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第190話:塩をくだちゃい...
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塩は恐らく人類が初めて遭遇した生物に欠かせない重要な栄養素の1つだろう...
我々の先祖が――まだ狩猟生活をしていた頃、狩った獲物の内臓や髄には生きていく中で必要程度の塩分が含まれていたので塩を補給する必要は無かった
我々が塩を求めだしたのは自身で食料生産し始める農耕を始めてからの事で塩の歴史は古く――ヨーロッパでは紀元前1000年頃のモノと思われる岩塩の採掘場跡が発見されている
またエジプト文明やメソポタミア文明といった四大文明が栄えていた頃には既に塩が常用されていた事が分かっていた。
古代ギリシャでは塩は共有する物という考えから友情の証として互いに送りあったり宗教的儀式として日本のように、お清めに使ったりしていたようだ
そして古代エジプトではミイラの製造など食品以外への塩の使用が行なわれていた
面白い事に古代ローマにおいてもギリシャと同じように塩は共有する物という考えから友情の証として互いに送りあったり宴会の場では塩が必ず置いて友情を示したそうだ
ゆえに客は塩を受け取る貝殻や銀の塩入れなどの塩入れを持参しなければならず客が塩を受け取る為の器を用意していなかった場合は主催者と仲良くしたくないと言う事かとトラブルの原因になった
このように古代ローマにおいて塩は礼儀作法の概念を生み出していたのだ
また古代ローマ帝国では上級軍人や上流役人にサラリー(給料)の語源となる塩を買う特別手当であるサラリウムが与えられている
ちなみに四大文明は大河川の近くで栄えた事は一般的にも広く知られているのは皆さんも知っているだろうが実は、こういった文明が栄えた背景には海や塩湖、岩塩鉱床など塩の生産地が近くにあったと言う共通性は地味な為か――あまり話題にされていない...
ちなみにウユニ塩湖があるペルーやボリビアを跨ぐインカ文明が栄えていた事も考えれば近くで塩がとれる事が文明の繁栄には必要な要件なのは想像に難しくだろう
更に――それぞれの文明では塩の生産地から可能な限り安全に塩を輸送する必要性から街道の整備が有力者によって重要視されていたようだ※それだけ重要なシロモノだった
他にも古代ローマでは自身の特権を守る為に塩の供給を人々に保証したり貴族が人々を懐柔する為にコモンソルトなるものを配給したりと当時の有力者達の苦労が偲ばれる
太古の昔より人々は塩を得る為に苦労してきたのだ。
現代人には想像も出来ないだろうが古代中国――かの有名な関羽の出身地とされている山西省にある通称【中国の死海】こと塩湖の運城湖では塩の利権を巡り長年の争いがあったと歴史書には記されている
また塩は昔から重宝されてきた調味料の1つでありカネのなる木でもあった。
一時期は金と同じ価値で取り引きされるなどの貴重品で実際にガーナ王国では黄金の産出地と言う事もあり塩と金の取り引きが頻繁に行われていたとの記録が存在している
【塩は国にとって重要な税収になる...】
古代より各国が塩の専売を始めたのも、この為だ
実際、朝鮮半島では900年代から1446年まで政府が塩の専売政策をとっていた
またインドではイギリス植民地時代に――かの有名なマハトマ・ガンジーが塩の専売に抗議して塩の運動なる抗議活動を起こしている
日本においても律令制の時代から租庸調の庸税として塩を徴収していたほか――江戸時代以降も藩によって塩の専売がおこなわれ各藩の貴重な財源となっていたようである。※有名どころでは赤穂浪士で有名な赤穂藩が塩の専売をしていたようだ
さらに明治時代には日露戦争の財源を確保するため政府は塩に税金を掛けようとしたが反対勢力の熾烈な抵抗で折衷案として塩の専売制を1905年から明治政府が行なっている
ちなみに中国では管仲の発案により鉄官と塩官と言う役職が設置され――これ以降、前漢の時代から実に2000年以上に渡って塩の専売を行なわれていて現在においても国有企業による専売という形をとっているようだ
そのような影響の為か・・・中国の歴史では制度を悪用し生活必需品である塩を高値で売りつけた歴代中国王朝に反発した有名人が多い――もともと塩の密売人だった三国志で有名な関羽を始め唐を崩壊させた黄巣の乱で有名で反乱分子の長を務めた黄巣など塩の密売人が多い...
