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43−2 紋章
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「フェルナンさんって、神官なんですか。敬虔な信徒とは聞いてたけど。じゃあ、誰かを治療したり?」
「それが、まったく行っていないんです。だからなおさら、よく思われていなくて」
神官は治療士以上の力があるため、難しい病や怪我の治療が主な仕事であり、その行為と権威でヴェーラーの神殿が潤うわけだが、フェルナンは神官の資格を持ちながら、その責務を果たしていない。そこがそもそも白い目で見られるのだが、さらに貴族でありながら平民の子供ということで忌避されている。
けれどオレードと親しいものだから、扱いに困る相手ということだ。
そして、神官でありながら、フェルナンはとても強いらしい。
「討伐隊騎士の中で一、二を争うほど強いらしいですよ。神官で治療もできて腕もある。後ろ盾になっているグロージャン様もいるから文句が言えない。だから浮いてるんです」
妬まれていると言った方が良いのではないだろうか。身分はないが、力がある。盾となるオレードがいる。周りはなんの文句も言えない。表立ってフェルナンを貶めれば、オレードが控えているということだ。フェルナン自体に力があるものなので、やはり何もできない。
しかし、神官の責務を果たしていないとなると、貴族からは疑問視されるのだろう。討伐隊騎士なのだから問題もないように思えるのだが、そこにはやはり妬みがあるので、追求しやすい問題なのだ。
「でも、オレードさんとフェルナンさんにあの小瓶を渡したら、変なことにはならないってことですよね」
「わからないわ。この領土は問題だらけで、それをなんとかしようとするわけでもないもの」
「領主があれだから、グロージャン家の次男がいてもどうにもならないんですよ。だとしたら、その小瓶っていうのも捨てられているかもしれません」
謎の存在なのだから、目立つことはしないだろう。エリックはそう言いたいようだ。
この領土は、領主ではない力のある貴族が実権を握っている。領主はその貴族の言いなりで、その手下と言われるのが討伐隊騎士だ。何かしてくれるとは考えにくい。
けれど、小瓶はとっくの昔に渡してしまった。それに、持っていても玲那がなにかを調べることはできない。そんな技術は持っていない。
調べられるとしたら、
「この紋章が入った物を持ってる人、他に知りませんか?」
「知ってはいるけれど、仲間だと思うの? 信徒はたくさんいるから、関わっていない可能性の方がずっと高いわよ」
「まあ、そうですよね」
それを言ったらフェルナンだって犯人の一人になってしまう。がくりと肩を下ろす。しかし、あの男の身元がわかる物がこれしかなかったのだ。
「レナさん、これから認可局に行くつもりだったので、一緒に来ますか? あそこなら信徒もいますよ」
「認可局に? エリックさんは何用で?」
「商品の確認ですよ。新しい物を作るにも、変にかぶったら困りますから」
そういうチェックもしなければならないのか。それもそうだ。日本でだって、同じ商品を売れば訴訟問題になる。
認可局に行ってみるくらいなら、問題ないだろう。
エリックの提案に、玲那は大きく頷いた。
「あれが、認可局、ですか」
認可局は、銀行の近くに位置し、窓ガラスのあるレンガ造りの建物だった。
荘厳な建物。明るい色の建物はこちらで初めて見る。銀行のように神殿風ではないため、同じ町にある建物とは思えないほど、趣向が違った。赤色のレンガ。白色の窓枠。建物の周囲は回廊になっており、警備をしている者たちがうろついた。出入り口にも二人、警備がいる。
「厳重ですね」
「いつもはこんなではないですよ。誰か来るんでしょうね」
普段は、警備は扉の前くらいで、ここまで多くないらしい。エリックは警備に気にすることなく、扉に手をかける。警備はじろりとこちらを睨んだだけで、特に何も言わず二人を通した。
エミリーは一緒についてこなかった。前の店の件もあり、裏で手を組んでいる職員に気付かれたくないからだ。資料を漁っているのを見られれば、目を付けられるかもしれない。もし認可を受けたくなって訪れた時、再び邪魔されたくないからだ。
