金色に輝く気流師は、第五王子に溺愛される 〜すきなひとがほしいひと〜

朝子

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オスカー×ユージィン編

10.気流師と剣術師団長初めての朝

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 いつになく、良い目覚めだった。

 患者を亡くした次の日は、大抵の場合酷い睡眠で、寝たのか寝ていないのかわからない状態から覚醒し、そこから無理やり身体を起こす事が多い。
 だが、今朝は、そうではなかった。

 覚醒直後からユージィンは、目の前の手を見ていた。……正確には、綺麗に整えられた爪を見ている。ついで、眉間に力を入れ、気流を視る。目の前の右手は完全に痺れているようだ。

 本当は、何度か自分の頭を退けようと試みたのだが、頭を動かして腕の中から逃れようとする度、オスカーの痺れていない左腕に引き戻され後ろからぎゅっと抱きしめられる。
 何度試みても同じ結果になるから、諦めた。オスカーが起きたらこの痺れは治療しよう。

 動くことのできない暇にあかせて、目の前の手のひらを見た。
 剣術師団長という職にしては、傷も剣だこも殆ど無く綺麗だ。

 そういえば、剣だこは、右手ではなく左手にできるのだったか。生まれてこの方剣など握った事がないので全くわからない。
 そう思いながら、オスカーの右手のひらを指でなぞっていると、ふいに指を掴まれた。

「痺れてるのに? ……痺れで、痙攣……?」

 なぜ動かせるのかと、つい言葉が出た。

「……ふっ……痙攣とは……朝から随分とおかしな事を」

 喉の奥で笑いながら、オスカーが、耳元で囁く。その瞬間、なぜだか唐突にユージィンは酷くオスカーの存在を意識した。

 近い。
 オスカーがとても近くにいる。
 当たり前だ、抱きしめられて寝たのだから。
 これ以上近づくのはなかなか難しい。

「これほどの痺れでいちいち動かせなくなっていたら、戦場では死ぬぞ……?」
「ここは、戦場では、」
「そうだな、だが、今は似たようなものだ、そう思うだろう……?」
「……っに、似てない、」
「……どうした?」
「ど、どうもしません? と言うか、オスカー、殿下、そこで喋るの、やめ」
「……」

 しばし、沈黙の後。オスカーはユージィンを強く抱き、先ほどより更に耳元近くで囁く。

「……ユージィン……?」

 朝だ、今は朝のはずだ。
 たくさん、ではないが、満足するぐらいは寝て、今朝は良い目覚めだった。
 カーテンから細く覗く外の色も、薄っすらと明るくなってきているように見える。

 朝だ。
 間違いない。

 なのに、この深夜のような雰囲気は、何だ。
 できるなら叫びたい。
 今すぐ、何かわからないが、何かを叫びたい。
 薄々気づいていたが、ユージィンは、オスカーの少しひび割れたような低めの声に弱い。
 そう、弱い。
 その上、たった今知ったが、実は耳を刺激されるのも、弱いらしい。
 これはよくない、この状態は、早急に対策を。

「……ユージィン……聞いているか?」
「んんっ……!」

 誤魔化せないくらいの声が出た。

 その声を合図にしたかのように、ユージィンを抱きしめていたオスカーの手が動き始める。

 痺れていたのはどうなったのか、ユージィンの指を密やかになぞる右手。
 もはや気流を視ても、オスカーの右手に痺れなどない。

 嘘だ。そんな。
 自分の目がおかしいわけではないはずだ。
 さっきまではきちんと痺れが視えていたのだから。でも。それならなぜ、今は。

 ユージィンが慌てている間も、腹近くに置かれていたはずの左手もじっとしてはおらず、腹から胸のあたりを時間をかけてゆっくりと通り、喉をくすぐるようになぞってから、唇へと到達した。
 と、同時に、耳のふちを舐められた。

「……っく、あ、ぁんっ!」

 おかしい。
 これは。
 こんな。

 耳が弱いとは言え、指をなぞられているとは言え、唇は性感帯の一種であるとは言え。
 こんな、まるで性器そのものを嬲られているように感じるなんて。

「……ユージィン……?」
「も、やっ……! 殿下っ……!」
「ユージィン……、殿下ではなく……オスカーと」
「うんんっ……お、オスカー? さま?」
「様もいらん……。この口で。お前の声で、オスカーと、呼べ」

 この口で。
 そう言いながら、唇に這わせていた指を中に侵入させ、今度は舌をなぞる。
 指先で口腔内の唾液を絡ませ、人差し指と中指であやすように舌を更に撫でる。
 撫でながら太い親指で唇をくすぐる。
 くすぐったい。
 気持ちがいい。
 くすぐったいけど、気持ちがいい。
 触られる所、刺激される所、全てから少しずつ身体の奥底に気持ちよさが溜まっていく。
 このままでは、気持ちよさにわけがわからなくなって、身を任せてしまいそうだ。

「……っよ、べな「いいから、呼べ」

 舌を捕らえられたままだったため、少し発音がおぼつかなくなったが、それでもユージィンから「オスカー」と呼ばれ、オスカー本人は満足そうに、また、低く笑った。

「これからは、常にオスカーと。わかったか……? ユージィン……?」
「……んんっわか、わかりました、から、っ!」
「なんだ……? 他人行儀だな、わかりましたなどと……」

 もうだめ、もうだめだ。
 右手で指を1本づつなぞられ、左手では口腔の舌を愛撫され、耳元には唇と舌で。
 その声で。
 その声色で。
 これ以上は。
 これ以上やられたら、戻れなくなる。
 今既に、戻れるかも怪しい所まできているのに。

「オスカー……! わかったっ、わかったからっ……ん、もうっ……! だめやめて!」

 ふっ、と堪えきれずに笑った感じをユージィンの耳元に残して、オスカーはようやく離れてくれた。

 と、ほぼ同時に寝室をノックする音が響く。

 思わず身体を硬直させると、ユージィンの緊張に気付いたオスカーがばさりと隠すように掛布をかぶせるとベッドから出て行った。



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