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ウィレナーズ×ズィーロ編
13.この先の未来に想いを馳せる人【完】
しおりを挟む何度も射精して、最後は出さずに気持ち良さの絶頂を迎えぐずぐずと全てが溶けたようになりながらも、それでもそれまで以上の快感に飲み込まれてそのまま意識が遠くなる。
このままではまたおしりを洗われてしまう、いやだ、それは自分で、と呟きながらウィレナーズの腕に抱え上げられた事までは覚えているが。
ふ、と意識が浮上し辺りを見回すと、ウィレナーズの部屋に寝かされており……部屋の主人のウィレナーズは、いなかった。
どこに行っちゃったんだよ酷いよな、やり終わった相手を一人置いていなくなるなんて、と先に意識を失った自分の事は棚に上げて文句を言いながらもベッドを降りてウィレナーズを探す。
どこにも人の気配がしないな、と思いながらもズィーロが使っていた部屋を覗いてみたがウィレナーズ本人はおろか、先程まで散々に乱れて居たはずのベッド上の痕跡すら綺麗さっぱりなくなっているので、ズィーロは少し混乱した。
絡み合って、やってたよな?
さっきまで……多分、さっきまで、ここで。そう時間は経っていないと思っていたけど実は結構な時間が、経って、いたり……? まさか夢でしたー! なんて事が?
「なにをしている?」
「ひゃっ!?」
飛び上がり驚いて振り返ると、部屋の扉からウィレナーズが覗いていた。
「うおぉびっくりした! ウィル、気配消して近づくの禁止! それ、隠密師団仕込み? 隠密師団やっばいな、全然気づかなかったわ!」
「ズィーロ」
「……はい?」
二人でいるのにズィーロ呼びとは。そして、こちらをじっと見つめるその様は。
「えっと、何か? 俺に言いたいことある感じ?」
「ここで、なにをしている?」
そう言えば、なにをしている、と聞かれていたなとズィーロはようやく思い出す。
「なにも。目が覚めたら、ウィレナーズがいなかったから、探してた」
「そうか」
納得したらしいウィレナーズに手を取られ、先程目覚めた部屋へと戻された。
そうして、抱え込まれるようにして一緒にベッドに転がる。ズィーロの身体を洗うついでに自分も洗ったのか、こんなに近くにいるのにウィレナーズからは石鹸の匂いしかしない。少し残念に思う。ウィレナーズの匂いが好きなのに。
「オスカー殿下がお戻りになってな」
「……へぇ……」
その一言を聞いた瞬間、一気に様々な事が頭の中に渦巻いて反応が遅れた。
ユージィン、オスカー殿下が無事にお帰りになって本当に良かったな、明らかに無理をして歩けるように頑張っていたもんな。怒られてたけど。てか、オスカー殿下がお戻りになったのなら俺ってば益々もってここにいる意味がなくなっちゃったな。オルシュレイガー殿下と話して、そう遠くないうちに出ていかないととは思っていたけど、まさかこんなに早くオスカー殿下戻ってくるとか予想もしていなかったし、一体どうやって帰ってきたんだ、あのお方は……? いやそんな殿下がどんな手段で戻ってきたかなんて正直自分にとってはどうでもよくて、ここを……、出ていく。
そうか、と思った。
ウィレナーズとの付き合いは長い。
知り合ってからの年月で言うなら、ズィーロが生まれたときにはウィレナーズは既にそこにいたのだから、二十九年近くになる。それから、無理矢理のように恋人として付き合ってもらい始めてからは、十年を超える。
だけど、本当の意味で近くに置いてくれるようになったのは、ここ数日の事だ。楽しかったし、幸せだった。だから、なんだか夢を見ているようだった。夢は覚めるから夢だ。
別に一緒に暮らさなくたって、今までのようにウィレナーズがズィーロを冷たくあしらうような真似はしないだろう。
ちゃんと近くに置いてくれるはずだ。それの何が不満なんだ。
頭の中のズィーロが勝手に話を進めていく。別に不満なんてない、と思おうとした時、ウィレナーズが話し出した。
「様子を見に一旦宮に戻ろうと思ったら、ちょうどユージィンに会って」
「偶然だな」
「……来るような気がしていたから様子を見に棟を出たんだが」
「へぇ、……さすが専属執事……いや、さすが兄……? ユージィンはなんで呼びにきたの?」
「殿下が風呂場で寝入ったと」
「あ、そう……まあ、ユージィンじゃ……あの方を運ぶのは無理だろな……てか、俺だって無理かも……そこまで力自慢じゃないし……」
