金色に輝く気流師は、第五王子に溺愛される 〜すきなひとがほしいひと〜

朝子

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オスカー×ユージィン編

06.剣術師団長の恋があふれる

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 この国の、この世界に暮らすものならば誰しもが知っている、創世の記録がある。

 世界を作った神、そして、世界の生き物全てを生み出したとされる、全てを見通す金色の龍と、永遠の命の銀色の龍の話だ。

 創世の記録では、ユージィンやオスカーたちが暮らす中草国ちゅうそうこくの生き物の祖先は金色の龍が生み出したとされており、それに対し、その他の北山国ほくさんこく西浮国さいぶこく東砂国とうしゃこく南海国なんかいこくの生き物は全て銀色の龍が生み出したとされる。

 気流師の気流を視る能力は、全てを見通す金色の龍の血を引くからではないかと言われる事があるが、確かに気流師は瞳の色も金色で、その上圧倒的に多く中草国に生まれる。
 実際の所、本当に金色の龍の血をひいているかなんて誰にも分からないし、調べる術もない。

 しかし、確かな事実が1つ。
 永遠の命を持つと言われる銀色の龍は、今尚、生きている。

 普段は海中深く眠りについている、と言う話だが、数年から数十年に一度の不規則な間隔で目を覚まし気流師を求め、それに応じて、南海国の王族たちは各地に戦を仕掛ける。
 中草国以外に仕掛ける事もあるが、気流師の数が最も多く住まう中草国に仕掛けてくる事が多い。

 などと、言われてはいるが、この銀色の龍の話が本当かどうかは、誰にもわからない。

 さらわれた気流師が戻る事は無いし、その後の所在を知る者がなく、情報が全くないのだ。
 南海国の民であっても、捕まえた気流師のその後を知る者は居ないようだ。
 過去何度か南海国の隠密部隊を捕らえ、尋問、と言うには少々手荒い、拷問じみた負担を強いて確認しているが、さらわれた気流師たちは南海国の王族が隠しているのか、それとも、銀色の龍の元に囚われるのか、誰にもわからない。

 その為、どの国の王族であっても、南海国との戦に関しての共通認識は、1つだ。

 一度囚われた気流師は、どのような形であっても、二度と戻らない。

 だから、どの国も南海国との戦となると気流師を隠す。戦に参画はさせても、前線に出す事はあり得ない。少しでも安全を確保できる所に配置される。

 本来なら、参画させる事もしない方が良いのだろうが、南海国の民は海の中で生まれ出た為か、鎖骨の下にエラのようなものがあり海中でも呼吸ができる。
 また常に波間を泳いで移動している事から、そもそもの力も強い。
 陸に出てもその力強さは変わらず、大抵の場合他国の民の力を凌駕するために、南海国との戦に対し不利な状況を作り出すことは避けたい。
 避けたいから、気流師を出さざるを得ない。だが、どの国も気流師を失うことは避けたい。
 南海国との戦は、避けたい事ばかりで、手詰まりだ。
 手詰まりではあるが、方法がないわけではない。南海国との戦は、南海国が気流師を1人でも捕らえたらその時点で引く事が分かっている。
 その為、南海国以外の国が集まり「戦わずに気流師を1人差し出せば」と言う話し合いを持った事もあるが、結局のところ物別れで終わってしまった。

 当然だ。
 どの国もそう簡単に気流師を手放す事はしないし、気流師自身も生まれ育った土地を捨て、まるで生贄のように生きるか死ぬかもわからぬ土地には行きたがらないだろう。
 その上、仮に自分が犠牲になり全てが片付くのなら、と名乗り出る奇特な気流師がいたとしても、その時起こる一つの戦がおさまるのみで結局はまた同じことが繰り返されるのだ。

 気流師を差し出せないなら、南海国を崩すしかない。
 崩して、撤退させる。
 再び体制を整えるまでは南海国は仕掛けてはこないし、次は別の国に仕掛ける可能性もある。

 南海国との戦は規模が大きく目的がはっきりとしている割にはとにかく打つ手が全て消極的で、その上敵を退けたとしても根本的には解決する事ができない。

 オスカーにはそれがたまらなく我慢ならない。

 我慢ならないが、戦は起こる。
 今や自身の想い人は、戦の原因にもなっている気流師だ。
 これはいけない、このままでは、このままでは?
 何がいけない、わからない。
 ユージィンの事となると、途端に思いもよらない程に頭が使い物にならなくなる。
 とにかく、わからないが、このままではいけない事はわかる。

