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第二章 ツル

08.望む黒茶の羽 ※

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 口を舐められることがあまりに気持ち良く幸せで、もっともっとと求めていたのに突然クレインは行為を中断してしまう。


「え……なんで、やです」


 離れて行こうとする目の前の真っ白な人にすがりついて、また唇を重ねる。

 それなのに、肩を柔らかく押し返されてしまった。
 せっかく身体が治って痛みなく動けるようになって、久しぶりにクレインと顔を合わせる事ができたのに。
 発情期に直結するような激情をなんとか鎮めて、散々扉越しに会話をして、お互いへの気持ちを確かめられたのだと思っていた。
 だからこそ臆する事なくクレインのベッドへと潜り込めた。クレインだって、ピィの口を舐めながら美味しいなんて言っていたのに。

 もっとたくさん触ったり触られたりしたいのに、止められてしまったのだからそれ以上には進めない。身体の奥底でクレインに出会ってから燻り続けていたものが、今すぐにでも燃えあがりたいとざわざわしているのに。

 真っ赤な瞳を見つめながら、同じくらい真っ赤な唇を再び指でなぞる。


「どうして……? 何か、気に触る事をしてしまいましたか。私は、……正直こう言う行為がよくわからないので……間違った事をしたのなら教えてください。クレイン、あなたに、触らせて、それから私も」


 そう告げられたクレインはなんだか苦しそうな表情だ。


「俺も、触りたかったけど。
 触りたいと思うだけで勃っちゃって……俺はまぁいいんだけど、ピィ、お前も。俺が下手に刺激したら勃起しないか? お前、……股間になんかついてるから……それ、勃ったら痛いだろ」
「……え、私の身体のことで、触るのやめたんですか……?」
「そりゃやめるだろ。相手に痛い思いをさせて俺だけ気持ち良くて、それ、……俺もお前も満たされないだろ」


 ピィは本当に長いこと生きてきたけど、そんな、身体を気遣うような事を言われたこともなければ、実際に痛みを感じる前に「痛い」なんて理由で触る事をやめられた事は無かった。
 だから、泣きたいような、でも笑いたいような、不思議な気持ちで目の前のクレインを見つめた。

 ああ、やっぱり、この人だ。
 知らないまま生きてきて、知らないまま死んでいく所だった。
 知らないまま死んでしまわなくて良かった。

 涙目になりながらも微笑んで、唇をそっと押し付けた。クレインから離される前に自分で一度離れる。


「話してなかったですけど、私、元々勃たないので、こんな金具ついていてもついていなくても、あまり関係ないんです。
 勃ったら痛いのでしょうが、勃たなければ多少音が気になる飾りみたいなもので……。
 精液を出さないようにとつけられましたが、そもそもこんなもの付けられる前から勃起する事もなければ、精液が出る事もありませんでした。
 だから、大丈夫なんです、……クレイン、……触って……?」


 これで、懸念は無いはずだ。
 他に交わる為の懸念なんて、クレインには無いはずだ。
 これから起こる事で、もしかしたらクレインにとっては予想もしない事が起こるかもしれないが、それはまだ話さなくても問題はないはずだし、ピィ自身、話すよりも触って触られたい。
 じっと見つめ続ける事しばし、クレインがピィの顔を撫でながら言った。


「俺多分、止まらなくなる。ずっと我慢しすぎて、ここ最近いつでも発情期が始まりそうなギリギリの所で過ごしてた。だから、……悪いけど、最後まで付き合えな」


 お願いのような命令のような宣言を行うと、クレインは覆いかぶさるようにピィに乗り上げてきた。
 真っ赤な瞳がピィを見下ろす。ピィはそれをうっとりと見つめながら「はい、私にも付き合ってください」と言いながらその首に腕を回す。
 自身の背中に潰された羽が広がる。それで包み込むように、ピィはクレインの身体を引き寄せた。

 先程よりももっと激しく唇を合わせた。ぴちゃりと唾液を交換するような音が耳に響き、その音すらピィを煽る。

 塞がれた口の奥から快楽を伝える声にならない声を上げ続けた。

 クレインの指が、柔らかくピィの耳を弄り首筋から胸へと下りていく。
 乳暈ごと勃起しているような乳首の、その横すれすれを通った指が、くるりとまわってなかなかを触ってくれないからピィは思わず唇を外して「触って」と口にしてしまう。


「どこを?」


 クレインは少し意地の悪い顔でピィを見つめる。


「クレイン、意地悪……」
「意地悪じゃねぇよ、聞いてるの、どこを触ればいいの? ……教えて」
「んんん、」


 決定的な所には触らずに、ゆるりゆるりと乳首の周りを動くクレインの長い指。

 その全てに興奮しすぎて、今にも頭の中がどうにかなりそうだ。だけど、目を見れば本当に意地悪をしているわけではないという事はわかる。
 だってクレインの目からはピィをかわいがっている感情しか読み取れない。かわいいかわいいと思っている感情が溢れているように思えたから、ピィは素直に答えた。


