金色に輝く気流師は、第五王子に溺愛される 〜すきなひとがほしいひと〜

朝子

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ウィレナーズ×ズィーロ編

10.恋人をかわいがりたい人

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 ズィーロに告げた言葉は全部が本当だったわけではない。

 自分の為に傷ついているズィーロに対して、率先して喜びはしないが、心の奥底では喜んでいる。
 とは言え、傷つけたいわけではないと言うのも間違いなく本音なのだから、我ながら何がしたいんだと思ってしまう。

 答えは単純だ。
 かわいがりたい。近くに置いて、一生かわいがり続けたい。それだけだ。

 ズィーロ自身が死ぬまで一緒にいる事を了承したのだから、ウィレナーズにとって婚姻は正直どちらでもいい。祭場で祈ってもいいし、祈らずにいてもいい。
 本人に告げたように、ズィーロがどうしたいのかをズィーロが満足するまで、それこそ今際の際まで悩み続けていたって構わない。

 それはそれで良いな。

 ウィレナーズは思った。死ぬまで自分の事を考えて悩んで貰うのも悪くない。
 思いつきで婚姻を提案してみたが、我ながら良い事をした。
 周囲にはそうは見えないが、ウィレナーズは上機嫌でその日の予定を確認するために、まずは近侍の待機場へと向かった。

 途中、オズタリクアの宮の方から歩いてくるズィーロを見つけた。オスカーの宮以外は行ったことがないせいか、幾分緊張感のある至極真面目な表情で姿勢良くまっすぐに歩いている。
 ウィレナーズを見つけると、嬉しそうに笑いながら走ってきた。


「多分治ってるって!」
「多分……?」


 多分とはどう言う意味だ。曖昧すぎる。治っていない可能性もあるというのか? 気流師にもわからない事があるのか? 眉間に力が入るウィレナーズに反し、ズィーロはにこにこと続ける。


「シェルフェスト殿下の視た限りは大丈夫らしい」
「らしい?」
「ん。なんか、ユージィンの気流を視る力が増したんだって。でも、どの力がどのくらい増したのかはシェルフェスト殿下にもわからないらしくて、だから、シェルフェスト殿下的には大丈夫だけどユージィン的にはどうかな? って言ってた」
「ああ、どうりで」
「どうりで?」
「最近じーっと人を見た後、あの人は何歳って年齢当てをよくやってるな。
 ユージィンなのに年齢が当たるからどうした、とは思っていたが」


 他人にあまり興味が無いユージィンからすると他人の年齢当てなど最も関心が薄く苦手な分野のはずなのに、次々と当てて行くから何かあったのはわかっていたが気流を視る力が増していたのか。
 隠密師団に出入りするようになってから自分の力も増している。正しい教えと正しい訓練だけでもここまで変わるのだから、身体ごと作り変えられるような事実が起これば急激に力が増してもおかしくはないのだろう。


「それで、これからいくのか?」
「うん、どうせ俺には気流師がどう視えてるかなんて考えてもわかんないし、ユージィンさみしがってるかもだし。最近少しずつ歩くようにしてるんだろ? 一緒に歩いてくるよ。ってか……隠したかった理由って、……その……」


 ズィーロは、周囲を気にするとウィレナーズの袖を掴んで廊下にある大き目の植物の陰に誘う。そして、少しだけ言いづらそうにこちらをちらりと見上げてきた。


「怪我とか、身体の不調とか、隠したかったのって……ウィレナーズが嫌がるかと思ったんだ。
 ……お、俺たち、の、こと、ユージィンも多分気づいてないし、周りに言ったことなかったし。
 ユージィンに身体の事がばれたら、どうしたのって聞かれるだろ。聞かれたら理由答えなきゃだろ。隠さないとって思ってはいたけどユージィンに嘘付きたくないから、恋人とちょっともめてとか言っちゃって、恋人いたのか? 誰だ? なんて聞かれたら俺どうしていいかわからない、とか……そんなこと考えてたら、ユージィンの所には行けないって、思って」


 ズィーロは、少しだけ赤くなりながら続ける。


「でもさ、……ばれても、良いんだよな? もう、周りに、……いや、自分から言うつもりはないんだけど、自分がウィレナーズの事が原因で体がおかしくなったりしたらさ。……恋人に、いじわるされたって、言っても……。も、……恋人っていうの、なんか、嬉し恥ずかし照れる……」


