金色に輝く気流師は、第五王子に溺愛される 〜すきなひとがほしいひと〜

朝子

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オスカー×ユージィン編

50.気流師の穏やかな一日

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 まるで何かの大仰な行進のようだ。
 これまでの人生、大人数に囲まれ護られながら歩いたことのないユージィンは、歩きづらさに追加して気恥ずかしさを感じながらも、できるだけそれらを気にしないように歩いていた。

 平常心平常心、…………これ、全然平常心無理だ……なんか従えてる感じするしそもそも自分は人を従えるような人間ではないんだけど……いや、オスカーと婚姻を結んだ以上、人を従えないといけないのか……? いやいや、落ち着け、シェルフェストが従えているのを見たことがあるか、ないだろう、ではそういうことだ。唯一、この状態の良い所を探すとしたら、自分の顔色や表情があまり変わらない質で良かったこと、ぐらい、か?

 などと、愚にもつかない事を考えながらそれでも歩き、自分を落ち着かせる。
 今はまだいい。王城内を歩いているから、それほど目立たない。だが一歩でも外に出てみたと仮定して……ユージィンは身震いした。

 第二城壁から外には出ないと約束はしたが、第一城壁の外は王宮や王城の外側なので身元は確かとは言え一般の人だって歩いている。
 護りで立っている近衛師団員の人数も、第一城壁の中に比べたら減るだろう。
 そもそも、近衛師団の人間は目立つのだ。人より立派な体躯を持ち、見た目にも麗しい人間が選ばれる。それは当然の事だ、王族に従い、有事の際には前面に立つことすらあるのだ。
 また、近衛師団の制服もいけない。黒に真紅と金色の飾り紐がついたロングコートのような物を着ている。派手だ。
 そんな人間を十人も従えていれば……間違いなく目立つ、困ったな、……見た目はどうか知らないが中身はそこまで派手好みの人間ではないんだ私は。
 などと憂いながら歩き続け、しまいに脇を固める近衛師団員から「ユージィン殿下、どこか優れないところがございますか、宮へ戻りますか」と心配される始末だ。
 大丈夫だよありがとう、と更に恥ずかしくなった気持ちを抱えユージィンは王室付き気流師室へと急いだ。

 そうして今。
 目の前で大笑いをしているのは、同じ立場のはずのシェルフェストだ。


「ぞろぞろと従えてるなーって思って王城で遠くから見てたんだよね、それだけ目立てばもう攫われる事はないだろうね!」
「シェルフェスト、楽しそうですね……?」
「まあ、楽しいかな、っふふ、ユージィン、君、無表情だからそこもまた偉そうな従え感が増して……うん、楽しいね!」
「私は楽しくないです」
「ごめんごめん、もう笑わないよ。それにしてもオスカー殿下は過保護だね、……それもまあ仕方ないかな……僕が攫われていたとしたらきっと同じことをオズタリクアからされていたと思うしね」


 そんな話をしながら、気流師室の奥、診察所へと向かう。
 既に数名の王室付き気流師が待機していて、検査を終えると共に、身体の方はもう大丈夫だろうとの見立てをもらった。
 西浮国が入国したら、我々は暇になるでしょうからまたここで今後について話しましょう。などと王室付き筆頭気流師に誘われて快諾した。
 各国の会談に出る事は出来ないし、散歩以外やることがないのも身体が回復した今となっては辛い。
 明日からの楽しみができた。

 シェルフェストや筆頭気流師にまた明日、と別れを告げて、ユージィンは第一城壁正面の大玄関門脇から外に出る。すぐ目の前には近衛師団本部がある。
 近衛師団に隣接する剣術師団本部の前を抜け、気流師団本部研究棟へ。

 久しぶりだ。
 十八歳の頃から十年以上、ここに通い、こんなに長く休んだこともなかった。
 自分はこの場所で人を助けながら一生生きていくのだと疑いもせずに思っていた。

 などと本部への門を見上げながらも感慨深く思っていたとき。


「まあああ、ユージィン殿下?! いやですね、先触れもいただけないなんて、どうぞどうぞこちらへ!」


 甲高い声と共に腕を掴まれ引きずられた。
 一瞬身を硬くした近衛師団員だったが、相手が気流師団長とわかると好きにさせることにしたらしく、引きずられるユージィンの後をおとなしくついてくる。


「あ、バガリディア気流師団長、ご無沙汰を……」
「挨拶は後ほど伺いますよ、さ、はやく! こちらへ!」
「はぁ……?」


 仕方がなく挨拶を諦めて大人しく師団長室までついていったが。


「ギャザスリー気流師! いえ、ユージィン殿下! いけませんよそのような心持ちでは! 殿下と呼ばれる立場の方が先触れも出さずにふらりふらりと出歩くなんて」
「え、あ、はい、そう……? ですか……?」


