金色に輝く気流師は、第五王子に溺愛される 〜すきなひとがほしいひと〜

朝子

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オスカー×ユージィン編

04.気流師の出会いと褒め言葉01

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 オスカーとは、およそ1年前、国境警備隊に請われて小競り合い対応の部隊を編成された時に初めて出会った。

 王族と出会うことは、王族らそれ自身が戦に出たがる事実により、編成部隊にさえ選ばれればさほど珍しい事ではない。そもそも戦となれば、出たがるかどうかはさて置き、最低1人は王族が配置される事となっている。
 また、現役気流師の情報は王族の間にも詳細に把握されているのだ。
 戦に配置された王族が、気流師であり遠目にも目立つユージィンを見に来る事は多い。
 今回の医術担当気流師は、あの見目麗しいと評判のユージィン・ギャザスリーらしい、と聞きつけて、完全な興味本位でオスカーが気流師の詰所になっていた天幕にやってきたのが2人の出会いだ。

「ユージィン・ギャザスリー気流師はいるか」

 低めの、幾分割れたような呼び声をきき、天幕の奥で医術担当魔術師と確認作業をしていたユージィンは確認作業を中断し、入り口付近へ歩み寄った。

 実際に会ったことは無かった。
 が、戦狂の王族の特長は全て頭に入っている。
 目の前に立つ、実践で鍛えられた体躯、見上げるばかりの長身、漆黒の長髪、山吹色の虹彩、不遜な面構え。なるほど、これは第5王子オスカー・ジグライドその人以外ありえない。
 こちらを射抜く視線が山吹色の虹彩という事もあり、また醸し出される雰囲気からも、まるで猛禽類のような男だ。

「ユージィン・ギャザスリーは私です。オスカー・ジグライド剣術師団長」

 オスカーを猛禽類と感じながらもそれを顔には出さず自己紹介をしたユージィンに対し、オスカーはというと。

「貴様……。貴様は。王宮で使う皿のような見た目の男だな」
「……はい……皿? ですか?」

 ユージィン、この時28歳。生まれて初めて皿と言われ、密かに面食らっていたのであった。

「ああ、貴様は、皿だな」

 オスカー本人に悪気があるようにも見えなかったし、人に皿、とは、悪口でもないようで、ユージィンは見た目からは伺えないながらその実内心は混乱を極めていた。

 皿? 皿ってあの皿?食事に欠かせない、あの?
 おれを食器にして食事をご所望? いやいや、何を考えているユージィン、しっかりしろ。そんなわけないだろう。褒め言葉にしても、貶し言葉にしても斬新すぎる、いずれでもない、何か深い意味があるに違いない。

 だが残念ながらおれには全く理解できない。

 皿……皿と言えば……丸い、だがおれは丸くはない。
 料理も得意ではないし、そもそも殿下がおれの料理の腕をどうこう言うとも思えない。
 幼い頃から気流師になる為に修行漬けだったし友人もズィーロ以外いないから、殿下の仰る意味が心底理解できない。

 と、そこまで考え、ユージィンは微笑んだ。どうして良いのかわからなかったので、ズィーロに過去言われた「おまえに情緒やら、人の心の機微はわからんからな。相手の言う事で理解できずに困ることがあったら、微笑んでおけ。多分乗り切れる」その言葉を思い出したからだ。

 微笑みながら答える。

「はい、皿ですね」

 果たして、それを見たオスカーは、やはり猛禽のように見える目をパチリ、と瞬き、こちらは微笑んだにしては、柄の悪いような、ニヤリとした笑いを浮かべて「怪我をしたら頼むぞ」そう言い置いて、天幕を出たのであった。

 そうだ、皿と言われたのだった。

 過去に思いを馳せつつ、無の境地でオスカーの背中を揉んでいたユージィンだったが、ふと気付いてみたら、皿ショックを起こした当の本人はすっかり寝込んでいるようで、手を止めてもピクリともしない。
 オスカーの背中を仕舞い、簡易台に常備してある薄布をその背にかけユージィンは休憩を取ることにした。
 普段あまりしないマッサージなどをした為か、なんとなく腕が怠い。
 お茶を入れ、簡易台横の木の丸椅子に腰掛けると、相手が寝入っているのを良いことに暇に任せてオスカーの観察をする事にした。
 先程気の流れを見た時は特に問題は見つけられなかったが、どうもオスカーは疲れているらしい。
 そんなこと、気流師じゃなくてもわかる。目の下のクマ、カサついた肌、筋肉の緊張している身体、背中を揉みだして数分で眠ってしまいこちらが動いても起きやしない。
 剣術師団長にあるまじき気の緩みっぷりだ。
 いつもある小競り合いとは違う、規模の大きな戦が近いと噂もある。
 それが原因なのか、そもそも本当にただの噂で全く別の事で疲れているのか、ユージィンにはわからない。

 皿か。
 再び、思考は沈む。
「皿」と言われた際に出陣していた小競り合いを収めた後も、何度となくオスカーは会うたびにおかしな事を言ってくる。

 曰く、王宮で使っている蝋燭のようだ、とか。
 曰く、王の執務室にあった石膏でできた胸像のようだ、とか。

「冬に山で見る鹿のようだな」と言われた時に初めて、今まで言われた言葉の共通点は全て「白」だった事に気付き、とうとう謎が解けた!と、いつもよりきちんと心の底から微笑むことができた。

 考えてみたら、その時からはっきりとそれとは分かりづらいくらいではあるが、距離が近くなったのではなかったか。
 距離が近づいたと言って良いのかユージィンにはわからないが、気を見て手当てを所望してくる。疲れが酷く体調があまりよくない時は正しくも手当てをし、言葉で言っているだけで別段悪くなさそうな時は、肩やら背中やらを揉みお帰りいただく。
 結構な頻度で目の前に現れるので、口説かれているのか? と思ってはいるのだが、確証が持てない。

 ユージィンは気流師だ。
 男女性別問わずもててきたために、人から口説かれると言う事はそれなりに経験しており、少なくない経験則を鑑みるに過去口説いてきた男女とオスカーの行動はそう変わらないように思う。

 特に必要もないのに目の前に頻繁に現れて、自分と絡みたがるのはその最たるものだ。

 ただ、行動は今まで口説いてきた人とそう変わらないが、オスカーからは直截的な言葉を使われたことがないので、どうしてもわからない。

 オスカーは一体ユージィンをどうしたいのか、どう思っているのか、それが全くわからない。


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