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1章 春嬢編

幕間

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 私が妻と初めて出逢ったのは18歳になったばかりの頃、琥珀色の髪を風になびかせ美しく笑っていたのを昨日のことのように覚えている。

 それから一緒に過ごしたのは二十年余り。側にいられた時間はもっと短い。

 彼女が嫁いできた日、言われたことはただひとつ。

 私を幸せにしてください。

 それから二人の王子を授かり、彼女はいつも私の横で微笑んでいた。


 幼い頃から病弱だった彼女は家族の深い愛情を受けて育った。屋敷で働く使用人でさえ、彼女は家族と呼び親しくしていた。
 そんな家族たちから引き離して、私は自分の側に彼女を置いた。それが正しいことだったのか、もう答えてくれる人はいない。


 好きな人を家族から引き離してまで側にいたくはないと言ったあの娘。
 あの力強い瞳がなぜか妻を思い出させる。妻が声をあげて泣くところなど見たことはなかった。似ているところなどないはずなのに。


 家族にも王位にも、女性にさえ興味のなかった息子が変わりつつある。それは彼女によるところが大きいことは確かだ。
 彼女が貴族であったなら。そう思わないわけではない。しかし、貴族のなかで彼女のような女性は育たないだろう。


 彼女について不思議なことがひとつ。その過去がさっぱり掴めないことだ。うちの執事でも調べられないことがあるとは知らなかった。

 およそ半年前、彼女はこの首都の歓楽街にやってきた。その前の足取りがまったく分からない。
 どこで生まれ、どのように育てばあんな女性になるのか。
 海辺の町で生まれ、家族には二度と会えないと彼女は言った。一体どんな理由でこの町にやってきたのか。興味は尽きない。

 彼女と息子が結ばれる手がないわけではない。しかし、貴族たちをどう納得させるのか。課題は尽きない。

「あの馬鹿息子が王位を捨てるとまで言い出すとは…本当に……手がかかる。」

 君が生きていたら、息子になんと言うのだろう。

「君に会いたい。何年経っても君以上の女性は現れないよ。」

 家族と離れ、君は幸せだったかい?私ばかり幸せでバチが当たったのだろうか。
 息子たちにはどうか幸せになってほしい。そのために私は力を尽くすよ。
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