5 / 7
井端さん
5
しおりを挟む
◇
私は高校を卒業し、大学へ進学した。その間も、井端さんは私の視界の端に居てくれた。
受験時に真横に立つ彼女に「ちょっと答え教えて」とカンニングしてみたり(彼女は困ったように微笑み、首を横に振るだけだった)、初めてのサークルで戸惑っていた私へフレンドリーに話しかけてきた男子学生の腕を折ってみたり(のちに井端さんを問い詰めたら、嫉妬で折ってしまったらしい。男子学生には申し訳ないことをしてしまった)(けれど、嫉妬してくれる井端さんの気持ちが、舞い上がるほど嬉しかった)、仕上がらないレポートに追われた私をそばで支えてくれたりした。
そうやって私の日々は、井端さんと共に流れた。
「あやなちゃん、今日、飲み会あるけど来る?」
講義室でぼんやりとしていた私の背中に、声が当たる。大学で知り合った友人、佑月が私の隣に腰を下ろし、肩に腕を回した。ニコニコと微笑む彼女の唇から、八重歯が溢れている。その隣にもう一人、今度は陸斗が座った。顔を傾け、私の方を見ている。
「来いよ、あやな。今日はバイトないんだろ?」
陸斗が目を細めた。確かに今日はバイトがない。私はどうしようかなぁ? と首を傾げ、唸る。
「いいじゃん、行こうよ。あやなちゃんが来たら、楽しくなるし」
「あ、じゃあ、井端さんも一緒に連れて行ってもいい?」
「えー、俺、井端さんにめちゃくちゃ嫌われてるから、怖いよ」
陸斗が眉間に皺を寄せ、ブーブーと不貞腐れた。そりゃそうだ。井端さんは、私に馴れなれしくする陸斗の首を、へし折る勢いで睨んでいる時が多々ある。隙あらば、と狙っている井端さんに悪気はない。ただ、恋人である私を守ってくれているのだ。
「……井端さんって、誰? 先輩?」
佑月が私と陸斗の顔を交互に見て肩を竦めた。この間まで井端さんの存在が見えていたはずなのに、変なの。もしかしたら、忘れているのかもしれない。井端さんは見えたり、見えなかったりする。だから、しょうがないことなのだ。
不意に、視界の端に井端さんが見えた。手を振ると、彼女は静かに微笑む。窓の外にいる彼女は、穏やかな暖かい風に髪の毛を靡かせていた。
ここ、三階なのになぁと思いながら、佑月に「どこで飲み会あるの?」と聞いた。
【完】
私は高校を卒業し、大学へ進学した。その間も、井端さんは私の視界の端に居てくれた。
受験時に真横に立つ彼女に「ちょっと答え教えて」とカンニングしてみたり(彼女は困ったように微笑み、首を横に振るだけだった)、初めてのサークルで戸惑っていた私へフレンドリーに話しかけてきた男子学生の腕を折ってみたり(のちに井端さんを問い詰めたら、嫉妬で折ってしまったらしい。男子学生には申し訳ないことをしてしまった)(けれど、嫉妬してくれる井端さんの気持ちが、舞い上がるほど嬉しかった)、仕上がらないレポートに追われた私をそばで支えてくれたりした。
そうやって私の日々は、井端さんと共に流れた。
「あやなちゃん、今日、飲み会あるけど来る?」
講義室でぼんやりとしていた私の背中に、声が当たる。大学で知り合った友人、佑月が私の隣に腰を下ろし、肩に腕を回した。ニコニコと微笑む彼女の唇から、八重歯が溢れている。その隣にもう一人、今度は陸斗が座った。顔を傾け、私の方を見ている。
「来いよ、あやな。今日はバイトないんだろ?」
陸斗が目を細めた。確かに今日はバイトがない。私はどうしようかなぁ? と首を傾げ、唸る。
「いいじゃん、行こうよ。あやなちゃんが来たら、楽しくなるし」
「あ、じゃあ、井端さんも一緒に連れて行ってもいい?」
「えー、俺、井端さんにめちゃくちゃ嫌われてるから、怖いよ」
陸斗が眉間に皺を寄せ、ブーブーと不貞腐れた。そりゃそうだ。井端さんは、私に馴れなれしくする陸斗の首を、へし折る勢いで睨んでいる時が多々ある。隙あらば、と狙っている井端さんに悪気はない。ただ、恋人である私を守ってくれているのだ。
「……井端さんって、誰? 先輩?」
佑月が私と陸斗の顔を交互に見て肩を竦めた。この間まで井端さんの存在が見えていたはずなのに、変なの。もしかしたら、忘れているのかもしれない。井端さんは見えたり、見えなかったりする。だから、しょうがないことなのだ。
不意に、視界の端に井端さんが見えた。手を振ると、彼女は静かに微笑む。窓の外にいる彼女は、穏やかな暖かい風に髪の毛を靡かせていた。
ここ、三階なのになぁと思いながら、佑月に「どこで飲み会あるの?」と聞いた。
【完】
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる