17 / 25
二章(4)
しおりを挟む
僕は携帯を枕元に放り、ついでに自分も布団に倒れこむ。
「……面倒なことになった」
まだそこまで明るくもないけど、今の僕には辛すぎるから、自らの右腕で目を塞ぎ、アイマスク代わりにする。
今からでも無かったことにならないかな。全部。
屋上の事も、手紙の事も、全部無かったことにして、そうだな、この際、自殺も無かったことにして、僕も秋野も今まで通りの毎日を過ごす、というのはどうだろうか。……駄目だ。そんなのいつも通りだ。先延ばしにして、もっと状況が悪くなって、さらに決心がつかなくなるだけだ。だからあの日、全てに決着をつけようとしたんじゃないか。秋野にもそれなりの理由が有って、屋上に至ったわけで、今更になって面倒だから、やっぱ全部ナシなんてどう考えても有り得ないだろう。
それとも、それすらも僕の思い込みか?
あの掴みどころのない少女は、僕みたいな奴が、「おい、死ぬんじゃないぞ、真面目に少女であれ、そうだな、部活に入って、友達を作って、恋をして、失恋をして、あとはよく分からないけど、そうやって普通に高校生をやれ」なんて言ってみても、うん、わかった、何て言ったりするんじゃないだろうか。
……なんてね。
いくらなんでも、そんなのは有り得ない。今、なんとなく僕に懐いているっぽい秋野だが、そんな分かった様な口を利いたら激昂するに違いない。それはそれで見て見たい気もするが、起こった勢いで平手打ちか、引っ掻かれでもしたら大変だ。痛いのは嫌いだし……。
それに無かったことにするなら、もっと前からじゃないと意味がない。中学時代、小学校時代、いや、生まれたこと自体というのもアリだ。僕の人生が惨めなのは間違いないのだから、全部きれいさっぱりなくしてしまうのも悪くない。そりゃあ、良いこともあったけど、そんなのは釣り合いが取れていない。一万円落とした後に百円拾って、得したと思う奴もないだろう。
……さっきからなんか、秋野が居る気がする。いや、実際に部屋に居るとかじゃなく、雰囲気? オーラ? 気配? そんな感じ。
腕をどけて、少し光にやられてから狭い部屋を見渡すけど、秋野は居ない。居たら怖いけど。
でも何か、あるというか、するというか……。ええい、立ってしまえ。
僕は夢遊病患者のように部屋を歩き回る。
部屋の場所によって、気配に違いがあるような。より具体的には、濃いところと、薄いところと……。
――分かってしまった。それと同時に分かりたくなかったという思いが湧き上がる。匂いだ。秋野に掛けていたタオルケットから、感じ取っていたのだ。何がオーラだ。
気持ち悪い、気持ち悪い! 死にたい!
タオルケットを部屋の隅に放り投げ、布団の中に潜り込む。
なあああああ! いやああああ! がああああ!
恥ずかしい! 恥ずかしい! 恥ずかしい!
――振動音。
「ひゃあっ!」
枕元に置いていたせいで、まるで脳みそを掻き回されたかのような振動だった。
秋野なのか。そうなのか。何て顔したらいいんだ。
「……面倒なことになった」
まだそこまで明るくもないけど、今の僕には辛すぎるから、自らの右腕で目を塞ぎ、アイマスク代わりにする。
今からでも無かったことにならないかな。全部。
屋上の事も、手紙の事も、全部無かったことにして、そうだな、この際、自殺も無かったことにして、僕も秋野も今まで通りの毎日を過ごす、というのはどうだろうか。……駄目だ。そんなのいつも通りだ。先延ばしにして、もっと状況が悪くなって、さらに決心がつかなくなるだけだ。だからあの日、全てに決着をつけようとしたんじゃないか。秋野にもそれなりの理由が有って、屋上に至ったわけで、今更になって面倒だから、やっぱ全部ナシなんてどう考えても有り得ないだろう。
それとも、それすらも僕の思い込みか?
あの掴みどころのない少女は、僕みたいな奴が、「おい、死ぬんじゃないぞ、真面目に少女であれ、そうだな、部活に入って、友達を作って、恋をして、失恋をして、あとはよく分からないけど、そうやって普通に高校生をやれ」なんて言ってみても、うん、わかった、何て言ったりするんじゃないだろうか。
……なんてね。
いくらなんでも、そんなのは有り得ない。今、なんとなく僕に懐いているっぽい秋野だが、そんな分かった様な口を利いたら激昂するに違いない。それはそれで見て見たい気もするが、起こった勢いで平手打ちか、引っ掻かれでもしたら大変だ。痛いのは嫌いだし……。
それに無かったことにするなら、もっと前からじゃないと意味がない。中学時代、小学校時代、いや、生まれたこと自体というのもアリだ。僕の人生が惨めなのは間違いないのだから、全部きれいさっぱりなくしてしまうのも悪くない。そりゃあ、良いこともあったけど、そんなのは釣り合いが取れていない。一万円落とした後に百円拾って、得したと思う奴もないだろう。
……さっきからなんか、秋野が居る気がする。いや、実際に部屋に居るとかじゃなく、雰囲気? オーラ? 気配? そんな感じ。
腕をどけて、少し光にやられてから狭い部屋を見渡すけど、秋野は居ない。居たら怖いけど。
でも何か、あるというか、するというか……。ええい、立ってしまえ。
僕は夢遊病患者のように部屋を歩き回る。
部屋の場所によって、気配に違いがあるような。より具体的には、濃いところと、薄いところと……。
――分かってしまった。それと同時に分かりたくなかったという思いが湧き上がる。匂いだ。秋野に掛けていたタオルケットから、感じ取っていたのだ。何がオーラだ。
気持ち悪い、気持ち悪い! 死にたい!
タオルケットを部屋の隅に放り投げ、布団の中に潜り込む。
なあああああ! いやああああ! がああああ!
恥ずかしい! 恥ずかしい! 恥ずかしい!
――振動音。
「ひゃあっ!」
枕元に置いていたせいで、まるで脳みそを掻き回されたかのような振動だった。
秋野なのか。そうなのか。何て顔したらいいんだ。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説


あの子を好きな旦那様
はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」
目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。
※小説家になろうサイト様に掲載してあります。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。


「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

【コミカライズ&書籍化・取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる