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第36話閑話 円卓の会議2

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「まさか、勇者のひとりが犯罪を起こすとは・・・」

苦々にがにがしい表情で、そう言葉を発したのは聖アリュレイン王国アッパス一六世であった

「確かなのですか?グレイン?」

アッパスの本名ほんみょうは【アッパス・グレイン・ヴィ・アリュレイン】と言うが大抵たいていの者がアリュレイン一六世王としか呼べない。王に上から目線で、このような口を聞けるのは一人しかいなかった・・・

「シーザー帝国は、そう言ってきている・・・ヴィネス殿」

女神ヴィネスは頬に手を当て「あら?困りましたわ~」と演技染えんぎじみた仕草しぐさで考え込む・・・王の幼い頃からヴィネスの容姿は変わっていない・・・彼女は悠久ゆうきゅうときを生きる神族だからだ。ゆえに定命じょうみょうの者からあがたてまつられている・・・みな人の何千倍も生きる彼女の経験からくる答えが欲しいのだ。

(人はみな失敗を恐れる・・・だからこそ正しい道筋を示してくれる指標が欲しいのだ...)

失敗しなければ、より多くのモノを効率的に得られる。成功すれば、その成果を次の挑戦へと回せる・・・さらに成功すれば、また多くのモノを得られ取り分が、より多くなる...

それはアリュレイン王であるアッパスと言えども例外ではなかった。いや!王という立場ゆえ尚更なおさら失敗する訳にはいかないのだ...まつりごとつかさど為政者いせいしゃにとっては失敗とは〈良くて自分の死〉〈悪くて多くの国民の死〉更に悪いと国そのものが無くなるのだ!地図から消えるなど一番あってはならない!ゆえに失敗は許されない...

(無能として後世に語られたくはないモノだ・・・)

アッパスがひとり頭を抱えているのを知ってか知らずか女神ヴィネスが口を開く

「まとまりました...さて、確かに勇者さまのおこないは我々にとって好ましくない事ですが、だからと言って戦力を減らせる状況じょうきょうでもありません。もし、召喚した勇者を罰すれば兵の士気にも影響を及ぼすだけではなく民草もそんな勇者を召喚した我々を非難し出すでしょう。」

「幸いにも使者の報告書を読む限りでは勇者さまのおこなわれた犯罪は婦女暴行に衛兵の殺傷程度・・・これは大事の前の小事です。大した事件ではないという認識では帝国とも一致しているようですから事件自体は大した問題ではないでしょう。」

「しかし、シーザー帝国は我々の同盟国・・・何もしないと言うのもマズいですが、謝罪するという訳にもいきません...シーザー帝国は我々にけ込むチャンスと考えているからこそ、普段はわざわざ取り合わない地方で起きた軽犯罪を我々に報告して来たのでしょう。」

「よって、我々の採るべき手段は『謝罪はせずにまとまった金銭を支払う』というのが最善の策だと思いますが、それで良いですね?皆さま方・・・」

と、女神ヴィネスが同調するように脅すような視線を周りにおくる!

北の亡国 ユニオン ジャックセロン一三世

中央の聖国 アリュレイン アッパス一六世

中央部東側 ゲレネ工業国 クラレット都市長

中央部南側 ライネ連合国 ルフレッド代表

南の大国 マグナス魔法国 メルヴェイ首席

北南の法国 サラネ法国 ヘイデリック教皇

南西の軍事大国 サイラス強国 ユンヴァロス独裁官

東の大公国 カラナス公国 クラレット大公

北東の大国 ナイナス龍騎士国 クライアス騎士団長

南東の農業国 ルモーネ農業国 イブラッド都市長

彼らは各国のトップである。

「しかし、かの帝国は同盟国とはいえ、亜人大陸を隔てるビレネ―山脈一帯を牛耳る国・・・素直に納得するでしょうか?」

「心配する事はないのではないか?イブラッド都市長。シーザー帝国は現在、愚かにも同じ人間の王国であるエレンダ王国と戦争中なのだろう?金銭はいくらあっても足りないくらいだと思いますぞ。シーザーは現在、奴隷兵を使わねばならぬくらい戦力が低下していて、つい最近の戦闘でもエキスバン子爵率いる軍がエレンダ王国の騎士団一つに大敗を喫したと聴きおよびましたぞ?」

ルモーネ農業国のイブラッド都市長の憂慮ゆうりょをクライアス騎士団長が優しく一蹴いっしゅうする。

「そうなのですか?私は武官ではないので作物の収穫や新たな耕作地での種植えなどの指示で、そのへんの軍事には疎いのですが・・・」

「ハハハ!貴国は、アナタがトップで大丈夫か?!まあ、気にする事はない。一騎士団に大敗を喫するような国など恐れるに足りませんからな!我が国の竜騎士たちが突き回せば、すぐに逃げていきましょうぞ。ガハハハ!!」

クライアス騎士団長がイブラッド都市長の背中をガシガシ叩く!

「頼りにしてます・・・痛いのですが?」

クライアス騎士団長がイブラッド都市長の様子を見ていたゲレネ工業国のクラレット都市長とライネ連合国のルフレッド代表が睨み合う・・・

「普通、隣国と言うものは仲が悪いハズですが・・・」

「うむむ・・・・」

ふたりのあいだには、まるで火花が散っているようである。

「大丈夫かの?・・・小奴こやつらに任せておいて・・・」

彼らの様子を見てユニオン王は一抹の不安を抱いたのは、女神ヴィネス以外誰も知らない・・・
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