68 / 237
第68話:視線が痛い!
しおりを挟む
――自由ユガン都市同盟――
――州都リヴォニア――
宮廷内にあるサッカーコートが丸々一つ入りそうな大きな議事堂で真井 歩は会議中、ひとり心のなかで悶ていた・・・別に性的な意味ではない...
どちらかと言えば本人は快感と言うよりは苦痛で思い悩んでいる...
と、言うのも・・・
「陛下。水害により内陸部に近い西では食料の麦が不足しております。一方、海岸側に近い東側の複数の村落では例年より麦が豊作です。西では飢餓が深刻化しておりますが、如何いたしましょう?」
と誰かは知らないが官吏のひとりがラーイ帝に会議の場で、そのように報告するとラーイ帝は...
「その件については、各々の領主に一任するのではダメなのか?認証官?」と事務官らしき官吏に質問をぶつける...すると事務官らしき官吏は・・・
「この問題は各領主の領土を渡っている問題でございます。御自らが仲裁に乗り出さなけれないのであれば商人あがりの強欲な領主たちはお互いに反目し合い、いつまでも問題は解決しないでしょう。ですので陛下には、ご決断を賜りたくあります。」
ラーイ帝は、どうすればいのか分からないのか?しばらく周囲をオロオロ見渡すと思ついたようにアユムの方を見て問うた。
「どうすれば良いと思う?サナイ?」
もちろんアユムは・・・心の中で悲鳴をあげながら絶叫した!!
(ちょ!おま・・・皇帝! えええーー!!いや!アンタ忘れてるかもしれないけど!元は亜人大陸では嫌われている邪神ヴィネスが召喚した勇者の一人だからね?!!ってか...)
(この国に縁も所縁もないもない余所者の俺に聞くなよ!!周りの貴族の皆さんが『どこぞの馬の骨とも知らない若造が内政に口出しするとは...』って視線が痛ってんだよ!頼むから忖度しろよ...)
アーレ皇太子の一件以降。アユムはラーイ帝の覚えが良い・・・覚えめでたい人物として度々この手の内政に関する助言をさせられていた。だが、周りの貴族の反応を見るに政治に口を出すアユムは目障りな存在のようだ。
現に出席している伯爵や侯爵の地位を持っていると伝え聞いた上流貴族の皆さま方の表情は、とても厳しく固い――彼らは眉間に皺を寄せ、『誰だよコイツ・・・』みたいな顔をしているではないか...
アユムの一番の懸念は、まさにそれであった...
アユムが先ほどから懸念し悶え苦しんでいるのは・・・
(ま、まずい・・・このままでは、この中の誰かに...元の世界の怪僧ラスプーチンが辿ったように 暗殺もとい殺されてしまうのではないか?)
と思っているからだった...
いちお、念のためにアユムなりに工夫しラーイ帝に自分の意見を伝え如何にもラーイ帝自身が意見を述べているように装っていたが、さすがに物事には限界があるようだ...
(既に、この場にいる人間の何人かはラーイ帝の意見≒サナイアユムの意見だと勘づいている・・・なぜなら彼らは決して愚かではないのだから...)
アユムは(なにか早く別の手を打たなければ・・・)と思いつつ目下の問題を解決する為に献策をラーイ帝に述べる...
「高貴なる貴族の皆様方!!若輩者が恐縮ですが僭越ながらわたくしめの意見を述べさせていただきます。」
とりあえず――この場ではこれ以上、隠し立てしても無駄だと考え、毅然とした態度で忌憚のない意見を述べようと思い至ったアユムは・・・
「まず、この自由都市ユガンは商業都市です。民間の力を大いに活用できる政策を実行すれば自ずと、この問題は解決するでしょう!まず新しく租税法を作り、それぞれの地方に同額の麦を拠出するのです。」
「はっ?・・・貴様!何を言い出すのだ!話を聞いていたのか!?飢饉が起こっている西から麦を拠出させるなど・・・」
その場に相席していた何人かは激昂し反発したがアユムは構わず話を続けた...
「そもそも!!――商業都市であるにも関わらず、このような問題が起こったのは麦の価格が安定していない事が原因です!!わたくしめの想像の域を出ませんが恐らく各都市の商人たちは出来る限り儲けようと意図的に在庫を市場に流さず価格を吊り上げているのではないでしょうか?!これでは飢える人間が出てくるのは必然です!」
なんとなく勘づいている貴族もいたのだろう...
頷き納得する者・・・自分の領の儲けが潰される可能性が出てきて内心焦り始めた挙句お互いに目を見合わせる者・・・市場や経済に疎い他の連中は後者の方を恨めしそうにガン見したり憤慨したり、心の底から驚いた表情をしている様子が目に見てとれた...
