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第56話ラーイ・エル・ユガン
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余はユガン朝――第二三代皇帝ラーイ・エル・ユガン...
自由都市・・・ユガン同盟の皇帝...
我が60年の生涯 45年もの間 ユガンの象徴として、この地を統べた・・・
そうだ・・・余は象徴とはいえ皇帝の地位に君臨した!
だが...ついには・・・息子の運命を変えてやることは出来なかった...
この国の医療では直せない不治の病に我が皇太子は罹ってしまった...
見よ――おぞましき病に侵された我が息子を...
息子アーレの肌は白く血の血色がない・・・大抵は寝たきりか、椅子の上で窓の景色を見させてやるくらいしか出来ぬ...
日常生活では様々な些細な出血症状に悩まされ、少しの傷も許されぬ...
人生の大半を部屋で過ごさなければならぬ・・・
宮廷医たちからは『陛下、アーレ皇太子殿下は成人までは生きるのは難しいでしょう』と上申された。
諦めきれない余は聞いた・・・『・・・治らぬのか...』と...
帰ってきた答えは現代の魔法医学では難しいとの答えだった...
ああぁぁ神よ...なぜだ・・・なぜなのだ...
我が幼い息子が、なぜ、こんな思い病に苦しまねばならぬのだ...
息子が不治の病で生まれてきた事を聞いた我が皇后サレンドラは『わたくしの血統のせいでございます・・・陛下...申し訳ありません...』と塞ぎこみ後宮に引きこもってしまった...
三人の皇女たちは最初は動揺していたが、いまはなんとか落ち着いてサレンドラを励ましておるが...また、いつの日か元気なサレンドラに戻って欲しいと思う...
彼女たちには苦労をかける...
そう思いを巡らすしているとが皇帝の玉座の間に続く大きな両開きドアが開き
「陛下!やりましたぞ!見つけました!」
突然、血相を変えた封臣の一人と思われる人物が皇帝の玉座の間に転がり込んできた...
「何用だ?貴殿は、たしか・・・」
「ご無礼をお詫び申し上げます!陛下!私はラルカ公爵が摂政、リヴォニア市長カポン・ルーデルです!失礼かと思いましたが至急お伝えしたい事があり、この場に馳せ参じました!」
たしかリヴォニア市と言えば我が父君がユガン同盟発足と同時に、ここリヴァニアの州都として新たに建造した都市であり自由ユガン同盟の事実上の首都であった筈だ。
その公爵であるラルカ卿の封臣が無礼を承知できたのだ。それなりに重要な報告だろう。ここは、黙って聴くべきか...
「そうか、大儀であった。ルーデルよ。して、報告とは?」
カポン・ルーデルと名乗った男は息を切らせながらも、かなりの興奮状態で述べ始めた
「皇帝陛下に申し上げます!旧宮廷治癒術士・・・薬師エヴァ・ラインスの最後の弟子と思われる人物を発見致しました!」
「馬鹿な?!」
エヴァ・ラインスと言えば先々代の第二一代皇帝・・・
セフォラス帝から父君の時代に使えた伝説的な治癒術士!!
皇太子の病気を見てやって欲しくて『事情は話せないが宮廷に戻って来て欲しい』と請願し頑なに断られ続けておったが先週、顔を青くした封臣が、『エヴァ・ラインス殿が・・・その・・・先月亡くなったとの事です』と聴いて――
「これで、もう・・・余の息子は助からん...エヴァ・ラインス殿なら、もしや・・・と思うたが...」
余は、あまりの絶望感から封臣の眼前で思わず取り乱して落胆してしまった。
だが、ラインス殿は最後に希望を残してくれたようだ!!
「して、どうやって見つけた?!ルーデル!!詳細を聞かせよ!」
「はっ!我々は、なにか貴重な研究資料や帳簿がないか調べるため、ラインス殿の住まわれていた旧錬金術士ギルドの資料を全て差し押さえ押収し、その全てを調べました。これがその日記でございます!」
ルーデルが差し出した汚れのついた日記を近衛兵が受け取り朗読し始める・・・
『私は人生最後に最高の弟子を育てたかも知れない。彼は私が教えなくとも私の技術を次々と吸収し自分の知識として活かすできる稀な人材だ。彼が、その叡知を、いつの日か人類の幸福の為に使ってくれる事を私は切に願う。』
『技術は力・・・力は人を幸福にもすれば不幸にもする。彼には導く人間が必要だが私には、もう彼を導くだけの時間が残されていないのが悔やまれる...どうか神よ・・・彼が闇に染まらぬよう彼をお導き下さい...』
近衛兵は朗読を終えパタンと【エヴァ・ラインスの日記】を閉じるとルーデルに再び日記を返した...日記を受け取ったカポン・ルーデルは話を続けた
「確かに調べた所――不自然にも古い羊皮紙に新しいインクが使われている事が判明し新しく書かれたであろう氏名がございました。そこから最後に旧錬金術士ギルドから提出された記録を調べたところ登録された者と同名と思われる氏名を発見するに至りました。」
「私は陛下をぬか喜びさせないようにと長い間その者を内密に配下の者に命じ探しておりましたが、その氏名の人物は、なかなか見つからず半ば諦め懸けておりましたところ先日なんと!奇跡が起こったのでございます!宮廷役場の公示人より提出された特許出願に、その者の氏名と住所があったのです!」
なんと言う偶然・・・いや、奇跡か?!これぞ、女神アリアのお導きに違いない!!
「よう~やった・・・ようやってくれた...カポン・ルーデルよ...」
「のちに、ソナタに褒美を遣わす!・・・して、その人物は?!」
「なんと畏れ多い・・・微力ながら陛下のお役に立てたなら、この上ない喜びです...その人物については、すでに身柄を押さえて宮殿に移送している最中です。ご安心下さい。陛下。」
「素晴らしい!見事な手際だ!!家令長!」
畏まった様子の家令長が前に出て命令を待っていた...
「はい・・・陛下。」
「すぐに軟禁する為の部屋を用意せい!」
「かしこまりました。陛下」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
帝歴293年――四世紀末期・・・
のちに、この年は平和な時代が終わり告げる年であると共に
激動の時代の始まりとなる年となる...が、誰も
まだその事を知らない...
自由都市・・・ユガン同盟の皇帝...
我が60年の生涯 45年もの間 ユガンの象徴として、この地を統べた・・・
そうだ・・・余は象徴とはいえ皇帝の地位に君臨した!
だが...ついには・・・息子の運命を変えてやることは出来なかった...
この国の医療では直せない不治の病に我が皇太子は罹ってしまった...
見よ――おぞましき病に侵された我が息子を...
息子アーレの肌は白く血の血色がない・・・大抵は寝たきりか、椅子の上で窓の景色を見させてやるくらいしか出来ぬ...
日常生活では様々な些細な出血症状に悩まされ、少しの傷も許されぬ...
人生の大半を部屋で過ごさなければならぬ・・・
宮廷医たちからは『陛下、アーレ皇太子殿下は成人までは生きるのは難しいでしょう』と上申された。
諦めきれない余は聞いた・・・『・・・治らぬのか...』と...
帰ってきた答えは現代の魔法医学では難しいとの答えだった...
ああぁぁ神よ...なぜだ・・・なぜなのだ...
我が幼い息子が、なぜ、こんな思い病に苦しまねばならぬのだ...
息子が不治の病で生まれてきた事を聞いた我が皇后サレンドラは『わたくしの血統のせいでございます・・・陛下...申し訳ありません...』と塞ぎこみ後宮に引きこもってしまった...
三人の皇女たちは最初は動揺していたが、いまはなんとか落ち着いてサレンドラを励ましておるが...また、いつの日か元気なサレンドラに戻って欲しいと思う...
彼女たちには苦労をかける...
そう思いを巡らすしているとが皇帝の玉座の間に続く大きな両開きドアが開き
「陛下!やりましたぞ!見つけました!」
突然、血相を変えた封臣の一人と思われる人物が皇帝の玉座の間に転がり込んできた...
