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第136話:かわいい部下達...

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一方その頃のアユムは、というと、今日も魔導技術部門――主任研究員として開発に勤しんでいた。それと言うのも・・・この頃アユムは大忙しで、午前中にはヨルミネイトによる体術及び剣術の訓練。午後には領主としての書類業務――それを終えたら、こうして主任研究員として日進月歩の研究に励んでおり一切の暇が無い...

つい最近、ようやく石油の精製施設が完成したので、無圧ボイラーとアンモニア式・冷蔵庫を鋭意製作中である。

無論――無圧ボイラーとアンモニア式・冷蔵庫は旧庁舎・兼自宅で使う用だ
比較的――使い方が簡易な無圧ボイラーの方はヒータ缶体に大気開放タンクを設けた無圧ボイラーでなければ事故が怖く

冷蔵庫も代替フロンガスは、まだ合成して作れる段階ではない上に両方とも商業展開を狙っている訳でもないので扱いにくいアンモニアを冷媒ガスとして使おうと考えている

特に無圧ボイラーは欲しい...
寒冷なユガンの地で冷水で身体を清めるのはキツいのもあるが、しかも――つい最近は使用人達が持ち込んだダニ・ノミ・シラミそれを餌とする接吻虫ことサシガメさんまで襲来し、この頃――俺は大変ヒドイに遭っている!

ダニ・ノミ・シラミの最大の対処法は身体を清潔にする事だしダニ・ノミ・シラミを介して感染する感染症の危険もあるので、それを予防する為にも早急にシャワーか浴場が早急に必要だ!

体を清潔にする事は公衆衛生の観点から見えれば他の感染症の予防にもなるためケルダンにも公衆浴場を順次――設置する必要があるだろう...

公衆浴場に使う水の手配はボイラーを使って海水を蒸溜すれば良いし活性炭や土砂を使って汚れをしとって海水を電気分解して作った塩素を原料に塩素消毒でもすれば一日くらいなら使い回しても大丈夫なハズ...

問題は入浴した際に発生する汚水である。下水としてそのまま海に流してしまえばプランクトンの異常増殖によって赤潮が生じるだろう。そうなったらただでさえ食糧難のケルダンでの漁獲量が減少してしまいかねなかった...

そうなれば――お隣の州都リヴォニアのラルカ公爵にも迷惑をかけてしまいかねない相手の公爵の地位が怖いというのも勿論あるが、これから経済的に結びつく必要がある相手に、そんな迷惑を掛けてしまえば目も当てられない...

その為にも・・・



「つい最近、派遣されてきた――あの子には頑張って貰わないとなぁ~」



そうつい最近――俺の元にまた新しい部下が宮廷から派遣されて来た...

ケルダンの領主になった俺だが主任研究員として役職は継続して拝命しており元々――ケルダンで領主をするハメになったのもアーレ皇太子の健康を維持する為なので当然の結果と言えば当然なのだが...

新しい部下は甘栗色の髪が印象的なサラサという名前の少女で、なんと?!
彼女は俺の師匠だった――あのラインス女史を熱烈に尊敬していたらしく...

彼女も、またラインスの存命の頃に弟子に志願したのだが俺の時とは違い追い払われ、そのラインスが死んだと聞き途方に暮れていたところ俺の噂を聞き今度は俺から学びたいと来てくれたのだとか...

しかしラインスを尊敬していたと言う事で個人的には...

(あのラインスを尊敬しているなんて!・・・見る目のない子なんだ?!)
(えっー?!俺から学べる事なんて何も無いぞぉ?!俺がラインスの元で従事していた期間の事を知らないのか?!2ヶ月もねぇーぞ?!)

・・・っと!徒弟修行らしい事すら一切した記憶ないので丁重にお断りしたかったのだが――それも良いと言うので、とうとう断り切れず押し切られてしまった!

ちなみにサラサちゃんは、真面目で可哀想な境遇の人を見る思わず薄い空色の双眸を涙ぐませる心優しい、とても良い子なのだが如何《いか》せんポンコツなアホ子で...