 言い終えた頃には顔は真っ赤だ。上目でこちらを伺っていたのに、それすらやめて下を向いている。


「恋人に意地悪されて体調が悪いって言うのは、色々誤解を生みそうな発言だが……勿論構わない。……ロディオが、望むことを、望むようにしていい」


 頭を撫でた。昔からズィーロの頭を撫でるのが好きだ。髪の毛が柔らかくて綺麗な頭の丸さと相まって、触っているだけで気持ちがいい。
 ズィーロも目を細めて嬉しそうな顔でこちらを見上げてくるから、思わずそのまま手をずらして耳を撫でながら、反対側の耳元で囁いた。


「身体が治って良かったな。……今夜はたくさん意地悪させてくれ」
「な、ッん、」


 ズィーロは両耳を押さえて、ばっと後ずさる。勢いのまま倒れそうになり、ウィレナーズは咄嗟にその腰を支えた。


「落ち着け」
「む、むり」
「そうか」
「じ、冗談……?」
「冗談じゃない、……夜は、たくさん意地悪しような」
「ウィルッ、は、ずかし、から、! そういうこと、こういうとこで、言うなっ……」
「恥ずかしがらせてるからな」
「……もしかして、からかって、る?」
「……それもある」


 腰をささえたままで再度唇をズィーロの耳へと寄せ、耳たぶの柔らかい部分をほんの少しだけ、食んだ。途端、ズィーロは喉の奥からヒッと声を出してウィレナーズの腕の中から逃げ出した。


「……そ、そんな人をからかって意地悪ばっかりしてるやつはそのうち羽馬に蹴られるからな!」


 からかいすぎたのか、悪態をつきながらも顔を真っ赤にしたままズィーロはオスカーの宮の方へと走って行ってしまった。
 残念だ、せっかく人目につかない場所にいたのだから口付けの一つや二つさせて欲しかったが。


「あの様子では無理だな……」


 ウィレナーズも口元を緩ませながら動き出す。仕事の途中だ。

 しかし。
 ユージィンは本当に気づいていないのだろうか。わからない。
 今まで恋だ愛だの話はまともにしてこなかった兄弟だ。
 弟がオスカーと結婚するまでは割と派手に遊んでいた事は知ってはいたが、真面目な付き合いにも見えなかったしそれを咎めようと思ったことすらなかった。
 第一、ウィレナーズからユージィンの恋愛遍歴について問うた事はなかったが、ユージィンからもウィレナーズに対して、恋人との付き合いについて特に聞かれた事もないので、似た者兄弟とも言える。

 自分とズィーロの関係は……恋人とはほぼ名ばかりのような付き合い方ではあったが、少なくとも北方領主の館で働いていた者は皆ズィーロがどこの誰かは知らなくともウィレナーズの恋人と認識していたように思う。
 普通であれば、誰しもがそう思うだろう。
 定期的に羽馬を操り昼夜関係なく現れては領主の館に降り立つズィーロ。
 人懐っこい性分だ、誰かに会えば笑顔で挨拶をし、ウィレナーズの部屋へと入っていく。しばらく時を過ごし、また羽馬で帰っていく。恋人でないならよほど過保護な家族だ。
 ……。
 まあ、いいか。
 知っているなら知っているのだろうし、知らないなら知らないでそのうち気づくだろう。気づかないようなら何かの機会に話せばいいだけの話だ。

 とりあえず今は仕事をせねばならない。

 自分の主人であるオスカーは、現在南海国、東砂国、北山国へと訪問を終え、既に西浮国入りしたとも聞いている。あの王子の事だ。最短最速で仕事を終え、寝ずに帰還するぐらいのことはやるように思う。
 今日帰って来ることはないと思うが、それもわからないし帰ってきたとしてもウィレナーズは驚かない。
 とりあえず何があっても良いように自分は準備をしておかないといけないな、場合によってはしばらく隠密師団へも行けなくなるかもしれないからそちらにも今日のうちに顔を出して、……庭の奥に作った畑も様子を見に行かないといけない頃合いだ。庭師に連絡をするか……。

 ウィレナーズは頭の中で今日やらねばならぬ事を考えながら、今度こそ仕事をする為に近侍の待機所へと向かうために足を向けた。


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