金色に輝く気流師は、第五王子に溺愛される 〜すきなひとがほしいひと〜

朝子

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ウィレナーズ×ズィーロ編

04.振った人

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 たった五日会わなかっただけで、信じられない程にズィーロは痩せていた。顔色も酷く悪く、ほんの少しだけ笑った顔も痛々しかった。

 あまり周りをうろついても迷惑だろうと、部屋まで案内してさっさと退散してきたがやつれた理由くらい聞いてくれば良かったのかもしれない。

 それにしても、一体何があった。
 誰かに何かされたのか。まるでどこぞに監禁でもされていたかのような衰え方だったが、まさか。……いくらなんでも思考が飛躍しすぎだ。
 相手はユージィンではなく、ズィーロだ。世間一般的な価値が高いと言われているユージィンならまだしも、一介の体術師であるズィーロが、今この国が平和なタイミングで監禁される意味がわからない。
 最後に自分が会って、もう会わないと言った時酷く傷ついた顔をしていたが、いくら何でもそれが原因であそこまで短期間でやつれることもないだろう。やはり誰かに監禁……いや、落ち着け。そんなわけあるか。
 監禁でないのだとすれば、身体を壊したかのような衰え方だった。では、何か病気にでもなったのか。今王都で流行っている病気は何かあったか……思い浮かばない、だとすると、彼に一体何が。

 ウィレナーズは苛々する自分を止めることができない。

 この苛々の原因は分かっている。
 半分はズィーロの身体に対する心配だ。
 そして、残り半分は、……例え病気が原因だったとしても自分以外が彼を傷つける事は許せない、ズィーロを傷つけても良いのは自分だけだと言う、心底おかしな独占欲だ。
 本当に、自分は、まったくもって、どうかしている。

 このおかしな独占欲を、真っ当に生きているズィーロにぶつけたくなくて離れたと言うのに、なぜか彼はウィレナーズの近くまで戻ってきてしまった。

 ズィーロは気づいていないだろうが、ウィレナーズは正直少し困っている。
 長い事、と言う純粋な関係ではなかった為、いざその関係に戻った時にどうして良いのか分からなくて自分自身手探り状態なのだ。ズィーロはどうかわからないが、少なくとも自分はそうだ。

 恋人とは名ばかりでこちらから何かを起こす事なんてしなかった癖に、どうして良いのかわからないなんてな、と自嘲してため息をついた。

 そこまで考えて、もしかしたら具合が悪そうなズィーロにとって、この状態はとても気を使う辛い状況なのかもしれない、と今更ながら気づいてしまった。

 傷をつけるなら自分が傷つけたい。とは思うが、具合の悪いズィーロを追い込みたいわけではない。
 執事棟はズィーロに貸して、ズィーロが執事棟にいる間自分は近衛師団の詰所にでも居る方が良いのかもしれない。
 あるいはユージィンの居る宮に移っても良い。あそこには、執事が業務にあたるための部屋もあり、泊まり込めるように簡易ベッドも置いてある。

 あの、自分にとっては酷く眩しく見えるズィーロディオの輝きをこれ以上心労で曇らせてはいけない。

 ウィレナーズは思う。あんなに真っ当に真っ直ぐに生きている人間を、他に知らない。

 オスカーがユージィンに対してぶつぶつと「俺の太陽」やら、「俺の月」やら、果ては「俺を見下ろす天の使い」などとしょっちゅう呟いているが、ウィレナーズから言わせれば、本当の太陽というのはズィーロのような人間を言うのだ。弟は弟でかわいいとは思うが、太陽ではない。
 ズィーロは人を気遣うことができて、いつも笑顔で、明るい。性根に曲がったところがなく、どんなときでも穿った見方をせずに素直に人の話しを聞く。それを太陽と呼ばずして誰を太陽と呼ぶのか。

