クラス転移したけどリセマラされる前にバックレる

シューニャ

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第68話:視線が痛い!

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――自由ユガン都市同盟――
――州都リヴォニア――

宮廷内にあるサッカーコートが丸々一つ入りそうな大きな議事堂ぎじどう真井 歩さないあゆむは会議中、ひとり心のなかでもだえていた・・・別に性的な意味ではない...

どちらかと言えば本人は快感と言うよりは苦痛で思い悩んでいる...
と、言うのも・・・

「陛下。水害により内陸部に近い西では食料の麦が不足しております。一方、海岸側に近い東側の複数の村落そんらくでは例年より麦が豊作です。西では飢餓ききん深刻化しんこくかしておりますが、如何いかがいたしましょう?」

と誰かは知らないが官吏かんりのひとりがラーイ帝に会議の場で、そのように報告するとラーイ帝は...

「その件については、各々おのおのの領主に一任いちにんするのではダメなのか?認証官にんしょうかん?」と事務官じむかんらしき官吏に質問をぶつける...すると事務官らしき官吏かんりは・・・

「この問題は各領主の領土をまたがっている問題でございます。御自おんみずからが仲裁ちゅうさいに乗り出さなけれないのであれば商人あがりの強欲ごうよくな領主たちはお互いに反目はんもくし合い、いつまでも問題は解決しないでしょう。ですので陛下には、ご決断をたまわりたくあります。」

ラーイ帝は、どうすればいのか分からないのか?しばらく周囲をオロオロ見渡すと思ついたようにアユムの方を見て問うた。

「どうすれば良いと思う?サナイ?」

もちろんアユムは・・・心の中で悲鳴をあげながら絶叫した!!

(ちょ!おま・・・皇帝! えええーー!!いや!アンタ忘れてるかもしれないけど!元は亜人大陸では嫌われている邪神ヴィネスが召喚した勇者の一人だからね?!!ってか...)
(この国にえん所縁ゆかりもないもない余所者よそものの俺に聞くなよ!!周りの貴族の皆さんが『どこぞの馬の骨とも知らない若造が内政に口出しするとは...』って視線が痛ってんだよ!頼むから忖度そんたくしろよ...)

アーレ皇太子の一件以降。アユムはラーイ帝の覚えが良い・・・覚えめでたい人物として度々たびたびこの手の内政に関する助言をさせられていた。だが、周りの貴族の反応を見るに政治に口を出すアユムは目障りな存在のようだ。

現に出席している伯爵はくしゃく侯爵こうしゃくの地位を持っていると伝え聞いた上流貴族の皆さま方の表情は、とても厳しく固い――彼らは眉間みけんしわを寄せ、『誰だよコイツ・・・』みたいな顔をしているではないか...

アユムの一番の懸念けねんは、まさにそれであった...
アユムが先ほどから懸念けねんもだえ苦しんでいるのは・・・

(ま、まずい・・・このままでは、この中の誰かに...元の世界の怪僧ラスプーチンが辿たどったように 暗殺もとい殺されてしまうのではないか?)

と思っているからだった...

いちお、念のためにアユムなりに工夫しラーイ帝に自分の意見を伝え如何いかにもラーイ帝自身が意見を述べているようによそおっていたが、さすがに物事には限界があるようだ...

(既に、この場にいる人間の何人かはラーイ帝の意見イコールサナイアユムの意見だと勘づいている・・・なぜなら彼らは決して愚かではないのだから...)

アユムは(なにか早く別の手を打たなければ・・・)と思いつつ目下もっかの問題を解決する為に献策けんさくをラーイ帝に述べる...