そんな事を呟きながら頭の中でどうやったら自分一人であの身体の大きな殿下を運べるのかと考えていたら。
「……それよりも、……ロディオ、頼みがある」
「……なに……?」
「今後、寝るときはここで」
「……ん?」
「何度も最初に貸した部屋へと戻っていくな。はっきりと言っておくが、あの部屋はロディオの部屋じゃない」
「……あ、……ごめん、なんか、あの部屋まだ借りてるつもりで……ちゃんと、荷物引き払って片付ける……」
ぐ、とズィーロを抱きしめているウィレナーズの両腕に力が入るのがわかった。条件反射のように、ズィーロも腕に力を入れる。
いや、条件反射なんてものじゃない。そもそも反射で返せるようになるほど抱きしめられた回数は多くない。ただ、目の前の大好きなウィレナーズにすがりつきたいだけだ。
この棟で勝手をするなと怒られたのかと思い、ほんの少しだけ落ち込みかけたが。
「片付けは別にどうでもいいが……この部屋に、いればいいだろう。
ここで寝て、ここで起きて、師団の仕事が終わったらこの部屋に戻ればいい。広さは充分にあるし、もともと専属執事の家族も暮らせるようにこの部屋があるんだ。
ロディオも、……ここで暮らせ」
「……は?」
「……聞こえなかったか?」
聞こえなかったわけではないが、これはもしや、一緒にここで暮らそうと言われているのか。最近耳に幸せな言葉ばかりが届くから、本当にこの耳が正しく機能しているのか定かではないし、別の言葉を自分に都合の良いように勝手に変換していたとしても驚かない。
「……多分、聞こえなかった……」
「もう一度言うが……ロディオも、ここで暮らせ」
「やっぱりここで暮らせって言ってる!!??」
「……もう一度言えというおねだりか?」
いや、おねだりとかじゃなくて聞こえる事と理解する事は別でありそこが上手につながらないだけであり、……とぶつぶつと文句を言っていると苦笑いのウィレナーズに顔を覗き込まれた。
「了承以外は聞かないが、念の為答えを」
「……ウィル、すごい事言うな……本当に俺の事、好きなんだね。まだ信じられない」
「最初から信じなくてもいい、そのうち信じる」
「ん、でもあしらわれ期間が長過ぎて……慣れない……」
「慣れる必要もない。ずっとそうやってうろたえててくれ」
「いじわる……」
多分、いじわると言われるのが好きらしいウィレナーズが、それを聞いて柔らかく笑った。いじわるって言われて喜ぶってどういうことだよ、とズィーロは思う。
「……聞きたいんだけど、婚姻は? ここに住むなら、結ばなきゃじゃない?」
「理由は? ここに住む事と婚姻は同義ではないだろう」
「俺の、身元とかさ……? 専属執事以外で宮の執事棟に住めるのは婚姻を結んだ家族だけとか、そう言う決まりない……?」
「決まりはあるが……ユージィンの家族として婚礼にまで出ておいて身元の問題って何だ?」
「そっか、……そうだね」
「言ったはずだ、時間は死ぬまであるから存分に考えろと」
じわりじわりと、顔が赤くなってくるのがわかる。
このままここでウィレナーズと一緒に暮らし続けて構わないのかと思ったら、すごく嬉しくなってしまった。
「あの、ウィル、俺」
ウィレナーズの腕の中でその顔を見上げる。
白金色のまつ毛の中、薄い茶色に白を混ぜたような瞳がこちらを見ていた。
目を見ただけでは、その冷たそうな容貌と相まって全く感情の読めないウィレナーズだ。
言葉も足りない。こちらが聞いたことに最低限の返事をするばかりだった。
でも、ズィーロの想いに応えてくれた。
ズィーロが好きだと、死ぬまで一緒だと、初めて約束してくれた。だから、感情が読めなくても構わない。
わからない事は聞けば答えてくれるし、この先今までのように自分への好意をまるで無い物のように振る舞うとも思えない。
「ここに、いたい。ここじゃなくても、ウィルと一緒にいたい。
婚姻は考えた事がなくて全然想像もできないんだけど、……一緒にいながら、考えたい。それで、死ぬ前には答えを出すよ」
死ぬまでウィレナーズと一緒に婚姻や誓いについて考えていられるなら、それはそれできっと幸せだ。
そう思って、彼の色素の薄い瞳を見つめた。
「ああ、構わない」
低いけどよく響くような声でウィレナーズが答えた。
この先の幸せな未来を思って、ズィーロはその顎に唇を寄せて、そして笑った。
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