「そこで陛下――ラーイ帝の名の下に全土から麦を供出させるのです。麦の価格に倍の開きがあるのなら、その数に比例した量の麦の換金計算が容易になり東側で収穫され市場に存在しているハズの麦を国家が強制的に東から西へと流す事が出来るハズです!」
「これなら麦の市場は安定しお金を持っている西側の人々は助かります!しかし、これぽっちの施策では本当に困窮している人々は救われません!不十分です!」
「なんと!!十分に思えるが・・・違うのか?」とラーイ帝は驚いた様子で言いながらアユムのいる方向を見たので(ああ・・・この人、本当に何も経済の事知らないんだな~)と愛想笑いを向けながら「恐れながら陛下...本当に困窮している人民は、この程度の施策では飢えて死んでしまいます。」と述べ話を続ける...
「麦も買えない人々には昨年に収穫され蔵で眠っているハズの戦時用に備蓄された古い麦を無償で与えるべきです。備蓄を買い替えれば戦時用の麦を新しくできますし領民も貴族の皆様方の深い慈悲に感謝する事でしょう。」
「あと西側の農家は植える為の麦の種籾すら食い尽くしているでしょうから新しい麦種も与えるべきです!そうしなければ来年も彼らは飢えてしまいます!」
これだけの施策をして、ようやく人々は来年に備えられるのだ・・・
無論、当たり前の事を当たり前に言っただけなので元の世界のアニメや漫画のような拍手喝采など起きないが――これなら税率で麦の価格を調整するだけなので、あとの細かい事は地方の官僚たち指示し丸なげすればいい。比較的簡単に早期に問題を収束させる事が、この世界の人間でも出来るハズだ。
だが残念な事に福祉の概念が、まだ発達していないこの世界の一部の貴族たちからは「なっ!反対だ!無能な浮浪者を養う必要などない!」「そうだ!我々の儲けが少なくなるではないか?!」と反発された...
ビビったアユムは「わたくしめは自身の意見を述べただけなので...何はともあれ!最終的決定は陛下がなされるでしょう...」とラーイ帝に丸投げし逃げた!!
「では、サナイ殿が申した通りに図らっておけ。他にも議題が山積しておる。これ以上この問題に頭を悩ませたくない...」と幸いにも話しを切り上げてくれたので官吏たちは「かしこまりました。陛下」と言い、控えていた場所に戻っていった。
他の貴族たちから恨みは買っただろうが、これで多くの人間が救われる事を祈りながら官吏たちの控えている所で話しを詰め終わると他の面倒事をラーイ帝に押し付けられないように、ひっそり議事堂を後にした。
――州都リヴォニア――
宮廷内にあるサッカーコートが丸々一つ入りそうな大きな議事堂で真井 歩は会議中、ひとり心のなかで悶ていた・・・別に性的な意味ではない...
どちらかと言えば本人は快感と言うよりは苦痛で思い悩んでいる...
と、言うのも・・・
「陛下。水害により内陸部に近い西では食料の麦が不足しております。一方、海岸側に近い東側の複数の村落では例年より麦が豊作です。西では飢餓が深刻化しておりますが、如何いたしましょう?」
と誰かは知らないが官吏のひとりがラーイ帝に会議の場で、そのように報告するとラーイ帝は...
「その件については、各々の領主に一任するのではダメなのか?認証官?」と事務官らしき官吏に質問をぶつける...すると事務官らしき官吏は・・・
「この問題は各領主の領土を渡っている問題でございます。御自らが仲裁に乗り出さなけれないのであれば商人あがりの強欲な領主たちはお互いに反目し合い、いつまでも問題は解決しないでしょう。ですので陛下には、ご決断を賜りたくあります。」
ラーイ帝は、どうすればいのか分からないのか?しばらく周囲をオロオロ見渡すと思ついたようにアユムの方を見て問うた。
「どうすれば良いと思う?サナイ?」
もちろんアユムは・・・心の中で悲鳴をあげながら絶叫した!!
(ちょ!おま・・・皇帝! えええーー!!いや!アンタ忘れてるかもしれないけど!元は亜人大陸では嫌われている邪神ヴィネスが召喚した勇者の一人だからね?!!ってか...)
(この国に縁も所縁もないもない余所者の俺に聞くなよ!!周りの貴族の皆さんが『どこぞの馬の骨とも知らない若造が内政に口出しするとは...』って視線が痛ってんだよ!頼むから忖度しろよ...)
アーレ皇太子の一件以降。アユムはラーイ帝の覚えが良い・・・覚えめでたい人物として度々この手の内政に関する助言をさせられていた。だが、周りの貴族の反応を見るに政治に口を出すアユムは目障りな存在のようだ。
現に出席している伯爵や侯爵の地位を持っていると伝え聞いた上流貴族の皆さま方の表情は、とても厳しく固い――彼らは眉間に皺を寄せ、『誰だよコイツ・・・』みたいな顔をしているではないか...
アユムの一番の懸念は、まさにそれであった...
