クラス転移したけどリセマラされる前にバックレる

シューニャ

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第28話;閑話:薬師のラインス

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二階から遠ざかる人生最後の弟子となるであろう青年の背中を見送る...

「やれやれ...若造が・・・最後まで騒がしい子だったよ。アンタは...」

アタシゃ揺り椅子に腰を降ろしパイプに火を入れ思いに耽る...今まで多くの弟子を育ててきたがアレほど優秀で飲み込みが早くて意欲的な奴はいなかった。あの青年はきっと歴史に名を残す偉業を成すだろう...

「アタシゃ……人生の最後に純金の玉子を育てたかもしれない...長生きはしてみるもんだねぇ...」

お陰で久しぶりの充足感が胸に満ちている...

アタシゃ薬師のラインス・・・今では過去の栄光も影すら見えない錬金術師ギルドのギルド長にして元ユガン帝国皇帝の主治医まで務めた治癒術専門の宮廷術師・・・

今では見る影もないが、その昔・・・ユガン帝国は皇帝による優れた統治により栄華を誇った帝国の中の帝国・・・本物の帝国だった。対外戦争を起こせば不敗を誇る無敵の軍・・・洗練された兵器と兵士たち・・・帝国ユガンの名前を聞けば、どのような国家も震え上がり各国の諸侯は慈悲を乞うたものだ...

この錬金術師ギルドだって最盛期には数え切れない数の錬金術士が所属していたものだ・・

だが時代は流れ・・・今の統治は皇帝ではなく大商人や豪商たちが牛耳っている...皇帝は彼らに特権を与える英断を下し彼らの先進的な取り組みのお陰で確かに国は豊かになったが、同時に皇帝の絶対的な権威は今では弱まった

最初は落胆したが今では同時に皇帝は正しい判断をしたと思う。今までたくさんの王国や帝国があったが今では存在しないものも多い。部分的だが権威を弱め皇家残し各都市の商人たちに都市を任せたお陰でユガンは今でも形を変えて存続している...コレは何よりの証拠ではないか?

「しょせん・・・アタシらは時代遅れの化石か...どうやらお迎えが来たようだね...いい人生だった...神よ...最後にあの青年にめぐり逢わせてくれた事感謝します...これでアタシが世界で始めたポーション作りが世界に幸福をもたらすでしょう...」

ラインスの頭の中に今までの人生が走馬灯になり駆け巡る...

戦いに行って戻って来なかった夫・・・病気で幼くして亡くなった息子・・・仲間たち...

もう同じ悲劇を繰り返してなくて当時最先端の技術だったポーション作りを世界で初めて行った・・・茨の道だった。

「その者は出自の怪しい女の術士ではありませんか?!誑し込まれましたか?!陛下?!」

「陛下!!薬効の怪しいポ―ション作りなんて予算の無駄です!即刻、止めさせるです!!」

「そのような不確かなモノに注ぎ込むなど正気ですか?!」

「フン!予算泥棒が!!」

「身体を使って上役を誑し込んだのか?女はいいよな。その様な事で予算を貰えて・・・」

よく陰口を叩かれたモノだ...悔しかった...だが、それをバネにワタシは成果を出し続けた。ただ、ただ...死んだ者たちの死を無駄にしない為に...そして今ではポーションは世界中に普及した。ようやくワタシの旅路は終わったのだ。

「ぁぁぁ...ポール...スミス...ジャン...迎えに来てくれたのかねぇ...アタシゃは老体にムチを打って...頑張ったよ...最後に最高の弟子も出来た...」

いま死を前にして彼女は思う...人生は理不尽なモノだ・・・だが・・・!!

大きなことを成し遂げる為に、力を与えて欲しいと神に求めたのに、

謙虚さを学ぶようにと、弱さを授かった...


偉大なことができるように健康を求めたのに、

より良きことをするうようにと、病気をたまわった...


幸せになろうと、富を求めたのに、

賢明であるようにと、貧困を授かった...


世の人々の賞賛を得ようとして、成功を求めたのに、

得意にならないようにと、失敗を授かった...


人生を享受しようとしてあらゆるものを求めたのに、

求めたものはひとつとして、与えられなかったが、

願いはすべて聞きとどけられた...


神の意にそわぬ者であるにもかかわらず、

心の中の言い表せない祈りは、すべて叶えられた...


自身の人生を総括して気づいた!

彼女は神によって、もっとも豊かに祝福されたのだ

その日、のちにポーション作りの母と呼ばれ、その最高の薬師の最後の弟子にして歴代最弱の勇者:アユム・サナイの師と呼ばれた英雄ラインスは若い世代に国を任せ人知れず息を引き取った。この静かな英雄の死は目立たなかったが後世に運命の歯車が動き始めた重要な瞬間として英雄記に語り継がれる・・・とは彼女自身ラインスも思わなかっただろう

余談よだんではあるが、のちにアユムの伝え聞いた話では彼女の死に顔は“おおよそ充実した人生を送った者にしか出来ない最高に朗らかで満足した顔”をしていたという.
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