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1章 春嬢編
第五話
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第五話
「うわぁ……!」
ふわふわした赤い絨毯と豪華なシャンデリア。どこまでも続く廊下には大きな絵画や美術品が並んでいる。
通された部屋には色とりどりのドレスがところ狭しと並んでいた。
「この中から御召しになるドレスをお選びください。着替えは我々がお手伝いいたします。」
私ひとりのためにメイドさんが3人も付いている。一体どうしてこんなことになったんだろう。
娼館の前で私を待っていたのは、国王陛下の紋章がついた二頭立ての豪華な馬車。部屋にあった一番まともな服を着てきたけど、すでに場違いだ。
「あっ、あの…本当に私を迎えに来たんですか?」
「わたくしは国王陛下の命により、マリア様をお迎えに参りました。詳しくは陛下が直接お話されるそうです。」
御者の言葉に、後ろに控えていた女将が息を飲む。
「マリアあんた何したんだい?国王陛下に直接お会いできるなんて、貴族じゃない限り一生無理だよ!」
「えぇ!…そんなこと言われても…。」
まったく身に覚えがない。しかし、女将の言う通り黒髪黒目のマリアなんてこの国に多分私だけだ。
「さぁ参りましょう。」
しぶしぶ馬車に乗り込み、私はこの都市の中心に向かうことになった。
* * *
オリトの町の中心にそびえ立つ大きなお城。町の何処からでも眺められるこの城は、国の象徴であり国王の権威の証。まさか私がこんなところに来ることになるなんて。
到着するとすぐメイドさんたちにお風呂に入れられ、ピカピカに磨かれた。
「あの…アゼルさん?」
3人のメイドの中で一番歳上で仕事ができそうな彼女は、ニコリともしない。
「どうかなさいましたか?」
「このドレスの中で、一番国王陛下に失礼に当たらない物はどれでしょうか?色とか形とか、もし流行りとかがあれば教えていただけませんか?」
すると今まで表情のまったく変わらなかった彼女の顔が少し緩んだ気がした。
「流行り…でございますか?」
「はい、私は王族や貴族の方の作法を知りません。どうか力をお貸しください。」
頭を下げると残りの二人のメイドさんも驚いたような声を出した。
「頭を上げてください。我々にできることなら何なりとお手伝いいたします。」
「ありがとうございます!」
アゼルさんによると、派手な色の物は夜会用なので今の状況には合わないそうだ。薄いピンクや黄色、ペールブルーなど春の季節に合う色を勧めてもらった。
「マリア様の黒髪には黄色がよろしいと思います。」
メイドさんたちのアドバイスもあって、可愛らしい黄色のドレスに決まった。そこから私はただ座っていただけ、皆さんの力でヘアメイクされあっという間に仕上がった。
「私じゃないみたいですね……。」
鏡に写っているのは、別人のような私だった。髪をゆるく結い上げ、メイクのおかげで寝不足の隈も消えている。
「本当にありがとうございます。」
再度頭を下げると、アゼルさんが初めて微笑んでくれた。
「参りましょう、陛下がお待ちです。」
簡単なお辞儀の作法やしきたりを教えてもらうとすぐに謁見室に向かう。
とりあえず、早く理由を教えてほしい。私がここに呼ばれた理由を。
長い長い廊下の突き当たりに見るからに豪華な両開きの扉があった。扉の脇には騎士が二人控えている。
「ご心配には及びません。国王陛下は貴女に会うのを楽しみにしていらっしゃいます。」
そう言い残しアゼルさんたちは立ち去っていった。
だから何でなの?国王陛下が私に会いたい理由なんて1つも思い浮かびませんけど…?
「マリア様がご到着されました。」
声と共に音もなく扉が開く。ずっと思っていましたけど、様って呼ぶのやめていただけないですか。
しずしずと部屋に入るとそこは美しいステンドグラスのはめ込まれた大きな窓のある豪華な部屋だった。真正面にあるのは玉座だろうか、そこに一人の男性が座っている。
「城下より参りましたマリアと申します。」
ドレスの裾を持ち上げ恭しくお辞儀をするとそのまま目の前に座る人の言葉を待った。
「よくぞここまで来てくださいました。急な呼び出しで申し訳ない。顔を上げて、堅苦しいのはやめましょう。」
ゆっくりと顔をあげる。
「マリアさんとお呼びしていいかな?」
「は、はいっ……。」
国王陛下は思っていたよりずっとずっと若かった。女将によれば陛下は今年50歳のはず。綺麗な金髪を後ろに撫で付け、透き通る青空のような瞳。整った顔が優しく微笑んでいる。どう見ても30代にしかみえない。
「聞いていたよりずっと可愛らしい方で驚いた。噂は当てにならないね。」
また噂だ…。私って一体なんだと思われてるんだろう。
「どうしてここに呼ばれたか分からないでしょう?」
「はい…まったく分かりません。」
国王陛下はなぜか楽しそうに笑っている。
「マリアさんはこの国の女性たちの習わしについてどう思いますか?」
「えっ…?」
「女性は淑やかであれ。たとえ愛する相手であっても乱れることなかれ。というアレですよ。」
まさか私の接客が何か法に触れた!?処罰されたりするの?
「あの習わしの由来をご存知ですか?」
「…由来ですか?」
「ご存知ないのも無理はありません。国民のほとんどが知らないのですから。」
一体なんの話が始まるんだろう?
