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オスカー×ユージィン編
29.気流師の初夜の翌日 ※
しおりを挟む覆い被さってきたオスカーを身体全体で受け止めて、初めて、人と身体を合わせる意味がわかった気がした。
お互いの呼吸がだいぶ落ち着いた頃、先に動いたのはオスカーだった。
いつまでもこの格好は辛いだろう、と、気遣いながら告げると、脚を限界まで広げて受け入れていたユージィンの上から退けようと身体を起こす。
少し寂しさを覚えて、オスカーの腰に脚を絡み付けながらユージィンは口を開いた。
「……オスカー、……ぬこうとしてます……?」
こちらを見下ろすオスカーと目が合う。
「お前……実はものすごいやり手じゃないのか……」
こちらの意図を正確に察して、抜くのを一旦やめることにしたらしいオスカーが語りかけてくる。
「たくさん、イッたろう。脚も……こんなに開いて。身体は? 辛いところは、ないか」
ユージィンの腹に飛び散った体液を拭うように人差し指で辿りながら、オスカーは気遣うような表情になった。
「んッ、……ない、ので、……もう少しこのまま……」
「いや……これ以上留まると、……次を求めてしまいそうだ。だから、むしろ俺のためにも抜かせてくれ。」
「何がだめか……次を求める事の、何が問題か、教えてください」
「俺、……は、……お前の身体を気遣ってるつもりなんだ、が、……?」
「……私、平気ですけど……」
「ぐ……っくそっ、無理だろうこれに抗うのはっ……! 言っておくがな、ユージィン! 俺はお前を想っている、だから、お前の身体の事も想う。無理を強いるつもりはないし、お前が不快と感じる事は何一つ与えたくない。わかるか」
「わかってます、……わかっている、つもりです。でも、」
オスカーの陰茎を受け入れている所にきゅ、と力をいれて、ゆる、と腰を動かした。
「……もう……少し、……欲しいんです。そう言えば、私の言いたい事がわかりますか」
「……っ、これでわからない男はっ、……死ぬべきだな、」
内壁が内側から押し広げられる感覚が伝わってきた。
同時に、括約筋を締め付けた時に感じた柔らかさに硬度が戻ってきたことを覚える。
腰骨の辺りを両手で押さえられて、すっかりと硬くなったもので内壁をぐり、となぞられた。
「んんっ!」
落ち着いてきていたはずの、ユージィンの身体がすぐさま反応する。
ドロドロのユージィンの腹と自身の手をシーツで乱暴に拭うと、上体を倒し、唇を貪り食べるようにして口付けてきたオスカーを両手を広げて受け入れた。
自身の舌をオスカーのそれに絡めながらも、閉じた目の奥が、ちり、と焼けるような感覚を覚える。
何かがわかりそうで、わからない。
でも、オスカーの与えてくれるこの気持ち良さ、と、言うにはいささかきつい快楽は、同時にユージィンに人肌の気持ち良さを教えてくれていて、それが快楽以外のなにかにも当てはまりそうで、でも、そこにはまってはいけないような気もして、ユージィンは考える事を止めた。
いや。
オスカーの舌と指が、また新たな気持ち良さを運んできて、それ以上深く考えられなくなった、と言うのが正しい。
本当に、オスカーの舌と指は、素晴らしい動きをする。
その後、何度2人で欲望を吐き出したか。
もうむり、もうイけない、と呟いた気がするが定かではない。
それに対して、最高だったな、と耳元を撫でられながらも反対の耳元に口付けを受けた。
それは間違いない。
耳を刺激されると反射的に震えてしまう。
主寝室のシーツはとても眠れるような状況になくなったことから、湯を使った後に、客室へと移動した。
綺麗になった身体を清潔なシーツに横たえるのは心底気持ちが良かった。
主寝室程ではないが十分に広いベッドに、後ろから抱きしめられながら横たわる。
もう、ユージィンは、別で眠ればいいのでは、などとは思わない。
ぎゅう、と抱き込まれて、囁かれる。
「明日、……いや、今日の朝は、ゆっくり寝ていると良い。慣れないことばかりで疲れただろう」
そうだ、本当に色々な事があった。
色々ありすぎて、今は頭が飽和状態だが、ユージィンはこれでいて体力には自信があるのだ。
「……大丈夫です。毎日、朝食を……共にするんでしょう。ちゃんと……起きますから、一緒に、食べましょう」