エリックは顔を知られていないため、エリックが資料を確認している。
中に入ると、思ったより人がいた。受付カウンターのようになっており、何人かが銀行のように木の札を持って順番を待っている。
「あんなに認可取る人がいるんですか?」
「全員が全員ではないですよ。使用許可を得たり、相談に来たり、許可を得た人が支払いをしたり」
「お金を扱ってるから、部屋にも警備がいるんですね」
部屋の中でうろついている警備がいる。警備だとわかるのは、槍を持って同じ格好をしているからだ。高い襟の黒のシャツ。焦茶色のチョッキを着て、ベルトで固定している。厚手のチョッキだ。防弾チョッキのようなものだろうか。
エリックは二階に上がる。二階は資料室で、ここはあまり人がいなかった。図書館のようになっており、資料を片手に読み漁っている人が数人いる。この部屋はかなり広いが、三階も同じように資料の部屋になっているそうだ。
「すごいですね。全部資料ですか」
「国中の認可申請がされている物が載っていますからね。今もほら、追加していますよ」
職員らしき人が、薄い板を本棚に収めた。すぐに誰かが手に取って確認する。近くの板を手に取ってみると、二つ折りの板に手書きで展開図や説明が書かれていた。著作権を持っている店の印もある。認可局にお金を払った業者名が記されているのだろう。
印刷の概念がないのか、手書きで複製を作っているそうだ。原本は認可を受けた認可局に置き、複製した物を都にある宮廷認可局に送付する。齟齬が起きないようにするため、中枢にある特別な認可局で何枚も同じ物を描いて、各認可局に送られる。
「もしかして、これを全部確認するんですか?」
「もちろんですよ」
検索機能はない。手作業ですべて確認するらしい。大変な作業だ。
エリックは新しい考えが浮かぶかもしれないと、楽しんで読んでいるそうだ。他の人の作品を見て、インスピレーションを養っているわけである。面白そうなものがあれば、エミリーに伝えるためにその場で模写する。それが許されているので、机もあった。
板は番号順に収められており、古いものは奥に、新しいものは手前に入れられていく。
最初の目的を忘れて、玲那は資料を眺めた。奥の方の資料、つまり古い資料を眺めていると、ほとんど聖女が製作者になっているのに気づいた。
「それが、まったく行っていないんです。だからなおさら、よく思われていなくて」
神官は治療士以上の力があるため、難しい病や怪我の治療が主な仕事であり、その行為と権威でヴェーラーの神殿が潤うわけだが、フェルナンは神官の資格を持ちながら、その責務を果たしていない。そこがそもそも白い目で見られるのだが、さらに貴族でありながら平民の子供ということで忌避されている。
けれどオレードと親しいものだから、扱いに困る相手ということだ。
そして、神官でありながら、フェルナンはとても強いらしい。
「討伐隊騎士の中で一、二を争うほど強いらしいですよ。神官で治療もできて腕もある。後ろ盾になっているグロージャン様もいるから文句が言えない。だから浮いてるんです」
妬まれていると言った方が良いのではないだろうか。身分はないが、力がある。盾となるオレードがいる。周りはなんの文句も言えない。表立ってフェルナンを貶めれば、オレードが控えているということだ。フェルナン自体に力があるものなので、やはり何もできない。
しかし、神官の責務を果たしていないとなると、貴族からは疑問視されるのだろう。討伐隊騎士なのだから問題もないように思えるのだが、そこにはやはり妬みがあるので、追求しやすい問題なのだ。
「でも、オレードさんとフェルナンさんにあの小瓶を渡したら、変なことにはならないってことですよね」
「わからないわ。この領土は問題だらけで、それをなんとかしようとするわけでもないもの」
「領主があれだから、グロージャン家の次男がいてもどうにもならないんですよ。だとしたら、その小瓶っていうのも捨てられているかもしれません」
謎の存在なのだから、目立つことはしないだろう。エリックはそう言いたいようだ。
この領土は、領主ではない力のある貴族が実権を握っている。領主はその貴族の言いなりで、その手下と言われるのが討伐隊騎士だ。何かしてくれるとは考えにくい。
けれど、小瓶はとっくの昔に渡してしまった。それに、持っていても玲那がなにかを調べることはできない。そんな技術は持っていない。