古代ローマでも中国とは違い専売制は敷かなかったものの塩の価格を操作して軍事費を捻出していたようだ。塩の歴史は血の歴史と言っても過言では無いだろう...
恐らく、この世界でもそれは変わらない・・・今日は塩の製造を許してもらう為に塩の専売権を持っているラルカ公爵のいる――お隣の州都リヴォニアへとやって来ている
・・・っと言うのも――ケルダンで消費される塩の消費は、あまりにも莫大で現在、ケルダンではイオン交換膜などで塩分濃度を凝縮した鹹水から電気分解した時に水酸化ナトリウムと共に作られる塩素を使って飲料水を作っている他...
ソルベイ法などを用いてガラスの原料である炭酸ナトリウムなどを工業的方法で大量生産して工業用に使う塩酸などを得ている訳だが、この時にも大量の塩が必要になり
(※ソルベイ法・・・(食塩と石灰石を原料に炭酸ナトリウムを大量のエネルギーが必要となる電気分解を用いる事なく工場で大量生産できる製法・・・つまり安くて偉い!)1860年ベルギーの工業化学者であるエルネス=ソルベー氏によって発明され、原料としてアンモニアを用いることから別名――アンモニアソーダ法とも言う...)
その他にも――塩が必要になるのは上記の場合だけではなく食品や医薬品、石けんに皮の保存や――なめしにも使ったりするので塩が圧倒的に足りていない!
もちろん足りない分の塩をリヴォニアから購入したり増産を打診してきたが、それでも足りないのだ!!
「無論――塩の製造はケルダンで消費する分だけに留めます。ケルダン領は決して公爵殿下の収入源を脅かしたりしません。同じ国の上級貴族同士で潰し合うなど愚の骨頂ですから・・・」
「そのような事で国力が低下すれば、お互いに皇帝陛下からの心証が悪くなるだけでなく国内外の敵に付け入る隙を与え全員が破滅する事になるでしょう。」
「我々としましてはラルカ公爵殿下の領地である州都リヴォニアと協力し――お互いが経済的に豊かになれればと考えております」
ラルカ公爵の使用人から部屋に通されるとアユムは――いかに公爵の権益が脅かされずに経済派が大切にしている理念である【相互協力による経済発展】を自分が重要視しているのか?彼に説明した...
するとラルカ公爵は一切――懐疑な眼差しを向ける事も無く終始、熱心に聞く姿勢へと入る
恐らく以前カポン・ルーデルに押し付けられた河川整備や犯罪の温床だったスラムを立て直しオマケにリヴォニアも標的にしていたであろう犯罪者達を徹底的に叩き潰した立役者である信頼の積み重ねが彼にそうさせているのだろう...
当然ラルカ公爵はアユムの理知的な弁舌に『素晴らしい!!』と感動し自身の大切な利権であるにも関わらず塩の製造を彼に許してくれた!
「本当ですか?!ありがとうございます!さすがは公爵殿下!話が通じるお方で私めも嬉しゅうございます!さっそく宣誓書へサインを・・・私めが存命の内は決して公爵殿下のリヴォニアでの塩利権を脅かすような真似はさせません!御約束します!」
上級貴族にも関わらず痩せこけた老人だが見た目こそ漂浪としていて見窄らしいがこの男は決して無能ではない...
政務の方では見当違いな政策を行なう事から【無能公】と揶揄され人々から不評のラルカ公爵だが...
帝国崩壊後、亜人との三度にも渡る戦争によって経済的に破綻したユガンは【従来の戦争による経済を回す方法ではなく諸侯同士の協力によって経済を発展させるべきである】と各貴族の領地での通行料の減税または廃止など経済の方面での改革で頭角を現し自由都市同盟ユガンを今の形にまで前帝ユーリ皇と導いたのは他でもない彼である
何より他のブクブクと水風船のように膨張した体つきで豚のように醜く自分の地位を鼻に掛けて何かと他者に言いがかりを付けてくる貴族達と違って風格と言うか...
一種の品格すら感じさせる彼の雰囲気がアユムは好きだった。彼とは上手くやっていけそうだ。
ちなみに――その後、公爵の奥様も現れ『あら・・・貴方が特別名誉伯?夫から貴方のお聞きしてから――ずっとお会いしたいと思っておりましたのよ』と世辞を言われ『そうですか、悪い話でなければ良いのですが・・・夫人』と定例の返事を返しながら(高齢なのに随分と【※40代くらいの】若い奥様を貰ったやな...)と内心思ったのは内緒である
公爵夫婦との会談は終始――和やかだった。コーヒーまでご馳走になり歓談に花が咲く...
「お主が品種改良した果物や農作物の利用を広く開いてくれている事・・・ワシも含め小貴族たちも痛く感心しておるぞ」
公爵には――そうお褒めの言葉を賜ったが実情は違う...
経済派の小貴族を中心とした諸侯達が勝手に1ヶ月で穂を付ける穀物類や果物を、どうやったかは知らないが(きっと賄賂などの碌でもない方法だと想像...)栽培し始めたと言うのが本当の所である
自分ひとりの力で品種改良した訳ではないし全体の石高が上がるのであれば(まあ~ いいか)っと――しばらく見逃していたが...
もともと化学肥料を前提に改造されたモノなので苗が土地の栄養を吸い尽くしたりしないように無償で人員を送って有機肥料の作り方などを指南する用意があると告知したり必要であれば休耕地として土地を休ませる必要があると――つい最近は警告して回っている
けっして感謝されたい訳では無いのだが――しかし、どうも一部の貴族達から自身の地位を脅かしていると思われているのか?はたまた飛ぶ鳥を落とす勢いで儲けているのが悪いのか?保身や嫉妬心からか今だに敵視されているようなのだ・・・なんでや?
ちょうど話題に挙がった事もあり『その事ですが公爵殿下に、ぜひ御相談があるのです――何人かの小貴族が私めに言いがかりを付けておりまして甚だ困っている次第です・・・殿下から何とか収めてくださいませんか?』
するとラルカ卿は難しい顔をして『その事なら把握している・・・うーん...ワシの派閥の貴族なら言って聞くだろうが・・・何とかしてやりたいのは山々だが――しかし小貴族連合の諸侯だろう?奴らがワシの話を聞くかどうか...』
・・・っと色好い返事は貰えなかったのである!!えええー!!なんでやー?!!
公爵によれば・・・どうやら――ずっーと経済派の諸侯だと勝手に思っていたが俺と仲の悪い小貴族だちは主戦派でも経済派でもないらしい?!!
当然――小貴族連合と言う派閥など聞いた事もないアユムはポカーンとした様子で『小貴族連合・・・?』と反芻すると公爵は小貴族連合について補足してくれた。
彼の話によれば、どうやら小貴族連合とは主戦派と経済派に取り込まれたくない地方の小貴族たちが対抗する形で近年、結成された新興派閥らしい...
彼らは自身の領地における通行税や商品の流通間接税などで経済派と対立しており軍備についても自身の領地が他国と接していないのを好いことに経済的豊かさを優先させている為、自領の領民を軽視しておりその為――積極的な領民の保護(※大事にするとは言ってない!)を理念に掲げる主戦派とも仲が良いとは言えないようだ...