「何用だ?貴殿は、たしか・・・」
「ご無礼をお詫び申し上げます!陛下!私はラルカ公爵が摂政、リヴォニア市長カポン・ルーデルです!失礼かと思いましたが至急お伝えしたい事があり、この場に馳せ参じました!」
たしかリヴォニア市と言えば我が父君がユガン同盟発足と同時に、ここリヴァニアの州都として新たに建造した都市であり自由ユガン同盟の事実上の首都であった筈だ。
その公爵であるラルカ卿の封臣が無礼を承知できたのだ。それなりに重要な報告だろう。ここは、黙って聴くべきか...
「そうか、大儀であった。ルーデルよ。して、報告とは?」
カポン・ルーデルと名乗った男は息を切らせながらも、かなりの興奮状態で述べ始めた
「皇帝陛下に申し上げます!旧宮廷治癒術士・・・薬師エヴァ・ラインスの最後の弟子と思われる人物を発見致しました!」
「馬鹿な?!」
エヴァ・ラインスと言えば先々代の第二一代皇帝・・・
セフォラス帝から父君の時代に使えた伝説的な治癒術士!!
皇太子の病気を見てやって欲しくて『事情は話せないが宮廷に戻って来て欲しい』と請願し頑なに断られ続けておったが先週、顔を青くした封臣が、『エヴァ・ラインス殿が・・・その・・・先月亡くなったとの事です』と聴いて――
「これで、もう・・・余の息子は助からん...エヴァ・ラインス殿なら、もしや・・・と思うたが...」
余は、あまりの絶望感から封臣の眼前で思わず取り乱して落胆してしまった。
だが、ラインス殿は最後に希望を残してくれたようだ!!
「して、どうやって見つけた?!ルーデル!!詳細を聞かせよ!」
「はっ!我々は、なにか貴重な研究資料や帳簿がないか調べるため、ラインス殿の住まわれていた旧錬金術士ギルドの資料を全て差し押さえ押収し、その全てを調べました。これがその日記でございます!」
ルーデルが差し出した汚れのついた日記を近衛兵が受け取り朗読し始める・・・
『私は人生最後に最高の弟子を育てたかも知れない。彼は私が教えなくとも私の技術を次々と吸収し自分の知識として活かすできる稀な人材だ。彼が、その叡知を、いつの日か人類の幸福の為に使ってくれる事を私は切に願う。』
『技術は力・・・力は人を幸福にもすれば不幸にもする。彼には導く人間が必要だが私には、もう彼を導くだけの時間が残されていないのが悔やまれる...どうか神よ・・・彼が闇に染まらぬよう彼をお導き下さい...』
近衛兵は朗読を終えパタンと【エヴァ・ラインスの日記】を閉じるとルーデルに再び日記を返した...日記を受け取ったカポン・ルーデルは話を続けた
「確かに調べた所――不自然にも古い羊皮紙に新しいインクが使われている事が判明し新しく書かれたであろう氏名がございました。そこから最後に旧錬金術士ギルドから提出された記録を調べたところ登録された者と同名と思われる氏名を発見するに至りました。」
「私は陛下をぬか喜びさせないようにと長い間その者を内密に配下の者に命じ探しておりましたが、その氏名の人物は、なかなか見つからず半ば諦め懸けておりましたところ先日なんと!奇跡が起こったのでございます!宮廷役場の公示人より提出された特許出願に、その者の氏名と住所があったのです!」
なんと言う偶然・・・いや、奇跡か?!これぞ、女神アリアのお導きに違いない!!
「よう~やった・・・ようやってくれた...カポン・ルーデルよ...」
「のちに、ソナタに褒美を遣わす!・・・して、その人物は?!」
「なんと畏れ多い・・・微力ながら陛下のお役に立てたなら、この上ない喜びです...その人物については、すでに身柄を押さえて宮殿に移送している最中です。ご安心下さい。陛下。」
「素晴らしい!見事な手際だ!!家令長!」
畏まった様子の家令長が前に出て命令を待っていた...
「はい・・・陛下。」
「すぐに軟禁する為の部屋を用意せい!」
「かしこまりました。陛下」
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帝歴293年――四世紀末期・・・
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