25 / 25
二章(12)
しおりを挟む
「は、はあ。じゃあ、食べるぞ?」
さっきまで自分が座っていたところに向かう。
なんだか心臓の鼓動が早い。
何かを振り払うかのように、乱雑に座り、一心不乱にカロリーの塊を取り込む。
口の中がパサついて、ようやく少し正気を取り戻した。
――これなら、余計なことは言わないで済む。
「私も、食べようかな」
パンの山から適当に一つ取って、僕の隣に座る。
肩と、腕と、腰と、足とが秋野に触れる。
まずいまずいまずい。いや、パンはうまいけど、ちょっとそれどころじゃない。汗とかかいてないか? 臭くないか? 心音とかうるさくないか?
秋野は気にならないのか?
ちら、と横目で見るが、まるで涼しい顔でパンをかじっている。ハムスターかなんかみたいだ。
「何?」
「ああ、いやあ、何も……」
何もじゃないだろ。ああ、気持ち悪い気持ち悪い。
恥ずかしい!
「ん。有川君はさ」
パンを飲み下して、どこか虚ろ気な目で話しかける秋野。
なんだろう。やっぱり気持ち悪いねとか、今すぐ帰ってとかかな。
なんて。
「こういうパンが好きって言ったけど、部活とかしてたの?」
うん。そんなわけなかった。しかし、部活か。パンが好きと繋がるか?
「どうして、また」
「んん。部活してる子って、コンビニで済ませたりする……と思うの。そうなのかなーって」
そういうことか。
部活、部活ね。あんまり思い出したくないし、どころか知らないと怒鳴ってもいいぐらいだけど、不思議と気分じゃないな。
「まあ、やってたけど。あんまりいいもんじゃないね」
「ふうん」
興味ないのか? ここ何日かで知ったような気でいたけど、やっぱり掴みどころがないという印象は変わらない。
秋野が部活とかしてたら、どうだったんだろうな。普通に友達が出来て、普通に試験勉強とかして、放課後遊びに行って、ちょっとしゃれた店で飯とか。
「うまかった?」
「ああ、美味いんじゃないか? 知らないけど」
「違うの。部活。レギュラーだったの?」
おっと。こういうとこだよな。コミュニケーションに難があるとこ。
「悪い悪い。パンのことばっか考えてた。そうだな……レギュラーだった。どころか、プロになれるんじゃないか、とか思ってた。他にも習い事というか、やってることがあって、そっちも誰にも負ける気がしなかった」
気が付けば秋野がじーっとこちらを見つめていた。ほとんどゼロ距離で。やべ、語りすぎたか。陰の者はしゃべる機会があるとこうなりがち。
「ごめん。面白い話じゃないな、こんなの」
「ううん」
秋野が首を振り、髪が当たりそうになる。
あっぶね。
「聞かせて。全部」
「全部って。今日で終わらないかもしれないぞ」
それは嘘。話すのが面倒なのが半分、照れくさいのが半分。
いつもの悪癖。
「いいよ。今日は泊っていくんだね」
マジ?
さっきまで自分が座っていたところに向かう。
なんだか心臓の鼓動が早い。
何かを振り払うかのように、乱雑に座り、一心不乱にカロリーの塊を取り込む。
口の中がパサついて、ようやく少し正気を取り戻した。
――これなら、余計なことは言わないで済む。
「私も、食べようかな」
パンの山から適当に一つ取って、僕の隣に座る。
肩と、腕と、腰と、足とが秋野に触れる。
まずいまずいまずい。いや、パンはうまいけど、ちょっとそれどころじゃない。汗とかかいてないか? 臭くないか? 心音とかうるさくないか?
秋野は気にならないのか?
ちら、と横目で見るが、まるで涼しい顔でパンをかじっている。ハムスターかなんかみたいだ。
「何?」
「ああ、いやあ、何も……」
何もじゃないだろ。ああ、気持ち悪い気持ち悪い。
恥ずかしい!
「ん。有川君はさ」
パンを飲み下して、どこか虚ろ気な目で話しかける秋野。
なんだろう。やっぱり気持ち悪いねとか、今すぐ帰ってとかかな。
なんて。
「こういうパンが好きって言ったけど、部活とかしてたの?」
うん。そんなわけなかった。しかし、部活か。パンが好きと繋がるか?
「どうして、また」
「んん。部活してる子って、コンビニで済ませたりする……と思うの。そうなのかなーって」
そういうことか。
部活、部活ね。あんまり思い出したくないし、どころか知らないと怒鳴ってもいいぐらいだけど、不思議と気分じゃないな。
「まあ、やってたけど。あんまりいいもんじゃないね」
「ふうん」
興味ないのか? ここ何日かで知ったような気でいたけど、やっぱり掴みどころがないという印象は変わらない。
秋野が部活とかしてたら、どうだったんだろうな。普通に友達が出来て、普通に試験勉強とかして、放課後遊びに行って、ちょっとしゃれた店で飯とか。
「うまかった?」
「ああ、美味いんじゃないか? 知らないけど」
「違うの。部活。レギュラーだったの?」
おっと。こういうとこだよな。コミュニケーションに難があるとこ。
「悪い悪い。パンのことばっか考えてた。そうだな……レギュラーだった。どころか、プロになれるんじゃないか、とか思ってた。他にも習い事というか、やってることがあって、そっちも誰にも負ける気がしなかった」
気が付けば秋野がじーっとこちらを見つめていた。ほとんどゼロ距離で。やべ、語りすぎたか。陰の者はしゃべる機会があるとこうなりがち。
「ごめん。面白い話じゃないな、こんなの」
「ううん」
秋野が首を振り、髪が当たりそうになる。
あっぶね。
「聞かせて。全部」
「全部って。今日で終わらないかもしれないぞ」
それは嘘。話すのが面倒なのが半分、照れくさいのが半分。
いつもの悪癖。
「いいよ。今日は泊っていくんだね」
マジ?
0
お気に入りに追加
7
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
とても気になる二人の進展🌸
このあときっと上手く行くに違いないと思いつつも、なにっ、緊張しすぎて気持ち悪いだとぉ……あ❓😱💦
女にピュアでぎこちない主人公のことが心配になる。
作者様の作戦にどはまりです🎶