「オスカー殿下は分かっていない……まぁ、人の見え方はそれぞれだからな」

 思わず独り言が出た。

 取りあえず、ズィーロがこの執事棟にいる間は彼の好きな食べ物をたくさん与えて痩せ細った身体をなんとかしないといけない。
 ここを明け渡したとしても食事は届けてやろう、とウィレナーズは翌朝の食事の仕込みに取り掛かった。


 そうして、朝だ。
 まだ幾分顔色が悪いように見えるが、ズィーロが起きてきた。食堂に並ぶ朝食を見て、目をぱちぱちとさせている。


「これ、ユージィンに届けるの?」
「いや、ユージィンには専属の料理人がいる」
「……じゃあ、だれかくるの?」
「こない」
「ウィレナーズ、……すっごくお腹すいてるの?」
「いや」
「……この、作ってくれた朝食って……」


 こちらをじーっと見上げながら、ズィーロが「俺?」と言う。頷いて見せると、困ったような顔をした。


「こんなに、食べきれないかも……お昼に持って行ってもいい? 師団で食べる」
「構わないが……これぐらい食べていただろう」
「……ん、……今日は、無理かも、ごめん」
「具合でも悪いのか?」


 何気なく問いかけたつもりが、こちらを見上げたズィーロの瞳が密かに揺れた。大丈夫ありがとう、と呟き、出した食事をまとめると「師団で食べるね、帰りにユージィンのとこ寄ってくる」と立ち上がる。

 ここで食事をするのも、彼にとっては嫌なのかもしれない。

 一度個人的な関係を拒絶したのだ。今だって、オルシュレイガー殿下の話がなければ、ズィーロはここに来ることはなかったはずだ。


「ズィーロ」


 部屋を出ようとしたズィーロに声をかける。
 少しだけ肩を震わせズィーロは振り返った。


「今日の夜は何かあるか」
「……いや、ない、けど……」
「わかった、ではまた夜に」


 顎を引くような動作で頷くと、ズィーロは何かを言いたそうな表情をしながらも結局何も言わずに出て行った。

 自虐ではなく事実として、自分と関わってもズィーロにとって良い事は特に無い。それもあってこの十年、ズィーロとあんな関係を築いておきながらも、その実深く関わるつもりは無かった。

 ズィーロに深入りしなかった理由なんて幾らでも出てくる。

 北方領主の館にいた時は遠く離れていた事もあり、ズィーロが飽きたら来なくなるだろうなんて頭のどこかでいつも思っていたが、結果距離がある分頻度は多くないにしても来なくなる事はないまま十年が過ぎた。

 それでも、付かず離れずの距離を保っていたつもりだった。王都にきた事で、その距離を保つ事も難しいかと思い離れてはみたが。

 ただ、困った事に距離を保っていたからこそ、今、ズィーロが普段何を考え、どのような思考のもとに行動するのかがよくわからない。だから、今回のこの執事棟への滞在をズィーロがどう感じているのか探りきれないし予測もできない。

 本当はこの十年、ズィーロをもっとよく見ておけば良かったのかもしれない。そうすれば今回の事も多少あたりをつける事もできたのだ。

 だけど、もっとよく見てしまっていたらきっと独占欲を隠せなかった。その異常なまでに強い独占欲は、早い段階でズィーロにもばれてしまったと思うし、ばれる事をウィレナーズは望んでいなかった。


 考え始めてはいけない。思考が囚われそうだ。


 ウィレナーズはため息をついて、立ち上がる。
 仕事だ。
 まずはユージィンのところへ行き、王室付き気流師に話を聞く。その後は隠密師団へ出向く。最後にまたユージィンの元に戻り、ユージィンが寝ると言ったら今日の仕事はおしまいだ。

 夜に執事棟に帰ってきた時にズィーロも戻っているようなら、話してみよう。

 宮に行くついでに執事室を数日ぐらいは泊まれるようにしておくか、などと考えながらウィレナーズは動き始めた。




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