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ウィレナーズ×ズィーロ編
09.恋人が甘くて浮かれる人
しおりを挟む快感が過ぎてイくと同時に気を失い、次に気がついてみたら、風呂場でお尻の中を洗われていたなんて。
それも、幼い頃から大好きで大好きで、幼少期の初恋からずっと今にいたるまでどう足掻いても叶わないと拗らせまくった恋愛感情を抱いていた相手に、初めて好きだと言ってもらえて初めて自発的に抱いてくれた後に、お尻の中を。性的な動きは皆無で。ただただ、洗うためだけのその動き……。介護……。
「お、俺のおしり……」
「ん? ……気がついたか?」
こちらの心の中の葛藤には全く頓着しない様子の想い人が、感情の伺いしれない表情で淡々と尻の穴に指を突っ込んでいる様が耐え難いほど恥ずかしい。
「お、俺のおしり!!! ウィレナーズ!! ひどいよ!!! 自分でやるって言ったのに、自分で、や「ズィーロ、うるさい」
すぐこれだ。
ウィレナーズは……彼の弟であり、自分の幼馴染でもあるユージィンも同様だが、すぐ、うるさい、と言って自分を黙らせようとする。が、うるさくさせているのは一体誰なのか、ちゃんと考えてからうるさいと言ってほしい。
「だ、って、おしり……自分でやりたぃ……」
湯船の中で、ウィレナーズの左腕の中に丸まるように抱えられている。彼の右手の行方は、自分の尻にある。ひどい。
ウィレナーズは普段どおりの無表情で、あまりに淡々と自分の尻の処理をしているのですべて夢だったのか? と一瞬混乱する。まさか、好きだと言われたことも、初めてウィレナーズから自分を率先して抱いてくれたことも、ぜんぶぜんぶ夢だったのか……?
「はずかしいから、自分でやりたかった……」
ぽつりと呟く。
「諦めろ。恥ずかしがるお前もかわいいだけだぞ」
途端、顔にすべての血が集まってきた。熱い。今の自分の顔はきっと真っ赤だ。
というか、夢じゃなかった。先程までかわいいかわいいと何度も言われながら行っていた、あれやこれやはすべて、夢じゃなくて現実だった。もしやこの先一生なにかにつけかわいいと言われるのか、まさかそんな、そんな事、この十年妄想ですらしたことなかったのに、……いや、だいたいにして、積極的なウィレナーズから抱かれるなんて妄想も、あまつさえ、そのウィレナーズが自分の後孔を舐め回すなんて妄想も、……あれ……? ……なめ、まわした、よな……? あれ、それは妄想? いやいや、そんな大それた事、大それが過ぎて妄想しようとも思えないよ、てことはやっぱり現実……。
「何を考えている……?」
満足いくまで洗えたらしいウィレナーズは、軽々とズィーロを抱えあげ、風呂場を出る。
ズィーロは、うわ、と言いながら思わずその首筋に腕を回したが……細身とは言え、自分は成人男性であり、体術師団所属なのだからそれなりに筋肉もついているはずなのに、片手で難なく抱えるとかどんだけ力自慢なの、この俺の恋人ってば……! えー! なになに、やだ……かっこよすぎない……? と、頭の中が忙しない。
「ロディオ? 何を、考えている……?」
頭の中だけでうるさくして全く答えを返さないズィーロにしびれを切らしたらしいウィレナーズが、再度聞いてくる。
「ん……ウィル、かっこいいね……かっこよすぎてすき……」
「そうか」
突然の告白に多少は照れてくれたり……? などと表情を伺ってはみたが、全く照れはないらしく淡々と受け止められてしまった。ズィーロの頭の中がこれだけ大騒ぎなのに、ウィレナーズの冷静さときたらどうしたことだ。
「ウィル、すごく……えっちだった……。えっちってか、すけべってか、いやらしいってか、ねちっこかった……俺、どうにかなるかと思ったからね!」
「そうか。……もうやめとくか? 俺はいいぞ、身体の関係がなくても、俺のものとしてそこに居てくれるならそれで」
「え! やだやだ! やめない、やる、やります、気持ちよかったどうしていいかわからないぐらい気持ちよかったのでまたいつでもやりたいです!」
「そうか」
だめだ。多分ズィーロは何を言っても勝てない。そもそもウィレナーズを負かそうなどと思っていないのだし、勝ち負けの問題でもないので勝ったところで意味もない。
先程まであれやこれやを行っていたベッドへ戻されるのかと思ったのだが、ウィレナーズはそのまま廊下に出て自分の部屋へ向かう。別にいいけど、2人とも全裸だ。
「あっちのシーツ類は明日洗っておくから」
そう言って、ウィレナーズが普段使っている部屋のベッドへと降ろされる。寝っ転がりながら抱きしめられた。どういうことだ。まさかこのまま一緒に寝ようとでも言うのか。そんな夢のような事が現実に起こるのか。そうだ、起こってる。
下手に確認して、別の部屋を用意するなどと言われたら困るので、ズィーロは確認することはしない。姑息だが姑息で構わない。このまま、普段ウィレナーズが使っているベッドで、当のウィレナーズに抱きしめられながら、大好きなウィレナーズのにおいに包まれて眠ってしまいたい。最高に幸せだ。
「それはそうと、ロディオ」
「ん……?」
「改めて恋人としてこの先もやっていくなら、隠し事はしない、嘘はつかないと、約束してくれ」
「ん、わかった、約束する」
ウィレナーズと、恋人としての約束事だなんて、胸の奥がむずむずするほど嬉しい。にやにや緩む口元を締める事ができずにいたのに。
「……では聞くが。
その怪我の理由は? それと、この一週間程で異常に痩せた理由は? まさかとは思うがどこかに監禁されていたわけじゃないよな?」
にやにやしていた顔がぴしりと固まるような声が降ってきた。
かんきん? って、監禁? ユージィンがされたやつのこと? って、あれ? これ、たった今約束しちゃったから、嘘隠し事なく全部答えないと駄目なやつ……?
