった。
「マリアさん、少しは元気になったかしら?」
「え‥‥‥‥?」
ミシェル婦人は心配そうな顔でこちらを見つめていた。
「ここ最近、なにか悩んでいるように見えたから。余計なお節介だったかしらね。」
「嬉しいです。そんなふうに言ってもらえるだけで。」
私は恵まれている。いろんな人に良くしてもらって、そう思っていても気持ちは止められない。
「もうひとつマリアさんにお話があるの。」
日が傾き、テーブルに置かれた香水瓶に夕陽がキラキラと輝いていた。
「マリアさん、私と一緒に仕事をしてみない?」
驚きで言葉が出てこない。
「今日確信したわ。マリアさん、この商品は絶対に売れる。この国で淑やかさを求められる女性たちの自宅での楽しみになるわ。」
鏡台に並ぶ美しい化粧品。それを見るだけで一日あった嫌なことも忘れられるかもしれない。
「私はそんな女性たちの力になりたいの。そのためにマリアさんに手伝ってもらえないかしら?」
私の提案したものが形になり、女性たちに買ってもらえたら。それを手にとることで明日への喜びになったら。
考えただけで心が踊った。そんな仕事ができたらどんなに楽しいだろう。
「でも私なんて‥‥。」
「マリアさんが春嬢だったことは知っています。でもそんなこと関係ないわ。あなたは素敵な女性よ。それが一番大切なこと。」
婦人の笑顔は自信に溢れていた。私もそんな女性になりたい。でも‥私は。
「大切な人がいるのね。」
ケインの顔が浮かんだ。今、私が城を出たら彼の努力を無駄にすることになる。
「ミシェル婦人‥‥私らしいって何なんでしょうか。」
最近そのことばかり考えている。どうしても頭から離れない。
「好きな人がいて、その人のために頑張ろうって。そう思って働いているのに、私らしくないって言われたんです。何よりも自分自身で納得してない自分がいるんです。このままでいいのかって。」
ケインが認められるのをただ待っている。そんなの全然私らしくない。
「マリアさん。この国で女性がやりたいことをやるのはとても難しいわ。でもきっとこれから変わっていく。」
まっすぐ背筋を伸ばす婦人はカッコよかった。
「女性は欲張りになるべきだわ。マリアさんも。」
「少しだけ、考えさせてもらえますか?」
「もちろんよ。たくさん考えて。」
自分のこと、彼のこと。もっと欲張ってもいいのだろうか。
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