同じ国の貴族なので暴力沙汰は可能な限り避けなければならないが公爵でも、どうにもならないとなると――いよいよ打つ手がない...
そんな風にアユムが困り果てていると『そんな事より・・・』と公爵夫人が切り出したので(・・・俺にとっては、そんな事では片付けられないですけど?)と思いながらも――仕方なく夫人の話に耳を傾けると...
なんと!宮廷で仕えていたエクリア嬢がお休みで実家帰りしており『貴方、未婚なのよね?ウチの子なんて如何かしら?とても良い子なのよ』と娘さんを薦められてしまったではないか?!!なんでやーーー?!!
※第182話にて登場した宮廷メイドさんです
お、おのれぇぇえええ!!!自分のホームベースで勝負を仕掛けてくるとは卑怯なりぃぃい"い"い"!!!・・・い、いかん!俺は、まだ女遊びをしたいのに――こ、このままでは結婚させられてしまうぅぅう"う"う"!!!
その後――アユムは...
「いえ!私めのような醜男にはエクリアお嬢様のような、お美しい方は不釣り合いでごさまするぅぅーーーー"う"う"う"!!!」
「ど、どうしたサナイ?!・・・別にウチのエクリアが気に食わないのではないのだろう?」
うわぁぁぁあああ!!ラルカパパから無言の圧力まで仕掛けてくるとはぁぁあああ!!これは少々、失礼でも早急に脱出せねばぁぁあ"あ"あ"!!!
「あ"あ"あ"ーーー!!持病の病がぁぁーーー!!!これは急いで帰らねば公爵殿下に御迷惑が掛かってしまうーーー!!急いで帰られねばーー!!」
「まあ、それは大変ね。ウチのエクリアが介抱して・・・」
「い、いえ!!夫人のあまりのお優しさに悪かった体調が良くなりましたー!!!イヤ~!!体調が悪く感じたのは勘違いだったのかなぁ~?!!あ"あ"あ"ーーー!!!そ、そう言えば陛下から賜わった急用を思い出したので私めは、これで失礼しまするぅぅーーーううう!!!」
と公爵家族の機嫌を損ねる隙を与える間もなく!奇想天外のドン引きさせる作戦で急いで自身の屋敷へと戻るのであった...
我々の先祖が――まだ狩猟生活をしていた頃、狩った獲物の内臓や髄には生きていく中で必要程度の塩分が含まれていたので塩を補給する必要は無かった
我々が塩を求めだしたのは自身で食料生産し始める農耕を始めてからの事で塩の歴史は古く――ヨーロッパでは紀元前1000年頃のモノと思われる岩塩の採掘場跡が発見されている
またエジプト文明やメソポタミア文明といった四大文明が栄えていた頃には既に塩が常用されていた事が分かっていた。
古代ギリシャでは塩は共有する物という考えから友情の証として互いに送りあったり宗教的儀式として日本のように、お清めに使ったりしていたようだ
そして古代エジプトではミイラの製造など食品以外への塩の使用が行なわれていた
面白い事に古代ローマにおいてもギリシャと同じように塩は共有する物という考えから友情の証として互いに送りあったり宴会の場では塩が必ず置いて友情を示したそうだ
ゆえに客は塩を受け取る貝殻や銀の塩入れなどの塩入れを持参しなければならず客が塩を受け取る為の器を用意していなかった場合は主催者と仲良くしたくないと言う事かとトラブルの原因になった
このように古代ローマにおいて塩は礼儀作法の概念を生み出していたのだ
また古代ローマ帝国では上級軍人や上流役人にサラリー(給料)の語源となる塩を買う特別手当であるサラリウムが与えられている
ちなみに四大文明は大河川の近くで栄えた事は一般的にも広く知られているのは皆さんも知っているだろうが実は、こういった文明が栄えた背景には海や塩湖、岩塩鉱床など塩の生産地が近くにあったと言う共通性は地味な為か――あまり話題にされていない...