「高貴なる貴族の皆様方!!若輩者じゃくはいもの恐縮きょうしゅくですが僭越せんえつながらわたくしめの意見を述べさせていただきます。」

とりあえず――この場ではこれ以上、隠し立てしても無駄だと考え、毅然きぜんとした態度で忌憚きたんのない意見を述べようと思いいたったアユムは・・・

「まず、この自由都市ユガンは商業都市です。民間の力を大いに活用できる政策を実行すればおのずと、この問題は解決するでしょう!まず新しく租税法そぜいほうを作り、それぞれの地方に同額の麦を拠出するのです。」

「はっ?・・・貴様!何を言い出すのだ!話を聞いていたのか!?飢饉が起こっている西から麦を拠出させるなど・・・」

その場に相席していた何人かは激昂げっこうし反発したがアユムは構わず話を続けた...

「そもそも!!――商業都市であるにも関わらず、このような問題が起こったのは麦の価格が安定していない事が原因です!!わたくしめの想像のいきを出ませんが恐らく各都市の商人たちは出来る限り儲けようと意図的に在庫を市場に流さず価格を吊り上げているのではないでしょうか?!これでは飢える人間が出てくるのは必然です!」

なんとなく勘づいている貴族もいたのだろう...
うなずき納得する者・・・自分の領の儲けが潰される可能性が出てきて内心焦ないしんあせり始めた挙句あげくお互いに目を見合わせる者・・・市場や経済にうとい他の連中は後者の方をうらめしそうにガン見したり憤慨ふんがいしたり、心の底から驚いた表情をしている様子が目に見てとれた...

「そこで陛下――ラーイ帝の名のもとに全土から麦を供出させるのです。麦の価格に倍の開きがあるのなら、その数に比例した量の麦の換金計算が容易よういになり東側で収穫され市場に存在しているハズの麦を国家が強制的に東から西へと流す事が出来るハズです!」

「これなら麦の市場は安定しお金を持っている西側の人々は助かります!しかし、これぽっちの施策しさくでは本当に困窮こんきゅうしている人々は救われません!不十分です!」

「なんと!!十分に思えるが・・・違うのか?」とラーイ帝は驚いた様子で言いながらアユムのいる方向を見たので(ああ・・・この人、本当に何も経済の事知らないんだな~)と愛想笑あいそわらいを向けながら「恐れながら陛下...本当に困窮している人民は、この程度の施策しさくでは飢えて死んでしまいます。」と述べ話を続ける...

「麦も買えない人々には昨年に収穫され蔵で眠っているハズの戦時用に備蓄びちくされた古い麦を無償で与えるべきです。備蓄びちくを買い替えれば戦時用の麦を新しくできますし領民りょうみんも貴族の皆様方の深い慈悲じひに感謝する事でしょう。」

「あと西側の農家は植える為の麦の種籾たねもみすら食い尽くしているでしょうから新しい麦種も与えるべきです!そうしなければ来年も彼らは飢えてしまいます!」

これだけの施策をして、ようやく人々は来年に備えられるのだ・・・

無論、当たり前の事を当たり前に言っただけなので元の世界のアニメや漫画のような拍手喝采はくしゅかっさいなど起きないが――これなら税率で麦の価格を調整するだけなので、あとの細かい事は地方の官僚たち指示し丸なげすればいい。比較的簡単に早期に問題を収束させる事が、この世界いせかいじんの人間でも出来るハズだ。

だが残念な事に福祉の概念が、まだ発達していないこの世界の異世界人一部の貴族たちからは「なっ!反対だ!無能な浮浪者ふろうしゃやしなう必要などない!」「そうだ!我々のもうけが少なくなるではないか?!」と反発された...

ビビったアユムは「わたくしめは自身の意見を述べただけなので...何はともあれ!最終的決定は陛下がなされるでしょう...」とラーイ帝に丸投げし逃げた!!

「では、サナイ殿が申した通りにはからっておけ。他にも議題が山積さんせきしておる。これ以上この問題に頭を悩ませたくない...」と幸いにも話しを切り上げてくれたので官吏かんりたちは「かしこまりました。陛下」と言い、控えていた場所に戻っていった。

他の貴族たちから恨みは買っただろうが、これで多くの人間が救われる事を祈りながら官吏かんりたちの控えている所で話しを詰め終わると他の面倒事をラーイ帝に押し付けられないように、ひっそり議事堂を後にした。
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