「……乳首、ちゃんと、触ってください」
「ん……」


 今度は焦らすこともなく、きゅっとそのものを優しく抓まれた。顎をそらしてその快感を素直に受け入れたら、喉の奥から、ああ、と声が出た。


「触ってほしいところ、きちんと言えてかわいいな、ピィ」


 優しく刺激をしながらもクレインが小さな声で話し続ける。


「俺、こういうことちゃんとするの初めてだから……どこをどうしてほしいかちゃんと教えてくれたほうが助かる」
「んっ、あ、……はい、わかりました……っ」


 クレインが本当に初めてかどうかなんて、ピィにはわからない。だけど、見た目だけでは年齢のわからないこの国の住人だ。様々な事柄の経験値なんて、クレインのように羽が大きく、国内では恵まれた種であってもどこまで経験しているかはわからない。
 とは言え、国が決めた流れに乗っていさえすれば数少ない女性と番うことも夢ではなかったはずのクレインは、流れには乗らずに決められた職に就かず、一人で好きな事をしながら無人島に暮らしているような男だ。
 だから、もしも本当にクレインのその手に触れるのが、ピィが初めてであるなら嬉しいし、後にも先にも、出来ることならピィだけにしてほしい。

 ……そんなことを望んだら、クレインを苦しめるだけだとわかっているのに。

 わかっていても、止まらない感情がピィに声を上げさせる。


「クレイン、きもちい、きもちいいですっ……だから、だからこの手、これ……」


 思わず、クレインのその手を掴んだ。自身の乳首を撫でていた白く細長い綺麗な指を口の中に入れて、舌を絡ませる。


「これ、……この手で、他の人、触らないでお願いです」


 舐めながら乞う。
 その様子をじっと見ていたクレインは、ピィの舌を指の腹で撫でるようにしながら答える。


「いいよ、わかった……お前も、もう、俺以外に触らせないで。俺以外を触らないで。約束できる?」
「できる、できます、んんんっ!」


 約束したと同時に乳首の先をかり、とひっかかれたピィは、気持ち良さに震える。
 震えながら、今すぐに入れて欲しい気持ちが止まらない。胸の尖りをほんの少し弄られただけでこんなに気持ちが良いのに、クレインのものを自分の中に入れてもらったらどれだけ気持ちがよくなれるだろう。

 お互い以外をこの先触らないなんて約束をした事もよくなかった。凄く嬉しすぎて、いけない。死ぬまで守らないといけないし、絶対に守りたい約束事ができてしまった。そんな宝物みたいな約束をしてしまったから、頭の中がクレインが好き、の気持ちがぐるぐると渦巻いてどうにかなってしまいそうだ。

 ピィだけのクレインで、クレインだけのピィだ。
 本当に、どうにかなってしまう前に、発情期の性欲に自分が飲み込まれる前に、クレインのものを自分の中に入れてほしい。入る瞬間をちゃんと覚えていたい。

 口腔内の指をそっと外してクレインの首に両腕を巻き付けた。耳元で「起こしてください」と囁く。クレインは少し困ったような顔をしながら「悪い、羽痛かったか?」と言ってすぐに起こしてくれた。仰向けに寝たぐらいで痛いはずはないけれど、気遣われたことが嬉しくて、ピィは微笑む。


「発情期に飲み込まれる前の……今のうちに、……入れてほしいんです、これ……」


 これ、と言いながらクレインの陰茎に手を這わせた。クレインの陰茎は、ちゃんと硬く勃ち上がっている。ピィには経験できない感覚だ。だけど、クレインが自分の身体で気持ちよくなってくれたとしたら、自分ももっともっと気持ちよくなれるだろうと思う。
 だから早く、これで気持ちよくしてほしい。そう思いながらクレインの陰茎の先をゆるゆると撫でる。先端の小さな切れ目から、先走った体液が漏れていることが何より嬉しい。


「……良いけど、……もう……? もっと触らせて」
「……いやです、入れてください……入れたら、好きなだけ触ればいいでしょう……?」


 ピィが触って強請っていると言うのに我慢強い事をいうクレインを押し倒すようにして、そのままクレインの腰に顔を埋めた。
 口を大きく開いて、硬くなっている陰茎に唾液を塗りつけるように口腔内に引き入れる。上の方から、んん、とクレインの気持ちよさそうな声がした。もっとその声を聞いていたいし、硬い陰茎を味わっていたいけれど、今はとにかく、早く入れたい。

 ピィはクレインの陰茎を十分に濡らすと、その腰を跨ぐように乗り上げた。自分の後孔内には香油を入れておいたのだから、先が入っていけば、後は楽に入るはずだ。香油なんて入れなくても多分大丈夫なはずなのだけど、念の為。

 後孔にその先端を合わせるように手で調整する。

 調整しながらクレインの顔を見つめると、普段真っ白な顔がわずかに紅潮しているのがわかる。真っ赤な瞳も少しだけ潤んでいる。きっと、ピィも同じだ。だって今、すごく興奮している。入ってくる想像だけで、胸は高鳴るし、乳首は硬く尖る。ああ、入れてもらったら、ここの尖ったところを自分で弄ってもいいかもしれない。それとも、クレインは入れながらも舐めたり触ったりしてくれるだろうか。
 期待が高まる。

 合わせて、ほんの少しだけ、腰を沈めた。一番太いところまでは入れない、ただ先端をほんの少し沈めてみた。
 たったそれだけの行為で、腰からゾワゾワと何かが上がっていく。

 もう少し、と、ピィは更に腰を落とした。


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