先日も錬成室で今にも泣きだしそうな顔をしながら入って来たのでなだめながら事情を聴いたら単純な調合作業にも関わらず材料の分量を間違えて材料を無駄にしたり...

回復ポーションを作れたと喜んで持って来たのでラインスが使っていた使い捨てレンズもとい簡易魔道具で見てみると...

【回復ポーション(毒)HPが20秒1ポイントが減っていく・・・】

――っと、回復名とは名ばかりのポーションを作ってしまう天才天災的な子なのだ!キチンと分量通り作る俺としては自分では発見出来なかったので逆に凄いと思うが誰かが使わなくて本当に良かった...

サラサちゃん謹製の毒薬ポーションはちゃんと毒瓶用の瓶に詰め替えておきましたー!先生!

あの世のラインスに心の中で、そう敬礼し――ふざけているとサラサたんが任せた調査から帰ってきたようだ。さて、そろそろ真面目にやるか・・・いや!今までも真面目にやってきたんだけどね!!

さて当然だが――ここユガンの地にはヴァエカルというみずうみが存在する

かつて――ヴァエカル湖周辺に住んでいた獣人ルスリスの語で『豊かな命の湖』を意味する――この湖には、その名の通り遙か遠くのビレネー山脈から流れてくる雪解け水によって湖には2500種類以上の固有生物が生息しているらしい

ちなみに余談ではあるがヴァエカル湖で捕れるシロマス科の魚やチョウザメ?に似た生物から捕れるキャビアらしきモノはユガンでも珍味としてラーイ帝を初めとした皇族方も毎朝ヴァエカル湖から運ばれてくる鮮魚やキャビアを食すほどだ...

シロマスもキャビア――どちらの食材も貴重なモノなので庶民は食べる事は許されないが――かく言う俺も宮廷仕えていた頃に皇族の余りモノを食べていた近衛騎士の残飯であるシロマスの燻製を少しだけ頂いたが確かに癖がなく非常に上品な味わいの白身だった事を覚えている。

残飯とは言え・・・あれほど美味しいモノを――この異世界で食べた事がない。
風の噂によれば特に第二皇女ロナフェミア殿下は毎朝――朝食に白パンにキャビアをのせて召し上がれるとの事だったが皇族が食べるのも納得である...

思わず話しが逸れてしまったが上記の通りヴァエカル湖には豊かな生態系が広がっている。その秘密は水質の綺麗さにある。ヴァエカル湖の水質は飲用できるほど綺麗なのは海綿動物や藻やバクテリア・プランクトンなどが水質を浄化しヴァエカル湖の透明性に寄与しているからだ

そこでサラサにはヴァエカル湖からサンプルを採ってきて貰う為に北東部最大の街であるエルツーク経由で近くの街であるレストヴァンカに行ってきて貰った訳である

「さーて ちゃんとお使いは出来たかなぁ~♪お使いご苦労!」



***



いちお――彼女だけでは不安なので護衛を数名つけたのだが旅の話しを聞く限り目的は達した...ただ...

サラサに付けた護衛がビレネー人だったせいか差別されるわ...
護衛が現地人をすわ...
サラサは採ってきたサンプルを忘れそうになるわ...

散々な目にあったようだ...そのせいか?

サンプルは採れたから良いモノの現地の侯爵であるドル卿から謝罪と賠償を求める抗議文が届きましたぁぁあああ!
なにしてくれてんの?
君たち...

おかげで自分のポケットマネーから金貨を100枚ほど出すハメになったが・・・まあ、領主としての仕事や魔導技術部門の主任研究員として仕事もあるので直接――現地に赴けない以上とりあえずサンプルが採れただけ良しとしよう...

海綿動物は現地から何個か郵送してくれるので後は海藻から作った寒天でバクテリアやプランクトンを培養するだけである

下水処理施設をつくるぞぉー!こん畜生ーー!!

その後かわいい部下たちの活躍もあり、下水施設は無事完成に漕ぎ着けるが、その日アユムの双眸に浮かんだ涙の意味を知る者は少ない...
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