金色に輝く気流師は、第五王子に溺愛される 〜すきなひとがほしいひと〜

朝子

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オスカー×ユージィン編

51.剣術師団長の穏やかな一日

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 オスカーにとっては久しぶりの朝議だ。

 自身が各国を周り帰還した時には既に南海国と東砂国、北山国の王族は中草国入りを果たしていた。
 オスカーが最後に訪れた西浮国は今日明日にも国入りし、全ての国の王族が揃うだろうとオズタリクアから報告があった。

 金龍と融合したアズバルドは現時点では朝議には出てきていないとの事だった。
 ユージィンですら完全に回復するのに一月かかっているのだ、まだ身体は無理が効かないのだろう、とオスカーは理解を示してみせたがどうやら理由はそれだけではなく、一人で朝議に出る事は銀龍が許さないらしい。
 銀龍は、アズバルドが行く場所には全てついていくと公言しているらしいが、問題は銀龍のあの周囲に対して発する絶対的な龍の気だ。あの覇気は近くにいる者全てに畏怖の気持ちを抱かせる。
 王族、気流師はまだ良いらしいが、そうでない者には近づくことすら耐え難いだろう。
 実際に連れて行った近衛師団の師団員たちがどうなったのかその目で見てきたオスカーには、よく理解できる。
 その為アズバルド自身が宮を出ることを遠慮しているようだったが各国王族の会談には出席するらしい。

 それから、既に中草国入りしている他国の王族の警護と言う名の見張りをしているオライリオが、南海国の王族は生粋の王族ではないであろう、と報告してきた。
 生粋の王族であれば、自分たちがそうであるように龍に対し純然な恐怖の中にも畏怖の念を見出し意思の疎通をはかることが可能であろうが、南海国の王族は恐怖以外何もなく銀龍の求めるがままに逆らうこともできず気流師を攫い続けたのではないかと推測していた。
 それも全ては各国の王族が揃い、会談が為されればはっきりするのだろう。

 その辺りで朝議は散会となった。

 そのまま剣術師団へ向かうオスカーに、オズタリクアが声をかけてくる。


「オスカー、お前に言わないといけない事があってね」
「なんだ?」
「ティックワーロの事、ちゃんと詫びる機会がなかなか無くて……すまなかったね。あんな事になってしまって……言うのが遅くなってしまったけど本当に申し訳ないと思っているよ。オスカーにも、ユージィンにも」
「ああ……いや、オズタリクアも災難だったな。専属執事がいなくなって困る事もあるだろう」
「そうだね……ただ、それよりも見直さないといけない事がたくさんあると気づいたから、そこはいいんだ。専属執事は追い追い探すさ。今は兄上達が王族に関わる臣下の身元を再度全て洗い出すと言って動いているよ」
「そうだな、どこに入り込んでいるかわからないしな」


 洗い出す、と一口に言ってもそう簡単にはいかないだろう。
 そもそもティックワーロ自身は中草国で生まれ育っているのだ。王族付きの専属執事だ、中草国の人間でなければなれるものではない。
 二十年仕えた兄を裏切ってまで、実行された今回の気流師狩だ。
 だいたいにして、オズタリクアが婚姻を結んだ相手がどこぞの国の姫であったなら、きっと彼は一生そのまま何食わぬ顔で専属執事として仕えてもいたはずだ。
 うまいことオズタリクアが気流師と婚姻を結んだ事でティックワーロは任務を遂行しなくてはいけなくなったのだろうが、南海国側に誤算があったとしたら、ティックワーロが拐わなければならなかったはずのシェルフェストを心底愛してしまった事だ。
 今回の件でティックワーロの両親と言われていた人たちはどこぞに消えたらしいが、彼ら、もしくは彼らの先祖は南海国の人間だったのだろう。


「それよりも私ね、私のシェルフェストのかわいさ美しさ愛らしさが心配でね。まさかティックワーロが私のシェルフェストに思いをよせていたなんて……道理で私よりシェルフェストの言うことをよく聞いていたわけだよ……私のシェルフェストは魅力的だから仕方ないけど心配だ……私の太陽……」


 いつもの惚気が始まったので、オスカーは師団に顔を出すと言ってさっさと退散した。
 あれに付き合うと長くなる上に、基本的に大事な情報は1つも無いことは経験上嫌という程知っている。

 剣術師団の執務室にたどり着いてみたら、既にディズィーグが待機していた。


「早いな」
「ええ、仕事は山積みですから。出来るところを見せておかないといつオライリオ殿下と副師団長の職を交代しろなどと理不尽な命令が飛んでくるかわかりませんし」
「そんな酷い命令をする上司がいるのか、貴様も大変だな」
「いえいえ、良い上司ですよ、そのうち褒賞を頂く約束もしていますしね」
「したか?」
「しました」
「……調子が良いな」
「ええ、おかげさまで体調は絶好調です」


 そう言う意味じゃ無い、と思ったが口には出さずにいた。
 ディズィーグの言うように、間違いなく仕事は山積みなのだ。


「ディズィーグ、報告を」
「は。お聞き及びかと存じますが、既に西浮国以外の王族は国入りしています。こちらはオライリオ殿下が指揮をとり近衛師団と隠密師団と共に警護兼見張りをしています。
 また先程魔術師団より報告が入り、西浮国の王族は明日遅く、もしくは明後日になりそうとの事でした。その為、各国の王族会談が行われるのは早くて明後日の朝からになるでしょう。
 各国の国境付近に派遣している師団員は現時点で下がらせていませんが、万が一国内にて我が師団が出て行かねばならぬ程の有事が起こった場合、人員に余裕がありません。その為城下内城下外を護る警備団に有事の際の動きについて連絡済みです。以上です」
「今のところ俺の出る幕はないな……」
「宮にお戻りになられても結構ですよ。ユージィン殿下と楽しくお過ごしください」
「いや……ディズィーグ、貴様、褒賞を欲しているのだったな」
「はぁ、まぁ……?」
「よし、剣術場で鍛錬だ。師団にいる団員達も呼んでこい」
「ええ……っ、そ、んな……」


 最近、忙しさにかまけて鍛錬を怠っていたように思う。良い機会だ、久しぶりに剣を振ろう。
 後ろから、やだーと情けない声が聞こえてきたがオスカーは良い気分で執務室を出た。

 戦場の死神が剣術場で鍛錬をしている、との話はすぐに剣術師団に広まった。多かれ少なかれ、オスカーに憧れて入団してきている団員ばかりだ。剣術場では稽古をつけて欲しい団員が列をなし、やだーなどと弱音を吐いていたディズィーグは、オスカーの背を護りながらも誰より楽しそうに剣を振るっている。

 だがそれも、ざわり、と空気が一変するまでの事だ。

 オスカーは数名相手に剣を振るっていたので、一瞬反応が遅れたが、剣術場の端からさざ波のように伝染してくるこの惚けた師団員の気は。
 思わず、と言ったように「ああ、……うわあ……」と呟くディズィーグの反応は。
 剣術場の入り口で涼やかに佇みこちらに手をあげてみせる、この世に2人といない、美しく輝いているあの人は。


「ユージィン!!!!」


 オスカーはユージィンに駆け寄る。


「俺のユージィンはいついかなる時にどんな場所で見ても美しいな、ただの剣術場がまるで至上の楽園のようじゃないか。今朝会ったばかりとは思えないこの新鮮な麗しさはどうだ、本当にどうしたことだ。ユージィン自身に周りを清浄にする機能でもついているかの」
「オスカー、口から出てますよ」


 タガが外れて全て言葉に出ていたらしい。別に構わない。
 むしろ少し恥ずかしがっているような表情が見られたので、ますます舞い上がってしまう。もっと見たいぐらいだ。


「気流師団から戻る時にオスカーが稽古をつけていると聞いたので思わず見学したくてきてしまったんですけど……すみません、邪魔してしまったようですね」
「邪魔なんて思うわけないだろう。どうだった、気流師団の方は」
「はい、ちゃんと挨拶してきました。ずっと気になっていたのでこれでようやく肩の荷が下りた気分です」
「そうか、それは良かったな……所でユージィン……わざわざ俺を、見にきたのか?」
「はい、……戦場では遠くからしか見たことがなくて。
 少しだけ見学させてもらっても?」
「俺を?」
「はい、あなたを」


 聞いたか。
 ユージィンが、俺のユージィンが、世界で一番かわいいユージィンが、この! 俺を! 見にきたぞ!


「閣下、ちゃんと聞いています。てか、口から思っている事が全部出ています。ユージィン殿下の事となると本当に途端にアレな感じになりますね」
「ゼイディオン剣術副師団長、ご無沙汰しております。先触れなく参りましてご迷惑をおかけします」
「ユージィン殿下……婚姻の儀以来でしょうか、よくご無事でご帰還なさいました」
「ありがとうございます、オスカーが助けてくれたおかげでこうして今も生きています」
「オスカー殿下の勘の鋭さと剣の強さは師団一ですから。
 見学、いつでも歓迎します。可能でしたら、稽古中の師団員の気流も視てやってください。一番きれいに気流が流れている師団員には何か褒美を考えましょう」


 そうして、ディズィーグは遠くで固まっている師団員の元へ「ユージィン殿下がお前らの気流を視てくださるぞ!」と叫びながら戻っていった。


「見学ついでにディズィーグの言うように誰の気流が安定して流れているか視て教えてくれ。気流師に視られる緊張感でももらわないと俺も含め浮き足立っていかん」


 本当にディズィーグは気の利く男だ。これで少しはまともに稽古の続きができるはずだ。
 ユージィンを警護してきた近衛たちが羨ましそうにしている中、当の本人は「久しぶりに仕事をするようで嬉しいです」と言いながら真剣な表情をしている。
 王族に入った気流師は、それまで気流師として第一線で働いていても実質引退状態に陥ってしまう。優秀なだけに彼らも物足りなく思うことも多いだろう。
 さて、どんな成果を得られるか。
 オスカーも気合十分で剣術場へと向かった。

 その後。
 結論から言うと、ユージィンに気流を視てもらったことは剣術師団にとっては素晴らしい試みだった。そもそもユージィンは難関と言われる気流師の修業を最年少で卒業している逸材だ。視る目も確かで的確、そして無駄がない。
 師団員自身が気づいていなかった癖を指摘し、師団員自身が隠していた怪我を指摘し、そうして、師団員自身が気づいていなかった病気を見つけて「大事に至る前に見つかって良かったですね」と優しく言われた師団員は、舞い上がってユージィンの手を取り口付けた事でオスカーに「病気でどうにかなる前に今ここで殺すか」と脅されて走って逃げ出した。
 良い日だ。
 本当に、穏やかで他に変えがたい、良い日だ。





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