金色に輝く気流師は、第五王子に溺愛される 〜すきなひとがほしいひと〜

朝子

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オスカー×ユージィン編

03.気流師の生い立ちと王族

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 ユージィンの勤める所は、気流師団医術部という。

 怪我や病気を抱えて診てもらいにくる人を受け入れる一般受入棟と、それから、様々な研究を行う棟に分かれており、普段のユージィンは研究棟に詰めていることが多いが、当番が回って来る時は一般受入棟の担当となることもある。
 とは言え大抵の場合、気流の能力を持たない医術師で事足りるため一般受入棟担当となると、暇が増え……たまたまその日、一般受入棟担当となったユージィンは暇に飽かせて昨夜の事を考えていた。

 普段は考えもしない、自身の恋愛観だ。と、いうか、家族観というか。

 酔ったつもりはなかったが、ズィーロに自身の未熟さを吐露してしまった。
 ズィーロは笑わず聞いていてくれた。鋭い突っ込みも入らなかった。それは多分、幼馴染ゆえ、ユージィンの生い立ちを知っているからだろう。

 ユージィンの両親は既に鬼籍に入っている。

 ユージィンに物心つく頃にこの世から去っていった。そのことはなんとなく覚えているが幼かったユージィンはぼんやりと思い出せるような程度の話だ。
 その後ユージィンは、10も年上の兄ウィレナーズに育てられたが、当時の兄ウィレナーズはまだ14歳。成人もしていなかった為、隣に暮らしていたズィーロ含む幼馴染一家であるヴュイア家に世話になりながらの生活だった。
 生前のユージィンの両親はその辺りでは誰もが知る仲の良い夫婦だった。らしい。
 これは又聞きする事が多いため、断定はできない。
 ユージィンが生まれ程なくして、父が病いに倒れた。医術部の一般受入棟に行った時には時既に遅く、どの気流師であっても痛みを取り除く以外の対処ができず死を待つばかりで、母は病床の父に寄り添い、まるで自身が病気になったかのようだった……事は、薄っすらと記憶に残っている。

 当時3歳だったユージィンは、お腹の辺りが明らかにグルグル渦巻く父親と、目と心臓の辺りがなんとなくグルグルしている母親を毎日見ていた。

 母に関して、はっきりと記憶に残っていることがひとつだけある。
 父親のお腹のグルグルが激しくなり、その他の動きがひどく緩やかになったとき、母親がユージィンを見て言ったのだ。

「金目なんて産んだって、何の役にも立たない、この人が死んでしまうのを、止められない。金目が役に立たないならせめてこの人の代わりにお前が死ねばいいのに」

 ……誰もがわかっていたはずだ。
 父の病気は当然ユージィンのせいではないし、そもそも幼すぎるユージィンには何が起こっているかすらよくわかってはおらず、それは母も理解していたはずだ。
 ただ、幼すぎるユージィンに当たってしまうぐらいに、余裕がなかったのであろう。それは、たとえ眉をひそめるような行為だとしても周囲には理解はできた。

 だが、それを言われたユージィンは理解なんてできない。

 その後、母の奇行が酷くなったと同じ頃に父が亡くなり、後を追うように母親が衰弱して亡くなった。
 母の奇行は、薄く断片的にしか記憶にはなく、思い出そうとすると酷く頭がぼんやりするので考えないようにしているが、ユージィンには「自分は全く役には立たないのか、代わりになる事も出来ないのか」そう感じた思いが今でもどこかに刷り込まれている。

 それを思い出すたびに、誰かをそこまで思ってしまうその想いに怖くなった。
 それを愛だと人が呼ぶなら、その人の為に他の誰かを恨む愛は、自分には理解できないと思ってしまった。

 ズィーロの両親に「ウィレナーズから10年経ってできたユージィンに、ユージィンの両親はとても喜んだのだ」と何度も教えられ、それならばなぜ……、と益々理解できなくなった。
 それは大人になった今であっても理解はできない。理解しようとしても、ユージィンには理解する術もない。

「…師、ギャザスリー気流師、よろしいですか」

 思いのほか深く思案していたようで、医術師の声になかなか気づくことができなかった。目の前で手を振られて初めて気づく。

「ああ、すまない、急患でも?」

 表に出ていた医術師が、奥の控え室に詰めていたユージィンのすぐ側まできていた。

「急患と言うか…急患なんですかね?」

 案内にきた医術師が、扉越し、自分の後ろに向かって声をかけた。
 ユージィンがその人を認めるのと同時に、ひどく大きな足音とそれに見合う巨体が控え室に入ってくる。

 目を引く漆黒の長髪、それから丁寧になめされた黒の革鎧を着たその上からもわかる実戦で鍛え上げられた筋肉質な身体、ユージィンを見つけた途端に輝きを増す切れ長の目の奥に光る山吹色の瞳、ニヤリと笑う肉厚な唇。