ちなみにウユニ塩湖があるペルーやボリビアを跨ぐインカ文明が栄えていた事も考えれば近くで塩がとれる事が文明の繁栄には必要な要件なのは想像に難しくだろう
更に――それぞれの文明では塩の生産地から可能な限り安全に塩を輸送する必要性から街道の整備が有力者によって重要視されていたようだ※それだけ重要なシロモノだった
他にも古代ローマでは自身の特権を守る為に塩の供給を人々に保証したり貴族が人々を懐柔する為にコモンソルトなるものを配給したりと当時の有力者達の苦労が偲ばれる
太古の昔より人々は塩を得る為に苦労してきたのだ。
現代人には想像も出来ないだろうが古代中国――かの有名な関羽の出身地とされている山西省にある通称【中国の死海】こと塩湖の運城湖では塩の利権を巡り長年の争いがあったと歴史書には記されている
また塩は昔から重宝されてきた調味料の1つでありカネのなる木でもあった。
一時期は金と同じ価値で取り引きされるなどの貴重品で実際にガーナ王国では黄金の産出地と言う事もあり塩と金の取り引きが頻繁に行われていたとの記録が存在している
【塩は国にとって重要な税収になる...】
古代より各国が塩の専売を始めたのも、この為だ
実際、朝鮮半島では900年代から1446年まで政府が塩の専売政策をとっていた
またインドではイギリス植民地時代に――かの有名なマハトマ・ガンジーが塩の専売に抗議して塩の運動なる抗議活動を起こしている
日本においても律令制の時代から租庸調の庸税として塩を徴収していたほか――江戸時代以降も藩によって塩の専売がおこなわれ各藩の貴重な財源となっていたようである。※有名どころでは赤穂浪士で有名な赤穂藩が塩の専売をしていたようだ
さらに明治時代には日露戦争の財源を確保するため政府は塩に税金を掛けようとしたが反対勢力の熾烈な抵抗で折衷案として塩の専売制を1905年から明治政府が行なっている
ちなみに中国では管仲の発案により鉄官と塩官と言う役職が設置され――これ以降、前漢の時代から実に2000年以上に渡って塩の専売を行なわれていて現在においても国有企業による専売という形をとっているようだ
そのような影響の為か・・・中国の歴史では制度を悪用し生活必需品である塩を高値で売りつけた歴代中国王朝に反発した有名人が多い――もともと塩の密売人だった三国志で有名な関羽を始め唐を崩壊させた黄巣の乱で有名で反乱分子の長を務めた黄巣など塩の密売人が多い...
古代ローマでも中国とは違い専売制は敷かなかったものの塩の価格を操作して軍事費を捻出していたようだ。塩の歴史は血の歴史と言っても過言では無いだろう...
恐らく、この世界でもそれは変わらない・・・今日は塩の製造を許してもらう為に塩の専売権を持っているラルカ公爵のいる――お隣の州都リヴォニアへとやって来ている
・・・っと言うのも――ケルダンで消費される塩の消費は、あまりにも莫大で現在、ケルダンではイオン交換膜などで塩分濃度を凝縮した鹹水から電気分解した時に水酸化ナトリウムと共に作られる塩素を使って飲料水を作っている他...
ソルベイ法などを用いてガラスの原料である炭酸ナトリウムなどを工業的方法で大量生産して工業用に使う塩酸などを得ている訳だが、この時にも大量の塩が必要になり
(※ソルベイ法・・・(食塩と石灰石を原料に炭酸ナトリウムを大量のエネルギーが必要となる電気分解を用いる事なく工場で大量生産できる製法・・・つまり安くて偉い!)1860年ベルギーの工業化学者であるエルネス=ソルベー氏によって発明され、原料としてアンモニアを用いることから別名――アンモニアソーダ法とも言う...)
その他にも――塩が必要になるのは上記の場合だけではなく食品や医薬品、石けんに皮の保存や――なめしにも使ったりするので塩が圧倒的に足りていない!
もちろん足りない分の塩をリヴォニアから購入したり増産を打診してきたが、それでも足りないのだ!!
「無論――塩の製造はケルダンで消費する分だけに留めます。ケルダン領は決して公爵殿下の収入源を脅かしたりしません。同じ国の上級貴族同士で潰し合うなど愚の骨頂ですから・・・」
「そのような事で国力が低下すれば、お互いに皇帝陛下からの心証が悪くなるだけでなく国内外の敵に付け入る隙を与え全員が破滅する事になるでしょう。」
「我々としましてはラルカ公爵殿下の領地である州都リヴォニアと協力し――お互いが経済的に豊かになれればと考えております」
ラルカ公爵の使用人から部屋に通されるとアユムは――いかに公爵の権益が脅かされずに経済派が大切にしている理念である【相互協力による経済発展】を自分が重要視しているのか?彼に説明した...
するとラルカ公爵は一切――懐疑な眼差しを向ける事も無く終始、熱心に聞く姿勢へと入る
恐らく以前カポン・ルーデルに押し付けられた河川整備や犯罪の温床だったスラムを立て直しオマケにリヴォニアも標的にしていたであろう犯罪者達を徹底的に叩き潰した立役者である信頼の積み重ねが彼にそうさせているのだろう...
当然ラルカ公爵はアユムの理知的な弁舌に『素晴らしい!!』と感動し自身の大切な利権であるにも関わらず塩の製造を彼に許してくれた!
「本当ですか?!ありがとうございます!さすがは公爵殿下!話が通じるお方で私めも嬉しゅうございます!さっそく宣誓書へサインを・・・私めが存命の内は決して公爵殿下のリヴォニアでの塩利権を脅かすような真似はさせません!御約束します!」
上級貴族にも関わらず痩せこけた老人だが見た目こそ漂浪としていて見窄らしいがこの男は決して無能ではない...
政務の方では見当違いな政策を行なう事から【無能公】と揶揄され人々から不評のラルカ公爵だが...
帝国崩壊後、亜人との三度にも渡る戦争によって経済的に破綻したユガンは【従来の戦争による経済を回す方法ではなく諸侯同士の協力によって経済を発展させるべきである】と各貴族の領地での通行料の減税または廃止など経済の方面での改革で頭角を現し自由都市同盟ユガンを今の形にまで前帝ユーリ皇と導いたのは他でもない彼である
何より他のブクブクと水風船のように膨張した体つきで豚のように醜く自分の地位を鼻に掛けて何かと他者に言いがかりを付けてくる貴族達と違って風格と言うか...
一種の品格すら感じさせる彼の雰囲気がアユムは好きだった。彼とは上手くやっていけそうだ。
ちなみに――その後、公爵の奥様も現れ『あら・・・貴方が特別名誉伯?夫から貴方のお聞きしてから――ずっとお会いしたいと思っておりましたのよ』と世辞を言われ『そうですか、悪い話でなければ良いのですが・・・夫人』と定例の返事を返しながら(高齢なのに随分と【※40代くらいの】若い奥様を貰ったやな...)と内心思ったのは内緒である
公爵夫婦との会談は終始――和やかだった。コーヒーまでご馳走になり歓談に花が咲く...
「お主が品種改良した果物や農作物の利用を広く開いてくれている事・・・ワシも含め小貴族たちも痛く感心しておるぞ」
公爵には――そうお褒めの言葉を賜ったが実情は違う...
経済派の小貴族を中心とした諸侯達が勝手に1ヶ月で穂を付ける穀物類や果物を、どうやったかは知らないが(きっと賄賂などの碌でもない方法だと想像...)栽培し始めたと言うのが本当の所である
自分ひとりの力で品種改良した訳ではないし全体の石高が上がるのであれば(まあ~ いいか)っと――しばらく見逃していたが...