「怖いな……これが続いたら幸せ過ぎて、頭の中がどうにかなりそうだ……心底怖いんだが、大丈夫か、これは、……現実だよな。いやまて、夢か?」
「……私を笑わせようとして、……冗談を、言って、ますか?」
「俺は本気だ」
「じゃあ、……夢じゃない……で、す……現実で……」
遠くで、おやすみユージィン、と聞こえたような気がした。
おやすみなさいと返したいのに、もう、何一つ動かせない。
目蓋すら自分の意思で動かすことができないまま、ユージィンは眠りに落ちた。
心身ともに満たされて眠りに落ちるのは、一体いつ以来だったのか。
そして、それを味わっているのは一体いつの事だと言うのか。
きっと今のユージィンには思い出す事はできない。
――翌朝は、自分を呼ぶ穏やかな声に意識が覚醒し、ぱちりと目を開けると、すっかり身支度を整えたオスカーが目の前に見えた。
「ん……あさ、……?」
「ああ、起こして悪いな。そろそろ朝食にしないと、俺が朝議に間に合わなくてな」
「すぐ、起きます。昨日朝食をとった部屋に行けば良いですか」
「そうだな。そこで待っている」
一夜明けて目の前に現れたオスカーは、昨日の夜とは全く別人のように見えた。
いや、昨日の夜とは違うように見えただけで、婚姻を結ぶ前、自分が今まで見て知っていたオスカーその人だ。
猛禽のような鋭い瞳を持ち、下手に触ると斬られそうな、でも王子然として一本ピンと筋が通っているような、とにかく禁欲的な印象を受ける剣術師団長だ。
今更だけど、そんなオスカーの事も、自分は気に入っていたのだろうと今ならわかる。
昨夜のオスカーも悪くない、どころか、ある意味では素晴らしく良かったが、昼間は今までの、自分が見知ったオスカーでいてくれると良い。
そう、割と自分勝手な事を考えながらざっと湯を浴びて急いで身支度を整えると、朝食を食べる部屋へと足早に向かう。
扉の前に立ち、声をあげる。
「失礼します。ユージィンです。遅くなりました、入ります」
こちらが扉を開けるよりも先に、中で待機していたであろう近侍によって内側から扉は開かれた。
目の前に並ぶ簡易な朝食、既に席に着きユージィンを見つめるオスカー、テラスの外に広がる美しい緑。
ダイニングテーブルの横に立つ専属執事の制服を着た、
「……あなたは、……随分と、私の兄に似ていますね……」
兄に似た人物が答える。
「お前の兄だからな」
「ああ、やはりそうですよね。どうりで」
ユージィンは納得したようにオスカーの前の席に着く。
……。
……?
いや待て。
なんだ。
今、何があった?
さらりと流してしまったが、何か重大な事が。
兄が、……?
専属執事の制服を。
「あれ?」
再度、テーブルの横に立つ専属執事を見る。
「……あれ?」
「おはようございます。ユージィン様」
「おはようございます? ウィレナーズ様?」
その言葉で、部屋にいたユージィン以外が噴き出した。
笑いが起こる。
皆、とても楽しそうに笑っている。
「え? あれ? ウィレナーズ? 何やってるの? え?」
「すぐに戻ると言ったろう」
「うん、ん? うん、言ってたけど、……?」
「戻ってきたぞ」
「……はぁ……?」
どうも、噛み合わない気がする。
目の前の兄とのやりとりがどうにも噛み合わず、己の配偶者となった相手に助けを求めるように目を向けたが。
だめだ。
なんならこの部屋の中で一番笑っているのは彼だ。
その上、笑いながらもこちらを見つめるあの眼差しには覚えがある。
多分、だが、「俺のユージィンがかわいすぎてどうしよう」とでも思っているような目だ。
ここ数日でわかったことだが、あの眼差しになっているときのオスカーは、本人が落ち着くまでは何を言ってもたいして良い返答が出てこない。
普段は猛禽類みたいな目をしているくせに! そう、心の中で悪態ともつかない文句をつけながらも、仕方なくユージィンは兄へと向き合った。
兄は慈愛に満ちた(周囲からはもっと凶悪ななにかに見えたが)表情をして、言った。
「専属執事の話を殿下からいただいたので、お受けした」
「あ? そう……? ……え? あ、……あ?」
「その返答は間が抜けて見られるぞ。外では控えたほうがいいな」
「外ではもっとしっかりしてる」
「そうか」
「うん」
「朝食はどうする」
「食べる」