「ユージィン、いたな。手当てを」
「オスカー殿下」

 言いたい事はたくさんあれど、手当てと言われたからには何かせねばとユージィンは目蓋と目の奥に力を入れ、彼の気を視る事に専念する。

 オスカーはこの国の直系の王族だ。
 現王の8人いる息子の中で5番目にうまれた。
 王位継承権第1位の王太子である第1王子以下第3王子までの間に既に男子が9人生まれていることから王位継承権は低く、自分は好きな剣術を極めるのだ、と、幼い頃から剣を振るってきたと聞いたことがある。実際に本人を見ていても、そもそも王位継承権に興味はなさそうに見える。

 ちなみにオスカーのすぐ上の兄、第4王子は男性気流師と婚姻を結んでいる為、子供はできず、仮に配偶者以外に子をなしても継承権は認められない。
 例外として当該王が配偶者以外と子をなした場合のみ継承権は認められるが、継承権は低い。らしい。

 また、王女も数人居たはずだが、王女に継承権はないため、婚姻により国家間や他家との結び付きに自分自身を使いそちらでのし上がるか、才能があるなら政に携わるか、戦に出て武勲をあげるか、または、普通に恋愛をし結婚しても良いらしい。が、なかなか恋愛をし婚姻を結び家を守るなどと言う内向きの王女は現れず、周りにいる王族たちに影響されるのか、戦に楽しみを見出し、そしてなぜか例外なく戦狂となっていくらしい。王族たちの戦狂はなんとかならんもんかな、と、同僚が愚痴っていたのを思い出す。

 ユージィンには王族の継承権などどうでもいいのでうろ覚えであるのだが。

 そんなわけで、オスカーは幼い頃から剣を振るい続けてきた甲斐があり、王族と言う恵まれた出自はあったものの昔から実力主義を貫く剣術師団のトップに弱冠25歳の頃から10年近く、正確には丸8年、実力で立ち続けている。

 そのオスカー・ジグライドに、ここ一年程、ユージィンは、口説かれているのだ。……多分。
 口説かれている事に関してはそれはそれとして、ユージィンがズィーロに対し王族が苦手と言った理由の一つに、王族の特性がある。

 彼等は、命を大切にしない。
 大切にしないと言うのは語弊があるが、戦などの有事の際にまず率先して出張っていくのは王族だ。
 それがこの国の王族の在り方であり、民を率先して導くと言う意味合いもあるらしいのだが、正直に言うと、王族が減る事は良い事とは思えないのでやめてほしい。先程の同僚の愚痴に思わず同調してしまった程に、我先にと戦いに赴く王族たちに肝が冷える。

 国境近くでは日々大小の小競り合いが起きている。
 大半は国境警備隊が片付けているが、国境警備隊のみで片付かない問題が起こると、王都に詰めている各師団が部隊を編成して出て行くことも多い。
 どの師団に特化した部隊が出るか、師団の人員の規模はどの程度になるのか等、その時々で変わるのだが、なぜか様々な師団に当然のように配置されている王族は、皆真っ先に戦場を駆け抜けたがる。

 さすがに王自らが出る事はなく、王太子も決まりにより出陣する事はないが第2王子以下、成人した王族は皆戦に出たがる。
 王位継承権に遠ければ遠いほど、戦に出ないと死ぬのかと思うほど率先して出て行く率が高いと思うのはユージィンの偏見だろうか。いや、偏見ではないはずだ。

 ――そして、その王族の中でも戦狂筆頭と思えるのが、このオスカーである。

 一度の戦に出る事のできる王族の数には、戦の規模によって制限がある。
 王と王太子以下、王族は幼子しか残りませんでした。では話にならないため、そのような事態を引き起こさないためにも、この辺りの規則はかなり厳しく決められているのだが。

 オスカーは、出陣率出撃率ともに高い。
 剣術師団長と言う立場を良いことに、とにかく出てくる。

 自身と同じく漆黒の青毛を持つ愛馬を操り、戦場を駆け抜ける様はまるで死神だ。
 遠目にもおもしろいように敵をなぎ倒していくので、あれが敵じゃなくて良かった、と味方ですら震える剣術師団長。「戦場の死神」などという、ちょっと恥ずかしい二つ名を持つ、それがオスカー・ジグライドと言う人間だった。

「どうだ。何かわかったか」
「オスカー殿下」
「なんだ」
「私の察しが悪く申し訳ないのですが、手当とは、文字通り、手を当てろとご所望ですか」
「貴様にしては察しが良くなったな」

 そりゃ、わからないわけないだろう。毎度毎度気の流れを整えることをご所望になるのだからこの王子は。と、眉間をおさえながらユージィンは心の中だけで突っ込む。

「仕方ないですね。そこの簡易台に俯せに寝ていただけますか」

 ユージィンはおとなしく俯せたオスカーの肩から背中についている革鎧の紐を外しながら、彼との出会いに思いを馳せた。

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