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第6話:授けられし学生たち

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現在、アユムを含めたクラス全員が真っ赤な水晶の宝玉の前に並んでいる。別に彼らの意志が弱かった訳でも意思がなかったわけでもない。確かに異世界の役人たちが「君たちには支度金やユニークアイテムが用意される」「魔王討伐後は異性も選び放題だ」と吹聴して回る事実はあった。

だが、それ以上に『反対しても帰れないのだから戦うしかない』という桐谷の説得や『駄々をこねても元の世界に帰れない』という事実は誰にも無視出来なかったのだ。故に全員が勇者として戦う選択肢を選んだ。いや、選ばざるをえなかったというのが正しいだろう・・・

「おお!なんと強力な!最初から複数の武術スキルが使えるスキル天啓とは!」

「おっしゃーぁぁあああ!!やったぜー!当たりスキルだー!」

「はぁ?ショボ・・・俺なんて物理ダメージ75%カットだぜ?」

「うっせぇ!俺の方が強いに決まってる!お前の能力なんて物理以外で攻撃されたら終わりだろう」

クラスメイトたちは次々とそれなりに強力な能力に目覚めていく。そんななか声を潜めながら「おい。次は五丹波だぜ?」「げぇ!たださえ横暴なのに・・・」という会話が聞こえてきた。

「これは凄い――怪力と両手剣を持った狂戦士です。」

「クックック――だとよ!お前ら俺に逆らうなよ。」

五丹波は悪い笑みを浮かべている――残念ながら横暴に拍車が掛かりそうだ。

次に宝珠の前に立ったのは副委員長の嶺山だった。嶺山が周りの現地人たちに言われた通り両手を宝珠に翳すと彼女は体は銀色の光を放ち宝石のように輝き出す

「えっ?なに?!」

「なんと・・・神々しい――全能力値が100以上の薙刀術と神聖属性を持った聖騎士さまだ・・・」

余程いい天恵だったのだろう神官らしき服装の人たちが満足げに頷いていた。どうやら異世界でも彼女は能力値が高いらしい――となると次の桐谷は・・・

「な、なんだ・・・これは!黄金閃光斬撃《ゴールデンスラッシュ》?!こんなスキル見たことがない!!全能力値も100以上・・・なんと素晴らしい!期待以上だ!」

桐谷の能力にこの世界の連中どころか取り巻きの女子生徒たちも黄色い声で喜んでいる。「桐谷くん、やっぱりすご~い・・・」「拓哉くんはこの世界でも特別な存在なんだね♪」「顔以外もポテンシャルが高いなんて素敵!私も守って・・・」などと気色悪いことを言い出した。

(もうコイツらクラスメイトだけでいいじゃん・・・俺だけでも返してよ。元の世界に)

五丹波はチィとか舌打ちしているが正直言ってどうでもいい。桐谷が凄かろうが、その力が俺に向かなければ、それで良いのだ何度も言うが何とか俺だけでも返してくれないだろうか(´Д`)ハァ…

桐谷の次はクラスのマドンナの柚希優香《ゆずきゆうか》のようだ。容姿は整っており清楚で優しい雰囲気の女の子だ・・・髪は肩までかかっており薄い栗色の髪色の彼女は、わからない程度に少しモミアゲをカールさせており動作が軽やかに見える。

聴いた話しによれば彼女は誰にでも優しく清楚で運動も勉強も副委員長の嶺山に並ぶくらい優秀・・・まさに立てば芍薬《シャクヤク》座れば牡丹歩く姿は百合の花を体現したような女性で、しかもそれを鼻にかけないため同じ女子達にも人気も高い

(おおかた桐谷の後に出るのが嫌な連中が先を譲ったんだろう・・・お気の毒に。まぁ俺もそのひとりなんだけど...)

「おお……この御方も素晴らしい!攻撃魔法と希少な回復に特化しておられる。上級のエリアヒールや状態異常のスリープまで使えますぞ!」

「聖女じゃ……聖女様じゃ・・・ありがたや~ありがたや・・・」

現地の住民たちが柚希を拝んでいる。柚希は戸惑っているが彼らからすれば神の使いにでも見えるんだろう...次の人材に目を向け目を思わず見開いた

(次は・・・げぇ! 三宅《みやけ》かよ・・・)

アユムがしかめっ面になるのには理由がある。三宅由華《みやけゆうか》は、いっけん焦げ茶色の髪をツインテールに結った可愛らしい少女だが彼女は中学の頃から陰気なアユムをゴキブリの如く嫌っており当然アユムも糞を投げてくる猿やツバを吐きかけてくるアルパカと同じくらい彼女を嫌っている。

だが、彼女は明るくクラスの人気者であり友人も多い・・・アユムとは正反対だ。先程の柚希優香とも仲が良くクラスで嫌っているのはアユムくらいだ

「なんと・・・また我々が望んでいる戦闘職とは!弓の勇者様です!いや~ 素晴らしい!素晴らしいですぞぉ!あなた様に女神ヴィネス様の御加護を!」

俺からすれば全く素晴らしくない。選りに選って三宅由華が遠距離攻撃担当なのだから戦場に出ることになったら後ろにも気をつけて戦わなければならない!

(いや、いくら俺が嫌いとはいえ殺しに来るわけ・・・・・・・)と思ったが現実を直視すれば100%ないと言えない・・・後ろから信用ならない奴が俺の背中を狙っていると思うだけで正直血の気が引いて気が気でない

「さーりん?大丈夫?青い顔してるけど?」

考え事をしていると制服を自分流に着こなして副委員長の嶺山によく注意されている坂下まりかさかしたまりかが声をかけてきた。坂下は見た目ギャル・性格ギャルに関わらずサブカルからゲーム、下ネタまで老若男女問わず会話ができるコミュ力が高すぎる女生徒だ。

おまけに素行が悪いわけでもないので教師からの信頼も熱くオタクも運動部の連中も分け隔てなく接するハイパー女子だ。誰からも好かれるので恐らく嶺山が同じクラスにいなかったら彼女が副委員長になっていたのではないだろうか

「ああ・・・うん。坂下さんか・・・大丈夫。考え事をしてたんだ」

「考えごと~?」

「ほら、三宅さんって俺の事を嫌っているだろう?どさくさ紛れに背中から矢が飛んできたら、やだなーこわいなーって・・・」

隠す事でもないので考えたことを彼女に言ってみる・・・と彼女は突然吹き出し腹を抱えて笑い始めた。

「ブブ!プハ、プハァ!ハハハ!いや!ごめん!さーりん!なにそれ! ちょーウケるですけどー!!」

「いや・・・その・・・割と俺はマジに悩んでるんですけど・・・」

「いや!ププっ!プップッ・・・いくら、みーちゃんが真井嫌いでもワザと矢を飛ばしたりしないって!えー!マジで悩んでたのー?さーりん?自意識過剰とかよく言われない~?」

「う、うん?...そう言えば・・・確かに・・・よく言われるような?」

確かに自分には自意識過剰な傾向がある。やはり気にしすぎだろうか?と思わず人差し指で口元を指しながら首を傾げる。

「なにぃ~それ さーりんかわいい。ふふふ」

どうやら上目遣いで首をかしげたのが可愛かったらしい

「もぉー さーりんはおもしろ可愛いんだから~ きっと大丈夫だよ!みーちゃんはいい子だから」

(そうだよ。三宅はいい子だよ・・・おれ以外には、な!)

そう言い残して坂下は行ってしまった。何も問題が解決してない・・・・・・・
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