大事な事は何も聞けないままに朝食が始まってしまった。
北方領主館で料理長を始めとして様々な仕事を経験していたためか、ウィレナーズの給仕は全く危なげなく、むしろ細かいところによく気が付きそれでいて邪魔にならずとても快適に朝食を食べることができた。
ユージィンの頭の中は未だに疑問符が飛びまくっていたが。
「それはそうと、ユージィン、今日の予定は?」
食後のお茶を飲んでいる時に、オスカーが話しかけてきた。
「今日ですか。さすがに今日は休まずに研究棟へと向かう予定です。
先日の事もあるので……一般受入棟にも一度顔を出したほうがいいかな……?」
「研究棟はいいが、一般受入棟はやめておけ」
「理由を伺っても?」
「昨夜俺たちの婚姻号外が撒かれているからな。今頃城下はお祭り騒ぎ、は、もう落ち着いたか……? わからないが、まだ城下に赴くのはやめておけ。第二城壁から外へは出ないほうがいい」
現在ユージィンたちがいる王宮と王城は、第一城壁に囲まれ護られる。
第一城壁の外には、各師団が並び、その外側を第二城壁によって護られている。
第二城壁の外には城下町が広がり、気流師団の一般受入棟、ズィーロの両親の酒場、ユージィンが暮らしていた借家なども城下町にあった。
ちなみに、城下町の外は更に大きく広い第三城壁が建ち、その第三城壁の内側をまとめて〝王都〟と呼ぶ。
「そうですか……。
借家を引き払って荷物を持ってきたかったのですが、それもやめたほうが良いですね」
「ああ、借家か……。あれは本人が立ち会う必要があるのだったか……」
「立ち会いは家族も可能なので兄でも問題はないのでしょうが、……10年近く住んでいたのでとにかく荷物が多くて、選別も苦労しそうなんですよね。
本当に必要なものだけ持ってきて残りは処分してもらう、が、一番早そうですが」
そうだな、と呟きながらオスカーは色々考えているようだが。
しばし後。
「では、髪と瞳を隠して行ってこい。
お前と分からなければ、騒ぎも起こらないだろうし、戦の前に部屋は片付けておいた方がいいだろう。
ウィレナーズは……午前中、隠密師団に顔を出せと行われているしな……何時に終わるかわからんから……他に、腕が立つ……近衛を2人つければ足りるか……?
あまり大仰にしてもそれはそれでここに要人がいると言っているようなものだしな……。
よし、ウィレナーズ、悪いが私服の近衛を2人連れてきてくれ。
わからなければオズタリクアの所のティックワーロに聞け。話しは通してある。
それから、時間が合うときにティックワーロから仕事を教えてもらうように」
承知しました、と軽く頭を下げてウィレナーズは部屋を出て行く。
「専属執事とは良いものだな。他の兄弟が勧めてくるわけだ。いや、……ウィレナーズだから良いのか……? 彼は気配をあまり感じさせない上に良い動きをする、ユージィンもそう思うだろう」
機嫌が良さそうに問いかけてくるオスカーを、見やる、ついでに気流も視て、オスカーの身体に問題がない事を確認し、安堵した。
「オスカー」
しかし口から出る自身の声音は酷く冷たい。
オスカーの肩がピク、と揺れる。
冷たい響きを敏感に察しているらしい。
なぜか周りに待機している近侍の動きも止まった。
「なんだ」
「私に何か、言うことはありませんか」
「言う、こと」
「はい。言うこと、言うべき事です」
「そうだな……ウィレナーズは良い兄だな」
「そうですね。それから」
「ユージィンの驚く顔が見たいばかりに大事な事を話さずいて申し訳ない、が、俺はお前のどんな表情も全て余す事なく見たい!」
「……ッぐ、ゴホッ……!」
酷く真剣な表情で一息に言い切る様が余りにおかしく、飲んでいたお茶でむせてしまった。
オスカーがすぐさま立ち上がり背中をさする。
「大丈夫か。何か言い足りないなら、いくらでも聞くから、今は落ち着け」
「落ち着、いて、ッゴホぃます」
「黙っていて悪かった。だが、最善の人選だと思っている」
「……はい。私も、嬉しいです」
背中が暖かい。
こちらを見つめるオスカーの瞳は酷く心配そうに歪んでいて、黙っていられた事は少し腹立たしいが、このような楽しい驚きなら悪くないか、とも思えた。
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