 気流師団長のイーヴェア・バガリディアは初老の女性だ。
 色素の薄い人間が多い気流師団において、黒髪に浅黒い肌を持ち、瞳だけがギラギラと金色に反射する様はまるで黒豹のようで若い頃は大層モテていたらしい、とは、他の重鎮気流師たちが噂をしていた事だ。
 見た目も異質、気流を視る力も強く無機物有機物、どちらも視えるのは数いる気流師の中でも彼女くらいのもので、その才能と人柄から長いこと師団長として頑張っている。
 他の師団は知らないが、気流師団は師団長と師団員の距離が近い。その為、師団長が自ら出てきたからと言ってそれだけで緊張するようなことはないが、……ないがしかし、ユージィンは気づいてしまった。

 ーーバガリディア気流師団長、ずっと年齢不詳で通していたけど、まさか百歳を超えているとは……

 これだ。
 今までわからなかった、その人の年齢のようなものが木の年輪のようにユージィンには視えてしまうようになっていた。
 他の人は自分の知っている年齢と視えている年齢の差異がほぼ無かったために、特に意識もせずに気づかなかったが。しかしこの能力は。


「聞いていますか、ユージィン殿下」
「はい、聞いています」
「あなた、とんでもなく目立っていましたよ、師団の正門の辺りで。
 ……久しぶりにお見かけしたら……もともと光ってましたけど、以前よりもさらに光るようになりましたものね。
 道行く人が思わず手を合わせて拝んでいましたよ。なんだかありがたいんでしょうね」
「はぁ……拝む? いえ、さすがにそれは……」


 不安になり、ついてきた近衛師団員に目をやる。拝まれてましたよ、と言われてがくりと力が抜けた。


「あなた色々ありましたでしょう。光量が増すくらい、仕方ないのかもしれませんね。
 光量と同時に力も随分と……強くなって……元々強かったのに、これではなんでも視られてしまうわね」


 年の功なのか知らないが、師団長は色々あった、で片付けるつもりらしい。
 ほほ、と笑いながら目を細める様は確かに百年以上の時を超えてきた落ち着きを感じる。今までは自分の母ぐらいの年かと思いながら師事してきたのに、まさか祖母より更に上の年齢とは……ユージィンは未だ驚きから立ち直れていない。年齢もだが、自身の増した能力についても。


「あの……バガリディア師団長に聞くのもおかしな話かもしれませんが……私の力はどの程度増しているんでしょう……?」
「そうですねぇ……既に私より視えそうですけど……残念だわ、王族の一員になってしまったものね、後継者として育てたかったわ」
「バガリディア師団長より……?」
「ええ、そう視えます。うまく言えませんけど……その力、……少し異質な酷く強い影響を受けて、身体ごと変わったかのようにも視えますね。
 ……あなたがこの先、王族として何を成すかはわかりませんが、その力を活かして頑張りなさい」
「はい、……あの、すみませんでした、急に辞めるような形になってしまい、婚姻後すぐにここに来ることも難しくなって……挨拶もせずに今まで不義理をしました」
「……良いのです。
 あなたと、それからオスカー殿下のおかげで、気流師全員の道が明るく開けました。
 今までずっと、気流師団の団員を護らなければ、と私の人生は緊張の連続でしたし……多分、どの団員も同じ様な不安を感じたことは一度や二度ではないでしょう。いつどこで攫われるかもしれない人生は、不安も多く苦痛ですよね。攫われた後を知る人もいない状況です。
 それに、気流師だとしても、そうじゃなくても、いつ戦が起こるかわからない人生も同様に不安です。戦に出る事で大切な人が奪われるかもしれない不安も、同じく辛い。
 ……ですから、その不安の連鎖を断ち切ってくれたオスカー殿下とユージィン殿下、お二人には感謝しかありません」
「あ、……りがとう、ございます…そのお言葉で私も救われます」
「ただし」
「はい……?」
「先触れも出さずにふらふらするのはいけません、いつ来ても大歓迎しますけど、お忍びで来るならそれらしくもっと忍んで、そうでないならあなたはあまりに目立ちますからね、先触れを出してからいらっしゃい。気流師団の内外が浮ついていけません」
「はい、承知しました。次回はもっと忍んできます」


 ふふ、と、二人笑いあった。
 肩の力が抜けた。気流師団を何も言わずに勝手に辞めたような状態だったことがずっと気になっていたが、師団長に会って話しができたことで重荷を下ろした気分だ。

 突然来たことと仕事の邪魔をしたことを再度詫びながら、ユージィンは気流師団を後にした。

 良い気分で宮に戻る途中、道中が騒がしいことに気づく。
 慌ただしく走る剣術師団員に何度も追い抜かされる。走る剣術師団の団員は皆一様に高揚しているようだ。つられて思わず、と言うようにユージィンは剣術師団へ足を向けた。



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