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第134話:変革の胎動

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旧帝都ケルダンの領主に任命されたアユムにとって――ここ数週間は目まぐるしい数週間になった。それもその筈・・・彼は今や廃墟のスラム街と化したケルダンの再開発事業や住宅転居の構想を自ら起ち上げ積極的に動いていたからだ

まず財源を確保したアユムがやった事は農業の為の郊外での土地選びと土作りと工場の建設・芸術家や技術者などへの後援活動だった...

特に農業に必要な土選びと土作りは重要だ...
元の世界における四大文明もしかり、その肥沃な大地を奪い盗ろうと他国や異民族が押し寄せて来て文明が栄枯盛衰えいこせいすいを繰り返すなど・・・歴史的に見ても肥沃ひよくな土と文明は切っても切り離せない...

経済学の父と呼ばれ人類の歴史上もっとも影響与えた順位30位のアダム・スミスも国富論において『養える人数が多ければやがて食料は余り、その余った食料のお陰で農業以外の産業が生まれる』と国が発展する上での農業の重要性だと説いている

そもそも、その土は何処どこから来るのか?皆は知っているだろうか?
俗にいう土とは砂・粘土・腐葉土が混ざったモノを指し――実は岩が時間の経過と共に風化し粘土、砂に変わったモノの事で――

ここで最終的に腐植ふしょく(動植物の死骸がバクテリアの働きにより分解される事により出来る腐葉土)が加わったモノを普段、我々は土と呼んでいるのだ...

土に種を植えれば収穫できそうな農業は一見――簡単そうにも見えるが...
しかし自然とは人の英知が及ばないもので土選び一つにしても『その土地が農業に向いた土なのか?そうでないのか?』で農作物の収穫量は大きく変わってくる

元の世界においても土には大きく分類して12種類の土が存在し最も耕作に向いているカナダやウクライナのチェルノーゼム・アメリカのプレーリー土・中国東北部の黒土・南米にもパンパ土などの黒い土――黒土こくどなどと呼ばれる肥沃な土が有名どころとして知られていて

日本でも特に農耕に向いており有名な土があり、これは【黒ぼく土(オーストラリアや日本にしかない土)】と呼ばれ日本の国土の30パーセントを占めている。

もちろん土だけでなく植物には栄養素も必要だ
窒素・リン酸・カリウムの他にカルシウムやマグネシウムなどのミネラルも必要となるのは元の世界でも周知事実であり少し農業を囓った事がある人なら大抵知っているだろう...

植物を育てる土壌は本来ならチェルノーゼムのような中性の土が望ましいが、しかし大抵は酸性の土が多く。雨などの影響によりカルシウムが流され土壌が酸性になってしまうと植物の根に有害なアルミニウムイオンが土から溶け出し植物に必要な栄養素を阻害してしまうのだ...

ゆえに穀物を育てる土壌にはアルカリ性を保つ為に植物を焼いた灰や貝を焼いた石灰などのカルシウムを含む灰を畑に撒き散らす必要があり、その他にも落ち葉や樹皮そして湿り気のある土など混ぜ週一週間おきに混ぜて3~6ヶ月で完成する腐葉土も必要となる

準備が整ったら堆肥や化学的に有機合成した窒素肥料または動植物の死骸及び堆肥などで作った堆肥をくわで元の土と、よくマゼマゼして――そこに種子を埋めればいい・・・畑の手入れや天候――個々の植物の特性にもよるが土選びを間違えていなければ多分それで大抵は豊作になるハズだ...


問題は・・・



「なんじゃ!こりゃー!!」

場所にもよるがケルダンから数10キロから数100キロ離れると耕作にむいた粘土集積土壌からひび割れ粘土質土壌に変わり...

そして農耕などに向かないポドゾルや泥炭土が永遠に続いている事だぁぁあああ!!


直接――現地の土を見て触ってきたので間違いない!
穀物を作りに向いている土の条件は保水性・排水性水はけのバランスに優れ通気性の良い事が重要で耕作に向いている土は通常――土自体がフカフカであり団粒構造という細かな土の粒子がくっついて細かい玉になる事で、これを可能にするのだが...

ケルダンの郊外の土壌は土が固く締まっており握っても固まりづらく大きな土の塊がゴロゴロしている――あるいは乾燥してボロッ・・・としているか――
――サラッ・・・サラッ!なのだ!

ホン・・・ト!ビックリだよぉぉおおおー!
保水性・排水性もあったもんじゃねぇぇえええ!!!
つまり耕作に向かない土地である!道理で木はおろか草もまばらな訳だよー!

ふつう都市は自給自足が出来ない・・・これは元の世界の都市でも変わらない。
だからこそ物流で食料を都市に運び何とかする必要があるのだが――しかし、これでは、しばらく一部の地域でしか農耕が出来ない!
農耕を初めても、すぐに収穫出来ないのはキツい...

いくらユガンが他の国より交易のしやすい自由都市同盟だからと言っても各領の道路を通行する際は通行料が掛かるし商品の流通にも流通間接税だって掛かるのだ!
だから商品が店頭に並ぶ頃には複数の利鞘りざやマージン手数料の事)で高額になるのでゆえに普通は自給自足が基本的とされている...

幸いケルダンの大多数は州都リヴォニアから出る残飯や魔物狩り・賤業をしているビレネー人の屠殺業で出る端肉やクズ肉・有志による炊き出しで食い繫いでいるが、いずれは改善する必要がある...

「現状、はっきり言って出来る事はない!よし!・・・諦めよう...」

まったく持って農業が出来ない訳でもない!
土作りや腐葉土・堆肥肥料の作りの仕方だって解っている!

・・・なに、大丈夫、大丈夫!どうにか、なるさ!・・・たぶん...

今のケルダンは以前ドワーフの国であるヴァレンド洞窟国からの技術支援を得て建設中である加熱炉と蒸留塔などの石油精製所に加えサルファ剤を精製する化学品工場もケルダンに建設中で空前の建設ブームだ!

既にいくつも手工業の工場も建設が完了しだい土器や木皿・衣料品なども製造する手筈を整えてある!

加えて港と造船所を作る為に最適な場所の選定だって始めているし芸術家や技術者への投資だって、のちのち良い効果を発揮していくだろう
一気にやり過ぎた感は否めないが...ケルダンの未来は明るーい!

ちなみに財源は使用用途は決められているし一度しか出ないが、ありがたい事に国から予算や給付金。

特別名誉伯へ任命された時に(皇帝の目もあった為か?それともメンツを気にしてか?知らないが)形式的に他の貴族から貰った祝い金などで賄えた。

しかも石油精製所と化学品工場に関してはアーレ皇太子の健康にも関わると言う事でケルダンの財政が軌道に乗るまで保守点検は国が賄ってくれるようだ...

こうして国からのバックアップもある――お陰もあって領地運営は少し無茶もできている。少しづつだが確実にケルダンでの物事が動いていっているのを全員が肌身で感じ始めていた...
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