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オスカー×ユージィン編
04.気流師の出会いと褒め言葉02
しおりを挟む目の前に横たわるオスカーを見ながら、ユージィンは小さくため息をついた。
考えても考えてもわからない。自分の事もわからないのに、他人の心がわかるわけがない。
オスカーの意向が全くわからないながら、この1年、ユージィンは何度か恋人のようなものを持った事があるのだが、オスカーの態度は全く変わらなかった。
……これが何を意味するのか考え始めると、最終的には、オスカーは自分を口説いていないと言う結論に達する。
人の心の機微が分からないと言われるユージィンだ。最近では、オスカーのしていることが己に理解できるとも思えなくなってきていた。が。
が、なのだ。
孤独死が嫌なら王族を、と、まさに昨日、ズィーロに言われたばかりだ。
今まではオスカーが現れたら、特に何もせず、何も聞かず相手が帰るまで適当にしていたが、そろそろきちんと聞くべきなのかと思い始めた。
思い始めたが、しかし。
が、しかし、だ。
再び、更に思考は沈む。
彼は王族だ。
気軽にお付き合い、と、遊べる相手でもないし、仮にお付き合い……が全く想像できないが……したとして「すき」を知らない自分、「親」と、「親の愛」から死に別れている自分、そんな自分が、果たして常に死と隣合わせのような行動をとる王族と共にある事ができるのか。死に別れは嫌だ。もう二度と味わいたくない。
「何を考えている」
「起きていらしたのですか、殿下」
「……いや……今起きた。貴様がこちらを見ている気配がしたからな。何を考えているのかと。考えている事を言え」
薄布をまくり、うつ伏せから腕立ての要領で半身を起こすとオスカーはユージィンを見つめた。
「……そうですね……規模の大きな戦が近いとの噂は本当なのか……とか……。殿下はお疲れのようだ、とか、……」
心の機微が、デリカシーが、と言われるユージィンだが恥ずかしいという感情がないわけではない。何を言えばいいのかわからず、そこから先を言いあぐねてしまう。
「ふん……貴様にしては歯切れが悪いな。
……戦は、起こる。南の海に動きがあるようだ。知っていると思うが南との戦いでは気流師は前線に出さんから、……貴様がその戦に出るとは限らんが……仮に編成隊に組み込まれても後方でおとなしくしてろ」
「ああ、南が来るのですか。承知しました。隊に組み込まれることがあったらそのようにしましょう」
「貴様は……いや、……歯切れが悪いのは俺か」
オスカーは、2,3度続けて瞬きをした後続ける。
「その為に、普段より、疲れている。
剣術師団は南……海の近くでの戦いとなると、羽馬を操るだろう。あいつらは普段俺が操る地馬とは気性が違うこともあるが、……。
端的に言うと、俺は地馬が好きなんだ。地に足をつけ、駆けるのが好きでな。羽馬は人の心を読むからな、なかなかうまくいかん。
あいつらは群れの順位を重んじる為に、渋々剣術師団長を乗せてやっている体だ。こちらから言わせれば、わざわざ乗ってやっているのだ、の意識が消えなくてな。
思う通りにいかない事は、……疲れるな」
羽馬とは、文字通り、馬に羽が生えたような生き物だ。
人一人位、軽々と背に乗せ空を駆けることもできるが、オスカーの言う通り、聡く、プライドが高い生き物であるが為、おいそれと思う通りには動いてはくれない。
ただし好戦的な質でもあるので、戦場で空中戦になった場合、相性の良い相手を乗せていると何にも負けない働きを見せるとも言われている。
オスカーは戦では天性の才を見せ死神のような働きをすると評判だが、相棒が普段共にいない羽馬では勝手が違うのだろう。
気流師は主には気を見ていれば良いが、剣術師とは、剣を操り、地馬を操り、羽馬を操り、大変なものだなあ。
……おれには無理だ、気流を見ながら片手に針を、片手に手綱を? いや、無理だろう。
そもそも針はどのように刺すのだ、投げるのか。いや、馬鹿げた事を考えた。あの軽い針が投げた所で狙って刺さるものか。
いやいや、魔術師に頼んで魔術に乗せて貰えば…? さらに馬鹿げた事態になったな。いくら想像の世界とは言え己が情けない。
……そういえば、ズィーロは羽馬に乗るのがうまかったな。
あの底抜けな能天気な様が羽馬のプライドを上手いこと操っていたのだろうか。オスカー殿下は気難しくプライドも高そうだから、羽馬との相性は悪いだろう。やはり能天気とは素晴らしい特技だな。
などと、まるで他人事のような(実際他人事だ)事を、唇に指をあてながら考えていると、ふと、強い視線を感じた。
オスカーが、酷く不機嫌そうな顔をしながらまるで唸るように――
「貴様は……俺をどうしようというのだ。その可愛さで息の根を止めるつもりか……!」
「……はい?」
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