 それで、羽馬との訓練や、師団長としての業務、また王族としての公務を全うする合間をどうにか見つけて、ユージィンに会いに来た。
 ユージィンも中草国の気流師だ。
 戦が近い事くらい、薄々感じているだろう、会えたら忠告して身の安全を確保するように伝えて……そう思いながら一般受入棟に入ったと言うのに、奥の控え室でひっそりと座り物思いに耽っているような横顔を目にした瞬間、全て頭から吹き飛んだ。

 あいも変わらずこのユージィンと言う男はどうした事だ。
 あの横顔など、白い百合が発光しているかのようではないか。
 光る百合なぞ聞いた事もないが、ユージィンはその姿を現すたび、オスカーに様々な感情を湧き上がらせる。
 オスカーを乱す天才がこの世にいるとするなら、間違いなくその1位はユージィンだ。ぶっちぎりで優勝だ。
 危うく頭の中のオスカーが勝鬨をあげはじめ、いや違うそうではない、勝鬨をあげるなと、慌てて口角を上げる。

「ユージィン、いたな。手当てを」

 全て、順調に進んでいるかに思えた。
 いや、間違いなく順調だったのだ。

 最近では、手当てをと言えば、仕方ないですねなどと密やかに苦笑しながらも肩や背中の気を綺麗に整えてくれるまでの関係になれていたのだから。
 恋のなんたるかはわからなくても、特定の相手と少しずつ距離が近づいていく事は思いの外満たされた。

 その手に、しなやかな動きに、また気流師特有の気を整える繊細な指先に、以前第4王子のオズタリクアが酔った勢いで「気流師のセックスは嵌ると抜け出せない」などと悪趣味な軽口を叩いた事を思い出し、うっかり疚しい気持ちを覚える事もあった。が、直後に見せられたシェルフェストの背筋が凍るような笑顔(当然手先には針を持っていた)を思い出せば疚しさは即座に消えたし、絶望的な表情のオズタリクアを思い出せば笑えもした。

 いつかは、と思う気持ちもあったがゆっくりと関係を育むつもりでいたのは間違いない。

 それが、が来る事で焦ってしまった。

 ……いや、それは自分自身への言い訳で、焦れ焦れ進むような関係も楽しくはあるのだが、多分、心の奥底では己が会いに行かずともいつでも会える関係を求めていた。
 ただ、みなみが来る事で焦ってしまった事も嘘ではない。
 嘘ではないが、オスカーの頭の中は、いつもいつでもユージィンに告げる愛の言葉で溢れていたのだから、遅かれ早かれ、それはきっと溢れ出ていた。

 みなみは溢れ出るきっかけに過ぎず、その証拠に常から会うたび皿だ石鹸だ蝋燭だ、果ては白い鳥だ白いネズミだ……動物に例えるとユージィンはいつも以上に綺麗に笑う為にいつしか動物に例える事が増えた……等と側から見れば失態とも言うべき口説き文句? を伝えていたではないか。

 だから、己の唇を柔らかく弄りながらも金色の真剣な眼差しでこの国の将来を憂いているようなユージィンに、堪らない気持ちになってしまった。
 王位継承権には遠くとも、王族としての矜持は常に持っている。そのような真剣な様子で国の事を想うのならば、この先の人生、己の隣で、共に国を想おう。

 ……そう、崇高な事を考えていたはずなのに、ほんの少し溢れ出る気持ちを我慢しようとしたばかりに、歯を食いしばってしまい表情は極悪なものとなってしまった。
 その上、唸るように口から出た言葉はーー

「貴様は……俺をどうしようというのだ。その可愛さで息の根を止めるつもりか……!」

 さしものユージィンも、「……はい?」と、間抜けな返答をしてしまうほどの、破壊力だった。
 だったが、しかし。
 これが、思いもよらず、我慢に我慢を重ねた結果溢れ出た、嘘偽りの無いオスカーの本音だったのだから。

 崇高さも、高潔さも、王族の矜持がどうこうなど、何もない、ただただ「俺のユージィンがかわいすぎて、それを見ている俺が死にそう」状態である。

 間抜けにも見つめ合うこと、およそ10秒。
 先に持ち直したのは、王族の矜持を発揮したオスカーだ。

「いや……いやではなく、良い、……も、そうではなく、いやも良いもなく、貴様の可愛さは紛う事なき本物だ」

 全く持ち直していない、ただのポンコツな男に、長く息を吐いたユージィンが、重ねる。

「ずっと伺いたかったのですが、殿下は私のことが好きなのですか?」

 その瞬間、見た目だけは持ち直したように見えていたオスカーの時間は再び止まった。


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