「うわぁ……!」
ふわふわした赤い絨毯と豪華なシャンデリア。どこまでも続く廊下には大きな絵画や美術品が並んでいる。
通された部屋には色とりどりのドレスがところ狭しと並んでいた。
「この中から御召しになるドレスをお選びください。着替えは我々がお手伝いいたします。」
私ひとりのためにメイドさんが3人も付いている。一体どうしてこんなことになったんだろう。
娼館の前で私を待っていたのは、国王陛下の紋章がついた二頭立ての豪華な馬車。部屋にあった一番まともな服を着てきたけど、すでに場違いだ。
「あっ、あの…本当に私を迎えに来たんですか?」
「わたくしは国王陛下の命により、マリア様をお迎えに参りました。詳しくは陛下が直接お話されるそうです。」
御者の言葉に、後ろに控えていた女将が息を飲む。
「マリアあんた何したんだい?国王陛下に直接お会いできるなんて、貴族じゃない限り一生無理だよ!」
「えぇ!…そんなこと言われても…。」
まったく身に覚えがない。しかし、女将の言う通り黒髪黒目のマリアなんてこの国に多分私だけだ。
「さぁ参りましょう。」
しぶしぶ馬車に乗り込み、私はこの都市の中心に向かうことになった。
* * *
オリトの町の中心にそびえ立つ大きなお城。町の何処からでも眺められるこの城は、国の象徴であり国王の権威の証。まさか私がこんなところに来ることになるなんて。
到着するとすぐメイドさんたちにお風呂に入れられ、ピカピカに磨かれた。
「あの…アゼルさん?」
3人のメイドの中で一番歳上で仕事ができそうな彼女は、ニコリともしない。
「どうかなさいましたか?」
「このドレスの中で、一番国王陛下に失礼に当たらない物はどれでしょうか?色とか形とか、もし流行りとかがあれば教えていただけませんか?」
すると今まで表情のまったく変わらなかった彼女の顔が少し緩んだ気がした。
「流行り…でございますか?」
「はい、私は王族や貴族の方の作法を知りません。どうか力をお貸しください。」
頭を下げると残りの二人のメイドさんも驚いたような声を出した。
「頭を上げてください。我々にできることなら何なりとお手伝いいたします。」
「ありがとうございます!」
アゼルさんによると、派手な色の物は夜会用なので今の状況には合わないそうだ。薄いピンクや黄色、ペールブルーなど春の季節に合う色を勧めてもらった。
「マリア様の黒髪には黄色がよろしいと思います。」
メイドさんたちのアドバイスもあって、可愛らしい黄色のドレスに決まった。そこから私はただ座っていただけ、皆さんの力でヘアメイクされあっという間に仕上がった。
「私じゃないみたいですね……。」
鏡に写っているのは、別人のような私だった。髪をゆるく結い上げ、メイクのおかげで寝不足の隈も消えている。
「本当にありがとうございます。」
再度頭を下げると、アゼルさんが初めて微笑んでくれた。
「参りましょう、陛下がお待ちです。」
簡単なお辞儀の作法やしきたりを教えてもらうとすぐに謁見室に向かう。
とりあえず、早く理由を教えてほしい。私がここに呼ばれた理由を。
長い長い廊下の突き当たりに見るからに豪華な両開きの扉があった。扉の脇には騎士が二人控えている。
「ご心配には及びません。国王陛下は貴女に会うのを楽しみにしていらっしゃいます。」
そう言い残しアゼルさんたちは立ち去っていった。
だから何でなの?国王陛下が私に会いたい理由なんて1つも思い浮かびませんけど…?
「マリア様がご到着されました。」
声と共に音もなく扉が開く。ずっと思っていましたけど、様って呼ぶのやめていただけないですか。
しずしずと部屋に入るとそこは美しいステンドグラスのはめ込まれた大きな窓のある豪華な部屋だった。真正面にあるのは玉座だろうか、そこに一人の男性が座っている。
「城下より参りましたマリアと申します。」
ドレスの裾を持ち上げ恭しくお辞儀をするとそのまま目の前に座る人の言葉を待った。
「よくぞここまで来てくださいました。急な呼び出しで申し訳ない。顔を上げて、堅苦しいのはやめましょう。」
ゆっくりと顔をあげる。
「マリアさんとお呼びしていいかな?」
「は、はいっ……。」
国王陛下は思っていたよりずっとずっと若かった。女将によれば陛下は今年50歳のはず。綺麗な金髪を後ろに撫で付け、透き通る青空のような瞳。整った顔が優しく微笑んでいる。どう見ても30代にしかみえない。
「聞いていたよりずっと可愛らしい方で驚いた。噂は当てにならないね。」
また噂だ…。私って一体なんだと思われてるんだろう。
「どうしてここに呼ばれたか分からないでしょう?」
「はい…まったく分かりません。」
国王陛下はなぜか楽しそうに笑っている。
「マリアさんはこの国の女性たちの習わしについてどう思いますか?」
「えっ…?」
「女性は淑やかであれ。たとえ愛する相手であっても乱れることなかれ。というアレですよ。」
まさか私の接客が何か法に触れた!?処罰されたりするの?
「あの習わしの由来をご存知ですか?」
「…由来ですか?」
「ご存知ないのも無理はありません。国民のほとんどが知らないのですから。」
一体なんの話が始まるんだろう?
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