アユムが先ほどから懸念し悶え苦しんでいるのは・・・
(ま、まずい・・・このままでは、この中の誰かに...元の世界の怪僧ラスプーチンが辿ったように 暗殺もとい殺されてしまうのではないか?)
と思っているからだった...
いちお、念のためにアユムなりに工夫しラーイ帝に自分の意見を伝え如何にもラーイ帝自身が意見を述べているように装っていたが、さすがに物事には限界があるようだ...
(既に、この場にいる人間の何人かはラーイ帝の意見≒サナイアユムの意見だと勘づいている・・・なぜなら彼らは決して愚かではないのだから...)
アユムは(なにか早く別の手を打たなければ・・・)と思いつつ目下の問題を解決する為に献策をラーイ帝に述べる...
「高貴なる貴族の皆様方!!若輩者が恐縮ですが僭越ながらわたくしめの意見を述べさせていただきます。」
とりあえず――この場ではこれ以上、隠し立てしても無駄だと考え、毅然とした態度で忌憚のない意見を述べようと思い至ったアユムは・・・
「まず、この自由都市ユガンは商業都市です。民間の力を大いに活用できる政策を実行すれば自ずと、この問題は解決するでしょう!まず新しく租税法を作り、それぞれの地方に同額の麦を拠出するのです。」
「はっ?・・・貴様!何を言い出すのだ!話を聞いていたのか!?飢饉が起こっている西から麦を拠出させるなど・・・」
その場に相席していた何人かは激昂し反発したがアユムは構わず話を続けた...
「そもそも!!――商業都市であるにも関わらず、このような問題が起こったのは麦の価格が安定していない事が原因です!!わたくしめの想像の域を出ませんが恐らく各都市の商人たちは出来る限り儲けようと意図的に在庫を市場に流さず価格を吊り上げているのではないでしょうか?!これでは飢える人間が出てくるのは必然です!」
なんとなく勘づいている貴族もいたのだろう...
頷き納得する者・・・自分の領の儲けが潰される可能性が出てきて内心焦り始めた挙句お互いに目を見合わせる者・・・市場や経済に疎い他の連中は後者の方を恨めしそうにガン見したり憤慨したり、心の底から驚いた表情をしている様子が目に見てとれた...
「そこで陛下――ラーイ帝の名の下に全土から麦を供出させるのです。麦の価格に倍の開きがあるのなら、その数に比例した量の麦の換金計算が容易になり東側で収穫され市場に存在しているハズの麦を国家が強制的に東から西へと流す事が出来るハズです!」
「これなら麦の市場は安定しお金を持っている西側の人々は助かります!しかし、これぽっちの施策では本当に困窮している人々は救われません!不十分です!」
「なんと!!十分に思えるが・・・違うのか?」とラーイ帝は驚いた様子で言いながらアユムのいる方向を見たので(ああ・・・この人、本当に何も経済の事知らないんだな~)と愛想笑いを向けながら「恐れながら陛下...本当に困窮している人民は、この程度の施策では飢えて死んでしまいます。」と述べ話を続ける...
「麦も買えない人々には昨年に収穫され蔵で眠っているハズの戦時用に備蓄された古い麦を無償で与えるべきです。備蓄を買い替えれば戦時用の麦を新しくできますし領民も貴族の皆様方の深い慈悲に感謝する事でしょう。」
「あと西側の農家は植える為の麦の種籾すら食い尽くしているでしょうから新しい麦種も与えるべきです!そうしなければ来年も彼らは飢えてしまいます!」
これだけの施策をして、ようやく人々は来年に備えられるのだ・・・
無論、当たり前の事を当たり前に言っただけなので元の世界のアニメや漫画のような拍手喝采など起きないが――これなら税率で麦の価格を調整するだけなので、あとの細かい事は地方の官僚たち指示し丸なげすればいい。比較的簡単に早期に問題を収束させる事が、この世界の人間でも出来るハズだ。
だが残念な事に福祉の概念が、まだ発達していないこの世界の一部の貴族たちからは「なっ!反対だ!無能な浮浪者を養う必要などない!」「そうだ!我々の儲けが少なくなるではないか?!」と反発された...
ビビったアユムは「わたくしめは自身の意見を述べただけなので...何はともあれ!最終的決定は陛下がなされるでしょう...」とラーイ帝に丸投げし逃げた!!
「では、サナイ殿が申した通りに図らっておけ。他にも議題が山積しておる。これ以上この問題に頭を悩ませたくない...」と幸いにも話しを切り上げてくれたので官吏たちは「かしこまりました。陛下」と言い、控えていた場所に戻っていった。
他の貴族たちから恨みは買っただろうが、これで多くの人間が救われる事を祈りながら官吏たちの控えている所で話しを詰め終わると他の面倒事をラーイ帝に押し付けられないように、ひっそり議事堂を後にした。
0
お気に入りに追加
542
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる