上 下
57 / 123

28−2 認可局

しおりを挟む
「物を作ることに天才的な聖女が、多くの役立つ物を作って、それが登録されることになったのよ。模倣した粗悪品をなくすために。認可局の制度は、聖女が作った物の偽物が出回らないために作られたの。だから、登録料も高いのよ。聖女だったらなんでも登録できるでしょう?」

 ここにも聖女の弊害が。しかし、新しい物を作るたびに製作物に高額な税金を課していたら、クリエイターが衰退してしまうのではないだろうか。

「良心的な店主がいる店なんて、そんなにないわ。職人が直接店を作るしかないの。でも、私みたいな新人は店なんて持てないし、私がお世話になっていた師匠は店を持っていないの。だから、どうにもならないのよ」
 税金の取り方は売上にもかかるので、一人で店を持つにはハードルが高いのだ。独立するためにも、まずは店に入り、その店の職人として働くのが一番良い。ただし、その店主のモラルに左右される。

 なんとかならないものなのか。あまりにもエミリーが不憫だ。
「ちなみに、エミリーさんは、何を作ってるんですか?」







 エミリーの家は、道の作りが変わる辺り、土から石畳に変わるところの、直立した建物の三階にあった。
 弟と二人で住んでいるらしく、部屋は二間。ダイニングキッチンと一部屋で過ごしている。その一部屋にはベッドが一つ。そこに所狭しと、カバンやベルトなどが置いてあった。

「革のカバンですか。うわー、うわー。すごーい」
「冒険者用のカバンなの。遠征用だったり、商人用だったり。色々ね」

 リュックのように背負えるものから、アタッシュケースのような形のもの。腰に巻くベルトタイプなどがある。
 革の種類はいくつかあるようで、色や毛並みが違った。
 革の加工がされている商品だ。

「エミリーさんて、革の加工、されるんですか?」
「もちろんよ」
 エミリーは当然だと頷いた。革の加工の仕方を知っている人が、ここにいる。話を聞いて良いだろうか。作り方を、聞いて良いだろうか。

 食いつくように縋りついて話を聞きたいが、今はエミリーの問題が先だ。弟のエリックが不安そうな顔をしてベッドに座っている。弟は少し年が離れているようで、顔が幼い。十代半ばのようだ。髪色はエミリーと同じ栗色で、顔もよく似ていた。

 二人は製作を一緒に行なっているそうで、お互いに案を出し、それの試作品を作っていた。
 姉弟二人で職人となり、エミリーは売る店ができて喜んでいたのに、結果がこのようになってしまい、落胆どころではないだろう。

「あのカバンだって、売れ行きが上がって利益になっているのに」
 エリックは拳を握りしめる。エミリーの視線の先にあるカバンは、斜めがけのリュックのようなカバンで、後ろ手で物が取れるようになっている。ポケットのたくさんあるカバンだ。認可局で許可をもらっているため、あのカバンについては利益をもらえていたそうだ。エミリーたちのカバンが売れるとわかり、今回の登録がなされなかったのだろう。

「あのカバンは、何用ですか?」
「魔物討伐の狩人用ですよ」
「狩人用。騎士ではなく?」
「討伐隊騎士はこんなカバン使わないですよ。やつらは森に行くふりをして、飲み屋で飲んでばかりだし。山向こうにたまにでかいのが出るから、それを遠征って行って、たまに遠出するだけ」
「私の知っている人は、森でよくうろついてますけど」
「そいつらが奇特なだけですよ。貧乏貴族の次男とかじゃないのかな」

 エリックは肩を竦める。下っ端の討伐隊騎士は森にいることがあるようだ。オレードとフェルナンは貧乏貴族なのだろうか。それはともかく、魔物討伐に行く一般人がいるようだ。
 巣の糸などを取りに行ったりするのかもしれない。貴族の服は魔物の巣を使っているのだから、そのために森に入る者たちもいるだろう。

 その狩人用のカバンが、よく売れているそうだ。使い勝手が良いと評判で、職人たちが手分けして作っているほどだった。今まで、そういったカバンがなかったからだ。

「狩人が持つカバンって、普通は腰に巻く形の物が多いんです。獲物は背負うから。けど、体にピッタリとしたカバンだったら、問題ないじゃないですか。腰のカバンよりも物が入るし、カバンに紐が引っ掛けられるようにしてあるから、獲物を巻き付けられるんです。だから、結構売れてるんですよ」

 エリックが力説した。このカバンを作った時の反響は、とても大きかったそうだ。夢を語る姿は目がキラキラ輝いているように見える。しかし、すぐにその瞳は濁ってしまった。もう、自分たちの手から離れてしまったと言って。

「レナさんでしたっけ。レナさんのそのカバンも、とても珍しいですよね。外国の製品ですか?」
「これは、私が適当に作ったので、買ったわけじゃないです」
「うそっ! 作ったんですか!?」
「自分で作ったんですか!?」

 エリックとエミリーの声が重なった。エミリーはしんみりしたまま話を聞いていたのだが、突然立ち上がり、玲那のカバンを手に取って眺めはじめる。

「これを、自分で? カゴよね。それに、レースの編みが素敵。絞りもあって、簡単に開けられないようになっているし、斜めにかけることで歩くのに邪魔にならない。これを、適当に作ったですって?」
 なんだか大袈裟に誉められているようだが、カギ編みさえできれば、適当に作れるものだ。大した技術ではない。しかし、発想が素晴らしいと珍しがられた。なんだか恥ずかしい。