調べられるとしたら、
「この紋章が入った物を持ってる人、他に知りませんか?」
「知ってはいるけれど、仲間だと思うの? 信徒はたくさんいるから、関わっていない可能性の方がずっと高いわよ」
「まあ、そうですよね」
それを言ったらフェルナンだって犯人の一人になってしまう。がくりと肩を下ろす。しかし、あの男の身元がわかる物がこれしかなかったのだ。
「レナさん、これから認可局に行くつもりだったので、一緒に来ますか? あそこなら信徒もいますよ」
「認可局に? エリックさんは何用で?」
「商品の確認ですよ。新しい物を作るにも、変にかぶったら困りますから」
そういうチェックもしなければならないのか。それもそうだ。日本でだって、同じ商品を売れば訴訟問題になる。
認可局に行ってみるくらいなら、問題ないだろう。
エリックの提案に、玲那は大きく頷いた。
「あれが、認可局、ですか」
認可局は、銀行の近くに位置し、窓ガラスのあるレンガ造りの建物だった。
荘厳な建物。明るい色の建物はこちらで初めて見る。銀行のように神殿風ではないため、同じ町にある建物とは思えないほど、趣向が違った。赤色のレンガ。白色の窓枠。建物の周囲は回廊になっており、警備をしている者たちがうろついた。出入り口にも二人、警備がいる。
「厳重ですね」
「いつもはこんなではないですよ。誰か来るんでしょうね」
普段は、警備は扉の前くらいで、ここまで多くないらしい。エリックは警備に気にすることなく、扉に手をかける。警備はじろりとこちらを睨んだだけで、特に何も言わず二人を通した。
エミリーは一緒についてこなかった。前の店の件もあり、裏で手を組んでいる職員に気付かれたくないからだ。資料を漁っているのを見られれば、目を付けられるかもしれない。もし認可を受けたくなって訪れた時、再び邪魔されたくないからだ。
エリックは顔を知られていないため、エリックが資料を確認している。
中に入ると、思ったより人がいた。受付カウンターのようになっており、何人かが銀行のように木の札を持って順番を待っている。
「あんなに認可取る人がいるんですか?」
「全員が全員ではないですよ。使用許可を得たり、相談に来たり、許可を得た人が支払いをしたり」
「お金を扱ってるから、部屋にも警備がいるんですね」
部屋の中でうろついている警備がいる。警備だとわかるのは、槍を持って同じ格好をしているからだ。高い襟の黒のシャツ。焦茶色のチョッキを着て、ベルトで固定している。厚手のチョッキだ。防弾チョッキのようなものだろうか。
エリックは二階に上がる。二階は資料室で、ここはあまり人がいなかった。図書館のようになっており、資料を片手に読み漁っている人が数人いる。この部屋はかなり広いが、三階も同じように資料の部屋になっているそうだ。
「すごいですね。全部資料ですか」
「国中の認可申請がされている物が載っていますからね。今もほら、追加していますよ」
職員らしき人が、薄い板を本棚に収めた。すぐに誰かが手に取って確認する。近くの板を手に取ってみると、二つ折りの板に手書きで展開図や説明が書かれていた。著作権を持っている店の印もある。認可局にお金を払った業者名が記されているのだろう。
印刷の概念がないのか、手書きで複製を作っているそうだ。原本は認可を受けた認可局に置き、複製した物を都にある宮廷認可局に送付する。齟齬が起きないようにするため、中枢にある特別な認可局で何枚も同じ物を描いて、各認可局に送られる。
「もしかして、これを全部確認するんですか?」
「もちろんですよ」
検索機能はない。手作業ですべて確認するらしい。大変な作業だ。
エリックは新しい考えが浮かぶかもしれないと、楽しんで読んでいるそうだ。他の人の作品を見て、インスピレーションを養っているわけである。面白そうなものがあれば、エミリーに伝えるためにその場で模写する。それが許されているので、机もあった。
板は番号順に収められており、古いものは奥に、新しいものは手前に入れられていく。
最初の目的を忘れて、玲那は資料を眺めた。奥の方の資料、つまり古い資料を眺めていると、ほとんど聖女が製作者になっているのに気づいた。
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