7 / 7
第1章
第6話
しおりを挟む第6話
「あ~、暇だぁ~。なんでこんな事にぃ~。」
共同のラウンジでソファーに寝転がり、置いてあるクッションに突っ伏しながらうなだれる。
「隊長、暇なら手伝ってくださいよ。書類はまだまだあるんですから!」
そう言って机に向かいながら書類の整理をしているのは、独立部隊事務担当の
「飯島忍」だった。
「活動停止処分期間中だよ~。私が手伝ったらまたペナルティくらうじゃん~。」
足をバタバタさせながら言い返す。まったく、あの参謀長も頭が固い。体裁のために謹慎させるとか、今この瞬間にこの前みたいに害虫が防衛ラインを突破してきたらどうするんだ。
あーだ、こーだ言っていると何やら廊下から騒がしい足音が聞こえてきた。
「やっほー!由依奈~、戻ったよー!ってずいぶん荒れてるじゃん!久しぶりに派手にやったんだねぇ。今回は何日間?」
荒々しくドアを開き入って来たのはこの部隊の副隊長「篠宮恵莉」だった。
「三日間だよぉ~。ラウンジの使用許可は下りてるけど、外出も禁止だって~。無理!暇死ぬ!」
私は恵莉の方をチラッとだけ見て返事をする。
「三日かぁ。今回は少ないね!見習い時代は一週間なんてザラだったもんねぇ。」
バシバシと背中を叩きながら笑ってくる。私がこういう軽口を許すのは彼女くらいなものだろう。
恵莉は幼少期からずっと一緒で、何をするにも付いてきてくれた。独立部隊の副隊長だってそうだ。快諾してくれた。
「ま、私は由依奈のそういうところも含めてついて来てるんだけどさ。」
そう言うと恵莉はソファーの空いている所に座り、私の頭を撫でてくる。
「でも、もうちょっと周りの人のことも信用していいんじゃないかな?」
撫でてくる手を取り、起き上がる。背もたれにもたれかかり、深呼吸をする。
「信用ね。」
深呼吸がため息の変わるのがわかった。
「そこらの有象無象のことは信用出来ないけど、ここにいるみんなのことは信用してるつもりよ。」
その言葉に部屋全体が静まり返る。
「あー、もう湿っぽくなっちゃったじゃない!この話はやめやめ!」
大きく手を横に振ってその場の空気を変えようとする。そこである事を思い出した。
「あっ、そうだ!今日から新しい子が仮入隊するから、仲良くしてあげてね!」
その発言で確かに空気は変わったが、その場全員の顔が引きつっていた。あれ?おかしいな。ここは普通喜ぶ所じゃないか?
「由依奈。由依奈のそういうところは、ついていけないなぁ。」
恵莉は呆れた顔でそう言った。
「隊長。そういうことは事務処理担当の私に最初に言ってください。事務処理として、やることがあるんですから。」
忍が冷たい視線を送ってくる。
「だってぇ。最近忙しかったんだもん。特務あったし緊急事案あったし、昨日は急に呼び出されたし……」
言い訳をしていると、忍がまた口を開いた。
「そんなんだから私たち以外についてくる人がいないんですよ。本当に人徳がないですね。」
うわー、言われたー。私が気にしてること言ってきたー。
「能力部隊が戦闘力で階級が決まるからって、自分勝手に事を運ぶのは周りが大変なんですよ。特に事務が!」
忍がほおを引っ張りながら説教をしてくる。
「ひのぶ~。いひゃい~。」
手を離し、腕を組んでソファーに勢いよく座り込む。その顔には怒りと呆れが混ざっていた。
私は頬をさすりながら、今度は恵莉の方を見る。恵莉はやれやれと言うように肩をすくめていた。
「由依奈、今度はちゃんと報告しよう。大佐なんだからさ、そんなんじゃ周りに示しがつかないよ。」
また頭を撫でられ諭される。
「うん。そうだね。自分の意思で集まってくれて、ついて来てくれてるんだもんね。今度からちゃんとする。」
クシャクシャと撫でてくる手に身をまかせる。恵莉に撫でられるとなんか落ち着くんだよなぁ。
その場がなんとか丸く収まろうとした時、ドアの方からインターホンの音が聞こえた。
「あ、来たみたい。」
立ち上がり、ドアの方に向かおうとする
と恵莉が肩を掴み座らせる。
「謹慎中なんだから、ドアから由依奈の姿が見えちゃったらまずいでしょ。私が出るよ。座ってて。」
恵莉が歩き出し、ドアを開ける。するとそこには軍服を着た、茶髪で童顔の小さい少女が立っていた。
「失礼します!本日より仮入隊をさせて頂くと、偵察部隊所属、鮫島花音一等兵です!よろしくお願いします!」
「鮫島花音」そう名乗った彼女は、私が特務の時に手違いで遭遇した隊員だ。その時に彼女の中に光るものを感じた。だから招待した。
「鮫島さんね。由依奈が突然誘ってごめんね~。こっちもさっき知ったからさ、大したおもてなしも出来ないけど、入って。」
恵莉が促す。
「失礼します!」
花音は敬礼をし、元気よく挨拶をしてラウンジの中に入る。物怖じはしていないようだった。やっぱりしっかりしてるなぁ。見立ては間違ってなかったかな。
「由依奈は今謹慎処分中だから仕事は出来ないんだ。だから代わりに私が色々教えてあげるね。」
恵莉の言葉に花音は「ありがとうございます」と答えた。忍がお茶を淹れ花音の前のテーブルに差し出す。おお、なんて迅速な対応。さすが忍だ。
恵莉が花音に座る事を促す。花音はそれに応じてソファーに座る。キョロキョロと部屋の中を見渡す花音だったが、恵莉の言葉で真剣な顔になった。
「鮫島さんはさ、この独立部隊についてどんな事を思ってる?」
唐突な恵莉の質問に花音は顔色を変えることはなかった。
「独立部隊の詳しいところは分かりませんが、この部隊の方達は私が目指すべき高みにいる方であると思っております。」
その言葉を聞いて思わず口に含んだお茶を吹き出しそうになった。目指すべき場所?そんなふうに思っている人がいたのか。
