クラス転移したけどリセマラされる前にバックレる

シューニャ

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第143話ハーフエルフ

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ハーフエルフ・・・人とエルフの両親から生まれた忌み子...
元の世界の多くの創作作品で不当に扱われる事が多い彼ら彼女らは悲劇的な人々として描かれる事が多い...

普通なら実際にはない創作での出来事で済む話しだが...
アユムの転移したこの異世界ではエルフが存在し実際に両耳が尖っている以外は遺伝子的な差異がないのだろうか?現実的な問題として存在していた

彼ら彼女らハーフエルフの特徴は人間よりも魔法の扱いに秀でており魔力の総量も人より多く男女問わず細身のエルフよりも肉体的面で優れている事が特徴だ
だが同時に、この特徴は彼ら彼女らを苦しめる原因ともなっている

魔法の側面では人間より優れている彼ら彼女らは人間側から見れば人より魔術的な制御能力に優れた――もしキレたら(何をしでかすか分からないかもしれない)恐ろしい存在であり...

元々――豊穣の女神アリアを擁するルクルサ神権国は旧ユガン帝国による亜人に対する最後の戦争で勝利した戦勝国と言う事もあって、この世界の戦略資源である現在もミスリルや魔石などの供給を、ほぼ独占していている

ゆえに単なる宗教国家としてだけではなく金融的・経済的取引において宗主国そうしゅこくとして亜人大陸に存在する人類国家に対し有利な立場を築いており、そこにエルフ特有の排他的で独善的で傲慢な気難しい気質も重なって現地の人間にとってエルフと言う人種は鼻持ちならない存在だ...

それに加えルクルサ神権国の国是こくぜとして清貧と謳っているにも関わらず富に対して異常なまでの強欲な執着を見せるエルフも少なくないので種族としては、どの亜人よりも人間から酷評されている...

その悪しきエルフ像から来る悪い先入観がハーフエルフのエルフというフレーズ(独り善がりで傲慢で排他的な拝金主義)から真っ先に想起され結果的に何も悪くないハーフエルフに対する人間側の差別を助長させているのが現状だ

こうして人間から恐れ嫌われているハーフエルフの彼ら彼女らだが、ではエルフの国では、どうなのか?と言えば程度の違いはあるとは言え、やはり嫌われていて前述した通り...

逆にエルフの国であるルクルサ神権国ではハーフエルフは細身なエルフより肉体的に優れてはいるものの魔術的才能の面ではエルフとしては落ちこぼれのため、より高度な集中力を要する肉体強化魔法は扱えない...

ゆえに肉体強化魔法を使える他のエルフからは中途半端な存在として弱く低く見られ侮られており馬鹿にされているのが普通だ

くわえて【他の低俗な文明と比べ自分達は高度な文明を築いた優良な人種である】と自負する者が多い彼らエルフからして見れば野蛮で非文明的な蛮族である人間の血が混ざっているハーフエルフは生理的嫌悪を生じさせる非常に汚らわしい存在だ

なおハーフエルフと人との子として生まれたクォーターエルフも同様の扱いをされるようで、悲しいかな――差別的扱いや迫害に耐えかねてルクルサ神権国の村から逃走したり追い出されたりするハーフエルフの話も、この異世界では珍しくない...

このようにエルフもハーフエルフに対して差別的扱いを正当化して混血であるハーフエルフは不当な扱いを受ける事が多い...
アメジスト色の瞳に――美しい亜麻色の髪が印象に残る少女・・・ハーフエルフであるミュセルも、そんな人生を送ってきた一人だ...

***

ミュセルは希望に胸いっぱいに膨らませ帝都ケルダンにやって来た。

彼女は元々――ネルレイア聖女国とルクルサ神権国に跨《また》がる大森林に住んで
いた。ミュセルの父は地元では有名な遊び人で御惚《おとぼ》けた人だったが、そんな所にエルフの母は惹かれたらしい

不幸にも色々あり二人は長生きしなかったが幸いにもミュセルは母に教わったエルフに伝わる薬学知識を生かして湿布や軟膏を作っては売る事で生計を立てて来られた
もちろん生活は決して楽ではなく...

