クラス転移したけどリセマラされる前にバックレる

シューニャ

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第50話:坂下まりか

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「さーりん・・・」

ライネ連合国領土――他の二人が焚き火を囲んで革製の寝袋で熟睡している・・・星々輝くカラカネ平原の少し小高い丘で、ひとり見張りにたった坂下まりかは小さな岩に腰掛けて死者の名を悼むように呟いた・・・

夜の星の光というものは、どうしてこうも死者への思いおこさせるのか...

忘れもしない・・・彼と、はじめて出会ったのは一年と半年前だった。地元の進学校では入学式の新入生の挨拶は入学試験の首席がおこなうのが毎年の通例だった。当然、新入生の挨拶は自分がおこなうものだとばかり思っていたので彼の名前が読み上げられた時は、とてもビックリしたものだ

自分に言うのもおかしいけど、あたしは常にナンバーワンだった。
幼年学校から中学校まで首席!運動神経も抜群!ついでにスタイルも抜群!
かわいい顔も一位!ファッションセンスも一位!笑顔は、もっと一位!

(誰も一生、あたしの前に立つことなんて、あーりえないしょ!)

だから初めて自分の前に立った彼に興味が尽きなかった!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ねぇ!ねぇ!ねぇ!ねぇ!さーりん!さーりん。今まで何処どこに住んでたの?!」

「?!いや、その~? 中学校から横須賀?」

「あははははは!なんで、さーりんが疑問形なのさ!ちょー面白い!」
「で?中学校からって・・・?その前は?」

「ロードアイランド州・・・」

「は?へぇ?ろ、ろーど愛ランド臭・・・?」

「いや・・・勝手に臭そうな名前に脳内変換しないでくれないかな?」

「あー ごめん!ごめん!で、それ、どこ?ソープランドみたいな名前だけど?」

「そう、そう、川崎の風俗街に・・・って、なんでやねん・・・」
「ロードアイランドは売春街じゃなくて、アメリカにあるよ。」

「アメリカ?! えっ?!さーりんってハーフさんなの?!」

「いや、ハーフじゃないよ。オヤジは日系三世だし母さんは横須賀の出身ってだけ・・・ほら、カレーにカレー粉を足してもカレー味にしかならないだろう?日本人に日系人の血を足してもアメリカ人にはならないよ。」

「あはは!! なに、その例え!独特すぎるんですけど~!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

彼は、とてもユニークで面白かっただけでなく気も効いた・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ほい、ハサミ・・・」

「ありがとう!さーりん!なんで、ハサミが欲しいってわかったの?!」

「ほい、のり・・・」

「?!」

「ほい、ホットミルクティー・・・」

「さーりんって、もしかして・・・あたしのストーカーさん?」

「いや、違うけど・・・?だってホットミルクティーが飲みたそうな顔してたじゃん・・・」
「あっ・・・嶺山さんがホッチキスが欲しそうな顔をしてる・・・」

「?! それって、どんな顔さ?!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

普段は無口だけど話してみると、けっこう話しやすい奴・・・
あたしは結構、彼が好きだったのかもしれない...

でも、もう彼と話すことは出来ない。恐らく彼は死んでしまっただろう・・・

奇しくも彼と最後に話したのは私だった・・・なぜ、あの時・・・
わたしは、彼の奇行を止められなかったのだろう...

それを今でも悔やんでいる・・・

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「申し訳ありません。兵たちは彼の捜索に最善を尽くしたのですが・・・これ以上の捜索活動は危険です。諦めましょう・・・」

「そんな!でも、さーりんは!真井は絶対に生きてるよ!」

「お気を確かに、勇者殿。突然、仲間を失い心中お察し申しあげるが魔王軍が迫っているのです。他の勇者さまのお話を聞く限りサナイという人物は変わり者だったお様子・・・あのような奇行を普段からしておられたのでしょう?」

「そのような人物の為に部下たちをこれ以上危険に晒せません!心苦しいですが、どうぞご理解頂きたい。さあ、あなた様も早く馬車へ」

そう言ってユニオン近衛騎士団長のラガンさんが最後の引きあげ用の馬車に、あーしを押し込んだ・・・

「さーりん・・・」

「坂下さん。私も同じ気持ちよ? でも、これ以上、彼一人の為に多くの人が危険に晒されるのは違うと思うわ・・・残念だけど彼の事は諦めましょう?」

普段は怒られてばかりだったが、その時ばかりは嶺山紗弓ことサユミンが優しい声で慰めてくれたのを今でも覚えている

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

きっと、あの時だ――

(あたし、さーりんのこと、ひとりの男の子として好きだったのかな・・・)

なんにせよ、彼の死んでしまった今では恋心だったのか確かめようがない...
いつか、あたしにも彼以上に好きな男の子が現れるだろう・・・だけど...
それは、いつだろうか?

「あっ・・・」

異世界にもホタルがいるようだ・・・
剣の鞘に止まるホタルが幻想的なキレイな光を灯している

そういえば、聞いたことがある
ホタルは死者の魂の光だと...

(さーりんが会いに来てくれたのかな。)

そう思わずには、いられない夜であった・・・・
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