少しだけ口から漏れたお茶を拭いていると、再び恵莉が口を開いた。
「目標ってことね。でも残念。私や由依奈を含め、ここにいる全員不適合者だから目標なんてものにはなれない。」
その言葉には妙な説得力があった。花音が不思議そうな顔をする。当然だ。表見向きには私が勧誘したことになっている。
しかし、勧誘は今回が初めてだ。なぜなら、それは……
「私たちは全員、由依奈のために死ぬ事を誓った人間。そして、能力者として軍事規約に引っかかる可能性を持った人間だから。」
驚愕の事実だろう。別に私が死ねといたわけじゃない。能力者として危険すぎる彼女らをより強い力で抑止する、と上層部に言って監視下に置いただけだ。
彼女らを救ったわけでもない。それが今では独立部隊などと言われている。まったく、烏滸がましい。
人であり、人でない者たちが集まった不適合者集団。それが独立部隊の本性だ。
突き放すように話を続ける恵莉。そしてそれを驚きながらも真剣に聞く花音。その光景はまるで私が恵莉に彼女らを保護すると言った時に似ていた。
一通りの説明をし終えそれでもなおこの勧誘を受けるか、恵莉が聞いた。すると花音は立ち上がり敬礼をし、声を張り上げてこう言った。
「偵察部隊、第六班所属‼︎鮫島花音‼︎独立部隊勧誘の件、謹んで受けさせて頂きます‼︎」
彼女の目には溢れんばかりの涙と、決意が浮かんでいた。
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
0と1
枢木柊瑠
SF
これは、ある未来の話。近年、発達しすぎた科学を人間たちが扱いきれず暴走の末、死者を出してしまうという痛ましい事故が多発していた。また、非行少年少女の多くが、過去に両親を失って経歴を持っていることから両親のいない寂しさから非行に向かうと考えた有識者の意見により、非行少年少女対策の一環として国がある制度を始めた。
「新しい制度」と向き合い戦う少年たちを描いたSF。
もし、近い将来AIが親の代わりをするといわれたら、あなたはどうしますか。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
桃華の戦機~トウカノセンキ~
武無由乃
SF
西暦2090年。日本は深海エネルギー結晶『エネラス』の発見によって資源大国となっていた。
しかしそれは、多くの争いを日本にもたらし。それに対抗する手段を日本に求めたのである。
そして、一人の少女の戦いが始まる。
作品解説:
巨大人型兵器×サイバーパンク×超能力な世界観(+美少女成分)を舞台にしたミリタリーファンタジー。
作者独自の作品群『rev.シリーズ』のWeb公開作品の第一弾。
一応SFジャンルにしていますが、正確には近未来ファンタジー作品です。SF科学考証とかあったもんじゃありません。
作者は、それほど世界情勢とかにも詳しくないので、いろいろ歪んだ世界観になっているかもしれませんのでご注意ください。
『星屑の狭間で』(対話・交流・対戦編)
トーマス・ライカー
SF
国際総合商社サラリーマンのアドル・エルクは、ゲーム大会『サバイバル・スペースバトルシップ』の一部として、ネット配信メディア・カンパニー『トゥーウェイ・データ・ネット・ストリーム・ステーション』社が、配信リアル・ライヴ・バラエティー・ショウ『サバイバル・スペースバトルシップ・キャプテン・アンド・クルー』に於ける、軽巡宙艦艦長役としての出演者募集に応募して、凄まじい倍率を突破して当選した。
艦長役としての出演者男女20名のひとりとして選ばれた彼はそれ以降、様々な艦長と出会い、知り合い、対話し交流もしながら、時として戦う事にもなっていく。
本作では、アドル・エルク氏を含む様々な艦長がどのように出会い、知り合い、対話し交流もしながら、時として戦い合いもしながら、その関係と関係性がどのように変遷していくのかを追って描く、スピンオフ・オムニバス・シリーズです。
『特別解説…1…』
この物語は三人称一元視点で綴られます。一元視点は主人公アドル・エルクのものであるが、主人公のいない場面に於いては、それぞれの場面に登場する人物の視点に遷移します。
まず主人公アドル・エルクは一般人のサラリーマンであるが、本人も自覚しない優れた先見性・強い洞察力・強い先読みの力・素晴らしい集中力・暖かい包容力を持ち、それによって確信した事案に於ける行動は早く・速く、的確で適切です。本人にも聴こえているあだ名は『先読みのアドル・エルク』
追記
以下に列挙しますものらの基本原則動作原理に付きましては『ゲーム内一般技術基本原則動作原理設定』と言う事で、ブラックボックスとさせて頂きます。
ご了承下さい。
インパルス・パワードライブ
パッシブセンサー
アクティブセンサー
光学迷彩
アンチ・センサージェル
ミラージュ・コロイド
ディフレクター・シールド
フォース・フィールド
では、これより物語が始まります。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
続き楽しみにしていました!
気持ちの描写とキャラクターの行動がとても分かりやすく文字にされていて、とても読みやすかったです!
早く次が読みたいと言いたいところですが…
無理されないようにご自愛ください!
あっと言う間に読み終えてしまいました(꒦ິ⌑꒦ີ)
毎回言葉運びに感動さえ覚えます☺️
そして作中にとても元気をもらえる言葉があって勇気が出ました!
続きを心待にしてます!
お体に気をつけてください!