金色に輝く気流師は、第五王子に溺愛される 〜すきなひとがほしいひと〜

朝子

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オスカー×ユージィン編

43.気流師は概ね幸せだ

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 それからの日々は、概ね幸せだったのだと思う。

 連日シェルフェストに治療を受け、時には自分で思い立って試しに針を打ち、シェルフェスト始め王族付きの気流師たちから、治療方針があるのだから勝手に打つな打ちたいなら相談しろと叱られる。
 普段叱られる事などそう多くは無いし、自身が患者として沢山の気流師に構われる経験も初めてだったのでそれはそれで興味深かった上、シェルフェストを含む何人かとは気流の話で意気投合し、身体が寛解したら共に気流の研究をしようと話をした。

 ユージィンは幼少の頃からとにかく早く独り立ちをするところに重きを置いて生きてきたので、学生時代はおろか研究棟に入っても誰かと共に研鑽を積んだ経験はなく、身体が治った後の楽しみが増えた。

 寝てばかりで暇だと思うと、まるでその心を読んだようにズィーロが顔を出して面白おかしい話を披露して帰っていく。
 婚姻の儀に家族として出席した事でズィーロは家族枠に認定され、楼門も特別な手続きなしでいつでも通れるようになったらしい。
 人なつこいズィーロらしく、楼門を護る近衛師団員とも仲良くなったようで、最近のズィーロの話しには近衛師団の話しがよく出てくるようになった。

 専属執事として本格的に働き出した兄ウィレナーズとの関係も良好だ。
 長いこと共に暮らしていなかった兄弟だ。

 だが、こちらが寝たきりのような状態だからか、そもそもが人の世話をやくことを苦にしない兄が、自らの苦難にも手放さずに成人まで面倒を見た弟を相手にしているせいか、ユージィンが居心地が良いと思う空間をぴたりとはまるように作り上げてくれる。
 専属執事の仕事の合間に通っていると言う隠密師団の話を聞くのも、最近のユージィンの楽しみの一つだ。

 その一方で、王族の見舞いは全て断っていた。
 王以下、王子王女達からも見舞いの連絡を受けてはいたが、寝ながらの対面が心情的に辛いので症状が寛解したらこちらから伺うと伝えたら、あっさり受け入れられ見舞いの品のみ贈られた。

 それでもいいから、と来られたら、きっと自分は無理を押しても起き上がり臣下の礼を取らざるをえなかったと思う。
 夢で会ったアズバルドは気にするなと言っていたが、アズバルド自身がそう言ったとしても他の王族からしたら、ユージィンの為に身内が犠牲になったも同義だ。
 自身の非の有る無しに関わらず、心情的には謝罪をしないわけにはいかないのが本音だ。

 とは言え。両親には恵まれなかったが、それ以外の人間関係にはことごとく恵まれた人生だ。だから、幸せだ。

 だいたいにして、一度は死を覚悟したのだ。
 死を間近に感じるような経験からも、身体は多少変わってしまったが中身は自分自身のままで生還することができた。
 王族付きの気流師団の見立てでは、今以上に身体が元に戻ることは難しいだろうと言われている。
 気流師団の見立てが無くとも、ユージィンも気流師だ。
 金龍を受け入れるために変容し、元の状態からずいぶんと変わってしまった身体は現時点ではまだ完全には慣れておらず、ほぼ回復したとはいえさすがに以前の身体同様に意のままに動かせるとは言いがたい。
 だが、金龍にやすやすと意識を奪われる程に龍に寄っていた身体は、むしろ気流を視る能力が増強している。
 だからわかる。
 どこに針を刺して気流を変えようと、今以上に身体が元の状態に戻る事は無いだろう。
 で、あれば、元に戻すことをぐずぐずと考えるよりもこの身体に馴染むことが先決だろうと思う。治ってはいるのだ。後は慣れるだけ。
 ……発光していないだけ随分マシだ。

 それに、最近は起きていられる時間も人並み同等まで増えたし、身の回りの事なら一人でできるようになった。
 緑ばかりで彩りの少ない、……むしろそこが気に入っている庭を、誰の手も借りずに散歩することもできる。もうそろそろ見舞いの品を送ってくれていた王族たちへお礼へ伺うことも可能だろう。

 なんて順調なユージィンの人生。

 これ以上の幸せなんて望むべくもない。
 だって、十分に幸せなのだから。
 そのはずだ。
 それでも。
 そのはずなのに。
 幸せに間違いはないけれど。
 夜、眠りにつく前はため息をつかずにはいられない。

 理由はわかっている。
 オスカーが帰ってこない。
 ユージィンが昏睡から目覚めたあの日に会ったきり、もう一月以上も帰ってきていない。
 少し考えればわかることだ。
 彼は剣術師団長だ。
 国を率いる王族でもある。

 今回の件は、中草国を始めとするこの世界全てに関わる歴史に残る出来事だ。

 現在のオスカーは、自らが使者となり各国の王族を中草国へと招致する役目を担っている。
 各国の王族を始めとする主要な人物が、間違いなく中草国へと立った事を見届けてから次の国へ向かう。
 酷く時間のかかる、だが、立場上彼にしか出来ない任務を遂行しており、それでも、同じく剣術師団に属する第六王子のオライリオが事情を伝えるために各国へ先行している事から多少は時間の短縮になっている。

 と、オズタリクアから話を聞いているシェルフェストより又聞きした。

「どの国の誰にも、万が一にもユージィンの痕跡を探られたくないから外国では魔術の通信も使わないようにしているらしいですよ。さすがオスカー殿下ですねぇ……」

 シェルフェストはそう感心していたけれど、ユージィンとしては「何だその拘りは。その辺の溝にでも捨てておけ」と言う感想しか出てこない。
 要は、会いたくて、寂しくて、苦しくて、辛い。
 魔術を介してでも構わない。
 一目会って、声が聞きたい。
 今まで誰かに対してこのような気持ちを抱いた事はないし、お付き合いと言うものをしていた時に、相手から言われても「呼吸が苦しいなら治療するが?」ぐらいは言いかねなかったし実際言った。酷い。
 そうだ。
 酷い人間だった。
 そもそも、こうなって初めてわかる。
 出会ってからずっと、何だかんだで定期的にオスカーに会うことができていたのは、他でもない、オスカーの努力の賜物だ。
 その証拠に今、彼自身の宮に居ると言うのに彼がユージィンに会う状況を作ってくれなければ全く会えないではないか。

 彼は、剣術師団長だ。わかってる。

 彼は、王族だ。それもわかってる。

 そうそう簡単に、気軽に会えるような存在ではない。そこが、本当の意味でわかっていなかった。
 ズィーロも言っていたではないか。大物だ、直系の王族で師団長だ。高嶺の花どころか、花かどうかすらこちらからは見えず、見ようとしても定かではない程高みにいる、と。

 替えがきかない人間で、責任のある地位につき、その上今回の金龍復活を一番間近で見ていた人物だ。
 好きに動けるはずもないものを、それでも、昏睡から目覚めるまでは絶対にユージィンのそばから動かない、と宣言してユージィンの近くに付いていてくれたらしい。
 それだけでも、感謝しないといけない。

 頭では何もかもわかっているのに、自分の感情はそう簡単に理解してくれない。

 自分自身の事なのにままならない。

 窓の外に目をやるとあたりはすっかり暗くなっていた。
 湯も使った事だ。今日はこのまま寝てしまおう。

 そう思いオスカーの枕を抱きしめ転がった。

 形が変わってしまった肩甲骨のあたりにまだ微妙に違和感がある。
 最初は何かが背中に触れるだけでも激痛が走っていたが、最近は慣れてきて枕を抱いて横になれば楽と言う事がわかってきた。
 以来、持ち主不在のままそこにある枕を勝手に借りて抱きしめて寝るようになった。
 昏睡から覚めた時。
 オスカーが、また俺は都合のいい夢を見ているのか、とぼやいていた事を思い出す。
 せめて。
 オスカーと同じく、自分に都合の良い夢を見られると良いと思いユージィンは目を閉じた。



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