そろりそろりと視線をあげてみると、自分をその腕に囲いながらも表情に乏しい顔でウィレナーズがじっとこちらを見ている。ちゃんと答えない限り、彼はこちらを見続けるのだろう。
これ、はぐらかしたりできないやつだ。
ズィーロはすべてを諦めて、別れを告げられた日からの顛末を話し始めた。
最初はそんな事を本人に言うのは恥ずかしすぎて憤死する、とも思ったが、恥ずかしがってる自分もかわいいと言ってくれていたし、隠し事はしないとたった今約束したのだ。
それに……。
これから先死ぬ時まで一緒に、と言ってくれたウィレナーズなら、痩せた理由も、怪我の理由も、全部喜んで受け入れてくれる気がした。
◇◇◇
結論から言えば、ズィーロが想像した以上にウィレナーズは気を使って世話をしてくれるようになったし、もしかして喜んで受け入れてくれるかもと思ったのはズィーロの思い違いで、すべてを受け入れてはくれたが、別に率先してお前が傷つくことに喜びを感じるわけじゃないと言われてしまった。
ズィーロは人の心の機微には聡いはずなのに、ことウィレナーズの心の事となると難しい。
仮に、ウィレナーズがやった事が原因でズィーロが傷ついたとして、その事にウィレナーズ本人が喜びを感じたとしても、ズィーロとしては別に構わない。
これまで十年、自分に対してほとんど反応してもらえなかったのだ。
それに比べたらどんな事であれ、喜んでもらえるなら本望だと言うのに。
その上で、ズィーロはもう一つ思い違いをしてしまった事がある。
せっかく晴れて正真正銘好き同士で恋人同士です!!! という立場になれたのだから、もっとべたべたと絡みつきたいと思っていたのに、事情を話して、その上シェルフェストに怪我を視てもらったなんて話しをしてしまったら、怪我が完治するまで一切触らないと言われてしまった。
その日から三日、ズィーロは大好きなウィレナーズのベッドで、大好きなウィレナーズのにおいに包まれて、だけど一切本人には触ってはもらえずにただ寝ているだけの生殺しの時間を過ごすことになる。
でも、構わない。
恋人のベッドで休んで、その上、触ってくれないなんて生殺しだ! なんて、妄想ではなく本気で思える日が来たのだから、別に良い。今のところは喜んで生殺されておこう。
「ズィーロ、起きてるか」
そんな事を考えていたら、ウィレナーズが朝食を手に戻ってきた。ここ三日、毎日ウィレナーズの作った朝食を、ウィレナーズのベッドで、ウィレナーズの給仕で食べている。
贅沢極まりない。
「はい、起きてる、起きてます」
「朝食を持ってきたぞ。今日はこれからシェルフェスト殿下の所へ行くのだろう」
「うん、行ってくる」
「しっかり食べて元気に行ってこい」
「はーい」
ウィル母さんか。心の中だけで突っ込む。
「シェルフェスト殿下が視て、その上で治ったと言われたら、今夜は一緒に風呂に入ろう。この前みたいに、全部洗ってあげような」
そう言って、優しく頭を撫でられた。お母さんじゃなかった。いやらしい恋人だった。洗うのは自分でやる! と答えながらも、ズィーロはまたにやにやが止められない。
些細な事に浮かれてしまうのは仕方ない。だって、三十歳を目前にして、初めてまともな恋愛をしている。しかも、長年思い続けた相手とだ。
「ウィル、死ぬまで俺と一緒にいるんだよな?」
「ああ。せっかくだから祭場で祈って主宰者に婚姻を認めてもらうか?」
「……」
今なんて?
衝撃が強すぎて、とっさに答えることができず、瞬きをいくつか。
婚姻を認めてもらうとかなんとか言ったか? え? 本当にそう言った?
とっさにウィレナーズを見た。
表情からは特に何かを読み取ることはできないけど、聞き間違いでないのであれば、きっと彼は本気だ。だいたいウィレナーズは普段から冗談を言うような人間ではない。冗談や嘘を言うぐらいなら、無言を選ぶような男だ。
と、いうことは、本気だ。
「あの、えっと、……かんがえる」
ようやくのように、言葉を紡ぐ。
恋愛初心者が浮かれて、「ずっと一緒にいようね」的なかわいらしい話をしようとしただけだったのに、初心者では捌き切れない話が突如降ってきて頭がうまく回らない。
「ああ、時間は死ぬまであるからな、存分に考えろ」
ウィレナーズは、人の悪そうな笑みを浮かべて言った。
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