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けっして感謝されたい訳では無いのだが――しかし、どうも一部の貴族達から自身の地位を脅かしていると思われているのか?はたまた飛ぶ鳥を落とす勢いで儲けているのが悪いのか?保身や嫉妬心からか今だに敵視されているようなのだ・・・なんでや?
ちょうど話題に挙がった事もあり『その事ですが公爵殿下に、ぜひ御相談があるのです――何人かの小貴族が私めに言いがかりを付けておりまして甚だ困っている次第です・・・殿下から何とか収めてくださいませんか?』
するとラルカ卿は難しい顔をして『その事なら把握している・・・うーん...ワシの派閥の貴族なら言って聞くだろうが・・・何とかしてやりたいのは山々だが――しかし小貴族連合の諸侯だろう?奴らがワシの話を聞くかどうか...』
・・・っと色好い返事は貰えなかったのである!!えええー!!なんでやー?!!
公爵によれば・・・どうやら――ずっーと経済派の諸侯だと勝手に思っていたが俺と仲の悪い小貴族だちは主戦派でも経済派でもないらしい?!!
当然――小貴族連合と言う派閥など聞いた事もないアユムはポカーンとした様子で『小貴族連合・・・?』と反芻すると公爵は小貴族連合について補足してくれた。
彼の話によれば、どうやら小貴族連合とは主戦派と経済派に取り込まれたくない地方の小貴族たちが対抗する形で近年、結成された新興派閥らしい...
彼らは自身の領地における通行税や商品の流通間接税などで経済派と対立しており軍備についても自身の領地が他国と接していないのを好いことに経済的豊かさを優先させている為、自領の領民を軽視しておりその為――積極的な領民の保護(※大事にするとは言ってない!)を理念に掲げる主戦派とも仲が良いとは言えないようだ...
同じ国の貴族なので暴力沙汰は可能な限り避けなければならないが公爵でも、どうにもならないとなると――いよいよ打つ手がない...
そんな風にアユムが困り果てていると『そんな事より・・・』と公爵夫人が切り出したので(・・・俺にとっては、そんな事では片付けられないですけど?)と思いながらも――仕方なく夫人の話に耳を傾けると...
なんと!宮廷で仕えていたエクリア嬢がお休みで実家帰りしており『貴方、未婚なのよね?ウチの子なんて如何かしら?とても良い子なのよ』と娘さんを薦められてしまったではないか?!!なんでやーーー?!!
※第182話にて登場した宮廷メイドさんです
お、おのれぇぇえええ!!!自分のホームベースで勝負を仕掛けてくるとは卑怯なりぃぃい"い"い"!!!・・・い、いかん!俺は、まだ女遊びをしたいのに――こ、このままでは結婚させられてしまうぅぅう"う"う"!!!
その後――アユムは...
「いえ!私めのような醜男にはエクリアお嬢様のような、お美しい方は不釣り合いでごさまするぅぅーーーー"う"う"う"!!!」
「ど、どうしたサナイ?!・・・別にウチのエクリアが気に食わないのではないのだろう?」
うわぁぁぁあああ!!ラルカパパから無言の圧力まで仕掛けてくるとはぁぁあああ!!これは少々、失礼でも早急に脱出せねばぁぁあ"あ"あ"!!!
「あ"あ"あ"ーーー!!持病の病がぁぁーーー!!!これは急いで帰らねば公爵殿下に御迷惑が掛かってしまうーーー!!急いで帰られねばーー!!」
「まあ、それは大変ね。ウチのエクリアが介抱して・・・」
「い、いえ!!夫人のあまりのお優しさに悪かった体調が良くなりましたー!!!イヤ~!!体調が悪く感じたのは勘違いだったのかなぁ~?!!あ"あ"あ"ーーー!!!そ、そう言えば陛下から賜わった急用を思い出したので私めは、これで失礼しまするぅぅーーーううう!!!」
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