エルフである母から作り方を教わった医薬品は重宝こそされたが不幸にもミュセルがハーフエルフである事が災いし買い取ってくれる所自体が絶対的に少なく――また買ってくれる者が居たとしても安い値段で買い叩かれてしまう事が多かった...

そのような苦しい生活をしている折り近隣の先々の町や村でミュセルが、いつものように自作した医薬品を売って日用品を買い足していると苦々しい表情で噂話をする町民や村人の姿が目につき会話が自然と耳に入ってくる...

初めはハーフエルフの自身の悪口ではないか?と恐々としていたミュセルだが町民や村人の話しの内容によると『つい最近ユガンの旧帝都ケルダンにて被差別民のビレネー人が良い生活をしている。敬虔な自分達は女神アリアを信奉しているのに世の中は不公平だ』と言う内容であった...

ハーフエルフである事もあり今まで大森林に籠もって来たミュセルだがビレネー人が色無しネズミと差別されている事は知っており彼女は衝撃を受けたのを覚えている

そんな噂話を聞いたミュセルは思ってしまった...

ビレネー人に居場所があるのならケルダンにはハーフエルフである自分にも差別されないかもしれない・・・不当な扱いをされない居場所があるかも知れないと...

心がおどった!そんな話を聞いては居ても立ってもいられなかった!
今までの思い出に後ろ髪を引かれながらも住んでいた家を引き払い盗賊に怯えながらも命からがらネルレイアから、こうしてケルダンに来るくらいは!




しかし現実は甘く無かった...
喉が渇き、お腹も減った彼女が露店で食べ物と水を買おうとした時――
それは起こった...

「うわぁ?!お前ハーフエルフか!」

旅用のフード付きコートから恐らく耳が見えたのだろう...
今まで笑顔で応対していたビレネー人の店主が、そのような声を挙げると『なんだと?!』と次々と人々が反応し『ハーフエルフですって』『なんて恐ろしい』『怖い・・・』と人々がミュセルを避けていく!

ミュセルは思った...
(そんな!どうして!)っと...

「お前のような半妖はんまに売ってやるモノなんかねぇ!!!」
「そうだ!!この街から出て行け!!」

人々の強烈な拒絶にミュセルは...

「い、いじめないで...」

目に涙をいっぱい溜めて逃げ出した...

嫌われ者ハーフエルフの自分も受け入れられるかもしれないと思ってしまい、ここケルダンへと来たのに...

ここも同じだった・・・来るべきではなかった...
両親と過ごした――あの思い出の家を出るべきではなかったのだ!

数時間前までは希望に胸を膨らませケルダン入りした彼女が見事に淡い幻像を打ち砕かれたのだ・・・当然と言える...

しかし帰ろうにも今まで貯めてきた路銀も底を尽きかけている...
もう家には帰れなかった...

???「ヘッヘッヘッ! 何かお困りのようで・・・」

そんな感じで――ミュセルがケルダンに来た事を後悔していると誰かに声を掛けられた。声のした方へ顔向けると...

「おっと?見ろよ、若いハーフエルフの女だぜ?」

「ゲッへへへ コイツはツイてる!つい最近、領主の取り締まりが厳しくって、そろそろ足を洗おうと思ってたが最後に一儲けできそうだな!」

住人に差別的感情を向けられたショックの余りケルダンを走り抜けた彼女は――いつの間にか、まだ区画整備もされていないボロボロの区画におりガラの悪い複数人の男達に前後を囲まれていたのだ!

「あぁぁ...」

持ち前の魔法と矢で戦えば結構強い彼女ではあるが・・・これまで受けた精神的苦痛の余りミュセルは絶望し――その場にヘタり込んでしまう...
もはや抵抗する気力すら彼女にはない...

「おっと?抵抗しないのか?まあ、その方が楽で良いんだけどよ」

ミュセルは、こうして犯罪組織の残党に連行されてしまったのであった...
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