「こういうカバンって、こっちにはないんですか?」
「カバンなんて、聖女が考えて初めて出てきて、それ以降はずっと似たような物を使ってきたのよ。聖女のカバン以上にすごいものなんて、誰も作れないもの」

 出た、聖女。いつの聖女か。物作りの聖女か。色々な物を作ったらしい聖女は、カバンも作っていたようだ。
 そのカバンは庶民用ではなく、騎士用で、今でも遠征に行く騎士が使っている。オレードとフェルナンがカバンを持っていたか思い出せないのだが、よく使われている形のカバンがあるのだ。ただ、かなり遠くへ行くために使うカバンなので、実用性はあっても、その辺で使うような形ではないとか。

 想像するに、登山用とか、キャンプ用のカバンみたいなものだろうか。よくわからない。
 だが、案外、普通の物を作っている。

「すごいのよ。熱いお湯をそのまま持っていけたり、冷えたままになったり。領主の宮殿の台所にもあるそうだけど、材料を保管することができる魔法が、完璧なんですって」
「まほー、ですか??」
「そうよ。カバンに特別な魔法をかけるの。誰も考えなかった方法だわ。魔法を持続させるために、魔導具を作ったとか。真似できないわよね」

 聖女の作る物が、普通の物のはずなかった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界転生したら幼女でした!?

@ナタデココ
恋愛
これは異世界に転生した幼女の話・・・

辺境のいかつい領主様に嫁ぐことになりましたが、どうやら様子がおかしいようです

MIRICO
恋愛
アルベルティーヌは辺境の雪国の領主、クロヴィスとの婚約のために城へやってきた。 領地も広く鉱山のある大金持ちで、妖精のような男だと噂に聞いていたが、初めて会ったクロヴィスは頬に傷のある、がたいの良い大男だった。 クロヴィスは婚約破棄が続いていたため、姉の婚約者であるフローラン王子に勧められて婚約をすることになったが、どうやらクロヴィスは気が進まない様子。 アルベルティーヌを何とか都に帰らせようとしているが、どうやら様子がおかしい。 クロヴィスが大男だろうが、寒くて住みにくい土地だろうが、ドラゴンがいようが気にしないアルベルティーヌだったが、クロヴィスは秘密を持っていて……。 小説家になろう掲載済みです。

貧乏で凡人な転生令嬢ですが、王宮で成り上がってみせます!

小針ゆき子
ファンタジー
フィオレンツァは前世で日本人だった記憶を持つ伯爵令嬢。しかしこれといった知識もチートもなく、名ばかり伯爵家で貧乏な実家の行く末を案じる毎日。そんな時、国王の三人の王子のうち第一王子と第二王子の妃を決めるために選ばれた貴族令嬢が王宮に半年間の教育を受ける話を聞く。最初は自分には関係のない話だと思うが、その教育係の女性が遠縁で、しかも後継者を探していると知る。 これは高給の職を得るチャンス!フィオレンツァは領地を離れ、王宮付き教育係の後継者候補として王宮に行くことになる。 真面目で機転の利くフィオレンツァは妃候補の令嬢たちからも一目置かれる存在になり、王宮付き教師としての道を順調に歩んでいくかと思われたが…。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

転生したアラサーオタク女子はチートなPCと通販で異世界でもオタ活します!

ねこ専
ファンタジー
【序盤は説明が多いので進みがゆっくりです】 ※プロローグを読むのがめんどくさい人は飛ばしてもらっても大丈夫です。 テンプレ展開でチートをもらって異世界に転生したアラサーオタクOLのリリー。 現代日本と全然違う環境の異世界だからオタ活なんて出来ないと思いきや、神様にもらったチートな「異世界PC」のおかげでオタ活し放題! 日本の商品は通販で買えるし、インターネットでアニメも漫画も見られる…! 彼女は異世界で金髪青目の美少女に生まれ変わり、最高なオタ活を満喫するのであった。 そんなリリーの布教?のかいあって、異世界には日本の商品とオタク文化が広まっていくとかいかないとか…。 ※初投稿なので優しい目で見て下さい。 ※序盤は説明多めなのでオタ活は後からです。 ※誤字脱字の報告大歓迎です。 まったり更新していけたらと思います!

追放された武闘派令嬢の異世界生活

新川キナ
ファンタジー
異世界の記憶を有し、転生者であるがゆえに幼少の頃より文武に秀でた令嬢が居た。 名をエレスティーナという。そんな彼女には婚約者が居た。 気乗りのしない十五歳のデビュタントで初めて婚約者に会ったエレスティーナだったが、そこで素行の悪い婚約者をぶん殴る。 追放された彼女だったが、逆に清々したと言わんばかりに自由を謳歌。冒険者家業に邁進する。 ダンジョンに潜ったり護衛をしたり恋をしたり。仲間と酒を飲み歌って踊る毎日。気が向くままに生きていたが冒険者は若い間だけの仕事だ。そこで将来を考えて錬金術師の道へ進むことに。 一流の錬金術師になるべく頑張るのだった

異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか

片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生! 悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした… アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか? 痩せっぽっちの王女様奮闘記。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

処理中です...