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28−3 認可局

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 聖女は、多くの物を作るにあたり、魔法や魔導具というものを使い、便利さを求めたそうだ。保管することができるというのならば、冷蔵庫みたいなものを魔法で稼働しているということだろうか。
 遠征用のカバンというよりは、食事などの保管が可能なカバンのようだ。保温性を持続できる魔法瓶か? それはさすがに作れない。

 聖女と聞くと、どうしても自分と同じ世界からやって来たと思いがちだが、勇者の件しかり、物作りの聖女しかり、別の世界の住人がこの世界に来ていた。
 使徒の言う通り、平凡なのは玲那だけだ。

 とにもかくにも、聖女が作ったカバンは完成品すぎて、それ以上の改良は行われなかった。そうして、そのまま昨今に至る。
 それとは別に、かわいらしいカバンというカテゴリーが珍しいのだと、エミリーが褒めちぎってきた。そこまでではないと言いたい。

「だって、かわいいもの! カバンは男性のものよ? 女性がカバンなんて持たないでしょ!?」
「そうなんですか? 普通、荷物持つ時、どうしてるんです?」
「手に抱えて持ってるわよ」
「えー、大変」
「ただの袋を使うんですよ。そんな風に小物を入れるためのカバンなんて、女性は持ってない。服に内ポケットがあるじゃないですか。買い物行くにしても、抱えればいい話ですからね。肩に斜めにかけるカバンなんて持ちません」
 エリックが言うには、お金は服の中の内ポケットに入れ、購入品はただの袋に入れる。その袋は麻袋のようにがさがさしたもので、先ほどの調味料屋でもらった、小麦などを入れる袋と同じだそうだ。

 女性はカバンを肩にかけるという発想がないのは、小さな荷物は抱えればいいし、大きな荷物は担ぐことがメインだからだという。物を担ぐために、背負用の台などはあるそうだ。
 二宮金次郎が薪を運んでいる、あれみたいなものだろうか。名前がわからない。薪を運ぶために背負っている、あれである。

「これも面白いわね。あなた職人じゃないの?」
「違います。違いますよ」

 重すぎて床に置かせてもらったトートバッグにまで、エミリーが食いつくように見ている。ただの繊維で作った袋だ。適当に作っているので、そんなにまじまじ見ないでほしい。

「そんなことよりですよ。えーと、もう、なんの話してたか、忘れちゃうよ。気になったことが一つ、オーダーメイドの時は権利はどうなってるんですか?」
「おーだー?」
「特別、提案した物を作ってもらう場合は? 先ほど私、材木屋さんで、こんなの作ってくださいーって、頼んできたんですけど」

 オーダーメイドが通じないので、言い換える。
 材木屋では特別注文し、組み立ててもらうことになった。ハンドチョッパーの案などは認可局に出していない。

「そういったものは一人しか買わないから、認可局に登録なんていらないわ。売上の税金も安いの」
「じゃあ、そういった注文を受ける方法で、カバンを作られたらどうです?」
「そういったことができるのは、店を持っている人だけですよ。店を持つだけの信頼があるし、その技術力も売っているものでわかりますから。新人にはできない真似ですよ」

 なるほど。フリーの職人になったとしても、それだけの認知度がなければ、注文などこない。それは当たり前の答えだった。

「でも、認可局の登録いらないんですよね」
「まあね」
「認可局で登録した物の似たような物って、作っていいんですか? 例えば、今私が持ってるカバンで、ここに取手とか付けて、別物です。って言ってもいいんですか?」

 オマージュというか、パクリというか。その判断はどうされるのか。とても気になる。装飾品などそっくり同じではなくとも、似たようなものになることは多いだろう。便利さを求めれば、似たような発想になってもおかしくない。そこに特別な点を付ければ、なんとなく似ているくらいは問題ないのだろうか。

 問うと、二人はお互いにうーんと唸った。明らかに違いがなければ別物にはならないそうだ。玲那のカバンに取手をつけて便利になれば、違う物だと選別される可能性があるとか。

「同時に案を出していれば、別のものだとされるかもしれないけれど、そんな同時期なんて、ありえないわよ。ただ、間違いなく便利になって、これだけでここまで使い心地が違う。となったらまた別だと思うわ」
「曖昧だけれど、判断するのは国の認可局ですから。他の領土で似た物が作られていたら、拒否されるんですよ」
「国の認可局って、登録の間に他の人が同じ物を出しちゃったら、奪われちゃうってことですか?」
「登録は魔法で行われるんだもの、出せばすぐに登録できるかどうか確認されるわよ」

 よくわからないが、魔法があるため、遠距離であっても平等だそうだ。クラウドシステムでもあるのだろうか。

「ただ、金額は領土の設定だから、他の領土だと登録料が安かったりするんですよ」
「うちの領土は高いのよ。暴利よね」
「領土によって、税金が違うんです?」
「もちろんよ。国の中である程度は決まっているけれど、領土が困窮していれば、その幅で税金を上げてくる。だから、登録料も金額に差があるわ」

 ここの領土は、特に登録料が高いそうだ。腐敗している上にそれでは、職人が逃げてしまわないのだろうか。
 聖女の存在によって特許制度ができたのだろうが、聖女の話を聞く限り、聖女の製品は余程の発明だったのだろう。
 また、椅子や机など、古くからある物に登録は必要ない。椅子をリクライニングチェアのように揺れるようにすれば話は違うが、日常的に使われている、古くからある物には登録は必要ないそうだ。そこは売上だけで税金が取られる。

「登録の際に、同じ物はないか、自分たちも調べられる感じですか?」
「そうよ。認可局で、自分で調べられるのよ。資料があるの」
「ちなみに、登録料はおいくら取られるんです?」
「カバンだと、大きさにもよるけど、姉さんが作るようなカバンは、だいたい、一千ドレだよ」
「それは、高いですね。一品、一千ドレ?」

 二人は頷く。一つのカバンを登録するだけで、登録料約四ヶ月分の給料ということになる。何作品も案を出したら、いくらかかることになるやらだ。年収が飛ぶ。
 それはさすがに出していられない。売れるかもわからないのに、先行投資としては高すぎる。店が売れると判断し、登録料を出すシステムだからこそ、職人が案を出せるわけである。これを行うならば、会社が登録し、売り上げを職人に分ける給料制だろう。

 しかし、ここでは不当に職人の腕を担保にし、無給で働かせているのだ。
 ブラック企業真っ青の、真っ黒ブラック具合である。

「うーんと、じゃあ、こういうのはどうですか?」
 なんとなく、思ったことを口にすると、二人はただお互いの顔を見合わせて、玲那の話を黙って聞いていた。
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